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花咲くまでの物語  作者: 国城 花
第二章 忍び寄るもの
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28 家族②


「皆さま、お待たせいたしました。それでは、今年のつぼみをご紹介させていただきます」


静華(せいか)学園の理事長からのアナウンスに、会場が静まりかえる。



(きく)龍谷(りゅうこく)翔平。桔梗(ききょう)周防(すおう)晴。向日葵(ひまわり)蒼葉(あおば)皐月並びに蒼葉凪月。牡丹(ぼたん)優希(ゆうき)雫石。百合(ゆり)(さくら)純です」


会場が拍手で包まれる中、つぼみの6人がそれぞれ会場全員の視線を集めながら、順番に階段を下りていく。



『見せ物』


純は最低限の表情を顔にくっつけながらも、心の中ではいまだに不機嫌だった。

こういった、大勢の人の注目を浴びるのが嫌いなのである。


それに面倒くさがりなので、この後にやらなければならないことに辟易していた。


「この6人が、今年のつぼみでございます。皆さま、どうぞよろしくお願いいたします」


会場から拍手が沸く。



階段から下りた瞬間にはもう人が集まってきて、いつの間にかそれぞれ離れ離れになってしまった。

学年代表や企業の社長などに囲まれ、挨拶や質問攻めにあう。


つぼみは毎年注目度が高いので、様々な人物が繋がりを持とうと近付いてくるのだ。



「つぼみの就任、おめでとう」

「ありがとうございます」

「さすが、翔平くんだ。場慣れしているね」

「そんなことはありません。初めての場で、緊張しています」

「そうは見えないがね」

「最近更に、お父さんに似てきたんじゃないかい?」

「よく言われます」


翔平の返しに、どっと笑いが起きる。


翔平の周りには、主に大人の男性陣が集まっている。

翔平はすでに父親の仕事を手伝っているので、仕事関係での知り合いが多いのだ。


『俺はまだ慣れているが…』


ちらりと純を見ると、男女ともに大勢の人物に囲まれている。

今まで理事長の孫として名前は有名だったもののほとんどパーティーに出なかったので、物珍しくて人を集めているのだろう。


純は何とか面倒くさい表情を抑えて無表情もやめているが、すでに背中から帰りたいオーラが立ち上っている。

人に注目されることが苦手な純にとっては、この時間は拷問だろう。



その頃、晴は女性陣に囲まれていた。


「つぼみの就任、おめでとうございます」

「今年のつぼみの方は、特に見目麗しい方ばかりですね」

「あら。そんなことを言っていたら、旦那さんが拗ねますよ」


ふふふ、おほほ、と上品な笑い声に包まれる。


今までもこういうことはあったとはいえ、今回周りにいるのは女性起業家や社長夫人ばかりである。

晴の容姿に惹かれて集まったというよりは、高等部からの入学で一番情報が少ない晴の様子を見に来たのだろう。


しかしうっとりと見つめられているのも確かで、晴は内心苦笑いしながらも表向きは完璧な王子様のような微笑みを浮かべた。


「僕も、美しい方々に囲まれて嬉しいです」

「あら、お世辞も上手なのね」


子供とも言える年齢の晴からの賛辞も、夫人たちからすれば可愛いものである。


いいえ、と晴は首を横に振る。


「僕は、まだつぼみですが…大輪の花に囲まれるというのは、こういうことを言うのですね。目移りしてしまいそうです」


南国の海のような碧い瞳に見つめられ、女性陣はぽっと頬が赤くなっている。



『晴くん…着々とプレイボーイのようになっているわ…』


わりと晴の近くにいたので、女性陣との会話が聞こえていた雫石は、晴の言動に内心感動するような先が思いやられるような複雑な気持ちでいた。

容姿を武器にするように発破をかけたのは雫石なのだが、晴の素直さも相まって天然プレイボーイのようになっている。



「優希先輩、つぼみの就任おめでとうございます」

「おめでとうございます」

「ありがとうございます」


雫石は今、高等部1年と2年の学年代表から声をかけられていた。

今日の出席者は大人の方が多いので、高等部生で出席しているのはつぼみ以外ではこの2人である。


雫石への憧れを隠さない2年生の女子と、明らかに緊張している1年生の男子である。


「私も優希さんみたいにつぼみに選ばれるように、これからも頑張ります」

「とても優秀だと聞いています。頑張ってください」

「ありがとうございます」


2年生の女子に少し促されるようにして、1年生の男子も何か言おうと口をパクパクさせている。

この男子は、外部からの入学で学年1位の成績を修めている生徒だ。

静華学園に入学したばかりで、こういう場には慣れていないのかもしれない。


「緊張していますか?」

「い、いえ…えっと…」

「私も、初めてこのパーティーに出席した時は、とても緊張しました」

「そ、そうなんですか?」

「はい」


雫石のそれは初等部1年の時のことだが、今は言わない方がいいだろう。


雫石は、1年生の男子を安心させるようににっこりと微笑みかける。


「このパーティーに出ることは、とても光栄なことです。ぜひ、これからの学園生活の(かて)にしてください」


このパーティーには、有力者が大勢集まっている。ここで自分を売っておくのも、将来のことを思えば大切なことだ。



男子生徒は雫石の笑顔に頬を赤らめながら、やる気のある目で頷いた。


静華学園の生徒らしく場慣れしつつも年下を気遣う女子生徒と、緊張しながらもここでの自分の役割をしっかりと理解している男子生徒を見て、雫石は内心微笑んだ。


この2人は、なかなか将来有望である。



「史上初の1つの称号に2人ということでしたが、こうやって見ると本当に見分けがつきませんね」

「「ありがとうございます」」


皐月と凪月も、大勢の大人たちに囲まれていた。

1つの称号に2人が選ばれることは今までなかったので、注目されているのだ。


「昔は、双子は凶兆の証とも言いましたが…」


そう言って2人に試すような目を向けるのは、高齢の老人である。


「僕らは、いつも2人で助け合ってきました」

「皐月がいなければ、今の僕はありません」

「僕も、凪月がいなければここにいません」

「凶兆かどうかは、これからの僕らを見て判断してください」

「向日葵は、人を明るくさせる花ですので」


老人は、2人の答えに満足そうに頷く。


「なるほど。これは失礼なことを言ってしまった。失礼」

「いいえ、気にしていません」


『双子は凶兆』と言ったのは、わざとだろう。その言葉に対して、2人がどう反応するのか試されたのだ。


『さっきからこんなのばっかだよー』

『疲れたねー』


そんなことを、目配せで会話する2人である。


大人たちは今代のつぼみを見極めに来ているので、会話の端々まで気が抜けない。


『そろそろここから離れる?』

『それもいいかもねー』


同じ場所にいては、いろんな人と話すことはできない。うまく会話を切り上げるのも、こちらの技量である。


『あ!』


その時、人混みの中に見えた姿を見て、2人は嬉しげに顔を見合わせた。


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