第八拾弐話 パパの怒り
うん。
巧いサブタイが浮かばなかったよ。
海岸線沿いを進み、ホエールはナハ基地に向かっていた。海岸線はほとんどの場所がビーチになっていて、富裕層以外にも観光に訪れる者が非常に多く、ビーチには幾つもの人の群れが見える。
「南国沖縄かー。あっちに居た時に行ってみたかったなー。」
ユーヤはホエールの展望キャビンから、羨ましげに下界を眺めていた。
「おや、兄君はこの辺りの古い地名をご存知なのですね。」
サクヤがユーヤの独り言の中の『オキナワ』と云う単語に反応していた。
「へえ、ここの地名はオキナワだったのか。しかしアイリスは日本…異世界の固有名詞が多いね。何かあるのかい?」
日本と言いかけてユーヤは言い澱んだ。恐らく通じない単語だと思ったのであろう。
「ええ。かつて遠い時代に於いて、ヒノモトとかニホンとか言う処から我々エルフ族は勇者や戦士を召喚していたのです。街や人の名前が特殊なのはそのためです。そして、彼等の血は我々ハイエルフが継いでいるのです。」
―通じたんだ…言い澱まなくても良かった気がする…。
「ん?待て。継いでるって…ハイエルフはエルフの中でも純血なんじゃないのか?」
「ええ。異世界の勇者様の血を何代にも渡って受け継いでいる、純血なる一族がハイエルフですよ。」
ユーヤは、なんだそのよくわからない理屈は!?と胸の内でツッコむに留めた。言い得て妙であるが、確かにそれも純血と云えなくもないと思えたからであった。
「で、何故その純潔なる一族の姫様達は、こぞってユーヤを狙うのかな~?」
マリオンが意味深な笑みを浮かべている。しかし、サクヤはそれに気付かなかったように平然と答えた。
「それは兄君が現代に於いてレアとも云える、転生者であるからですよ。」
「あ~なるほど~…って、それだけの理由!?」
サクヤは真剣な表情である。冗談ではないらしい。
「何代何世代にも渡って守り抜いてきましたが、それでも血は薄まるのです。ならばこの時代に現れた転生者と契りを結ぶ事で、かつて奇跡にも近い能力であった我らが一族の復活が叶うとは思いませんか?」
「どうなんだろう?確かに転生者ではあるけれど、身体はリンドバウム王朝のクノン家の血筋なんだが?」
そうユーヤが疑問符に疑問符を投げ返す。
「大丈夫です。精神は体に宿るモノです。そして心は遺伝子をも変質させるものなのです。」
大丈夫の意味がわからん!とユーヤは内心思いながらも、どこか納得はしてしまった。確かに生き物とはそういうものなのかも知れないと。それ故に進化していくのだろうと。
『間もなくナハ基地に到着します。各員、艦の動揺に気をつけてください。』
ホエールのオペレーターの声に、手摺に掴まったり着座したりと皆が動き回る。シアはトテトテとユーヤの元に来て、席に座っている父の膝の上へと飛び乗った。それをユーヤは普通に受け止める。
マリオンはふと、この光景を見て戦神のダンジョンでの事を思い出す。
あれはエレーナであったけれど、ユーヤが娘に甘々になるのではと心配していた自分を思う。しかし、現状自身も同じくらい甘々になってはいまいか?などと思考していた。
「そうね、また師匠に喝を入れられたくはないし、もっと厳しくしましょう。」
ユーヤは突然そんな事を、自分を見ながら呟く妻に恐怖を覚えるが、マリオンの視線の先に居るのは、その膝の上のお嬢様である。それに気付くと、ユーヤは胸を撫でおろしていたのだった。
「お待ちしておりました。アレクソラス王。」
ナハ基地の会議室にて、ユーヤとテンゴウの二人は向かい合って差しで語らう。
「済まない。うちの娘の従者が、心労で介助が必要だったもので時間をとらせてしまった。で、テンゴウ殿が今日ここに俺を呼んだのは、シアの事だろ?」
テンゴウは無言で頷いた。そして跪く。
「姫様が僅か3歳で剣聖となられた事、誠に喜ばしい限りかと思います。」
―いや、嬉しくねーよ…。一緒に勇者スキルまで覚醒しちまったんじゃ、これからどう教育していいかわかんねーよ。
ユーヤは心の中で愚痴る。生後1年で戦神によって『ラウズの女王』と宣告された時点である程度の覚悟はしていたが、僅か3歳で剣聖と勇者のスキル称号を獲得するなど斜め上どころの騒ぎではない。
そして戦神に『そんな加護なんぞいらねえ!普通に幸せな一生を送らせてやってくれ!!』と言ってやりたくて仕方ないようだ。
そんなユーヤの心の内を知らないテンゴウの言葉は続く。
「一時代に剣聖は4人まで出現すると云う決まりごとがありまするが、この数十年何故か3人までしか剣聖の獲得を許されませんでした。しかし此度のアルテイシア様のスキル称号の発現を目撃致し、これはどうやらアルテイシア様の誕生を、神は待っておられたのだと確信致しました。」
―ああ、そうだろな戦神め。特に俺が転生してマリっぺと許嫁になってからは、自分の魂の一部を持ってる俺とマリっぺとの子供を首を長くして待ってやがったんだろうな。
感動に打ち震えているかのように語るテンゴウとは逆に、ユーヤの眉は吊り上り、目からは冷めた怒気さえ感じられる。
―なんだかんだ言って本当はあいつが一番シアを猫可愛がりしたいんだろ。シアは俺達夫婦のもんだ。戦神には渡さねーぞ!
「これらを鑑み、我がスサノオ家はこれより女王アルテイシア様の盾となり、剣となり申す。そして我が弟の嫡子が何の因果かアルテイシア様と同年でありまして、将来手となり足とすべくこれを鍛え上げて、アルテイシア様が立派に成長された日より傍付きとして献上いたしたく思います。」
―…。ん?同年?嫡子?献上?ん?んん?
ここでユーヤの表情が変わる。困惑したようなそんな表情だ。
「待ってくださいテンゴウ殿。それはまさかツクヨミ閣下と同じような腹ではないですよね?」
「いえいえ!決してそのような事はありませぬ!あくまで傍付きであります!!」
ユーヤの言う同じような腹とは、ツクヨミが画策するセーラの婿取り大作戦のことである。これのシア版をテンゴウが展開しようとしているのか?と、ユーヤは勘ぐる。
「名をタケルと申します。必ずアルテイシア様の片腕となるような武人として育てますゆえ……、陛下?まだ疑っておいでなのですか?」
「あ、いや…テンゴウ殿はそのような策を好まないとは判っているのですが…親としてどうも…ね。」
少しの間テンゴウは跪いた姿勢のまま思案する。すると急に立ち上がり、ユーヤの手を両手で握る。何か妙案が浮かんだらしい。
「では、このあとナガサキ砦に戻りましたら一族を説得して、女子二名を更に付けます。アマテラス家のシズカとツクヨミ家からはトモエが良いでしょう。」
「あーなるほど。タケルのお目付け役というわけか。ならばいいかな。」
「有り難き幸せ!」
再び跪くテンゴウに、怒気を孕んだ声でユーヤは一言加える。
「そのかわり、もしもそのタケルがうちのシアに手を出したらぶっ殺す!!」
テンゴウはギョっとした表情でユーヤの顔を窺う。
そこには戦神のように両手を組み、ドSなオーラを放つ王が…いや一人の娘のパパが居た。
「ははっ!良く言って聞かせます…。」
剣聖がシアパパの怒気に気圧されたようだ。テンゴウは思わず下を向いてしまっていた。額にダラダラと汗を流しているようである。
「し、して陛下…。アルテイシア様の剣聖降誕の儀は、いつ頃開催されますでしょうか…。」
ユーヤの怒気にあてられた剣聖の言葉は、どこかいつもと違い弱々しい。
「あ、そうか。エレーナやロイエルもそんな儀式を受けてたっけなあ…。そうだな…収穫祭の時にでもやるかな。」
「でしたら妙案が御座います。未来の女王たるシア様の儀式です。ここは盛大に催すべきと思います。」
思い直したテンゴウは、キリっとした表情で語る。やけに肩に力が入っているのは、シアパパの怒気に負けないように懸命になっているから…とは思いたくないところではある。
「ほう…どんな案ですか?」
ユーヤは未だに怒気を帯びたオーラを放ってはいるが、これは戦神に対してどんな嫌がらせをしてやろうかと、脳内でそのシュミレーションを行っていたからに他ならない。
「はい。私を含めた3剣聖と槍聖、そして拳聖でシア様を迎える形で執り行うのです。それによって国家の士気も上がりましょう。また、魔王への牽制ともなりましょう。」
「わかりました。それらを紙に纏めておいてください。後日宰相に渡し、議会に出させましょう。」
「ありがとうございます。ではこれより側近達を集めて、更に煮詰めた上で書類を作成させます。」
そうテンゴウは告げると、一礼をして退席する。ユーヤはそれを腕組みしたままで見送ったのだった。
―さてと…あいつにどう釘を差すか…。
ユーヤの頭の中は、剣聖の儀よりも寧ろそちらでいっぱいのようだった。
機鋼甲冑名鑑は九月二日公開予定です。
期待はしないでください。
大した事は書いてない筈なので。(笑)
※第5章は30話前後になりそうです。
機鋼甲冑を設定に付け加えた為に
終わり方も以前考えていた終わり方を諦め
新たに考えながら描いていますので
ひょっとしたら自動投稿に追いつかれてしまうのではないか?
と怯えている処です。(笑)




