第1話 開幕
「巫屋敷?」
「はい、左様でございます。こちらの名前は巫屋敷と我々は呼んでおります」
「そう、ですか…」
ブレザーの彼は呟く。
「何のためにこんなところに連れてこられたのよ??」
喧嘩腰でロングスカートの彼女は支配人に聞く。そう、何のためにここへ。
「しかも、何も覚えていないのに何しろって言うのよ!!」
「えっ、貴女もですか?」
ブレザーの彼はロングスカートの彼女に聞いた。
「そうだけど…」
(自分達だけではないということは、つまり…)
「皆様の記憶は消させていただきました」
涼しい顔で支配人の女が言った。
「は?」「なんでだよ?」「どうして!」「なんだよ!」
口々に皆が疑問の声をあげる。
「皆様にお集まりいただいたのは、これから悪戯を行っていただくからです。そのために記憶は消させていただきました」
「ゲエム?どんな?」
眼鏡の彼が疑問を口にする。そう、どんな悪戯がここで行われるのか、彼らはまだ知らなかった。
「今から一週間生き延びてください。それが嫌なら、一人になるまで殺し合ってください」
支配人は相変わらず涼しい顔で告げた。
「勝者には褒美が与えられます」
まるで、かくれんぼしましょとでも言うような口調で支配人は言った。
ブレザーの少年は支配人の言ったことが呑み込めず、頭の中で復唱した。
(一週間生き延びろ?それが嫌なら…人を…?)
「冗談じゃないわ!なんでそんなことしなくちゃいけないのよ!」
またもロングスカートの彼女が噛みつく。いや、噛みついて然りの状況だ。他の者も支配人を睨んでいる。
「あなた方は運営に決められてこちらに連れてこられたのです。それ以上のことは私の口からは申し上げられません」
支配人はそれにニコニコと涼しい笑顔で返す。
「私、帰る!」
ロングスカートの彼女は後ろを向いて出て行こうとする。
「何処に?」
「は?」
「何処に行くと?」
「何処って…」
支配人の変わらない、ニコニコとした顔が、だんだんと怖く感じる。
「それは…」
彼女は言葉に詰まった。そう、記憶が無いのだ。それに、外は森に囲まれている。
「記憶も無く、森に囲まれ、自分がいる場所もわからないのにどうやって帰るというのですか?それに何処に?」
「…」
思ったことを言い当てられ、彼女は黙る。
「さて、それでは」
支配人が音はしないが、パンっと柏手を打つような仕草をする。芝居がかっていて、それがまた、少年少女の恐怖心を煽る。
「お荷物は各自の部屋に置いてありますので――」
一瞬の間が開くが、怖さ故か誰も喋ろうとしない。
「ああ、皆様のお名前を。今のままでは互いに知らぬままでしょう?」
それに呼ぶときも大変ですからと支配人は言いながら、袂から紙を取り出す。それを開くと名前を呼び始めた。
初めに出会った和服の少女が蝶、ロングスカートの少女が妖、眼鏡で学ランの少年が原、金髪の少年が反、茶髪でショートカットの少女が興、黒髪に学ランを着てその上にマントを着ている少年が客、リボンをつけている少女が生、学生服の上に白衣を着ている少年が藪、セミロングの髪をハーフアップにしている少女が言、ピアスを開けているの少年が真、袴を着ている少女が英、目元に傷がある少年が竜、サングラスをしている少年が黒、黒い手袋を着けている少年が狼、マントを着て顔を隠している少年が流、ツナギを着ている少年が外。
そして、自分の名前は夜。
支配人が言うには個人を表すような名前であるそうだ。ならば自分は夜という名前が合う人間だったのかと思ったが、やはり何も思い出せない。
「それでは、以上になります。18時から会食ですので、それまで西館にあるお部屋でごゆっくりとおくつろぎくださいませ。各自のお部屋は誰が誰の部屋かわかるようになっておりますので。」
支配人のその言葉で解散となった。
♢ ♢ ♢
西館に向かう途中に、共用なのだろうか開けた和室がある。縁側を通ってそこを抜ける。そして、渡り廊下を通って西館に向かう。
各自の部屋の扉には、各自とわかるような刻印が施されていた。
中に入ると、古民家だから和室なのかと思っていたが、洋室となっていた。
夜は部屋に置いてあったスーツケースを開ける。中には、着替え等が入っていた。そして隣には。
「竹刀?」
名前の部分は消してあるが竹刀が一緒に置かれていた。記憶が無くなる前は剣道でもやっていたのだろう。
クローゼットもあり、開けてみると自分のサイズの洋服がある。そして和服も。
「偶然…?じゃないよな…」
ここまで来ると怖さを超えて納得するしかない。
(この悪戯、計画的なのか?)
クローゼットを静かに閉め、椅子に座る。フカフカとしていて体が沈む。テレビも無い。勿論、携帯電話も無い。あるのは昔ながらの黒電話。隣には内線用と書いたプラカードが置いてある。
「だよな…」
そんな中で一週間を生きるのかと思うと少し辛い気がする。
しかし、夜の思考は違うところに向く。あの蝶と呼ばれた少女。いい匂いはするし、かわいいし、何より珍しい和服。
(って、何考えてんだ俺!もしかしたら、あの子に殺されるかもなんだぞ!あ、でも美人に殺されるのは、いや!あ、でも!うっ!)
思考を放棄するように夜はブンブンと頭を振った。
「でも、生きてたらあの子と一週間いるんだよな~。仲良くなれたらいいんだけど…でも、最初に話たの僕だし!」
べらべらと大きな声で独り言。ハッと隣に聞こえていないかと心配になったが、反応は無い。
夜は一人でホッと安心した。
夜の頭は悪戯より蝶のことでいっぱいになっていた。
ここでプロローグ終了となります!
これから本編に入ります!皆様よろしくお願い致します!