表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花咲くまでの物語  作者: 国城 花
第六章 変化
157/181

154 百花の王②


『つぼみの記録を消した人は、男性。それも、学園卒業後に姿を消した』


吉川から話を聞いた次の日、雫石は頭の中で情報を整理していた。


『純のお母様も、卒業後にこの世界を離れている』


そして同じように、同時期にこの世界から姿を消した男性。


『それも、純と関わりがあると言ったら…』


授業の終わりを告げる鐘が鳴り、雫石ははっと意識を戻す。

こんなにも授業中に集中していなかったのは、人生で初めてだった。

しかし自分の手がしっかりとノートをとっているのを見て、安心する。

どうやら意識が上の空でも、ノートだけはちゃんとれる能力を持っているらしい。


「雫石」


名前を呼ばれて顔を上げると、同じクラスの晴がいる。


「つぼみの部屋に行く?」

「えぇ」


これから昼休みなので、昼食をとるためにもつぼみの部屋に行くつもりだ。


教科書とノートを机の中にしまった時、指にかさりと当たるものがあった。

それを机の中から出してみると、手紙のようだった。

男子生徒からよくラブレターを貰うので、またそんな感じの手紙かと思って封を開けた。


「!」


しかしその内容を読み、雫石は一瞬固まってしまった。


「雫石?どうしたの?」


晴がすぐそばにいたことを思い出し、雫石はいつもの微笑みを浮かべる。


「何でもないわ」


しかし晴は、眉を寄せて雫石が手に持っている手紙に視線を向ける。


「その手紙に、何か書いてあったの?」

「いいえ。告白の手紙だったみたいだわ」

「雫石」


周りの生徒に聞こえないように近付くと、晴は雫石の微笑みを見つめる。


「おれ、耳が良いんだ」

「えぇ。知っているわ」

「だから、その手紙を見てから雫石の心拍数が乱れたのが聞こえてるんだ」


少し驚き、雫石は目を開く。


「人が嘘をつく時は、心拍数が速くなるんだ」


晴は、雫石が持っている手紙を見る。


「その手紙が告白の手紙っていうのも、嘘だよね。何かあったんでしょう?」


心配そうな碧い瞳を見て、雫石は隠し通すのは難しいと判断した。


「…つぼみの部屋で話すわ」


あの場所だけが、安心して話ができる場所なのだ。




雫石と晴がつぼみの部屋に行くと、翔平と純がいた。

皐月と凪月はまだ来ていないらしい。


いつもの長椅子で寝転がっている純は雫石の姿を見ると、体を起こして雫石に近付く。


「何があったの」


その声に反応し、翔平もパソコンから顔を上げる。

そして雫石の表情から何かを感じ取ったのか、眉間にシワを寄せた。


『2人ともすごいな…』


晴は雫石が動揺した瞬間を聞いたから分かったが、2人は今の雫石を見て何かがあったと分かるらしい。

いつもの上品な微笑みを浮かべていた雫石は、純と翔平の姿を見て少しずつ笑みが消えていく。


「この手紙が、机の中に入っていたの」


雫石が3人に見せた手紙は、ラブレターとは言いがたい内容だった。


「何これ…」


手紙には紙いっぱいに、「愛している」と書かれていた。

文字の上には、血のような赤い模様がある。

狂気的な文面にゾッとしていると、純が手紙を裏返す。


「あんなに年上の男がいいのか。狭い部屋で2人で何をしていたのか。あんな男はやめておけ」


あまり声に出して読みたくない文面を、翔平が簡潔にまとめる。


「何のことか分かるか?」

「多分、吉川先生のことだと思うわ。昨日、進路相談にのってもらったの」


この手紙の差出人は、雫石が吉川と相談室に入ったところを見たのだろう。

吉川に声をかける前に感じた嫌な視線ももしかしたら、手紙の差出人だったのかもしれない。


「純。何か分かるか?」


手紙を観察していた純は、首を横に振る。


「血の跡はただの印刷。指紋は付いてないし、匂いもない。手紙に使われている紙はどこでも手に入るし、文章を印刷したインクもどこにでもあるもの」

「そんなに分かるんだ…」


見ただけでそこまで分かるのかと、晴は驚く。

まるで警察の鑑識のようである。


「こういう奴は、できるだけ早く見つけておきたいんだがな…」

「今までにも、こういうことはあったの?」


翔平は雫石の様子を見てから、口を開く。


「優希に好意を寄せる相手が、いつも正当な方法を使うわけじゃないからな」


雫石はその見た目もあり、異性から好意を寄せられることが多い。

その中には、強引な手に出る者もいる。


腕力は普通の女子と変わらない雫石では、男子に力では勝てない。

腕を掴まれれば振り払うことはできず、押し倒されれば逃げることはできない。

だから今までは、純と翔平がそういった男たちから雫石を守ってきた。


「手紙の差出人が分かるまでは、わたしか翔平と一緒に…」

「私はもう、純と翔平くんに守られるだけはやめるわ」


雫石の言葉に、純は少し驚いたように言葉を止める。


「皐月くんと凪月くんに作ってもらったグッズもあるもの。いつまでも、2人に守られているわけにはいかないわ」


雫石は、純の瞳を真っすぐ見つめ返す。


「体育祭の時に、私は言ったわ。純を安心させるには時間がかかるかもしれないけれど、私1人でもがんばるって」


そうやって決意してからも、何か危ないことがあるたびに純が守ってくれた。

このままでは、ダメなのだ。


「いつまでも純に頼っていては、私が成長できないの」

「………」


何も言わない純に代わり、翔平は口を開く。


「だが、何かあってからじゃ遅い。今回の相手はストーカー気質だから、本当に危ないぞ」

「分かっているわ」


雫石は、ぐっと唇に力を入れる。


「それでも、純の力は借りないわ」


そう言うと、雫石はつぼみの部屋を出ていってしまった。

追いかけようとした晴を、翔平が制する。


「悪い。今回は俺が話を聞きに行ってもいいか」


晴は少し迷ったが、翔平の方が知っていることも多いだろうと頷いた。

つぼみの部屋の扉が閉まり、部屋には晴と純の2人だけになる。


純の表情はいつもと変わらないように見えたが、どこか困惑しているようにも見えた。


『雫石の言葉に、嘘はなかったけど…』


それでも力強いのに、どこか震えた音だった。


『何が、雫石をそうさせてるんだろう』


雫石の心に、何か変化があったのだろう。

しかし晴には、それが何か分からない。


それがもどかしく感じた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ