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花咲くまでの物語  作者: 国城 花
第一章 はじまり
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9 女神①


「そろそろ、試験が近いわね」

「あぁ、そういえば」


雫石に対して気のない返事をしているのは、純である。

この学園は実力主義のため試験の回数も多く、その難易度も高い。

新学期に入ったばかりだというのに、もう試験があるのである。


「晴くんと皐月くん、凪月くんには慣れた?」


つぼみになってまだそれほど時間は経っていない。

雫石と翔平は3人と接点があったのであまり壁はないが、純はほぼ初対面のはずだ。


「んー」

「…あまり慣れていないのね」


純は昔からあまり人と関わろうとしない。

そのため、翔平と雫石以外に親しい友人は今までいなかった。雫石は純にもっと友人ができてほしいと勝手に思っている。

あの3人とも仲良くなってくれれば嬉しいと思っているのだ。


「下の名前で呼ぶと良いかもしれないわ。きっと3人も喜んでくれるわ。ね、そうしましょう?」

「雫石がそう言うならいいよ」


自分で考えるのも面倒くさいらしい。

面倒くさがりなのはいつものことだし、雫石はそんな純には慣れている。それに純はただの面倒くさがりではないことを知っているので、気にならなかった。



ちょうどつぼみの部屋に着く。

昼休みになったため、つぼみの部屋に向かっていたのだ。


部屋の中にはすでに男子4人が揃っている。


「みんな、早いわね」

「授業が早く終わったんだよー」

「ラッキーだったねー」


双子は嬉しそうにしている。


「まだ昼食は届いていないのかしら?」


4人とも席に座っているものの、何も食べていない。


「そろそろ来るだろ」


ちょうどその時、扉をノックする音が聞こえる。


雫石が扉を開けると、コック姿の男性が立っている。


「お待たせいたしました。皆様のお食事をお持ちいたしました」

「ありがとうございます」


雫石が全員分の食事がのったカートを受け取る。


つぼみはこの部屋で昼食を食べられるため、特別に食堂から持ってきてもらうことができるのだ。

しかしそれは特別扱いというより、食堂につぼみがいると騒ぎが起きるからという理由の方が大きい。



入口でカートを渡すと、コックは部屋に入ることなく頭を下げる。

この部屋にはつぼみしか入ることができないため、一歩も立ち入ることは許されないのだ。


「わーいお昼ご飯~」

「今日のお昼は~」

「「ボンゴレスパゲッティ!」」


双子は全く同じものをとっていく。


「晴くんはどれかしら?」

「おれはフレンチのセット」


雫石が晴のもとへ運び、晴が笑顔で礼を言っている。


「ということは、麻婆豆腐が翔平くんで、サンドイッチが純ね」


2人ともそれを受け取り、雫石は自分の和食の定食をとって席に座った。


「なんでどっちがどっちか分かったの?」


皐月がスパゲッティをフォークにクルクルと巻きながら雫石に尋ねる。

雫石はクスクスと笑っている。


「2人とも、いつも同じようなものばかり食べるの。昔からずっと変わっていないのよ」


そう言われた2人は、互いの食べているものを見ている。


「舌おかしいんじゃない」


これでもかというくらい真っ赤な色をした麻婆豆腐を見て、純は顔をしかめている。


「おかしくない」

「いつも辛いものばっか」

「お前にだけは言われたくない」


翔平の視線は純の手にあるサンドイッチに向かっている。


「わたしはそんなもの平気で食べれるほど舌おかしくない」

「お前の偏食具合に比べたら俺はまだマシだ」


純がムッとして言い返そうとしたところで、雫石が純に微笑みかける。


「純は好きなものを食べているだけだものね。私は良いと思うわ。でも栄養が偏らないか心配だから、たまには違うものを食べてね」

「………分かった」


純は少しの沈黙の後、渋々了解した。


「翔平くん、お食事中は静かにね」

「何で俺だけ…」


翔平は腑に落ちなさそうにしながらも、反論することなく食事に戻る。



その様子を見ていた双子は、驚きつつ互いに目配せする。


『翔平はともかく、純って人の言うこと聞くんだね』

『意外だよね』

『人の言うことあんまり聞かなさそうだなって思ってた』

『だよね。僕も思ってた』


というような内容を、目配せだけで会話できる双子だった。




部活派遣も終わり、部活連との対決も無事終わったので平穏な日々を過ごせるかと思いきや、そうでもないようだった。


「昼休み中で悪いが、ちょっといいか」


食事が終わった後、翔平が1通の手紙を取り出した。


「さっき確認していた投書の中に、少し気になるものがあってな」


投書とは、学園の生徒がつぼみに意見や要望を書いて出すものである。

つぼみの活動は普段なら行事やイベントの企画運営、学園の治安維持である。

それに加えて理事長からの指令や、生徒から投書などで頼まれれば問題解決に乗り出すこともある。


「どんな内容だったの?」

「内容自体はざっくりとしたものなんだが…」


そう言って翔平は手紙を読み上げる。


「クラスの問題を解決してください。お願いします。ただ、クラスメイトには絶対にバレないようにしてください。お願いします」


「クラスメイトに絶対バレないように?」

「どういうことだろう?」


双子が首を傾げる。


「俺もそこが気になってな。それに、文章がどことなく切羽詰まった感じがしてな」

「差出人の名前はあったの?」

「いや、匿名だ。ただ、名前の代わりに1年B組とだけ書かれている」


翔平は雫石に手紙を渡す。


雫石はその手紙に目を通し、観察した。


「おそらく、書いたのは女の子ね。字がまだ初々しいし、1年生というのも本当だと思うわ」

「クラスメイトにバレたくないクラスの問題って、何だろう」


晴の疑問に答えたのは、雫石だった。


「何か、告発のような内容かもしれないわね」

「告発…。そのクラスが何か悪いことをしてるってことかな」

「まだ分からないけれど…調べてみる必要はあると思うわ」


雫石が確認するように翔平を見ると、翔平は頷く。


「俺もその必要があると思った」


「でも、どうやって調べるの?クラスメイトにバレちゃダメなんだよね。僕らがそのクラスに行ったら、きっと騒ぎになっちゃうよ」

「入学したばっかの1年生だもんね。高等部に入ったばっかって、特につぼみへの憧れが強いもんね」


双子の言う通りである。

入学したばかりで浮足立っている1年生のクラスにつぼみが訪ねたら、すぐに噂になって広まるだろう。それだけつぼみは人気があるのだ。


何かいい案はないかと、しばらく5人は考え込む。

ちなみに純は、会話に参加することなくただその光景をただ眺めている。



少ししてから口を開いたのは、雫石だった。


「B組だけを調べようとするから、目立ってしまうのよね。それなら、何か理由をつけて1年生全体を調べたらどうかしら。例えば…入学したばかりの1年生の学校生活に関する要望調査、とかどうかしら」

「なるほどな。それならB組だけに注目されることはないし、俺たちがクラスを訪ねる十分な理由にもなるな」

「今日中に学年主任の先生に頼めば、明日には調査できるかもしれないわ」

「すぐに依頼書を書こう。みんなはそれでいいか?」


翔平と雫石のスピーディーなやり取りに少し呆然としていた晴と双子は、翔平に問いかけられて目を覚ましたように頷いた。


「それでいいと思う」

「僕も」

「おれも」


翔平が純を見ると、無言で頷いている。反対意見はないらしい。


「それじゃあ、それでいこう」



翔平が依頼書を書き終わった頃、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響いた。


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