第十五話 牧舞の次の一手
『第十五話 ゲスい昼休み』の牧舞視点になります。
智也にマウントを取ろうとしていた道貞の様子を伺う牧舞の心中は……?
どうぞお楽しみください。
はぁ、ようやく昼休み……。
さっきの休み時間にあれこれ考えたせいで疲れた……。
お弁当食べて回復しよう。
「よぉ伴野」
「何だ千重里?」
あ、千重里君、智也君の所に行った。
お弁当食べながら様子を伺おう。
「下種と日曜にデート行ってきたぜ」
「な、何を買わされた!? 壺か!? 絵か!?」
Tシャツ買ってもらった話を伝えておいたから、早速活用してくれてる。
その調子だよ智也君。
「馬鹿だなぁ。恋人とのデートで買うものと言ったら、服に決まってるだろ」
「な、何万円買わされたんだ……!? カードとかローンとか無事か……?」
「……Tシャツ一枚だよ」
「そ、そうか、良かった……。大した事なくて……」
「……」
ちらっと見ると、無言になった千重里君の顔に憂いが滲んでる。
相当痛い出費だったんだよね。ごめんね。
「まぁ落ち着け。これを見てみろ」
「こ、これは……!」
千重里君の言葉に、私も写真を携帯の画面に映し出す。
ボスバーガーで撮った一枚。
結構綺麗に撮れてはいるんだけど……。
「こんなに目が死んでるなんて……! 大丈夫か千重里……!?」
そうなんだよね。
まぁ服選びに付き合わせちゃった上に散財させちゃった直後だから、仕方ないと言えばそうなんだけど。
そしたらばっと。
『次の日曜どこ行く〜?』
「!」
「え、下種さんから、メッセージ……?」
私のメッセージに、千重里君がちらっとこちらを見たので、意味深な笑みを浮かべておく。
これで少しはTシャツのお礼になったかな?
「下種さんからお誘い……?」
……智也君、ちょっとやりすぎじゃない?
あんまり驚いた様子を見せちゃうと、千重里君が満足しちゃう……。
「千重里!」
「な、何だ?」
「『友達呼んでいい?』って言われたら断れよ! 英会話の教材買うまで帰れなくなるからな! 実印は持ち歩くなよ!」
成程、上げて落とす感じだったのね。
うんうん。その調子。
「そんな心配はない。俺と下種はれっきとした恋人だ」
「そ、そうか……? 万が一の時には弁護士の無料相談とか行けよ?」
れっきとした恋人……。
さっきの事があるからか、やけに耳にこびりつく!
千重里君が智也君から離れた!
下手な事言われる前に、メッセージ送っておこう!
『ナイスフォローだったでしょ〜?』
これで『お前のお陰なんかじゃない』って返してくれたら、きっと冷静になれる。
『別に問題なかったが、結果としては助かったな』
……何これ。
何これ何これ何これ!?
初めてじゃない!? 千重里君から『助かった』なんて言われたの!
だ、駄目だ! 落ち着いて返さないと……!
『それにしてはあんまり信用ないみたいだけど〜?』
こんな軽口を送るのが精一杯!
落ち着いて私の頭!
『お前が派手だから、落ち着いた雰囲気の俺とは違和感があるんだろうな』
その落ち着いた雰囲気、今だけでいいから貸して!
と、とにかく返信を……!
『じゃあドーテーが派手にならないとね〜』
!
サンバの格好したクジャクみたいな千重里君を想像しちゃった!
自分の書いた文面で吹き出しそうになるとかどんだけ!?
『気が向いたらな』
クールな文章に、ようやく頭が冷えた……。
とりあえずさっきの話の続きをしよう……。
『で、日曜どこ行く〜?』
前回の出費を気にして断るかな?
それとも安いところで済ませようとするかな?
『それは構わないが、あんなに服買って大丈夫なのか?』
成程、そう来たか。
ならこれには乗っていくのがいいね。
『そ〜だね〜。今月けっこーお金使っちゃったから〜、カフェデートとかどう?』
これならきっとオッケーしてくれるはず。
『わかった。場所は駅前か?』
『おっけーやで』のスタンプを送る。
このゆるいナメクジのスタンプ、何か好きなんだよね。
魔王らしいけど、何でなんだろ?
『時間は?』
せっかくだから、早くから会いたいな。
『朝からでよくない〜? 10時くらい〜』
お、『了解』のメッセージ。
気持ちがじんわりあったまるのを感じる。
さっきみたいなどきどきよりも、この安心感がいいな。
読了ありがとうございます。
牧舞はこれまで気付いていませんでしたが、道貞を守りたい気持ちが一番なので、『助かった』はクリティカルでした。
さて今後はどうなる事か……?
次話もよろしくお願いいたします。