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第十七話 牧舞のカフェタイム

『第十七話 ゲスいカフェデート』の牧舞まきま視点になります。

ほっぺにチュー写真(未遂)の裏側で、牧舞は何を思っていたのか……。


どうぞお楽しみください。

「どうだ? その、えっと、……飲み物は」

「うん、おいしーよ。一口飲むー?」

「……いや、いい」

「遠慮しないでいーよ。ドーテーが買ってくれたんだしー」

「……遠慮とかじゃないから」

「あ! もしかしてー、間接チューとか気にしてるー?」

「……別に」

「それ絶対気にしてるヤツー!」


 無神経なキャラを演じていじると、不機嫌そうな顔をして店内に目を配る千重里ちえさと君。

 話題探しかな。周りのカップルに目をやっている。

 そんな借り物の会話なんていらない。

 遠慮もカッコつけもない、素の千重里君と話がしたい。


「ちょっとー。こんな可愛い子を前にしてよそ見するとか失礼じゃなーい?」


 「うわぁっ……」って顔をする千重里君。

 自意識過剰だと思っているんだろう。

 でもどんな相手にも胸を張って千重里君を守るには、これくらい強気じゃないと駄目なんだよ。

 もちろん千重里君は知らなくていい事だけど。


「なんか悩み事でもあるのー?」

「ん、まぁちょっとな……」


 話題を変えようと話を振ってみると、千重里君は少しためらいながら口を開いてくれた。


「伴野が俺とし、マッキーの関係を疑っているのは知っての通りだ」

「なんか英語の教材買わされるとか言ってたねー」


 まぁそれは私がそういう風に頼んでいるからだけど。


「だから何か納得させる方法がないかと思ってな」

「それで周りのカップルちらちら見てたんだー」


 そのプライドをいじらしく思うと共に、そこまで意識されてる智也ともや君をうらやましく思う。

 ……親友って、いいな。


「それでさー、なんでそのバンノ君にカレカノのフリバレちゃダメなのー?」

「……どこから秘密が漏れるかわからないからな」

「ふーん」


 何か智也君への感情を上書きできないかな……。

 男友達とできない事って言ったら……。


「じゃあさー、チュー写真でも撮っとくー?」

「は?」


 ……!?

 何言ってんの私!? 何言ってんの!?

 い、言っちゃったものはしょうがない!

 幸いギャルのキャラならそういう事言ってもおかしくないし!?


「そしたらカレカノって信じてもらえるんじゃないー?」

「……いや、そこまでして信じるかどうかはわからない。何か別の方法を考えてみよう」


 こ、ここで引いちゃ駄目だ!

 「キスなんてあいさつじゃーん」ってキャラで押すんだ!


「わかんないなら試しにやってみようよー」

「は、え、ちょっと……!」


 隣に座ると、千重里君の上体が後ろに引いた。

 その様子に、少しだけ頭が冷えた。


「ドーテーは女のコとチューした事ないのー?」

「……ない……」

「じゃーほっぺたにしとこっかー」


 予想通りの答えで、胸の中に安心感と嬉しさが込み上げる。

 やっぱり私、千重里君の事……。


「じゃー、カメラよろー」

「……」


 千重里君が携帯のカメラを起動する。

 ……オッケーって事だよね……?


「いいー?」

「……あぁ」

「じゃーいくよー」


 ゆっくり千重里君の頬に顔を近づけていく。

 視界を埋めていく千重里君の横顔が眩しくて目を閉じた。

 ……千重里君の頬はどんな感触なんだろう。

 キスしたらどうなっちゃうんだろう……。

 私と千重里君の関係は変わっちゃうのかな……?


「?」


 シャッター音に目を開けると、私の唇は千重里君の頬の数ミリ手前の空気に触れて止まっていた。


「写真は撮れた。協力感謝する」


 え、え? 何で?

 いきなり距離取るし!


「この角度ならキスをしているも同然だろう?」

「ホントだー」


 確かに千重里君の頬に私の頭が迫っている姿は、キスしているように見える。

 見える、けど……。


「でもチューしてる瞬間の写真の方がよくなーい?」


 若干の不満を隠しながらそう言うと、千重里君は落ち着いた様子で首を横に振った。


「いや、直接的な部分をあえて見せない事で、想像力を広げさせて説得力を高める作戦だ」

「そーなんだー」


 嘘つき。ビビったくせに。

 それも「女の子とキスする事」じゃなくて「私に借りを作る事」だろうってのがまた若干腹立つ。

 ……でもどこかで安心している自分もいる。

 あぁ、私ってつくづく面倒くさいなぁ……。

読了ありがとうございます。


上等の檸檬にハチミツをブチまけるがごとき思想!

大好きです。


次話もよろしくお願いいたします。

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