第八拾話 初陣!機鋼甲冑
「シア、セーラ。怖くなったらいつでも言うんだよ。すぐにホエールに戻るから。」
搭乗ブロックの更衣室に於いて、各々安全の為にパイロットスーツに着替えている。男性であるユーヤは着替えと言っても手間がかからない服装を元々していた為、さっさと終えていた。そして女子更衣室前で待ちながら、シアとセーラに声をかけている。
さてこのパイロットスーツであるが、運動性と云うか機能性みたいなものを優先しているようで、上半身の可動域…肘や肩、首と云った部分は動き易い素材が使われていて他の部位よりも薄くなっている。
また、機体のモーション連動用のアームが取り付く手首も薄い素材が使われ、指の動作も連動させる為に薄い手袋となっている。これらの部位には内部に特殊な電極が付いていて、コンピューターに各種情報を伝えている。
「陛下。この兜も被らないとダメなんですか?」
「ウテナ、兜ではなくヘルメットです。先刻のシュミレーターとかなんとかの中でも説明されていたではないですか。」
双子はそんな風にゴチャゴチャ未だにやっている。シアとセーラはサイズがないので、子供用の剣術用防具を着用していた。しかし3歳のシアにはそれさえも大きく、『着用している』と云うよりは『防具が歩いている』と云った風に見える。
「パーパ…父様。まえがみえないのじゃ~~~!!」
「あー…ヘルメットに被られてるねえ。ぷぷぷ。」
「わらうでない~~~~!」
「酷いパパよね。さあシア、母様も支度が出来たし、アナトのとこまで行こうね。」
「あい!らじゃーりょうかい!なのじゃ。」
元気よくシアは、ウテナかサクヤに教わったであろう応答のセリフを母に向ける。マリオンは『よしよし』と頭を撫でながら手を引き、乗降用タラップへと歩いて行った。その後をユーヤとセーラが手を繋いで歩く。
「セーラ、大丈夫かい?嫌なら嫌でママのとこに戻ってもいいんだよ。」
「はい。だいじょうぶです。シア様がいかれるのでしたら、わたくしもいかないと。」
セーラのそんな健気な態度に、ユーヤは嬉しくなり優しい表情で頭を撫でた。セーラも撫でられて嬉しそうに笑顔を向けていた。
乗降用タラップに着くと、ユーヤは非常時用のサブシートを、前後の操縦席に用意する。本来これは、怪我人や遭難者を乗せる為に使う物である。
「お膝の上だと危ないから、これに座ってね。シアはパパの方に座って。セーラはマリっぺのとこのに座ってね。」
子供達を非常用シートに座らせると、任意の場所に着けてロックした。シート自体にフレキシブルアームが付いているので、こういった真似が出来るのだ。
「お嬢様方、シートベルトの着用は出来たかな?」
「パーパ!シアできない~~~!」
「はいはい。ごめんよ。ここをこうして…シュルシュルシュルーと。」
「OKべいべー。」
「よーし。セーラは…大丈夫だね。あとは…ウテナとサクヤ姫、そっちはどうだ?」
そう言いながらユーヤがイザナミのコックピットの映像を見てみると、二人はニコニコしながら膝上に赤子を乗せてピースサインをしていた。
ユーヤとマリオンがその映像を見て固まる。シアは嬉しそうにモニターに手を振っていた。
「わー、イズナとハヤテものってるのじゃー。」
ユーヤとマリオンの口が開いたままで塞がる気配はない。さすがにこれにはカスバドもブリッジで口を開いたままで固まっていた。そしてカスバドはその表情のまま乳母や侍従達を見ると、皆手を床に付けてガックリとしている。
彼女達は双子の姉弟がおねむになりかけていたので、設置しておいたベビーベッドに寝かせたのだが、パイロットスーツを着用したまま現れたツクヨミ姉妹に、赤子を強奪されたとの事である。
「申し訳ありません…。ウテナ様達に…攫われてしまいました…。」
侍従長が半ベソをかいている。侍従や乳母達は半ベソどころか、完全に涙を流していた。その姿にカスバドは「そ、そうか…お勤めいつも大変じゃろう…。食堂でゆっくり休むが良かろう…。」と慰めた。
おカジとネイも呆気にとられて固まっていたが、無言で侍従達に肩を貸して食堂まで一部のクルー達と共に搬送した。
『ふっふっふ。シア様をそっちも乗せているのだ。こちらには降ろせと言えまい。』
サクヤ姫の不敵な笑いがスピーカーから聞こえる。
「いや待て。そういう問題じゃないだろ。そっちはまだ2歳だろ。普通にあぶねーだろ!」
「そうよ!二人共何考えてるのよ!!」
『おやおや、どうやら通信機器の調子が悪いようじゃの。では、イザナミ参るぞ!!』
言うが早いか、イザナミはカタパルトに乗り、いつの間にやっていたのかホエールをハッキングしてカタパルトを作動させた。
『な、なにぃ!?ハッキングじゃと!!』
スピーカーからカスバドの悲鳴にも似た叫び声が聞こえる。ユーヤとマリオンはモニター越しに互いの顔を見合わせる。瞬間、イザナミは勢いよく射出されて行った。
「追うぞ。取り敢えず二人を追う!!カスバド、カタパルトの管制はどうだ?乗っ取られたままか?」
『射出と同時に解除されておる…。行けるはずじゃ…。』
カスバドにいつもの陽気さがない。寧ろ生気がないと言うべきか?
「あいつら初乗りのくせに段取りが良すぎる!イザナミとのシンクロの高さのおかげか!?ええい、カタパルトに乗ったぞ。射出頼む!」
『りょ、了解です。これより射出します。係員の退避ヨシ。発艦よろし。』
瞬間ユーヤ達にGがかかるが、重力制御装置が働きだすと、急に体が軽くなった。この装置は飛行のみならず、この程度の大きさならばコックピット内のG制御も行えるのであった。
「シア、セーラ。鬼ごっこになってるから多少無理をするよ。」
ユーヤはそう言うと、真ん中のフットペダルを思い切り踏み込んだ。重力制御の限界ギリギリの速度で追うつもりである。
「わああ!すごいすごい!おそらとうみがいったりきたりしてるのじゃ!!」
既に軽く音速を越えていた。海面と空とがシアの言うとおりグルグル回っているように見える。精霊レーダーを頼りに二人を追うつもりであったが、どうやらイザナミが二人の能力に呼応してニンジャスキルを発動しているらしく、さっぱり捕えられないでいた。
「マリっぺ。海獣達の動きをレーダー監視してくれ。テストの主旨どおりなら二人は既に海獣達と戦っているかもしれない。」
「あ、なるほどね。二人を捕えられないなら、戦闘をしてそうな動きを探せって事ね。アナト、貴女も手伝って。」
『了解です。疑わしいポイントをいくつか表示します。』
マリオンの目の前にウインドウが出現して、現在位置と怪しいポイントを表示してくれている。
「ユーヤ。一番怪しそうなのは、ここから右30度1キロくらいの辺りよ。」
「了解!」
相手がニンジャである事から、ユーヤ自身はなるべく視界を広く取るべく、ウインドウを出さずに操縦していた。
「見つけた!」
「いくのじゃ!アナトちゃん!」
『了解です。最大速度で急行します。』
その時アナトは『瞬絶』に似た挙動を見せた。ユーヤが瞬きをして目を開けた瞬間、目の前のスクリーンにはイザナミのゴーグルアイが間近に投影されていたのだ。
『ひぃ!兄君いつの間に!?』『へ、陛下!嘘!?もう追いつかれていたのですか!』
どうやらツクヨミ姉妹の方がユーヤ達よりも驚いているようだ。
―良かったー。ぶつかったかと思ったぞ。
ユーヤは自身も驚いている事を、姉妹に悟られまいと必死に強がった顔をモニター越しに見せている。
『どうした。鬼ごっこはもう終わりか?』
そう言いながらも、額には一筋の汗が流れる。心臓はバクバクと音を立てている。
「アナトちゃんさすがじゃのう。父様のスキルをまねするとは、こんどはくのんりゅうじゅうじゅつをみせてやるのじゃ!」
「え、ちょ、待てシア。」
そう、機鋼甲冑は音声入力にも対応している。ユーヤは焦る。その額からは先程の比ではない量の汗が流れ落ちる。
そして刹那にアナトはイザナミの腕を掴むと、一本背負いの体勢に入っていた。後部座席からマリオンの「ひっ!」と云う声が聞こえる。腕で顔を覆っている。セーラは真剣にモニターを見ているようで、声も出さずに凝視しているようだ。
イザナミの機体が空中で見事な弧を描く。そして水面にバッシャーと勢いよく叩きつけられて、初めてツクヨミ姉妹は投げられた事に気が付いた。
「うわわわわわわ!?イズナとハヤテは無事か!!」
『投げておいて無事か?とは…しかも、我々姉妹にはお声かけくださらないのですか?』
どうやら今のメインパイロットはサクヤのようだ。ニンジャマスタースキルの発動が見られない。普通の丁寧語で話されると声まで似ているので、どちらが話しているのか判別が出来ないのだ。
そんな2機めがけてイッカクが角を振りかざして水中から迫った―
が、普通に中座のままイザナミの手がイッカクの角を握って食い止めていた。アナトと睨み合ったままでだ。
『あのなあ。赤ん坊を機鋼甲冑で連れ回して戦闘してる輩に、どんな優しい言葉をかけろって言うんだよ!』
『双子ならほれ。』
会話用ウインドウに映し出されたイズナとハヤテは、それはそれは楽しそうにキャッキャキャッキャと笑っている。ユーヤとマリオンの顔から、眼玉が落ちていくかのような錯覚を覚える。
YMコンビの意識が遠のいたようだ。それを逃さずシアがまたも音声入力を行う。
「アナトちゃん!イッカクにまわしげりじゃ!!」
ズドーンと言う凄まじい衝撃音が木霊する。イッカクの角を握っていたイザナミが、その衝撃に揺さぶられている。
『兄君~~~~!会話の途中でなにを…って…あれ?あれれ?ひょっとしてこれ、シア様ですか?』
『そうじゃよ叔母君。父様たちは、なんぞ目をまわしてしまっておるぞ。』
ウテナとサクヤが顔を見合す。確かにモニターには目を回している二人の姿があった。
『ね、ねえシア様。今どうやって動かしているのですか?』
『アナトちゃんをうごかすなんとかアームは父様にくっついたままだから、アナトちゃんにおねがいをしてうごいてもらってるのじゃ。』
まさかとは思っていたウテナであるが、これを聞いて更に驚いているようである。
「サクヤ姉様…さすがにこの子でも、あそこまで普通に音声入力だけで動けないですよ。」「ええ。恐ろしいほどの親和性と云うべきでしょうね。」
「魔族と戦えばきっとこう言われそうですね。『連合の赤い悪魔』と。」
コックピット内に、静けさが広がる。イズナとハヤテもおしゃぶりを咥えた口が止まっていた。
「…ウテナ。」
「はい?なんでしょうか。」
「貴女…それが言いたかっただけですよね?ひょっとしなくても。」
「あれー?わかっちゃいましたあ?」
イザナミが二人の会話に合わせるように、先程蹴られていたイッカクを角ごと振り回している。現在シアの操縦するアナトが、不思議そうにそれを見守っている。
勿論シアとセーラも、目を点にして眺めていたのだった。
はい。
ダイナ○ックプロぽい如何にもなサブタイつけておいて
中身は漫才です。
メンバーがメンバーです。
真面目に戦ってくれるわけがないでしょ!
わかってくださいよー!(号泣)




