第十六話 牧舞の楽しいデート
お待たせしました。
『第十六話 ゲスい二回目デート』の牧舞視点になります。
前回デートで購入したTシャツを頼りにマウントを取ろうとする道貞に、牧舞は何を思うのか……。
どうぞお楽しみください。
やばいやばいやばい!
今日は遅れるつもりなかったのに!
髪型に悩んでたら遅くなっちゃった!
もし帰っちゃったりしてたら……、あ! いた!
良かったぁ……。
そしたら汗拭いて、息を整えて……。
「お待たー」
「……そう思うなら早く来い」
ちょっと不機嫌ではあるけど、怒ってはいないみたい。
優しいな、千重里君は。
「ごめーん。髪型がうまいこと決まらなくてさー」
「……で、それなのか」
「服に合わせてあれこれ考えたんだけどー、これが一番しっくり来てさー」
どうしても千重里君が買ってくれたTシャツをメインにしたくて、でもそうするといつもの髪型もオシャレめの髪型も合わなくて。
結局シンプルにまとめるのが一番似合う気になった。
……どう、かな……?
「そのTシャツ、着てくれてるんだな」
「まーねー。せっかくの初プレだしー? どうー? 似合ってるでしょー?」
「そうだな。つい目が行くよ」
ちょっと胸に強めの視線を感じるけど、何だか前ほど嫌じゃない。
このTシャツの効果はすごいなぁ。
気分的には無敵に近い。
「えへへー、そっかー、つい見ちゃうくらい似合ってるかー」
「あぁ」
演技をするまでもなく、顔が自然に笑っちゃう。
きっと千重里君は、プレゼントの効果で優位に立っていると思っている事だろう。
これなら今日のデートもきっと楽しく過ごせる。
「じゃあ行こっかー」
「あぁ」
うきうきしそうになる足取りを抑えながら、『フロント・オブ・ザ・サン』へと向かう。
千重里君はこういうお店、あんまり来ないよね。
注文の時、どんな顔するかな?
「いらっしゃいませ。ご注文を承ります」
「じゃあ今日はー、ホットトールフォーミーサンライズラテウィズキャラメルソースで」
「かしこまりました」
「ミッチーはどーする?」
おー、固まってる固まってる。
ここで頼ってくれたら嬉しいけど、千重里君はそう甘くないよね。
「あの、アイスコーヒーってありますか」
「ございますよ。サイズはショート、トール、グランデの順に大きくなりますが、いかがいたしますか?」
「トールで」
「かしこまりました。コーヒーは通常のものとノンカフェインのものとが選べますが、いかがいたしますか?」
「あ、普通ので」
「かしこまりました。ミルクは加えますか? 通常のミルクと脂肪分ゼロのノンファットミルクとでお選びいただけますが」
「えっと、なしでいいです」
「他に生クリームやキャラメルソース、チョコレートソース、フレーバーソースなどを追加する事も可能ですが、いかがいたしますか?」
「いや、その、なしで」
「かしこまりました。ご用意いたします」
未知の状況でも必要とあれば、戸惑いながらでも乗り越えていける。
やっぱり千重里君はすごいな。
「ちぇー。ミッチーがあたふたしたら教えてあげよーと思ってたのにー」
何より私の前で格好をつけようとしないで、店員さんに聞いてくれた事が嬉しい。
千重里君の性格からして、意識してる女の子の前だったら「お、同じので……」とか言ってごまかすだろうから。
「それではお会計が、ホットトールフォーミーサンライズラテウィズキャラメルソースが七百八十円、アイストールノーミルクサンライズコーヒーが四百五十円になります」
よし、千重里君の好みは覚えた。
次に来た時はこれでからかっちゃおうかな。
「じゃあ二千円からで」
「え? あたしの分……」
何で何で!? お金使っちゃったばかりなのに何で!?
「これくらい奢るよ。教室で助けてもらったしな」
「……ありがとー」
……そうか。
あの時のメッセージの借りを、これで返すつもりなんだ。
彼氏っぽいな、なんて浮かれた気持ちを立て直さないと。
「お会計ありがとうございます。それでは右手の受け取りカウンターの前でお待ちください」
「じゃーあたし席取っておくねー」
「あぁ、頼む」
気持ちの切り替えに、席探しは丁度いいな。
千重里君の好みの席をイメージして……。
……騒がしい席より、静かな席が好きだよね。
それでいてあまり奥まっていなくて、店内をある程度見渡せる場所が良いはず。
……ふふっ、警戒心の強い小動物のイメージが重なっちゃう。
「お待たせいたしました」
「あ、ありがとうございます……」
あ、受け取ってくれたね。
見回す千重里君に、こっちこっちと手を振る。
「良い席だな。ありがとう、し、マッキー」
「どういたしましてー。こちらこそサンキュー」
しまっきーって、新手のマスコットかな?
駄目だ、笑顔は我慢しないで良いけど、吹き出すと千重里君は自分が笑われたと思っちゃう……!
笑顔をキープしながら、策を巡らせているであろう千重里君の顔をじっと眺めるのだった……。
読了ありがとうございます。
道貞から遠慮のない対応をされているだけで、牧舞は嬉しいのです。
女子が苦手な道貞の側にいられる、それだけで十分に思えるほどの満足感を感じています。
……だが神は言っている。ここで引くさだめではないと……。
次話もよろしくお願いいたします。