外伝Ⅳ 女王の初仕事
ユーヤが引退(?)して、アルテイシア・クノン・クィーネが女王として戴冠してから数日の事である。
「イズナ、聞こえておればすぐに来てくれぬか?」
シアは赤いスーツ姿で魔導通信装置…スマホを手に持ち、足早に王宮の廊下を歩きながらイズナを呼び出していた。何やら公務のようである。女王であるにも関わらず短めのスカートを穿いているのは、彼女なりの主張なのであろうか?
『姉様。イズナは今ヴァルキュリア諜報隊の任務で、皇后様や母様達の護衛中なのですよ?無理を言わないでください。』
シアの目つきが暗黒に染まる。
「なにが護衛じゃ。母様達に護衛なぞ必要なかろう!今や魔王でさえ逃げ出す者達ぞ!!貴様もヴァルキュリアならばわしを警護せよ!」
『そうは言っても父上からのお達しなのです。セーラ様がヴァルキュリアの副団長になってお忙しく、姉様がお寂しいのはわかりますが、私も諜報隊隊長なのです。ハヤテのように暇ではありません!』
プツ、プーーーー。
容赦なく通話を切られたシアは、こちらも公務なのに~~!と云わんかのように地団駄を踏む。
王位を継いで数日である為か、まだ彼女の手足となる者がいないようである。
セーラはヴァルキュリア副団長としての仕事を団長になったエレーナから引き継ぎ中であり、エレーナもまた、エテリナからの引き継ぎに忙しい。
ハヤテは休暇中で、トモエとその赤ん坊を連れて、アイリス地方にトモエの里帰り旅行兼子供の顔見せに出ていた。因みにこの子は、立派な『高貴なる耳』の男の子である。
更にもう一人の傍付きたるタケルは、ちょっとした行き違いでユーヤに睨まれて謹慎中である。そのお目付け役のシズカも、それに従いアイリス州に帰っていた。
「まったく。今日は年末恒例の魔族との会合だと云うのに。どいつもこいつも…。」
ブツブツと文句を呟きながら、シアは下級の傍付き数人を連れて城門まで来ると、専用の魔電動カーのリムジンに乗り込み、空港へと急いだ。空港では特別通路を通ってリンドバウム号に乗艦する予定になっている。
リムジンは城門を出ると、西の街門を目指した。暫くは大通りを直進することになる。
街の住民が王族専用リムジンに気付き、皆が手を振っている。シアとしては気軽に窓を開けて手を振り返してやりたいものだが、警備上それは許されてはいない。女王陛下に何かあっては、警護の者達の沽券に関わるからだ。
やがてリムジンは西門に到着する。どうやら王族専用リムジンが通る為に、今は一般の馬車や車両の通行を封鎖しているらしい。門の周辺にはその通過を待つ車両や、封鎖の理由を聞きつけて一目アルテイシア様の御尊顔を!と云う野次馬でごった返しているようだ。
シアは取り敢えず愛想笑いを浮かべながら、リムジンの中から一礼した。すると、うおおお!と云う熱狂したファン…もとい、民衆の声があがった。
『手を上げんで良かった…。一礼でこの騒ぎじゃ。手なんぞ上げておったらどうなっておったか。』
シアはそう安堵していた。
門を通過すると、シアはキリっとした表情に変えた。そして傍付きにオーガ大陸竜人領でのスケジュールを確認する。
「竜人領の港に到着後は、向こうで待ち合わせているテンゴウ様と合流して、このリムジンで竜牙城へ赴きまして、更にそこでカリギュラス閣下と合流し会見に臨みます。その後は何事もなければ宴が執り行われリンドバウム号にて一泊。明朝からお昼の間は竜人族の街を散策して、昼にリンドバウム号にて魔族も交えてパーティーとなっております。」
シアは少しだけこの下級の傍付きに感心した。メモも見ずに彼女は、これらを少ない息継ぎで一気に説明したのだった。セーラ以外にもこのような者がいたのだなと思ったようだ。
それもそのはずである。彼女は傍付きの中でも特にセーラを敬愛し、お姉様…いや師匠と呼ぶ者の一人なのだった。
トライデル郊外は以前は農園と牧場くらいしか目に付く物はなかった。しかし今現在シアの視界に入って来るものは、民間の工場や遊戯場などである。農園や牧場なども残ってはいるが、大概の者はもっと環境の良い、森に近い場所に移動していた。
そんな景色を眺めながら、シアは物思いに耽っていた。この街はどこまで広がって行くのだろうと。
この様相は飛空場のある各街で起きていた。既にどの街も街壁から人が溢れ、収容できる人口を越え始めていた。そうなると自然に外壁内は主に富裕層の住区になり、各貴族の別邸なども建ち並んでいった。
平民は主に外壁の外側へと移り住み、工場で働く者が増えていた。そして繁華街なども空港に近い場所に出来ていたりする。嘗ての外壁内の繁華街は、一部を残して高級なものばかりになっていた。
空港に近づき繁華街を過ぎた先には、コロッセオ…闘技場が見えて来た。そこには冒険者ギルドも併設されており、冒険者の訓練場も兼ねている。
外壁内のギルドは現在は大本部と呼ばれるようになっていて、ラウズ大陸内の各ギルドからの情報集積場所としての機能と、人事を執り行う場所となっていた。
リムジンは専用門の前に到着する。助手席の者が幾つかの書類を提示し、空港スタッフと2、3会話をすると速やかに門は開かれた。リムジンは照明で照らされた通路を直進する。
リムジンを見かけたスタッフは皆笑顔で敬礼をしてくれた。シアもそれを一礼で返す。
リムジンが直進する事3分程で新たなゲートが見えてくる。それは視界に見え始めた時には開錠され、リムジンが目の前に来る頃には開門されていた。そして目の前に広がるのは幾つもの飛空船の並ぶ発着場の姿であった。
搭乗デッキに視線を移すと、各都市へと仕事や観光で向かう旅行者の姿が幾人も見え、こちらに気付いた者は手を振っている。
一般用の飛空船の向こうには、軍用の一際大きな飛空艦が見えて来ていた。リンドバウム号である。最初期の艦でありながら、いまだに現役でありあと10年は運用される筈である。更にその向こうには最新鋭艦が2隻見える。
どうやらトライデル号は巡回任務中のようで見当たらない。
リムジンはリンドバウム号の腹の方へと回る。そこではハッチを解放してリムジンを待つ騎士団が待機していた。騎士団員はリムジンを案内するようなかたちで左右に居並んでいる。皆甲冑に身を包んでおり、何処か荘厳な雰囲気に見える。
リムジンがリンドバウムの腹に納まると、騎士団員達も腹の中へと追随しハッチが閉められた。リムジンの前には数人の騎士とヨーン提督、クーガー、ワダツミ、そして引継ぎで忙しい筈のセーラの姿もあった。
リムジンから降りるとシアは真っ先にセーラの元へと歩んだ。ちょっと口を尖らせながら。
「なんじゃ。来れるなら来れると言ってくれれば良いものを。お主が来れぬと思うて四方八方に誰ぞいないかと連絡しまくったではないか。」
「何を仰いますか。私とクーガー様は幼い頃よりの姫様…いえ、陛下のお付です。同行しないわけがございません。そしてこれが私のヴァルキュリア副団長としての初仕事となります。」
長年の同胞であり、友でもあり、また同じ血こそ流れてはいないが姉のようなものである彼女がそこに居る事で、シアも安心したようだ。先程までのつまらなそうな表情はどこへやら、その顔には笑顔が咲き乱れていた。
「ふふ。なれば互いにこの初仕事、見事に何事もなく終わらせて父上達をあっと言わせてやろうではないか。」
「御意!各隊これより発進作業に移る!ヨーン提督の指示の許、陛下の御前で滞りのないように準備せよ!」
「「「はっ!!」」」
慌ただしく騎士達が走り回る中、シアとヨーンを先頭にセーラとクーガー、そしてワダツミが後を行く。目指す先はリンドバウム号のブリッジである。
『これより本艦は、オーガ大陸竜人族領アーレスに向けて発進します。空港整備クルー並びに関係者以外は直ちに退艦を願います。発進時間はこれより15分後となります。お急ぎください。』
艦内に引退している筈の猫人族のキャシーのアナウンスが響く。シアは一瞬おや?と足を止めるが、それと同時に機関部の各エンジンに火が点いたようで、艦内を軽い微振動が包んだ。そしてエレベーターホールまで行くとイズナが待っていた。
「イズナ!貴様は父上の命で母様達の護衛に出ていた筈じゃろ?何故ここにいる!」
シアがそこに居る筈のない妹に思わず詰め寄ると、妹はニコニコしながら姉の肩を叩く。
「母様達ならブリッジでお待ちですよ。姉様の初仕事を間近で見たいと、内密で乗り込んでいるのです。私はその為の警護だったのですよ。」
悪びれもなくニコニコとのたまう妹に、シアは唖然としながらヨーンを見る。ヨーンは明後日の方向を見ながら恍けている。セーラとクーガーも同様である。
「お、お、お、お主ら!これは学校の授業参観とかではないのだぞ!よくそんな恥ずかしい事を容認してくれたなぁあ!!」
シア様の顔は、その髪とスーツの色と同化していた。恥かしくて頭から湯気が出ているようでもある。それを妹はヘラヘラしながら眺めている。
「因みにネーナやその下の者達も同乗しているのです。なので姉様、お昼は皆で会食ですよ。」
シアの口があんぐりと開いていた。呆れとかそう云うものを超越したその先に行ってしまったようだ。しかしそれでも彼女はツッコんだ。
「なんじゃそれは!?家族旅行か!それともホームパティ―かなにかか!この艦は遊覧船か!!?」
シアの叫びは艦内に空しく響き渡った。そこへ待ちくたびれたのであろう、艦内放送から母の声が鳴り響く。
『シア!いつまで道草してるの!!エンジンに火が点いてクルー達も今か今かと待ってるのよ!さっさとブリッジに来なさい!!!』
「は、はひ!お母様!!!」
慌ててエレベーターに乗り込むシアに皆が続く。皆先程のシアの『はひ!』と言う声が頭に染みついてしまったようで、クスクスと笑っている。シアの顔は更に赤くなっていた。
「イズナよ…、それで父上は何処じゃ。」
赤面したままシアは、嫌な予感がして妹に問う。
「あー父上はオーガ大陸で先に待っているそうですよ。あっちは常夏なので、きっと今頃はビーチで日焼けでもしてるかもですね。」
シアは身内全てに嵌められた事実に打ちのめされ、エレベーターの壁に頭を打ちつけた。金属製のそれは、ひんやりと冷たくて気持ちが良さそうではある。
エレベーターはやがてブリッジのあるフロアに着くとチーンと音を立てる。そこでようやくシアは壁から顔を上げ、ブリッジで今頃繰り広げられている弟や妹達の悪戯を思い浮かべながら、溜息を吐いた。そして決意したような表情でエレベーターを降りる。
廊下を真っ直ぐ行った先にブリッジはある。そこからは色々な意味でお遊戯…修羅場が待っているのだ。歩む足にも力が入る。
さあ、会合の前の一仕事である。
幼い妹弟達は、何処の領主たちよりも手強いのだ。
頑張れアルテイシア女王。
いや、シア姉様。
連続投稿最終日と云う事で
外伝を挿入させて頂きました。
連日100前後のアクセスありがとうございました。
次回は明後日からの2日置きに戻ります。
現在遊び呆けておりますが
リフレッシュが終わりましたら
5章の大詰め部分をしっかり書き終えたいと思います。
(そうなんです。大した高額でもなかったのですがロト6の3等の賞金を何に使おうかとそればっかりが頭にあって、執筆は5章の大詰めに来てるのにさっぱり書き進まないのですwあと1個合ってたら夢の億万長者だったんだけどなー…。)




