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花咲くまでの物語  作者: 国城 花
第二章 忍び寄るもの
34/181

34 お出かけ③


「うわーすごいね。ほら、凪月。人がちっちゃいよ」

「ほんとだー」

「おれ、これ初めて乗ったかも」

「僕らも初めてかなぁ。こういう所なんて行かせてもらえなかったからねー」

「楽しそうで何よりだわ」


雫石の提案で6人が乗ったのは、ショッピングモールにある観覧車だった。

6人乗りのゴンドラに高校生6人が詰め詰めに座り、広い窓から見える景色を見てはしゃいでいる。

眼下には買い物をしている人々の姿もあり、遠くには町も見える。



「子供の頃、乗ってみたいって言ったことあったんだよね」

「そうそう。どうしても乗りたくて、我がままを言ったんだよね」


双子は、高い所からの景色を物珍しそうに眺めている。


歩いている人の姿は小さく、行きかう車はおもちゃのようだ。

さっきまで自分たちが買い物をしていた建物は、端から端まで見える。

景色は広く、人は小さい。

少し、自由になったような気分だった。


「でも、人混みに行くのは危ないからだめって言われてさ」

「どうしても乗りたいなら、貸し切りにしてあげるからって言われたんだ」


2人は、寂し気に笑う。


「僕らはただ、人がいっぱいいるところで遊びたかったんだ。普通の家の子がやってるみたいに」

「貸し切りなんてしても楽しくないのは分かってたから、その時は諦めたんだ」

「だから、今日みんなと乗れて嬉しいよ」

「観覧車って、こんなに楽しいんだね」


幼い子供のようにはしゃいでいる2人は、本当に楽しそうである。


「それなら、良かったわ。私も、みんなと観覧車に乗れて嬉しいわ」


みんなを誘った雫石は、双子が楽しそうにしているのを見て少し安心している。

慣れない場所に誘った自覚はあるので、楽しめるかどうか心配なところもあったのだろう。



「そういえば、体調は大丈夫か?純」


翔平の隣に座っている純は、ずっと外の景色を眺めている。

双子のようにはしゃいでいるわけではないが、どこか機嫌が良さそうである。

高い所が好きなので、そのせいかもしれない。


「別に大丈夫」

「昨日は先に帰ってしまったから、心配したわ。本当に大丈夫?」

「人に酔っただけだから」


心配そうにしている雫石に、少し微笑みかける。

雫石も、安心したように微笑みを返す。



「そういえば、純も花言葉のカードもらった?」


思い出したように、双子の片割れが純に尋ねる。

昨日のパーティーの最後に、理事長からもらったあのカードである。


「純には、なんて書いてあったの?」

「2人は?」


尋ね返されて、人に聞くなら自分から話すものかと納得して双子は答える。


「「僕らは、「あなただけを見つめる」だったよ」」


ふぅん、と相槌を打って、雫石を見る。


「雫石は?」

「私は、「風格」だったわ」


「晴は?」

「おれは、「誠実」」


最後の1人には、もう聞くのも面倒なのか視線だけで尋ねる。


「俺は、「あなたを愛しています」だ」


ふぅん、と興味なさげに答えると、ちょうど良くゴンドラの扉が開いた。

どうやら、一周して地上に戻って来たらしい。


純は自分の花言葉を答えることなく、さっさとゴンドラを降りる。


「あー!純、教えてよー」

「ずるいよー」


純の後ろを双子が追いかけるが、ゴンドラを降りると人混みの中なので、気軽につぼみのことについては話せなくなる。


「ずるいよ、純」

「教えるとは言ってない」

「僕らは教えたじゃんー」

「だから?」


人が教えてくれたから自分も教えるという思考回路は、純にはない。


ぶーぶーと文句を言っている双子を見ながら、こうなることを予測していた翔平と雫石は苦笑いするしかない。

純は自分のことをあまり喋らないので、聞いても無駄だと2人には分かっていた。

諦めずに聞こうとする双子の反応は、少し新鮮である。



「この後は、どうしようか」

「そうね。そろそろ、休憩しましょうか」


「「お、いいねー」」


純から情報を得ることを諦めたのか、双子が晴と雫石の話に乗る。



どこで休むかと雫石たちが話し合っていると、隣にいた純が、すっと翔平の後ろに下がった。


「?」


どうしたのかと思っていると、どんっと足に何かがぶつかってくる。

視線を下げると、子供が翔平の足にしがみついていた。


「おかあ――」


そう言って顔を上げた子供は、翔平の顔を見て、たちまち涙顔になった。


「お、おかっ……」


そのまま泣きそうになっている子供は仕方ないとして、翔平は隣にいたはずの純を睨んだ。


「お前な…避けたな?」


この子供は、おそらく純を母親と間違って抱きつこうとしたのだろう。

純はそれを察知して、避けたのだ。

そのせいで、この子供は隣にいた翔平に抱きついてしまったのだ。



「あら。迷子かしら」


涙目になっている子供に、雫石は屈んで目線を合わせると、安心させるように微笑む。


「怖いお兄さんにびっくりしてしまったのね。大丈夫よ」

「…悪かったな、怖くて」


好きでこの顔でいるわけではない。

誰がどう見ても、遺伝と純のせいである。


「お名前は?」

「………ね、ねね」

「ねねちゃんね。いくつ?」


涙目ながらもなんとか自分の名前を言えた幼女は、指を4本立てる。


「4歳ね。ここには、お父さんとお母さんと来たのかしら」


少女は、こくりと頷く。


「このあたりに、お父さんとお母さんはいる?」


少女は周りを見るも、4歳の身長では遠くまでは見えない。


「翔平くん」

「…俺じゃない方がいいだろ」


雫石の言わんとすることが分かった翔平は、晴を見る。


「晴くん。この子を、肩車させてあげられるかしら?」

「うん。いいよ」


そう言って目の前に現れた金髪碧眼の美男子を見て、ねねという女の子は涙が引っ込んだらしく、ぽかんと驚いた顔をしている。


「…おうじさま?」

「えっと…」

「おうじさまって、ほんとにいるのね」


キラキラと輝いた瞳で見つめられ、晴は少女の夢を壊さないようにただ微笑んでいる。


少女を肩に乗せると、少女は晴の金髪を間近で見て驚いている。


「きれい…」

「ありがとう。えっと、周りにお父さんかお母さんはいるかな?」


どこか夢見心地だった少女は、周りをキョロキョロと見ると、不安げに首を横に振った。


「近くにいないとなると、放送かける?」

「迷子センターっていうのがあるね」


雫石からもらっていた地図を見ていた双子は、そう提案する。


「…おんなじかお…」


少女は双子を見てまたしても驚いたらしく、目をまん丸にしている。


「おにんぎょうさんなの?」

「ちがうよー」

「僕らはね、兄弟なんだよ」


ニコニコと、人懐っこい笑顔で少女の周りをひょこひょこと動く双子に、少女は不思議そうにしている。


「どっちが、おにいさん?」

「僕だよ」


皐月が、少女に手を振る。

そして、まだ晴に肩車されている少女の周りをグルグルと回ると、再び正面に戻ってくる。


「「どっちがお兄ちゃんでしょー?」」


少女は少し悩んでから、片方を指差す。


「ざんねーん。僕は弟でしたー」


ひらひらと、手を振りながら凪月が答える。


「じゃあ、もう1回ね」


そう言って、また2人はグルグルと回り始める。

双子の楽しさに感化されたのか、少女はさっき思い出した不安はひとまず忘れたようである。

楽しそうに、双子のどちらかを当てるゲームをしている。


「今、私の護衛に迷子の放送をしてくるようにお願いしたわ。ご両親がここに戻ってくるかもしれないから、私たちはここにいましょうか」

「そうだな」


双子と晴に任せていれば、子供の扱いは大丈夫そうである。


その時、少し後ろからピリッとした気配を感じた。

振り返ると、いつもの無表情ながら、周囲を警戒している純がいた。

翔平もすぐに周りの気配を探ると、人混みの中から、こちらへの視線を感じる。それも、好意的ではない類のものだ。

護衛はまだ気付いていないだろう。

純と翔平だから、ここまで早く気付いているのである。


「誰目当てだ?」


ここにはつぼみが6人揃っているので、誰が目当てでもおかしくはない。


純はそれに答えるように、晴に目を向ける。

正確には、晴に肩車されている少女に。


「どこかの令嬢か?」


それだったら迷子になっている時点で大騒ぎになっているはずだが、今のところその様子はない。



純と翔平の様子からおおよその事態を察した雫石が、晴に肩車されている少女に話しかける。


「ねねちゃん。上のお名前は、言えるかしら」

「うえ?」

「ねねちゃんではない、お名前よ。お父さんとお母さんとお揃いの、家族のお名前は分かるかしら」

「うたしろ」


「うたしろ…あの歌代家か。芸術一家で有名な」

「うわぁ…めっちゃいいとこのお嬢様じゃん」

「昔から有名な芸術家ばっかり出してる、あの歌代家かぁ…」


双子もその家名を聞いて、驚いている。


「そんなお家の子が、何でこんなところにいるんだろう?」

「その話は、後だな」


翔平は晴に後ろに下がるように促し、自分が前に出る。


「かなりの人数に囲まれてる。その子供狙いだろう」


晴は少女を肩車から降ろすと、そのまま抱っこした。

これから起こることを予測したのだ。


「でも、僕らの護衛もいるから大丈夫じゃない?」

「翔平たちにもいるんでしょ?」

「俺と純にはいないぞ」

「「え?」」

「いらないからな」


確かに、2人とも自分の身は自分で守れそうなくらい強い。

しかし、まさか護衛がいないとは思わなかった。


「護衛のいらないお坊ちゃんとお嬢様って、どうなの…」

「優希の護衛は今ここにいない。周防家と蒼葉家の護衛は…」


翔平は周囲に気を巡らせる。


「晴のところは2人か。皐月と凪月は、4人だな」

「わお」

「よく分かったね」

「護衛をしている人間は、気配が分かりやすいからな」


ちなみに、雫石の護衛は1人である。

晴と双子の護衛が多いのは、こういった場所に来るのが初めてだからだろう。

優希家の護衛は雫石の突飛な行動に慣れているのと、純と翔平が近くにいることが分かっているため、あまり人数は多くない。

もし何かあっても、護衛の出番がないからだ。


「この人混みだからな。護衛はすぐに動けるか分からない」


日曜日ということもあり、今日はかなり混んでいる。

翔平たちはモーゼの十戒ごとくだったので歩きやすかったが、周りの人は人混みの間を縫うように歩いている。


「何か騒ぎが起きても、優希と晴はその子供の側にいてくれ」

「うん」

「分かったわ」


「皐月と凪月は、もし不利な状況になったら走って護衛のところまで逃げろ」

「え?」

「そんなに、まずい状況?」

「もしもの話だ。襲われた時、同じ場所にいるよりは逃げられる奴は逃げて応援を呼ぶ方が状況が好転することもあるからな。まぁ、だが…」


翔平はそう言いながら、不安そうにしている双子を見る。


「俺と純がいるから、大丈夫だ」


双子が頷いた時、少し離れたところから女性の悲鳴が聞こえてきた。


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