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リンドバウム王国記~転生王ユーヤ~  作者: 三ツ蔵 祥
第4章 ―復興編―
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外伝Ⅴ 戴冠式での一幕

 女王アルテイシアの戴冠の日、タケルはセーラと共にその先導役を担っていた。ユーヤとテンゴウの約束によって、この日より彼はアルテイシアの従者となったのだ。


 緊張して右足と右手が一緒に前に出ている。先導役でありながらぎこちない足取りである。後ろからシアが「これ、タケル!もうちょっと肩の力を抜かぬか!」と耳元で囁く。


 その吐息が耳にかかる事で、尚更タケルは硬直してしまったようだ。色んな意味でも。


 自然にタケルは前屈みとなる。横にいるセーラがその様子を苦笑して見ていたが、前屈みになっている要因に気付くと、顔を赤くして明後日の方を向くのだった。


「タケルよ…緊張からの生理現象なのであろうが…場所を考えよ。」


「場所や状況に合わせられれば苦労はしません!!」


 シアのツッコミに少し涙目でタケルは答える。


 ここは正にレッドカーペットの上である。本来ならばにこやかに手でも振りながら登場すべき場所なのだ。カーペットの周囲の者達がざわめく。


「あの者は何者だ?女王陛下と親しげに話しているぞ。」「近習の者と聞いているが妙に親しげだな?」「おお、これは戴冠の儀の真っ最中でのスクープかもしれんぞ!」


 記者達が色めきだっている。シアは今更ながら近付き過ぎたと距離を置くが、それは既に遅かった。


 レッドカーペットの向こうで待つ父王のコメカミには、青筋が浮かんでいたのだ。


 ―あーこれヤバいかも。父様が何か勘違いしてるかも。


 シアはなるべく前を向き、父の目から視線を離さないように進む事にした。それによって『私達そんな関係じゃないですよー。勘違いしちゃダメですよ父様ー。』と言う意思を向けたつもりであった。


 しかしユーヤにはこの態度が逆に怪しく見えていたようで、尚更に青筋が膨れ上がっているように見える。


 ―あー不味い。これ不味い。口元がニヤリとしてる。うわ~。


 シアは諦めて鼻歌を歌うかのような表情を浮かべると、後ろからタケルの足を軽く蹴った。


「姫様、何をするんですか?行進の最中ですよ?」


「いいから前を見よ。特に我が父の顔を。何か勘違いして怒っておる。」


 そう言われて初めてタケルは王の顔を見ると、その視線はバッチリ交差した。タケルは自分が見られている事にようやく気がついたようだった。


「姫様なんですこれ?何で陛下はあんな仇でも見るような目を?」

「馬鹿者!後ろを振り返るでない。尚更火に油を注いでしまうではないか!!」


 そうこうしている間に一行は、玉座の前に辿り着いてしまった。


「タケルよ…随分とシアと親しげだな…。まさか既に手を出しているんじゃないだろうな?」


 陛下の表情が暗黒面を覗かせている。さすがのタケルもここに来てようやく事態に気がつく。


『まずいこれ。凄くヤバい。なにこれマジヤバい状況だ。』


「へ、陛下。何を仰いますか。従者たる我が身を省みずにそのような事は決してございません。」


 しかしこれはどう見ても、陛下から黒判定を受けてしまっているようで、耳に届いていない様子である。


「いや~タケル、初勤務の日にいきなりで悪いんだが、明日から謹慎な。」

「ええ!それは無体な!?」

「そうじゃ父様。これは横暴じゃ!」


 既に戦神モードに入っている今の父に、シアの言葉は聞こえていないようで、ニヤリとしながら目を赤く光らせてタケルを見る。


「無体?無体であるか?ならばその腰に差すクサナギによって反論せよ。」


 ―ひぃっ!無茶苦茶だ!!レジェンド相手にどうしろと!?


「いい加減にしてくだされ父様!!」


 その時鞘から得物を抜いたのは、誰あろうアルテイシア・クノン・クィーネであった。彼女の手には聖神剣マリオネートが握られていた。


「ほう…お前が俺の相手になるか…シア。」


 会場の観衆、そして来賓がゴクリと息を呑む。セーラはシアを守る為に破邪顕正の剣を抜いて前へ前へと少しずつ歩む。


 王と女王、二人の視線が交差し、剣の柄にかかった王の手がピクリと反応したその瞬間――


 ゴン!と云う鈍い音と、バイ~ンと云う弦が弾けた音が響き渡った。




「本当にいい加減にしなさいよね。娘を困らせてどうすんのよ!!」


 父王は突然の後頭部への一撃で昏倒していた。その一撃を放ったのは、マリオネート妃…シアの母であった。その手にはオリハルコン改で作られたギターが握られていた。


「母様…いくらなんでもフルスイングはヤバいのでは…。」


「ああこれ…失神してしまいましたね。」


 いつの間にかウテナが王の横に座り込んで、容体を診ている。


「まったくもう…マリオネート様、これはやり過ぎです。」


 おカジさんは両の手を組んで、やれやれと言う風にマリオネートの横に来ていた。この三人よりも若い奥方衆は呆気にとられている。


「仕方ないでしょ。剣聖級の…しかも魔神を倒した事になっているような相手に、手加減なんてどうしろって言うのよ?」


 御尤もである。


「医療班!こっちに早く来て!式次第なんてもう気にしなくていいから、うちのバカ亭主を運んでください!」


 メルティが医療班を呼びつけているようだ。


「あ、ここで回復なんてしないでね。面倒くさい事になるから。戴冠式?そんなのマリオネート様が代わりにやるから、ちゃっちゃと運んじゃってくださいよ。」


 元諜報隊副隊長は、迅速に指示を与えている。


 そして奥方衆は担架で運ばれていく亭主を、手を振って見送った。


「か、母様?付き添いは?」

「いらないでしょ。自業自得なんだから。ネーナかワダツミ辺りが付いて行くだろうし。それよりも今日は貴女が主役なんだから、もっと胸を張りなさい。」


 こうして会場の皆がドン引く中、前王不在で式は進行して行ったのであった。



 因みにタケルへの謹慎の件であるが、マリオネート妃曰く。


「タケル、あんた前王が相手とは云え、警護対象を守ろうとせずにクサナギに手もかけずに狼狽えていたわよね?ユーヤの言った謹慎の件は有効とさせてもらうわね。」


 そう、完全なる失態であった。警護対象を守る構えも見せずに、逆に警護対象に守られたカタチになってしまっていたのだから。


 タケルは猛省しつつ、ガックリと肩を落としていたようだった。





 そしてその日の夕方には号外が乱れ飛んだ。


『無体な前王閣下!情けなや女王様側近!何故剣を抜かなかったのか?』


 などと云った見出しが飛び交う事となり、謹慎の命は逆にタケルの身を守る事となったようだ。


「ふむ。瓦版もこうして見てみると面白いものだのう?」

「姫様!…いえ、女王閣下!!」


 次の日の午後、いつものテラスでは小さくなりながらお茶を啜る前王様と、シアとセーラの姿があったのだった。


 リンドバウムは今日も平和…だよね?

以前に外伝Ⅳでチラっと書いた

「タケルは謹慎中で―」と言う事件の全貌です。


ご覧のとおり、寧ろタケル君は被害者であったりします。



ではこれにて、第4章を閉幕とさせて頂きます。

次回投下は明後日を予定しております。

これからもよろしくお願いいたします。

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