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リンドバウム王国記~転生王ユーヤ~  作者: 三ツ蔵 祥
第5章 ―オーガ大陸激闘編―
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第九拾話 リンドバウム号の座礁

本日から、5章の最終話までを毎日朝8:00に投稿します。

よろしくお願いします。

 トライデル城のいつものテラスでヒッターとエテリナ、そしてメルティが午後のお茶を楽しんでいた。しかし、メルティは急に南の方向を見るとソワソワし始めた。


「どうしたの?メルティ?」


 エテリナの問いに、メルティは上の空である。ヒッターはその様子を見て同じように南の方角を眺める。


「ふむ。メルティ様は坊ちゃんが心配になりましたかの?」


 少しの沈黙の後メルティは告げる。


「うーん…心配と云うか…なんかまた騒動を起こしてそうな…そんな予感がするんですよねー。」


 メルティの予感はズバリ的中している。ユーヤがまた新たな側室を作ってしまっていたのだから。帰還後に彼女達は知る事になるのだが、今はただの予感としておこう。






「各艦異常はないな。これより作戦行動に入る。全艦発進!!」


 ヨーンが号令を出すと、作戦行動予定の艦全てが、魔導エンジンの音と共に風を巻き上げて浮き上がった。真剣な表情のヨーン…しかし女性クルー達の目は冷たい。それは陛下…ユーヤに対しても同じだった。


 耐え切れなくなったユーヤが、引き攣り笑いをして女性クルー達に言葉を漏らす。


「あ、あのー…お嬢様方…任務中なのでそろそろ普通に接していただけませんかね?」


 キャシー以外の女性クルーは、それを聞いて更に冷たい視線を送って来る。そしてコンピューターオペレーターのアルルがボソっと呟く。


「女の敵。」


 ユーヤは思わず「すいません。」と頭を垂れた。そしてキャシーも居た堪れなくなったのだろう。オペレーター席を立ちあがり、皆に叫んだ。


「なんでにゃ!なんでみんなそこまで陛下と提督を責めるにゃ!!それなら私も同罪にゃ!!!」


 クルー達がハッとする。陛下と提督を責めながら、自分達がキャシーさえも追い詰めていた事に。キャシーの目からは大粒の涙が幾つも零れ落ちていた。


「うちの仲間達はこんにゃに陰湿だったの?酷いにゃ!リンドバウム軍はもっと楽しい軍だったはずにゃ!!」


 このキャシーの言い分にヨーンとユーヤは少し困惑する。『楽しい軍て…それはそれで不味いよな…。』と。


 そんなおバカな上司はさて置き、クルー達は沈黙の後キャシーに謝罪する。


「陛下と提督はどうかと思うけれど…キャシー本当にごめんなさい。」


 アルルがキャシーの横へ来て謝っている。それを聞いたユーヤとヨーンは涙する。『なんだこの俺達の扱いは…。』と。


「そうね。陛下達はアレだけど、キャシーの前でごめんなさい。」

「本当に提督達はカスだけれど、キャシーの前でそんな事言っちゃいけないわよね。」

「そうよそうよ。例え陛下達に地獄に落ちろと思っても、キャシーの居る処で態度に出しちゃいけなかったわ…。」


 一通りキャシーへの謝罪を聞きながら、上司二人の額には青筋が見え始めていた。


「なあ、ヨーン。こいつら謝ってるようで謝ってないよな?」

「そうですね。なんかちょっと苛ついてきましたよ。さすがに。」


 それでも二人は小声である。陛下の奥方衆を普段から相手にしている二人は、女性の怖さを良く知っているのだ。


 兎にも角にも、この一件によって何とかリンドバウム号は通常の空気に戻ろうとしていた。おバカ上司二人を除いてではあるが。


「あー俺ちょっと煙草吸って来るわ。」

「陛下、お供します!」


「ちょ!陛下?提督~!!」


 そんな様子を見て男性クルー達が呟く。


「拗ねたな。」「ああ。重傷ぽいな。」


「ちょっとあんた達!ヒソヒソしてないで連れ戻してよ!!」


 そう言うアルルに操舵手のアレックスが物申す。


「追い出したのはお前らだろうが!自分達で責任取れないならグダグダ言うんじゃない!!陛下はちゃんとキャシーを籍に入れる事で責任を果たしたんだ!それをいつまでもゴチャゴチャと!!!」


 戻りかけた空気の雲行きが、また怪しくなっていた。そこへレーダー手が不審そうに声を出す。


「あれ?アナトが接近…甲板に降りるのか?」


「え?そんな通信入ってないわよ?」


 ズンと云う音と共に、艦に動揺が起こる。甲板を見ると、ユーヤとヨーンがその手の平に乗っていた。どうやらアナトはユーヤの精神に触れ、勝手に迎えに来たようだった。


 遅れてカスバドから通信が入った。


『何やらアナトがマスターの危機だと云うて飛び出して行きおったんじゃが、何かあったのか?』


 クルー達は一斉に蒼ざめる。自分達は取り返しのつかない事をやってしまったのだと。


『ああ、カスバド気にするな。今からそっちを旗艦とする。リンドバウム号はあくまで追従艦扱いだ。』


 ユーヤの非情な宣告に、リンドバウム号の乗員全てが震えあがった。


『あ、そうだ。艦長はアルル辺りがやっておけばいいんじゃないか?ゼフィロスとも巧くやってるんだろうしな。じゃあな~。』


 ブリッジクルーは暫く優しい顔を見せていた陛下の本質を失念していた。そうだった…彼は戦神の分身と呼ばれていたのだったと後悔をする。


 そう皆が青くなる中、アレックスはアルルに告げる。


「早く艦長席に着け。ここまでの覚悟があってあそこまでの態度をとったのだろ?」


「い、い、嫌よ!!」


 アルルは真っ白になりながら半ベソをかいていた。


「いいから席に着け!!覚悟もなく人を貶めたのなら尚更だ!!!」


「ひっ!」


 アレックスの気迫に押され、アルルは席に泣きながら座り込んだ。


「ゼフィロス、そう言うわけだ。補助してやってくれ。」


『わかったよ。ただ僕も男の子なもんでね…。それにマスターは僕らの産みの親なんだよね。だからアルルの態度は感心できないよ。堕ちないようには補助するけどさ。』


「だ、そうだ。」


 アルルはショックを受ける。今まで誰よりも接して来た筈のゼフィロスが、まさか普段一言二言しか言葉を交わさない操舵手と、ここまでコミュニケーションが取れているとは思いもしなかったのだろう。


 正に鼻っ柱を折られたと云う状況であった。


 そんなアルルを余所に、キャシーがいそいそと荷物を纏め始めていた。


「え?あ?キャシー?何をしているの?」


「うん。陛下からの個人通信が来てたのにゃ。こっちに居辛かったらホエールにおいでって。」


 アルルは愕然とする。まさか仲間を捨てて男の所へ?と。


「あ!アナトが戻って来たにゃ。それじゃ、ゼフィロスと上手くやっててにゃ。」


 アルルは女性クルーのリーダー的な存在である。彼女が右と云えば皆右を向いた。しかし、今彼女に向けられているクルー達の目は、全くそれとは逆の目の色であった。


「ほら、貴様らも席に着け!艦を墜としたいのか!!」


 普段は寡黙なアレックスの声に、皆畏怖し大人しく席に座る。


 その瞬間に再びズンと云う音と艦への動揺が起こった。キャシーを迎えに来たアナトであろう。


 アルルは頭を抱えると、再び泣き出していた。







 アナトがホエールに着艦すると、奥方衆が出迎えていた。そうしてユーヤとキャシーがアナトから顔を出すと、マリオンが溜息を吐く。


「もう、いい大人がやり過ぎよ?」


「まあな。でもクルー達の中に溜まってる鬱積した膿を出すには丁度いいだろ?」


「そうですね。自分達が選ばれたエリートなどと云う変な意識を捨てなければ、彼等もどこぞのお貴族様達のように成りかねませんからね。」


 サクヤのまともな意見に皆が目を白黒させる。


「何ですか!みんなしてそんな顔をしてー!!」


 サクヤが頬を膨らませる。ウテナはそんな姉の顔を見てケラケラと笑い出していた。


「ま、アナトの力を借りて艦の中の様子を見てみたが、アルルは操舵手に完全に鼻をへし折られちまってたな。確かにやり過ぎたかもなあ。」


「陛下?『かもなあ』ではなく。明らかなやり過ぎですよ?」


 おカジさんが困ったような表情で笑っている。


「いやー、ついでにアナトの無人航行試験も出来たし、今回の騒動は割といい収穫が多そうだなあ。」


『マスター、私はマスターの為ならば火の中でも水の中でもお供します。マスターは私にとっての親であり…。』


「ん?どうしたアナト?」


 突然黙ってしまったアナトをユーヤは心配する。どこかショートしたのかと。その考えはある意味間違ってはいない。


『お、お、お、』

「お?」


『親であり旦那様なのですから!』


 ユーヤも奥方衆も一瞬茫然とする。その視線を受けてアナトがイヤンイヤンしている。まるでいつかのウテナのように。


「意外な処に愛人が居ましたわね…。」

「ちょっとこれ勝負にならないわよ?見ようと思えばユーヤの心まで見れるんだから。」

「旦那様…!?」

「にゃにゃ!?」


 ――待てこれ…ひょっとして以前ウテナを乗せた時に、ウテナの個人データをバックアップでもしたのか!?


 ユーヤの額に汗が光る。こんな乙女な機体に育てた覚えはないのだが、と困惑しているようであった。


『陛下、いつまでこんな演技を続けるのじゃ?さすがのわしもあのアルルとか云う子が可哀想になって来たぞ?』


 ブリッジのカスバドが艦内放送を使って呼びかけている。


「ふっふっふ…今回の悪態のお仕置きも込みなんでな。次の戦闘まで放置さ。」


 ニヤリと笑うユーヤに、マリオンは額に手をあて、おカジさんは溜息を洩らした。ウテナも、困った人だわと言わん顔をしていたが、その双子の姉であるサクヤは、ユーヤと一緒にふっふっふとニヤついていた。


 こんな王族夫婦達を見て、キャシーは一抹の不安を覚える。


『私…この人達と上手くやっていけるのかにゃあ?不安だにゃあ…。』


 そんな思いを察してか、マリオンがキャシーの肩に手を添える。


「どうしたの?皆に合わせる必要なんてないのよ。貴女は貴女の生き方をすればいいんだから。」


 そう微笑むマリオンに、キャシーは目を輝かせた。


「はい!奥方様!!」


「いえ、あの…貴女もユーヤの奥方なんだから、その呼称もうやめない?」

「いいえ。私にとっての陛下の奥方は、奥方様だけですにゃん!!」


「なんだなんだ?なんかややこしい話しをしてるな?」


 そう言うユーヤの方を振り向くと、キャシーは宣言する。


「私、キャシー・クノン・コンテは、今日からマリオネート様のようにゃ奥方を目指しますにゃ!!陛下!見ててくださいにゃあ。」







「なんか本当はキャシーの台詞をラストに持って来るつもりだったらしいですわ。」

「あー…猫人訛りが酷くて締まらないので、私達にオチをやれと云うわけですね。」


「サクヤ姉様?おカジ?何をしてるのですか?」


「ウテナ、これは大人の情事です。」

「姫様!!逆!逆ですよ!!事情です!じ・じょ・う!」

はい。おカジとサクヤの言うとおりなんです。

締まらなかったんです!(泣き)


キャシーちゃん、ええ子なのにのう…。(涙)



※機鋼甲冑名鑑を辞典に加えます。

12:00よりLINDBAUM's Encyclopedia更新です。

よろしくです。

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