塩対応な婚約者。わたくしを放っておいて領地へ帰るってどういうこと?追いかけて白黒はっきりつけさせて貰います。
ローゼリアは、アリオス帝国の皇女として生まれた。
黒髪にきつめの顔立ち。
化粧を濃くし、真紅のドレスと好んで纏った、それはもう、大輪のバラのような皇女だった。
そんなローゼリアも、18歳。
婚約者を見つけて嫁に行かなければならない。
カーザス皇帝は、娘の婚約者にこの国一番力のある公爵家ラーゼスベルクの子息アランに目星をつけた。
歳は18歳。ローゼリアと同じ年である。
ラーゼスべルク公爵とその子息アランを皇宮に呼び寄せて、カーザス皇帝は命じたのだ。
「我が娘、ローゼリアと婚約を命じる。皇宮のバラとまで言われている美しき我が娘と婚約を結べるのだ。光栄であろう。」
ローゼリアはアランに向かってにこやかに微笑む。
悪くないわ。アランと言う男。金髪碧眼でなかなかイイ男じゃないの。
皇宮のバラのわたくしにふさわしいわ。
しかし、アランはきっぱり断ってきたのだ。
「私にはもったいのうございます。お断りします。」
ラーゼスベルク公爵は慌てたように、
「皇女様だぞ。光栄な事ではないか。アラン。」
アランは不躾にも皇帝とローゼリアに対して、
「美しいだけの女なら、他にもおりましょう。何より皇女様だからと言って、我が領地経営に役立つ事が出来ますか?ただ、散財するならば、そんな女はこちらからお断りします。」
ローゼリアはアランの言い草に頭にきた。
「失礼な男ね。皇帝の命に背くつもり?だったら、騎士団を率いてラーゼスベルクの領地を潰してもいいのよ。」
アランも負けてはいない。
「それならば、こちらも、兵を率いて対応致しましょう。ラーゼスベルクの領地は隣国に接しています。いつ何があってもよいように、私兵を養っておりますれば、最後の一兵になるまで、帝国の騎士団と戦ってごらんにいれます。」
ラーゼスベルク公爵は慌てて、
「失礼致しました。皇帝陛下。皇女様。我が息子は血の気が多くて。勿論、この婚約、喜んでお受け致します。」
最悪の出会いだった。
だが、婚約は決定してしまったのだ。
こうしてローゼリアはアランと婚約を結ぶこととなった。
ラーゼスベルク公爵家は帝都にも屋敷を構えている。
当然、婚約者なのだから、それなりの対応をアランはしてくるはずだと、ローゼリアは思っていたのだが、待てど暮らせども接触してこない。
一月経っても手紙一つよこさない。
ついに、ローゼリアはしびれを切らして、自らアランに会いに行くことにした。
どういう事よ。
わたくしは婚約者なのよ。
もっと気を使いなさいよ。
許せないわ。
屋敷へ強引に押しかければ、使用人が青くなって、ローゼリアを屋敷の中へ通してくれた。
使用人がアランが庭にいるから来て欲しいと伝えて来たので、仕方なく庭へ出て見れば、
アランがもろ肌脱いで弓を絞り的に向かって矢を放っている姿が見えて、
鍛え抜かれた身体。その逞しい筋肉質の腕から放たれる矢。
何とも凛々しくて、思わずローゼリアは見惚れてしまう。
しかし、今日は問い詰めにきたのだ。
近くへ行くと、アランが弓矢を置いて、ローゼリアの方へ視線を向け、
「この婚約、解消した方が良いと思うが。」
「何故ですの?そんなにわたくしと結婚したくはない?」
「皇女様。我が領地で暮らしていけますか?隣国と接していて、決して隙を見せてはいけない。冬は雪で閉ざされ、帝都程温かくないのです。華やかな夜会だって開かれない。
貴方に耐えられますか?だから、私は気乗りしない。」
ローゼリアは夜会が好きだ。
真紅のドレスを着て、色々な男性と踊り、おしゃべりをし、華やかな帝都の暮らしが好きだ。
確かに、冬、雪で閉ざされる寂しいラーゼスベルク領で暮らせるだろうか…
「そうですわね。わたくしの考えが浅かった。暮らせる自信がありませんわ。」
「だったら、考え直して下さい。それが皇女様の為です。」
再び弓矢を構えて、的に放つアラン。
言葉を返せなかった。
皇宮に帰り、紅茶を飲みながらため息をつく。
わたくしは…どうしたいの?
やはり、この帝都の華やかな暮らしを捨てる事なんて出来ない。
紅茶を飲んでいると、兄であるファデウス皇太子が部屋に入って来て、
「何だ。何を悩んでいる?」
「わたくし、婚約を解消するべきか悩んでおりますの。」
「何が不満だ?ラーゼスベルク公爵家は名門だぞ。」
「だって、辺境なのですもの。夜会も無い。雪が多い。わたくしは耐えられないですわ。」
ファデウス皇太子はフンと鼻で笑って、
「いつまでも皇宮に居て貰っては困る。何だったら、別の公爵家に嫁ぐ事になるが、
なかなか良い条件の男はいないぞ。」
「まぁわたくしを追い出すつもり?」
「売れ残りは嫌だろう?」
「それはそうですけれども…」
ローゼリアは思った。
もう一度、あの男に会ってみよう。
あの男とじっくりと話をした事もないではないか?
自分はあの男の事を詳しく知らないのだ。
もっとあの男と話をして、ラーゼスベルク公爵領の事を詳しく聞いてから、考え直した方が良いのではないか。
そう思ったのだけれども。
再び、ラーゼスベルク公爵家に訪問するローゼリア。
しかし、アランはいなかった。
領地へ帰ってしまったとの事。
まだ、自分とは婚約を結んだままである。
婚約はこれで解消されると思っているのか。何ともまぁ頭にきた。
「騎士団。わたくしはラーゼスベルク公爵領へ旅行に参ります。警護しなさい。」
騎士団員10人を警護につけて、馬車に乗り込もうとすれば、兄のファデウス皇太子が、
「ラーゼスベルク公爵領へ旅行へ行くなら、俺も連れていけ。」
「まぁ、お兄様。わたくしはアランへわたくしをないがしろにした怒りをぶつけに行くのですわ。」
「俺はラーゼスベルク領を視察したい。御者。出発しろ。」
「はっ。」
豪華な皇家の馬車は10人の騎士団員の警護の元、ラーゼスベルク領へ出発した。
季節は晩秋である。
枯葉が舞い散る中、ラーゼスベルク領へ進むにつれて、寒さが増していき、
ついには、雪がチラホラと舞ってきた。
「どうりで寒いと思ったら雪なのね。あまり帝都では降らないから珍しいわ。」
「そうだな。御者、急げ。雪が酷くなる前に、ラーゼスベルク公爵家に着かねばならん。」
「承知しました。」
ラーゼスベルク領にある公爵家に着いた頃には雪が本降りになってきて、
公爵家で二人の到着を聞き、ラーゼスベルク公爵夫妻とアランは慌てて、出迎える。
ラーゼスベルク公爵は、
「このような雪の中、何事でございましょう。」
ローゼリアは、アランの方を睨みつけて、
「わたくしの婚約が継続中だと言うのに、領地へ帰ってしまったので、こうして追いかけてきたのですわ。無礼でしょう。」
すると、奥から一人の女性が出て来て、ローゼリアを睨みつけ、
「無礼なのは貴方様でございましょう。わたくしはアランの姉イレーヌでございます。
アランには公爵領にアランにふさわしい女性がおりますのよ。ですから、この婚約、早々に解消して頂きたく存じます。」
「なんですって???そのふさわしい女性ってどこのどなた?」
頭にくる。そういう女性がいるにも関わらず、婚約を承知したのだ。承知したのはラーゼスベルク公爵であったが。
ラーゼスベルク公爵は慌てて、
「アランに熱をあげているミレーネ・アクトス伯爵令嬢の事だろう。恋人とかそういう関係でないはずだが。」
イレーヌはきっぱりと、
「ミレーネはいい子ですわ。ちゃんとアランの為を思って、色々と公爵家の事を手伝ってくれますし、この公爵家に必要なのはあのような細やかな気遣いの出来る嫁です。着飾って贅沢をするだけの皇女様なんていりませんわ。」
あまりの酷い言い様に頭にきた。
「わたくしは大輪のバラと夜会で言われた社交界の華なのよ。それなのに、たかが伯爵令嬢に劣るだなんて無礼にも程があるわ。ええ、この無礼な女の首を刎ねてやりたい。
お兄様、剣を貸して頂戴。今すぐ首を刎ねてやるわ。」
ファデウス皇太子はハハハと笑って、
「待て待て。ローゼリア。そのミレーネと言う女に会ってみようじゃないか。それに、遠くから来たから腹が減った。何か馳走をしてくれ。ラーゼスベルク公爵。」
ラーゼスベルク公爵は慌てたように、
「ああ、とりあえず、温かい飲み物を客間に用意させますので。今宵は泊まっていって下さい。」
案内されて、客間へ皆で移動する。警護の騎士達は別室で、温かい飲み物を用意して貰っているようだ。
ソファに座る前にアランの方をちらりとローゼリアは見る。
何だかとても腹が立つ。
アランの前につかつかと近寄って、
「貴方はどうなの?わたくしと貴方は婚約したのよ。」
「この間、考え直して下さいと申し上げましたが。」
「でも、悔しいのよ。ミレーネと言う女、わたくしより勝っているとは思えない。どうして?どうしてそっちの女がいいの?」
「いや、私はミレーネがいいとは言っていない。ミレーネを勧めているのは、姉であって…彼女と交流があるのは姉で、私はそれ程親しいわけではない。」
「だったら、わたくしを選びなさいよ。」
「いえ、だから、この間も私は言ったはずだ。御覧の通り。冬は雪深い所で、そして寂しい所だ。貴方には耐えられないだろうと。」
ローゼリアは燃え上がった。
「伯爵令嬢ごときに負けるものですか。ええ。耐えてみせますとも。伯爵令嬢より、わたくしの方が貴方にふさわしいと認めさせてみせますわ。」
言い争っていたら、イレーヌが不機嫌に、
「お茶が冷めてしまいますわ。さぁ二人とも座って温かいお茶を召し上がって下さいませ。」
「そうですわね。それじゃ頂きますわ。」
ローゼリアはソファに座り、ファデウス皇太子と共にお茶と出されたケーキを頂く。
外は雪が本降りになってきたようだ。
ファデウス皇太子は困ったように、
「明日には止むといいが…降り込められたら、帝都に戻れなくなる。」
公爵夫妻はその場にはいなくて、アランと姉のイレーヌが二人の正面に座り、
アランがファデウス皇太子に、
「しばらく我が屋敷に滞在して下さっても構いません。特に皇女様は我が屋敷に滞在して頂き、ラーゼスベルク公爵領の厳しい冬を体験して頂くのもいいかもしれません。」
「確かに、ローゼリアにはいい経験になるだろう。」
ローゼリアは紅茶を飲みながら、窓の外を見る。
真っ暗でそして、雪が降っているようで。
暖炉の火は赤々と点いて部屋の中は暖かいが、何ともまぁ物寂しい。
イレーヌがぽつりと、
「冬は男性達が雪掻きをしてくれないと、外へ出る事もままならなくなりますわ。
ミレーネは時々、遊びに来てくれて、二人で刺繍をしたり、話し相手になってくれますのよ。あの子がうちに嫁いできてくれたらどんなに幸せな事か。」
ローゼリアはイレーヌの言葉にカチンと来る。
「刺繍位ならわたくしも出来ます。話し相手ならいくらでもなって差し上げますわ。」
アランがローゼリアに向かって、
「皇女様は本当に負けず嫌いだ。貴方に似合うのは帝都だ。華やかな場所だ。こんな辺境では暮らせない。冷静になった方がいい。」
ファデウス皇太子がケーキを口に運びながら、
「反対すればする程、燃え上がるのがうちの妹の悪い癖だ。しばらく妹を預かってくれないか?現実が良く見えるだろう。」
アランが頷いて、
「承知いたしました。責任を持って我が公爵家でローゼリア様をお預かり致します。」
翌日、雪が小降りになったので、ファデウス皇太子と騎士団は帝都に帰ってしまった。
ローゼリアは公爵家で過ごす事になったのだが、ミレーネと言う女性が気になって仕方がなかった。どのような女性なのであろうか。
ローゼリアが公爵家に滞在して3日後にミレーネ・アクトス伯爵令嬢がやって来た。
雪が小降りになったので、イレーヌを訪ねて来たというのだ。
手製のケーキを手土産に持ってきて、にこやかにまずイレーヌに挨拶をする。
「お姉様。ケーキを持って参りましたわ。リンゴのケーキ。お好きでしょう。」
「まぁ有難う。ミレーネ。本当に貴方は気が利くわね。」
そして、アランに向かって、にこやかに、
「アラン様にお会い出来て私、とても嬉しくて。私のケーキ、アラン様にも食べて貰いたいわ。」
「ああ。有難う。」
そして、ローゼリアをちらりと見て、
「こちらの方はどなた?」
イレーヌがオホホホと笑って。
「アランの婚約者のローゼリア皇女様よ。無礼のないようにね。」
「まぁ、帝都の社交界の華と言われているあのローゼリア様。こんなド田舎で、何もない所では退屈でございましょう。早々に雪が止んだらお帰りになった方がよいと思いますわ。」
なんて無礼な令嬢なのでしょう。
金髪でちょっと背が低くて、可愛らしい顔立ちの。
明らかにアランを狙いまくっているこの令嬢に対してローゼリアは頭にきた。
負けるものですか。
わたくしはアランの婚約者なのよ。
「オホホホホ。このような静かな所で、のんびり過ごすのも良いと思えるようになりましたわ。わたくし、アランの婚約者なのですもの。色々と公爵家の事を、領地の事を学びたいと思っておりますのよ。」
「まぁ。そうですの?皇女様には退屈でしょうに。いつでもお帰りになっても良いと思いますけれども。勿論、婚約は解消して。」
「婚約は解消?とんでもないですわ。わたくし、アランの事を愛しているのですもの。」
アランの傍に行き、腕に腕を絡める。
あら…わたくし、アランの事を愛しているのかしら?
いえ、それはないわ。でも、この女に負けたくない。
アランは困ったような顔をして、
「二人とも、争いはそこまでにしてくれ。ミレーネは姉上に用があるのだろう。私は仕事があるから。」
ミレーネは凄い顔で、ローゼリアを睨みつけて来た。
ローゼリアも睨み返す。
アランは部屋に入ると、仕事を始めた。
公爵家の経営をラーゼスベルク公爵である父に習って手伝っているのだ。
ローゼリアはアランに向かって、
「わたくしも何かお手伝い出来る事はないかしら。計算なら得意ですのよ。」
「それなら、帳簿の計算を手伝ってくれ。」
「ええ。お手伝いさせて頂きますわ。」
二人で仕事をする静かな時間。
アランが仕事をしながらふと、話しだした。
「二年前、皇宮で貴方の姿を見かけた。初めて出席した夜会だった。
煌びやかな皇宮での夜会。貴方は真紅のドレスを着て、沢山の貴族に囲まれ、笑っていた。
なんて美しい人なんだ。何て華やかで…よく笑って…私はしばらく見惚れていたよ。
皇帝陛下から、貴方と婚約をするよう命じられた時は、本当は嬉しかった。
胸が高まった。だが…一方で思った。貴方は皇宮の社交界が似合う。そこで咲き誇っているのが似合う女性だ。こんな辺境で私の傍で生きていくべきではないとね。
帝都に帰りなさい。本格的な冬が来る前に。
貴方にここはふさわしくない。貴方にふさわしいのは帝都だ。」
「でしたら、ひと冬、わたくしをここへ置いて下さいませ。わたくしにふさわしいのが帝都か、それともここで生きて行くことが出来るのか、見極めとうございます。貴方の方もわたくしが貴方の伴侶としてふさわしい女性なのかどうか見極めて下さいませ。」
「そこまで言われるのなら。」
胸がドキリとする。
最初はなんて酷い男だと思ったけれども、今は違う。
なんて誠実な男性なのだろう。
ローゼリアは立ち上がり、アランの肩に手を置いて、
「わたくしが貴方にとって必要な女性になれるように努力致しますわ。」
何とも言えない愛しさが溢れる。
わたくしはアランの事が好き…
アランにもわたくしの事を愛して貰いたい。
アランは慌てたように、
「仕事の続きをやりましょう。ローゼリア様。」
「そうですわね。」
ローゼリアは決心した。
わたくしはこのラーゼスベルク公爵領で生きて行くわ。
ラーゼスベルク公爵やイレーヌ。そして屋敷の使用人とも仲良くならなくては。
ローゼリアは皆に気に入られるように努力した。
リンゴのケーキが好きと言うイレーヌの為にケーキを焼こうとした。
だが、ケーキなんて焼いた事がない。
イレーヌに向かって、
「お願いがあるのです。わたくしにケーキの焼き方を教えて下さいませんか。イレーヌの好きなリンゴのケーキを作ってみたくて。」
イレーヌは驚いたような顔をしていたが、
「わたくしも作った事が無くて。そうだわ。コック長に教わりましょう。二人でケーキを作ってみるのも楽しいかもしれないわ。」
イレーヌと共にリンゴのケーキを作って焼いた。
コック長に教わった割にはちょっとお砂糖加減を間違えたりしたが、美味しかった。
公爵夫人と共にお茶をして世間話をしたり、アランの仕事を手伝ったり、
使用人達と積極的に話をし、交流を持つようにした。
公爵夫妻やイレーヌ、アランとの毎日の食事の時は出過ぎないように、ほがらかに皆と会話を試みた。
大雪が降り、本格的な冬が到来した。
男性達使用人は皆、外で雪掻きをする。
ローゼリアは女性の使用人達に命じて、男性達に温かい茶を振る舞うように命じた。
いつの間にかすっかり、公爵家に馴染んでしまい、ローゼリア自身、帝都に戻りたいと思わないようになっていた。
何よりもアランと共に過ごす時間が、とても幸せに感じるようになったのだ。
一緒に仕事して、時には二人でおしゃべりをする時間。
とても幸せだった。
「アラン。わたくしは役に立っているかしら。」
「ああ。とても助かっている。父上も母上も君の事を気に入っているし、姉上も君とケーキを焼くのが楽しいと喜んでいるよ。」
あれからイレーヌと数回リンゴのケーキつくりにチャレンジした。大分、美味しいケーキが焼けるようになったのだ。
「それは良かったわ。」
「それでだな…その…パーティを開こうと、親しい人達を集めて。君を婚約者として紹介したい。」
「まぁ。それでは、わたくしの事を貴方は認めてくださるのね。」
「だが、君はどうだ?この領地でやっていけるのか?」
「わたくしも貴方の傍で生きたいと思いますわ。」
アランが抱き締めてくれた。
なんて幸せな…
しかし、パーティで事件が起こるとは思わなかった。
雪掻きが終わり、とある晴れた日の事。
ラーゼスベルク公爵家で小さな婚約披露パーティが行われた。
近隣の貴族達や、親しい人達が集まって、アランとローゼリアの婚約を祝ってくれた。
白のドレスを着て、優雅に微笑むローゼリア。
隣にはアランが居て、ローゼリアはとても幸せを感じていた。
そこへ、ミレーネ・アクトス伯爵令嬢が近づいて来て。
「私がっ、私がアラン様と結婚するはずだったのに。何年もイレーヌ様のご機嫌を取って、アラン様にもケーキを差し入れて、私が結婚するはずだったのにっ。何が皇女よ。このっ泥棒猫っ。」
思いっきりワインをひっかけられる。
真っ白なドレスが赤く染まってしまった。
アランが慌てて、ローゼリアを気遣う。
「大丈夫かっ。すぐに着替えをっ。それからミレーネを拘束しろっ。」
使用人達がミレーネを拘束する。
「許せないっ。許せないわっーーー。」
ローゼリアはアランを手で制して、にこやかに微笑み、
「わたくしは正式にアランと婚約を結んだのです。貴方に泥棒猫呼ばわりされる覚えはないわ。」
「だったら、殺してやるわっ。」
ミレーネが使用人達を、凄い力で振り払い、思いっきり懐からナイフを投げつけてきた。
カキンっ。
ファデウス皇太子がとっさに前に進み出て、そのナイフを弾き飛ばす。
「お前、ただ物ではないな。」
「まぁお兄様。来て下さったのね。」
「天候が回復したと聞いたんでな。今なら来れると思って来た。妹の婚約披露パーティ出ないわけには行かないだろう。」
ミレーネは今度は騎士団員達に拘束されて縛り上げられた。
「私はただ、幸せになりたかったのにっーーー。だから、上手くアクトス伯爵に取り入って
養女になって。今度は公爵夫人を狙っていたのに。何よりも私はアラン様の妻になりたかった。悔しいわっーーーーー。」
ファデウス皇太子はミレーネの傍に行き、その顎に手をやって、
「そんなにアランの事が好きか。」
「ええ。好きよ。だって顔がいいじゃない。ゆくゆくは公爵よ。」
「だったら、お前、俺の女になる気はないか?」
パーティ会場にいた全員がえええええっーーーーーー。
と驚く。
何故にミレーネをっ?行く行くは皇妃にって事っ???
皇女様を殺そうとした犯罪者だぞ。
ファデウス皇太子はニンマリ笑って、
「皇妃は強かでないと生き抜いてはいけない。生憎、俺の以前の婚約者は、皇宮は嫌だと逃げてしまったんでね。俺の女になれ。これは命令だ。」
ミレーネは悔しそうにファデウス皇太子を睨みつけていたが、
「ええ。いいでしょう。貴方の女になるわ。勿論、皇妃にしてくれるのでしょうね。上等じゃない。」
「ああ、皇妃にしてやるとも。お前のような伴侶を俺は求めていた。お前こそ逃げ出すなよ。」
兄はちょっと変わっているのは知っていたけれども…
まさか、皇女の自分を殺そうとする得体のしれないミレーネを皇妃にしようだなんて。
でも、口出し出来ないわ。これは兄の問題ですもの。
何だか飛んでもない事になってしまったけれども…
今はこのドレスをどうにかしないと。
ローゼリアはワインで汚れてしまった白いドレスを着替えなければならない。
アランに耳元で囁かれる。
「君の真紅のドレス姿が見たい。私はそのドレス姿を一目見て惚れたのだから。」
「解りましたわ。でも、真紅のドレス姿をお見せするのは最後になりますわ。
だって、わたくしはラーゼスベルク公爵領で生きていくと決めたのですから。
真紅のドレスはもう、必要ありません。」
アランの頼みで、真紅のドレス姿を披露する。
パーティに来ていた人々から、なんて美しいと賞賛の声が聞こえる。
皆、見惚れているのだ。
アランと共に、真紅のドレス姿で、皆に祝福される。
なんて幸せな事か。
しばらくしてアランと結婚したローゼリア。
ラーゼスベルク公爵領の発展の為に、アランを手伝い傍で献身的に尽くした。
アランとは夫婦仲が良く、一男一女を設けて、幸せに暮らした。
一方、ミレーネについては、ファデウス皇太子の婚約者を経て、皇太子妃になったが、強かに皇宮でも振る舞い、後に皇妃となって、権勢を振るった。
ファデウス皇帝はミレーネ皇妃を溺愛し、側妃も持たず二人の間には5男5女に恵まれた。ミレーネ皇妃を皆、子供達は恐れており帝位争いは一切起きず、帝国は更に繁栄したと言う。




