第十二話 牧舞の服選び
『第十一話 ゲスい服屋デート』の牧舞視点になります。
道貞はひたすらげんなりしていましたが、試着を繰り返す牧舞の内心は……?
どうぞお楽しみください。
「あーこれかわいー。ねーミッチー、これ似合うと思うー?」
「あぁ、うん、似合うと思うよ……。ま、マッキー……」
「じゃあこれ試着お願いしまーす」
「かしこまりました」
んー! 楽しい!
やっぱり服を色々試着するのってテンション上がる!
しかも今日は千重里君が、
「じゃあ試着したら写真よろー」
「ふふっ、彼氏さん大変ですね」
「……えぇ、まぁ……」
嫌々ではあるけど、試着した姿を見てくれてる!
服の好みを実地で知るチャンス!
彼氏さんとか言われても、反論する余裕もなくげんなりしてるけど……。
……変な緊張がない事を喜ぼう。うん。
「どうー? 似合うー?」
トップスはパンチ強めのTシャツでインパクト出しつつ、軽めの色のデニムジャケットの脱ぎ着で、派手さも落ち着きも場に応じて選べる。
ボトムスは濃い色のダメージジーンズでトップスの軽さを抑えつつ、隙間から見える肌をより白く見せる。
男の子っぽい服装で、女の子っぽさはひとつまみ。
これは千重里君の好みかな?
「あぁ、似合うよ」
うーん、悪くはないけど、すごく好きでもなさそう。
でもミニスカートとか、胸元開き目のは目を逸らしてたから、やっぱりパンツルックの方が照れないでいられるみたい。
「じゃあ写真よろー」
「……あぁ」
ポーズを取ると、千重里君はぞんざいにシャッターボタンを押す。
もう義務みたいになってるな……。
そろそろ解放してあげないと。
「ありがとー。じゃー待っててー」
「あぁ」
さてと。
今日はとりあえず買わなくてもいいかな。
千重里君の照れない服装は、ある程度把握できたし。
後は付き合わせたお礼に軽くご飯でも奢って……。
「なぁ、ま、マッキー。何か気に入ったのあったか?」
ん? この状況で千重里君から話しかけてくるなんて意外。
カーテン越しに女子が着替えてる状況なんて、苦手だと思ってたのに。
「んー、どれもいー感じだけどー、何か決め手に欠ける感じー」
「そ、そうか」
声から伝わる落胆。
あぁ、そうか。試着がまだ続くと思ってるんだ。
「ミッチーはどれが好きー?」
好きな服教えてくれたら、その服買ってもいいかな。
「あー、今のはなかなか良かったと思うぞ」
声に心がこもってないなぁ。
適当に言って、とりあえず終わらせたい感が伝わってくる。
ちょっと意地悪しちゃおうかな。
「んー、でもちょっち予算オーバーなんだよねー」
実際は余裕だけど。
さて、どんなリアクションするかな?
「もうちょい安くてデザイン好きなの見つけたいんだよねー」
「だったらどれか一つ俺が買うよ」
「えっ、いいのー?」
ほ、本当!? い、いいのかな。
初デートで初プレゼントなんて……?
えっとこの中で一番安いのは……。
「じゃーTシャツ買ってくれるー?」
「良いぞ。いくらだ?」
「はっせんえーん」
「はっ……!」
あ、これ明らかに想定外な声だ。
そっか、千重里君は服にお金かけるタイプじゃないもんね。
「ほ、他のはいくらぐらいするんだ?」
「んーとねー。パンツが一万四千で、ジャケットが二万」
でもここで「買わないでいいよ」って言ったら、それはそれでプライド傷つけちゃうよね……。
「四万超えるのはちょっち厳しかったから、ありがとミッチー」
「……」
試着室を出たら、千重里君の引きつった笑顔が見えた。
ごめんね、絶対大事にするから。
「じゃー、これよろー」
「……ぉぅ……」
「素敵な彼氏さんですね」
「あざまーす」
「……じゃあこれで……」
一万円札を出す千重里君の手は震えていた。
きっと試着を終わらせたかっただけ。
言い出した手前引っ込められなくなっただけ。
なのにすごく嬉しくてたまらない。
もしいつか心からのプレゼントをもらってしまったら、私はどうなってしまうのだろう……。
読了ありがとうございます。
どーも道貞くーん
知ってるでしょう~?
衣谷強でございますぅ
おい、指輪買わねぇか
次話もよろしくお願いいたします。