そうじゃないのに~西條理亜~
ハルカが倒れたと連絡を受けたのは、、マラソン大会が終わってずいぶんたってからだった。私は急いでハルカの元に、保健室に駆けつけた。
「不良保健医~~~!!!」
私はものすごい勢いで保健室のドアを開けた。ハルカが倒れた、という事実しか頭になかったせいだ。他に人がいるかもしれないのに、そんなこと失念してたのは、風邪もめったにひかない頑丈なハルカが倒れたなんて聞いたからだ。
「ハルカと速水が倒れたって本当?」
見渡したけど、保健医の姿は見えない。だけど、窓の外から煙が見える。私は保健医がどこにいるか見当がついた。
「何煙草吸ってんのよ、不良保健医!」
保健室は一階にあるため、窓のすぐ外は地面だ。そこで煙草をふかす不審人物が保健医だ。保健医の分際で煙草を吸うなんて言語道断!
「西條か? なんだ煩いな。保健室では静かにしろ。いいだろう。副流煙を生徒に吸わせないように気を使ってるんだぞ」
「勤務中に吸うなら喫煙室にいけ! じゃなくて、ハルカと速水が倒れたって本当なの?」
「ああ、そうだ。まあ、速水に関してはいつものことなんだが……榊がな」
速水が眠れないために保健室をよく利用している。だから、迎えにくる私やハルカもこの保健医と顔見知りになったわけなんだけど……。
「どうしたのよ? どこのベッドで寝てるの?」
「ああ、榊は真ん中にベッドで寝てる。速水はその右隣だ」
「なんでハルカが倒れたの?」
「さあ、脳震とうだろうとは思うけどな。詳しいことはわからない。運んできた速水が何も言おうとしないからな。思いつめた表情だったんだよ。あんなに真剣な人間に何を聞けっていうんだ」
「あんたそれでも生徒の味方の保健の先生なの?」
「おまえ、あいかわらずキッツイ言葉だな」
「ハルカは健康で倒れたことなんてないのよ! それなのに、何かとてつもなく悪い原因があるかもしれないじゃない……心配よ」
「あのな、過保護すぎるんじゃないか? 榊だっておまえと同じ齢なんだぞ。心配しなくても大丈夫だ」
「無責任なこと言わないで! あの二人……なんだかとっても心配なの。大きな子供の世話してるみたいなんだもん」
「あのな、男っていうのは心はいつでも少年のままなんだぞ」
「あんたのことはどうでもいいんだけど」
「ああ、俺ってなんで生徒に心を傷つけられてるんだろう……」
「打たれ弱いわね。それでも、もう二十五歳なの? そんなんで生きていけるの?」
「……子供が……ああ、俺は先生として立派にこれからやっていく。だから、さっさと榊のとこ行ってやれ」
「ああ、そうね!」
保健医がベッドを仕切っているカーテンを音をあまり立てないように静かに開いた。
そこには人形のように眠るハルカがいた。
起こしたらいけない、と思って私はすぐにカーテンを静かに閉めた。
「もういいのか?」
「紙みたいな顔してる……具合大丈夫かしら?」
「大丈夫だ。今日はベッドが満員だ。マラソン大会だったからな。具合が悪くなる生徒が多かった」
「私はちゃ~んと走ったわよ!」
私は胸を張って言った。
「何位だったんだ?」
「そっそういうことは聞いちゃいけないお約束でしょ!」
「ブービーとかだったのか?」
「そんなわけないでしょ! 三十五位よ! 百人中なんだから!」
「へ~、よくやったな」
「子供扱いしないでよ!」
保健医が私の頭を撫でた。ものすっごくこそばゆくて、その手を乱暴に振り払ってしまった。なぜか恥ずかしいのよ! これでも乙女ですからね!
「おい! 具合が良くなったら、榊と速水の話聞いてやれよ!」
「わかってるわよ~~~!」
私は脱兎のごとく保健室から逃げ出した。
「もしかして……速水、告白したのかしら?」
廊下を歩いている途中でそんなことをふっと思い出した。
それだったら、ハルカの倒れた理由もわかる。
「そんなにハルカにとって速水の告白は重荷だった?」
私が速水に告白を促した。もし、ハルカの倒れた理由が速水の告白によってなら、私のせいだ! 私が渋っている速水に告白するように言後押しした。ハルカを大丈夫と信じて。だけど……大丈夫じゃないとしたら……私はなんてことをしてしまったんだろう!!!
私は両腕を抱えた。震えた。急に怖くなった。
楽しんでいた罰が当たったのかもかもしれない……。だって、恋って楽しくてキラキラしているものでしょう?
その考えは違ったのかもしれない。私のはやとちりのせいで、収集のつかない事態になったら……!!! と思うと怖い。
でも、ここで怖がって震えているのは私の性には合わない!
私は再び保健室に向かった。
「ねえ、教えて! ハルカと速水のこと! どういう状態だったの?」
「ああ? 別にいいだろう。起きてから二人から聞けば。それと、保健室だぞ、あんまり大声出すな」
「あ、ごめん。でも、知りたいの! なんでこんなことになったのか」
「まったく、青い春かっての。まず、お前が落ち着け。ショック受けてるのはわかるが、お前がそんなんで、二人が起きたらどうするんだ。おまえがしっかりしないと、他の二人だってどうしていいかわからないだろう?」
「だって……私、取り返しのつかないことしちゃったかも……」
「聞いてやる、座れ」
「先生は気づいてた? 速水の気持ち」
「ああ、バレバレだろう。あそこまで榊に熱烈な視線送ってるのに気づかないわけないだろう? 思春期特有のものだろうとは思うが」
「だけど、今の速水の気持ちは本物なのよ! ハルカのこと好きで好きでたまらんだわ。なのに! そのことに、ハルカは全く気づいてないのよ」
「ああ、あのポヤポヤした榊がわかるわけないだろうな」
「私、なんとかしてあがたかったの……でも、私のせいで悪い方向にいっちゃってるのかもしれないの」
「告白でもさせようとしたのか?」
「そう、わからせてあげたかったのハルカに。速水が一人で悩んでるのが可哀想だったのよ。だけど……そのせいでハルカは……」
「今回、榊が倒れたのはそれが自分が原因だっていいたいのか?」
「そうだと思う」
「お前のは全部憶測だ。事実じゃない。わかってるか? 本当のことが聞きたければ、榊から聞け」
「でも、ハルカはまだ、起きてはくれないのよ」
「起きてるよ。ごめんね、理亜。僕が全部悪いんだ」
ハルカがベッドから起き出していた。
「ハルカが悪いわけじゃない!」
私は叫んでいた。誰が悪いわけじゃないと私は思いたかった。
「健太郎に告白……されたよ。知らなかった自分がどれだけ酷いことをしてきたか……思い知って……ねえ、僕は健太郎に許してもらえるかな? このまま友達のままでいられないかな……」
許しを請うのはハルカじゃない!
そして、友達のままでいるのも、もう無理かもしれない……。
ハルカはどうして自分が倒れたのかを語り出した。




