希望の在処は
今日は風紀委員会の月1の集まりのある日だったハズだ。
それなのに……今日も集まったのは3人。
元々から自由な校風が売りのうちの学校で風紀委員なんて名ばかりだけれどこれじゃあ、あんまりだ!
と考えた風紀委員長である僕は月1で集会を開くことを決めた。
もちろん自由参加で。
見事に3人以外は誰も来なかったけど。
僕の名前は榊春日。春の日と書いてハルカと読む。
この名前は結構気に入っている。僕が春生まれだったからこの名前。
でも、困ったのは女の子に間違われること。
女顔と華奢な体つきのせいでなおさらだった。
確かに性格も男らしくはないと自分でも思うけれど。
「あ、ハルカ。委員長なのに遅いわよ!」
風紀委員の副委員長の西條理亜だ。僕の幼馴染。
ちなみに、僕より背が高いモデル体系で美人。
ただ…ちょっと性格に問題アリかな?気が強いっていうかなんというか。
だけど、本当は優しいんだよ?
ちょっと誤解されやすいだけで。
「委員長」
これはいっこ年下の後輩である速水健太郎。
いつも無表情でボーっとしてるって理亜は言うけれど、
僕はこのニコニコした顔を見ることが圧倒的に多い。
今日も笑顔で僕に近づいてくる。
そして、教室の席はたくさん空いてるのになぜか僕を隣の席に座らせる。
いつもだ。
頭を撫でられるのはなんでだろう?
その部分に不信感を抱きつつも、いい後輩であることには変わりないのでそのままにしている。
後輩に頼られるのは嬉しいから。
この、僕を入れて三人がいつものメンバーだ。
とりあえず、活動しているメンバーという意味だけど。
「今日は何をするの?」
理亜が聞いてくるけれど……このあるようでない委員会で月1で集まってすることなど、実はない。
校門の前に立ったりするのはもう、ローテイションが決まっているから各個人だし。
何かあるときはその時、随時連絡だから。
いっそ校風のことでも真面目に話し合うか。却下されるに決まってるけど。
僕はため息をついた。
「いじわるで聞いてる?」
僕がそう言うと、理亜はとびっきりの笑顔で言った。
「うん」
「西條先輩……ハルカ先輩をいじめるな」
そうすると健太郎が僕を庇う。
逆効果だと思うんだけど……と僕はいつも思っている。
理亜とは付き合いが長いからわかる。
反応すればするほど理亜は面白がるに決まってる。
それに、理亜はわかってないかもしれないけれど好きなんだ、健太郎のこと。
だから、面白くないんだ。健太郎が僕を庇うことが。
そんなことがわかってしまう自分がちょっと嫌になるだけどさ。
だって、そんなことがわかるのは僕が理亜のことが好きで、ずっと見ているから。
理亜は健太郎が好き。
ため息がでてくる。
健太郎は……というと、
「委員長が一番」
と豪語してる……。
冗談で言っているのはわかるけど。
これじゃ、理亜がかわいそうだ。
健太郎の持病とうかなんというかが関係しているんだと思うけど、親鳥にくっついてくる雛みたいな真似はやめてほしい。
気づいてほしい。理亜のこと。
確かにそう思ってるのに、変わってしまう関係がいやでそのことを言えない。
卑怯な自分。
この3人の心地よさを捨てることができない。
情けない自分。
僕に希望はあるのだろうか?
僕なんかを好きになってくれるだろうか?
誰も好きになってくれないんじゃないか。
そう卑屈に考える僕もいる。
自分が嫌になり、僕は悩むことをやめた。
卒業するまでこの3人の心地いい関係を続けていきたいから。
自分が理亜のこと好きだって気持ちに蓋もする。
理亜が健太郎のことが好きだって気持ちにも蓋をする。
見てみぬふりばっかりでイヤになる。
こんな自分は変われるだろか?
この関係は変えることができるだろうか?
希望の在処は、まだまだ遠くにある。
僕はそう思っていた。まだ、時間がかかるって。
この時、僕は知らなかった。
この3人の関係が三角関係だったなんて。
この三角関係の行き着く先なんて……想像もつかなかったんだ。
※短編~写真~
『初めて人間を自分から撮りたいと思ったんだ』
春日は幼馴染の理亜にそう言った。
それは初夏だった。
日差しが強くなり、空の色が絵の具を流したような青になった頃。
春日は放課後何気なく窓の外を見た。
プールがあった。
泳いでいる人に目を奪われた。
キレイなフォーム。
”撮りたい!!”
思わずカメラで写真を撮る時のポーズになってしまった。
シャッターをきる音がしないことにはっと気づく。
指が空をきる感触に、春日は自分がカメラを握っていないことを知った。
誰も見ていないというのに恥ずかしさで春日は頬を赤く染めた。
「あれ……誰だろう?」
春日はプールに一直線に走った。
「ハルカ先輩」
それは、委員会で一緒の後輩、速水健太郎だった。
「おまえ水泳部?」
「うん、泳ぐのすき」
健太郎は何の屈託もなく笑う。そんな無邪気な笑顔ははじめてみた。
「お前のこと撮ってもいいか!?」
いきなりでびっくりしたのか健太郎の動きが停止した。
「トル?」
「写真!!」
「ああ、何で写真?」
「僕が写真部だから!!」
「知ってるけど……なんで泳いでるところなの?」
「知らないけど!撮っても良いの悪いの?ハッキリして!」
「いいよ。ただし、今は女子がいるから後でなら」
健太郎は困ったように笑った。
そこには女子の姿もあって、写真を撮ったら明らかに誤解されるだろう。
春日は写真を撮りたいとう衝動で周りが見えなくなっているようだ。
いつもの春日とは全然違う。強い衝動に突き動かされているようだ。
「いつもは先輩が気にするほうなのに」
その言葉で春日は顔を赤く染めた。我に返って自分の軽率な行動を恥じたようだ。
「カメラ持ってくるから待ってて!」
照れを隠すために足早に春日は走っていった。
「俺の泳いでるとこなんか撮って何がいいんだろ?」
健太郎の頭には?マークが浮かぶ。
「綺麗だからだよ。無駄のないフォームでバランスがとれてるから」
ひょこっと顔を出したのは水泳部部長だった。
「遅いけどね」
「部長……」
健太郎は首を傾げる。
「見る目あるな~榊は。さすがカメラ小僧だ」
「ハルカ先輩のことカメラ小僧なんて言わないでください。それに、俺はフォームが綺麗でも遅いのに」
「早く泳ぐのは競技だから。楽しんで泳いでるお前には合わないよ、速水」
背中をたたかれる。
もう一泳ぎしてこいということなんだろう。
それから、春日は毎日のように見学に行った。
熱い目で見られると健太郎の心は焦れた。
春日はそんなことに気づきもせずただ、見ていた。
「なんで俺を撮りたいと思ったの?」
「理想なんだ。僕、小さい頃海で溺れてから…水が怖いから」
健太郎の問いにそんな言葉が返ってくる。
「理想の姿を写真に撮りたいんだ」
健太郎にはどうしてそれが撮りたいのと直結するのかわからなかった。
「ありがとう」
それなのに、なぜか知らないけどそんな言葉が口から出ていた。
抜けるような空の下。




