色欲の誘惑
「今日はモンスターとの戦闘訓練になるんだけれど、まずは戦闘スタイルなどを話して作戦を練ろう」
僕はそうみんなに提案する。
「そうね。まず私から話すわね。私は近接~中距離を得意とするわ。近接はこのレイピアでの近接戦闘で、魔法も使う魔剣士になるわ」
「じゃあ次は俺な。俺は近接だ。この騎士の剣。まぁロングソードだな。魔法は使えない。」
「私は、近接は苦手です。魔法は水魔法が得意です」
3人の自己紹介が終わり、僕の方を3人が見る。
「近接は少しできる程度かな。魔法は・・・使えるが、あまり期待はしないでくれ」
「はぁ?なんだそりゃ、全然使えねーじゃん。さすがFクラスだな。なんでフレイは、こんなのと組んでるんだ?」
フレイは僕を睨むが僕は気にしない。
話し合いの結果、Aクラスのフレイがリーダーとなる。
「隊列は、ユリウス、スイ、エルミナ、私、で行くわよ。」
「おーけー」「はいはい」「わかりました」
隊列を組み森の中へ入る。
遭遇するモンスターは、学生が相手出来るだけあって弱いのがほとんどだった。
ゴブリンは、たまに数匹で居たりもするがバカなので問題ない。
問題は、スライムだった。
「くそ!剣が通用しねー!」
「スライムは斬撃、打撃、に耐性があるわよ!近接が引き付けて、魔法で倒すのよ!」
「ごめんなさい。私の魔法は水魔法なので、そんなに効果ないです。」
「くっ、なら私が!フレアアロー!」
「お!効いてるな!このまま押し切るぞ!」
みんな頑張ってるな。
僕は何もせずに見守っていた。
はっきり言って、僕は戦闘に特化した魔法をあまり持っていない。
持ってる魔法も、ほとんどオリジナルだから使いにくい。
「ほんと、スイは使えねーな」
ユリウスにそう言われる。
本当のことなので、何も言い返さない。
数回の戦闘をして、僕以外の連携も良くなってきた頃に、
「なんだこいつ!強いぞ!」
「たぶんゴブリンの変異体よ!気をつけて!エルミナ援護お願い!」
「はい」
僕はエルミナを守るように位置につく。
ユリウスがゴブリン変異体を引き付けて、フレイが攻撃を仕掛ける。
取り巻きのゴブリンをエルミナが魔法で倒す。
このままいけば倒せるかと、みんなが思い始めた時に現れた。
3メートルはあるであろう大きな体をしたゴブリンの最上位種。
オーガだった。
なぜ、こんな場所にオーガがいるのか。
普段はこんな森の浅い場所にいるモンスターではない。
しかし、現実に、目の前にそいつは現れた。
一瞬皆の動きが止まってしまった。
ドコォ!っと音がし、そちらを見るとユリウスがゴブリン変異体に吹き飛ばされていた。
フレイがユリウスの元へ駆け寄る。
「フレイ!ユリウスは!?」
「大丈夫よ!意識はあるは!」
ユリウスはとりあえず大丈夫そうだ。
(さて、この状況をどうするかな・・・)
敵をこちらに引き付けて、ユリウスを逃がし、僕達も逃げる。僕は考える。
「フレイ!こっちで敵を惹き付けるから、ユリウスを連れて逃げろ!」
「なにいってんの!スイとエルミナはどうするのよ!?」
「こっちは・・・なんとかする」
僕はフレイを見る。
「わかったわ。必ず助けを呼んでくる!」
「頼んだそ!すまないエルミナ、一緒にに囮になってもらうぞ!」
エルミナは恐怖で震えていた。
僕は秘魔法を唱える。
「朝霧!フレイいけ!!」
僕を中心に濃い霧がかかりだす。
フレイは、ユリウスに肩を貸し走り出した。
僕はエルミナの手を掴み逃げる体制をとる。
まだモンスターがフレイ達を追おうとしているので、さらに秘魔法を使う。
「騙し鼠花火」
モンスターの足元に火を噴きながら回転する何かが現れる。
その何かは、パンっ!と音を鳴らし弾け飛んだ。
その隙にフレイ達は離脱出来たみたいだ。
それを確認すると同時に、エルミナを引っ張りながら走り出す。
なるべく、森の奥には行かずに入口寄りに逃げ出す。
モンスター達は追いかけてこようとするが、濃い霧がかかっていて僕達を認識出来ないでいた。
その隙に、こちらも離脱する。
しばらく走り、「霧隠れ」を唱えて敵を完全に撒くことに成功した。
大きな木の根元にある小さな空洞に、エルミナと一緒に隠れる。
「エルミナは大丈夫?怪我とかしていない?」
僕はあぐらをかきながらその場に座る。
「・・・私は大丈夫です。・・・スイ君って凄いんですね」
エルミナは僕に寄りかかりながらそう言ってきた。
「私は少し疲れてしまいました。少しこのままでいさせてもらってもいいですか?」
エルミナに上目遣いでそう言われる。
(こ、これはなかなか・・・)
「構わないよ」
「ありがとうございます」
エルミナは僕の体に手を回し、抱きつく感じで寄りかかる。
エルミナの小さな体から、体温が僕に伝わってくる。
少し甘い香りが僕の鼻をくすぐる。
さっきまでの緊張感が嘘のように、エルミナのこと以外考えれなくなってくる。
僕は、エルミナの体を抱きしめるように腕を回し抱き寄せる。
エルミナの呼吸に色が混じってくる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
抱きしめているエルミナの鼓動が早くなっているのがわかる。
僕の鼓動も、エルミナの鼓動に合わせて早くなる。
どうしようもなくエルミナが愛おしく思えてくる・・・。
エルミナが上目遣いで僕を見つめながら、手を下に這わしていく。
胸からおへそ、さらにはその下までゆっくりと手を這わしていく。
僕は少しずつ顔をエルミナに近づけていき、エルミナの唇を奪おうとしたその時
「あんた達何してんの?」
絶対零度の視線で見つめるフレイがいた。
僕の頭は急に思考を回復させる。
「あ、えっ?な、なんで??」
「チッ」
エルミナが小さく舌打ちをして僕から離れる。
フレイの後ろには、付き添いの先生が居て、どうやら助けに来てくれたみたいだった。
この場所で居るのも危険なため、キャンプへ戻る。
予想外の敵が出たため訓練は中止。
先生達が警戒している中、今日はキャンプで過ごし、明日一斉に戻ることとなった。
キャンプに到着し、先生達に事情を説明してからフレイに呼び出された。
「スイ、あんた何やってたのよ?」
「・・・それがさ、エルミナに抱きつかれたら何も考えられなくなって、気がつけばエルミナを抱きしめてキスをしようとしてたな」
「はぁ・・・あの子は危険ね。それはそうと、よく逃げきれたわね?」
「僕の魔法って、直接攻撃あんまりないんだけれど、相手を騙したりするのは得意なんだよね」
「そう。でも、スイのおかげで助かったわ。ありがとう」
そう言ってフレイは僕の頬にキスをした。
「えっ??うえぇぇ??」
僕は頬を抑えながら戸惑う。
「ふふふ。感謝の気持ちよ」
そう言って笑うフレイはとっても綺麗だと思った。