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花咲くまでの物語  作者: 国城 花
第二章 忍び寄るもの
27/181

27 家族①


「「パーティー?」」


理事長からつぼみとして認められた次の日、つぼみの部屋にはいつもの手紙が届いていた。

理事長からの指令は無茶ぶりばかりなので恐る恐る開けてみると、そこには人数分のパーティーの招待状が入っていた。


「何でパーティー?」

「理事長からの招待?」


相変わらず理事長のやることを理解するのは簡単ではない。


双子は不信感丸出しで、手紙に何か仕掛けられているのではないかと指先で突っついている。

翔平はその光景に苦笑いしながら、安心させるように事情を話す。


「毎年あるやつだ。理事長主催の、新しいつぼみを披露するパーティー」

「あぁ、あれかー」

「そういえばこの時期だったね」


双子は思い当たる節があるらしく、手紙を突っつくのを止める。

晴も知っているらしい。


「学年代表の人とか、外部の人も招待されるんだよね」

「そうそう。あれ、どの生徒も憧れるやつだよねー」


新しいつぼみになり1ヶ月も経っていない時期ではあるが、つぼみのメンバーがパーティーでお披露目されるのだ。

毎年つぼみ以外にも各学年の代表や、政治家や企業家など、様々な業界のトップが招待される。



「………」


無口だが明らかに機嫌が悪くなっている純を見て、晴と双子は思い出した。純は人目を引くのが嫌いなのである。

以前に翔平がその作戦をとった時は、何人も地獄送りにしてきたような恐ろしい程の怒気と、視線だけで人を殺せそうな般若になっていたのを覚えている。


あの時のような空気にならないうちに、と女神のような緩衝材を探したが、どこにもいない。

牡丹(ぼたん)の席は空いており、いつも紅茶を淹れてくれるキッチンにもいなかった。


「珍しいね。この時間にいないなんて」


皐月(さつき)がそんなことを言っていると、階段を上ってくる音がする。


「噂をすれば…」


扉が開くと、女神のような緩衝材が部屋に入ってきた。


「あら、みんなどうしたの?」


そう微笑んでいる姿も美しく、やはり女神のようである。

雫石(しずく)が部屋に入ってきただけで空気が和らぐ気がする。


「珍しく雫石が遅いなって話してたとこなんだ」

「あら、そうだったの。試験の復習をして、先生のところに行って教えてもらっていたの」

「勉強熱心だねー」


雫石は学年1位でありながら向上心があり、成績を笠に着ない。

そういうところも雫石が生徒からの人気が高い所以(ゆえん)である。


「理事長からパーティーの招待状が来たよ。つぼみお披露目の」

「そういえば、そんな時期ね」


凪月(なつき)に教えてもらっても特に驚いた様子がないのを見て、晴は思い出したように納得した。


「そっか。雫石は毎年出てるんだもんね」


毎年各学年から選ばれるパーティーへの参加者は、基本的に成績優秀者である。

つまり、初等部1年から去年まで自分たちの学年の代表を務めていたのは、入学以来成績トップを維持し続けている雫石なのである。


「じゃあ、慣れっこなんだね」

「そんなことないわ。つぼみとして参加するのは初めてだし、緊張するわ」


緊張する、と言いながらもとても楽しみそうにワクワクしている。



ずっと無言だった純が、おもむろに席を立って部屋を出ようとする。

それを、翔平は見逃さなかった。


「バックレるなよ。パーティー」


全員が心の中で思っていたことを、翔平が口にする。

純の今の不機嫌さを見ると、当日パーティー会場にいなくても全く驚かない。

つぼみ発表の場にもいなかったくらいなのだ。



純は、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

それほど嫌らしい。


「一緒に出ましょう?」


少し悲しそうに見つめる雫石の瞳は、こういう時の純への最強の薬である。


「……………………………………………………分かった」


分かった、までの間がかなり長かった。




つぼみ披露パーティーの当日、会場はたくさんの人であふれていた。

それはつぼみの注目度の高さと、理事長の人脈の広さが窺えるものだった。



「それにしても…」


控え室にいるつぼみのメンバーは、それぞれドレスアップしていた。


「まさか、VERT(ヴェール)に作っていただけるとは思っていなかったわ」


雫石たちの着ている衣裳は全て、VERTという高級ブランドのものである。世界中のセレブに愛されており、知名度も高い。

その会社を経営しているのが、実は理事長なのである。


今回はそのVERTがつぼみのためにデザインしたパーティー衣装を着ている。



翔平は黒色の丈が長めのスーツに、同じく黒色のネクタイを締めている。

シンプルながらも、翔平の漆黒の髪色とクールな雰囲気によく合ったものだった。


対照的に晴はクリーム色がかった白色のスーツである。

同じ色のスカーフには金色のリングが輝いており、金髪碧眼の容姿をより一層際立たせている。


雫石は上品ながらも目立つ赤色のドレスで、美しい黒髪と白い肌が映えている。

長く美しい黒髪は、結わえて片方の肩から流している。


双子はお揃いの明るい茶色のスーツで、色を抑えることで2人の明るいオレンジ色の髪が映えている。

ところどころに見えるチェック柄は、2人の少し子供っぽいところを表しているようにも見える。


純は濃紺のドレスで、灰色がかった薄茶色の髪色と薄茶色の瞳が際立つようになっている。

いつも肩で揺れていた髪はまとめ、白い肌の首筋に白銀のイヤリングが揺れている。



これらはどれもそれぞれの体に合ったオーダーメイドであり、いつの間にサイズを測られていたのかは謎である。


「2人とも、すごく似合ってるよ」


「ありがとう。とても嬉しいわ」

「どうも」


純と雫石に向けて素直に賛辞を送る晴は、さすが外国の血が入っている。

日本男児ならこうはいかないだろう。



しかし、双子がそれに面白そうに便乗する。


「雫石は明るい色のイメージだねー」

「純は反対に落ち着いた色だねー」


「「似合ってるよー」」


こうなると、最後の人物も何か言わなくてはならない。

まさか双子のせいで自分に回ってくるとは思っていなかったらしく、少し焦っている。


さっと見ると、すぐに視線を外す。


「…似合ってる」


『私のドレスは見ていない気がするのは、気のせいかしら』


翔平の落ち着かない行動に、雫石はいたずらっぽく笑みを浮かべた。



「もうそろそろかしらね」


つぼみはそれぞれ紹介をされながら会場中央にある階段から登場する手筈(てはず)となっており、今はそれを待っている状態である。



渋々パーティーに参加することを決めた純だが、やはり少々の不機嫌さはとれない。

しかし控えめながらも上品に化粧をしており、紺色のドレスの中で口紅が際立って大人っぽく見える。


普段は無表情と面倒くさそうな表情が多いせいであまりその容姿に注目されることはないが、元々整った面立ちをしている。

本来、雫石と遜色ないくらいの美少女なのだ。


ただ、さっきから言うようにその不機嫌そうな表情がとてももったいない。


「純、人前でその顔はやめた方がいいぞ」

「分かってる」


分かっていないように見える。


「理事長に迷惑かけたくないんだろ?」

「…分かってる」


今度はちゃんと分かっているようだった。

翔平も、純を(なだ)めることに慣れているようだ。


「皆さん、そろそろ準備をお願いします」


登場する時間がきたらしい。

ある者はワクワクし、ある者は緊張し、ある者はまだ不機嫌である。


「行くか」


翔平を先頭に、つぼみが披露される会場へ向かった。


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