第七拾七話 機鋼甲冑アナト
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魔神の強さが女神と同等である事を知るユーヤは、技以外にそれに対抗する手段をも模索していた。そのうちの一つが飛空艦であったわけだが、飛空艦の魔導砲は大量殲滅兵器としては最良であれど、個と戦うには不向きである。相手がその威力を上回る防御力のシールドや結界を持っているならば防がれてしまう。
個としての力を突き詰めた結果、今の技術で出来る最高の装備を考える。
しかし、装備自体の能力が高くても限界と云うものがある。そこでユーヤは内なる厨二力を発揮する事となる。
―機鋼甲冑
機械によって魔力と防御力、そして攻撃力を補助するシステム。これをカスバドと共に戦神と皇国の2つのダンジョンコアの能力をフル回転する事で開発する事にしたのだった。
『陛下。現状での魔導力炉のダウンサイジングは、これが限界じゃよ。これ以上を求めるならば、相当に馬力が落ちると思われるのう。』
戦神のダンジョンコアからのカスバドの通信データを見るユーヤは、少しガッカリしているようだったが、現状で最高の物を作る為に妥協する事を選んだ。
「わかった。じゃあ、今からフレームデータを送るから、その魔導力炉に合うサイズに変換して地下工場で組み立てて見てくれ。」
『了解。お任せなのじゃ♪』
この時ユーヤには、カスバドがウキウキとした表情をして見えた。この少年の姿をした老人は、本当にこういう新しい物の開発が好きでしょうがないらしい。
「まったく…あーいうのをマッドサイエンティストとか言うんだろうな。ま、いいや。次は外装と武器データの作成っと。」
そうしてデータを作成しながら、ダンジョンコアにそのデバッグをさせている。それらを構築しながらユーヤは、人間の体が如何に物を持ったり使用したりする為に最適化されているかを思い知っていく。
初めは機鋼甲冑の指を三本にしようとしたのだが、これでは重い物を持たせた時に負荷が掛かりすぎて持てない事がわかった。そして色々試した結果は5本だった。
脚部に関しても、どうせ体に纏える大きさでは無くなるのならと、逆関節やら何やらとデータを入れ込んでみたが、汎用性が最も高かったのは、人間とほぼ同じ構造のデータであった。
ただ頭部に関してはサングラスのように見えるアイカメラにした。このサングラス部分は昆虫のような複眼になっており、幾つものカメラを集積して、立体的に映像を見れるようにする為だった。
コックピットは胸部に設置する。そうする事によって、いざと云う時に脱出し易くする為だ。また、基本的に複座とした。魔力は多いに越した事がないと思ったからだった。
そうこうして出来上がったデータを見れば、全長25mくらいの物が出来上がりそうであったが、現状この大きさでは、リンドバウム級のハッチには入らない計算になる。
そこでユーヤは急遽専用艦をダンジョンコアに設計させてみる事にした。それによって誕生したのは全長900m級の大型母艦だった。これにユーヤは『ホエール級』と名付ける。
因みにリンドバウム級で400mほどなので、2倍強の大きさと云う事になる。
これらの出来上がったデータを見て、ユーヤはコアルーム内で一人呟く。
「あー…ツクヨミ姉妹が喜んでしまいそうな物を考えてしまった…。」
ユーヤは機鋼甲冑を強請られるのを確定事項として、二人の為の機体データも作成してカスバドに送り付けた。
「あとは試験運転が終わったらアイリス用、ベルツ用を三機ずつ作ろう。もう目が疲れたぞー!!」
『あはは。陛下、取り敢えず試作機は三日後に完成予定じゃ。それまでは通常公務にでも勤しむがよかろ。』
「だな。お疲れ!後でテラスにでも来てくれよ。ネイのパンケーキ分けてやるからさ。」
『おお!それは行かぬわけにはいきませんな。必ず参りますぞい。』
そうして、その日のティータイムはカスバドも交えてマリオン以下奥方衆と、子供達とネイとで楽しむ事となった。
「陛下!是非それはウテナにも試させてください!!」
ユーヤは内心『ほれきたやっぱり。』と云う具合であった。
「そう言うだろうと思って、ウテナとサクヤ姫の乗る機体も考えてるから安心してくれ。二人に会わせて武器もヒートナイフと、ヒートダガーをメインにするつもりだから。」
「さすがよくわかっておいでです。あとはニンジャらしく攪乱装備もお願いしますね。」
嬉々としてパンケーキを食べながら、カスバドがメモを取ってくれているようである。たまに宙に向かって指を動かしている。
「こいつは魔力量に合わせて動きが変わってくるから、その辺も頭に入れておいてくれよ。メインパイロットが動作を担当して、サブパイロットが魔力の供給と各種管制をする事になるからね。」
「操作は?私はユーヤ達みたいな機械操作は無理よ。」
マリオンの問いに対してユーヤがニヤリとしている。一瞬マリオンが「ひっ。」と言いながら引いていた。
「ふっふっふ…。その辺は抜かりないよ。操縦者のモーションや声に合わせて機体が動くようになっているのさ!」
もの凄くドヤ顔をするユーヤにマリオンは更に引いているようであるが、その横のウテナの目はキラキラしている。
「パーパ。シアもー。」
「んー。シアはもっと大きくなってからだねぇ。それまでいい子にしてたら作ってあげるよ。」
「わーい!」
そんな物を使わなくてもいい世の中にしたいユーヤとしては、その頃には平和利用をされるように願っていた。
それから三日が経ち、空港において試験をする。もしもの時の為にコックピットは剥き出しの状態でのテストである。だだっ広い空港のど真ん中に寝かせられているそれは、まるで小人に捕まったガリバーのようだ。
「魔導エンジン起動。マリっぺ、気持ち悪くなったら言えよ。少しずつだけど魔力を吸われるからな。」
「はいはい、了解。魔力供給いくわよ。」
機体の各ゲージが上昇していく。オレンジ色だったゲージが緑に変わると、各パラメーター画面の中央にある丸いスクリーンに『STAND BY OK』と表示がされた。
「行くぞー!!」
まだテスト段階の為、重力制御装置は取り付けられていない。その為陸上のみの試験運転である。
まずはゆっくりと機体が立ち上がる。肘を付き膝を立て、人のように起き上がる姿勢をとっている。
「姿勢制御に異常はないみたいよ。そのまま行っちゃって。」
「あいよ!さあ機鋼甲冑よ、大地に立て!!」
フィィイイと云うエンジンの音と共に、それは立ち上がった。その灰色の巨人の雄姿にウテナと、この話を聞きつけてアイリスからぶっ飛んできたサクヤが興奮している。シアとセーラも大喜びのようで、二人で手を合わせて跳ねている。
『おおおおお!動く!動いたぞ!!』
『ユーヤ!マイク入ってるってば。うるさいわよ!!』
陛下もかなり興奮していらっしゃるご様子だ。
『よーし!モーションモード、スイッチオン!』
この掛け声をシアとセーラも真似して喜んでいるようだ。勿論ツクヨミ姉妹もであるが。その横でおカジさんとネイが、赤子を抱きながらキョトンとしている。
機鋼甲冑の腰には、模擬戦用に作った軟質ゴム製の剣が挿されている。ユーヤはそれを抜くモーションをしようとするが、上手くいかない。
機鋼甲冑の手が剣の鞘を握ろうとするが空振りしている。
『あー…カスバド。これって武器に合わせて、手元に疑似映像出すとかしないと判り辛いかもしれないな。』
『なるほど。そこはあとで改良するようじゃの。では走ってみたり歩いてみたりといった動作の確認だけお願いできんかの?』
『わかった。そんじゃ軽く歩いてみるぞ。』
ズンズンと音を立て機鋼甲冑が歩みだす。普通の人間が歩くのと大差ない、滑らかなモーションである。そして少しずつ足を速める。
『うーん。コンマ3秒くらいのタイムラグがあるな。駆動系をもう少し改良したいね。』
カスバドはどうやらその場で戦神のダンジョンにアクセスしているらしく、無言で指を宙に這わせている。
『このコンピューターちゃん、いい子ね。ちゃんと判らないところを補助してくれてるわよ。』
『ああ、こいつに宿っているのは光の精霊で、アナトって名前が付いてる。女の子だからよろしくな。』
するとコンピューター…アナトが答える。
『よろしくお願いします。マリオン様。』
『あらー、ちゃんと挨拶できるのね。しかも今の私がどっちか解ってるみたいだし。』
精霊が宿ったコンピューター故に、女神であったマリオンに対しては忠誠のようなものが窺える。恐らく飛空艦に搭載されているコンピューター達も、マリオンが相手となると敬語を使うとみられる。
『よーし、走ってみるぞ。アナト、サポート頼んだぞ。』
『イエス、マスター。』
巨大な人型が空港を走る。空港には試運転中の飛空船が3隻停泊していた。運用テストも佳境に入って、もうすぐ一般公開を待っている状態である。こちらの大きさは200m程で、機鋼甲冑が上に乗る事もできるであろう大きさだ。
『マスター、膝部のモーターの消耗が、想定よりも20%程早く思われます。そろそろお止めになった方がよろしいかと思われます。』
空港内を6周ほどした時の事であった。ユーヤは残念そうな表情で了承する。
『わかった。知らせてくれてありがとう。カスバド、そういう事でテストを終える。データは取れてるな?』
こちらはとても満足そうな表情の少年が、OKサインを出している。良いデータが取れたようだ。
『アナト、ご苦労様。これからもよろしくね。』
マリオンの言葉にアナトは上機嫌のようで、それはそれは優しく着座し、二人を手の平に乗せて降ろしてくれた。
「ねえ。この子の機体色なんとかならないの?女の子なのに灰色とか可哀想よ。」
「じゃあ、改良ついでに塗っておこう。ご希望はやっぱり赤かな?」
「御名答!よくわかってるじゃないの。」
マリオンも上機嫌のようだ。ユーヤは宿った精霊が女性型であった事を感謝した。この二人の相性は良さそうだと。
気付けば夕日が赤く燃えていた。そして灰色の機鋼甲冑『アナト』も、その夕日に照らされて赤く染まっていたのだった。
(書いてたこの時期)スランプに陥ったようなので
思い切ってこの作品の構想になかった
機鋼甲冑なる人型汎用兵器を登場させてしまいました。
いやーそしたらこれが
手が進む進む♪
気分転換の為にも、こういう遊びって大事なのかもしれませんね。
因みに、ホエールの詳細を秘匿していたのは
この機鋼甲冑の為です。
本日中にはLINDBAUM's Encyclopediaの
艦船名鑑のホエールの項目を修正加筆しておきます。




