第七拾五話 転移トラップ
翼を広げて飛び立ったホーンド・ドラゴンは、執拗にミハイル達誘導班を追い回していた。空を飛ぶ相手だけに、先にロープで上に先行しているメンバーが牽制をして、後衛部隊がドラゴンに先回りをされないように仕掛けていた。
「くっそーーー!頂上まであとどんぐらいあるんだよお!!」
普段はタンク役をやっている大柄なメンバーは、全力疾走をしながら喘いでいる。
「無駄に筋肉付けてるから体が重いのよ!もっと全力出しなさい!」
スカウトであろうか?それともニンジャであろうか?身軽な女性メンバーが上の方から喝を入れていた。
そうして、ようやく頂上が見え始めると、頂上から魔銃による援護が始まった。ドラゴンが走っているメンバーを襲おうとすると、頭上から弾丸がいくつも飛んでくる。それに苛立ったのか、ドラゴンはその援護部隊に狙いを変えようとしているようだった。
おもむろに頭を上げたドラゴンは、一気に上昇を始める。やはり『ほどほど』などと云う記述は嘘っぱちだと、その場に居た者全てが思うほどの華麗な飛行であった。
ドラゴンが飛行状態からそのまま突進をしようとしているように見えたユーヤは、ドラゴンと援護隊の間に割って入って、その鼻っ柱を聖神剣で引っ叩いた。
『アギイイィイイ』
ドラゴンはそのまま2層フロアを転げている。まだ若いドラゴンだけに、引っ叩かれた際の声が情けなく聞こえる。
「よーし、ミハイル達が登って来るまでは適当な攻撃で挑発し続けろよー。」
「「「了解です。」」」
そう返事をするや否や、一人が閃光弾を発射して目くらましを喰らわすと、一人は散発的に通常弾で攻撃する。
『ギギャアアア!』
「うわあ、こいつ若いだけに本当にキレ易いな。」
ドラゴンはまたも闇雲にブレスを放っている。ユーヤは少し呆れているようだった。しかしそれ故に安堵もした。これなら策に乗ってくれそうだと。
そうこうしている内に、ミハイル達がやっとたどり着いたようだった。一人タンクがまだ崖道を走っているようだが。
「いいか!目標はあの岩だ!あれが罠の起動スイッチになっている。あそこに誘導しろ!」
「「「うおおおおぉお!!!」」」
ユーヤはダンジョンコアとのコンタクトを開始する。仮の管理者権限を、戦神のダンジョンコアのカスバドが奪取してくれてあるので、それを使っているのだ。
『魔力供給システム異常なし。転移トラップに次元波動及び魔力を供給します。』
帝国のダンジョンコアがユーヤのアクセスに応えている。そして、彼等の頭上にある罠が光りを帯びていく。
『準備完了。スタンバイモードとなります。』
これらの確認を済ませたユーヤも、ようやく戦闘に加わる。ミハイルが的確な指示を飛ばしていたようで、今のところ負傷者はいないようだ。
「アラド!近寄り過ぎだ!尻尾の一撃が来るぞ!」「あいよ!さんきゅー大将!」「レイ!巻き菱!!」「マスター!わかりました!!」
「こっちの用意は完了した!ミハイルいつでもいいぞ!!」
ユーヤはそう叫びながら、ドラゴンの脚に一撃蹴りを入れている。
「了解!全員一旦起動スイッチ側に退避!スイッチを触るなよ!!」
「「「らじゃー!」」」
散り散りになっていたメンバーが、わざわざドラゴンの前に踊り出して行き、一斉にトラップの起動スイッチである岩を目指した。それをドラゴンは追い掛けようと、翼を羽ばたかせて、飛行状態になった。そこへ魔銃の爆裂弾が炸裂する。泡を食ったドラゴンは地べたに這いつくばってしまった。
「いいぞ。トラップから逃げるタイミングがこれで充分取れる。よくやってくれた!」
そうして魔銃隊以外の全員が岩の前に集まった。それを見たドラゴンはブレスの態勢をとろうとするが、またも魔銃隊にキャンセルさせられてしまっていた。
これらはドラゴンの選択肢を『突撃』に絞らせる為に執拗に行われた。
「なかなかやってくれませんね。」
「仕方ない。俺がまた、引っ叩いてくるかな。」
ミハイルと軽く言葉をかわしたユーヤは、瞬絶でドラゴンの懐へ飛び込み、脚に回し蹴りを入れて距離をとる。するとドラゴンはそんなユーヤに噛みつこうとしたのだろう、まんまと思惑どおり頭を下げてユーヤに飛び掛かったのだった。
「お前は本当に素直な奴だな。」
そうユーヤはドラゴンに微笑むと、聖神剣の腹で思いきりその顔を引っ叩いたのだった。
『アギャアアア』
「うんうん。痛いよな。いい子だからこっちにおいで。」
肩越しにドラゴンの鳴き声を聞きながらユーヤは一人頷く。そして、ドラゴンが追いつけるか追いつけないかくらいの速度でジグザグに岩に向かって走った。
ミハイル達はユーヤがドラゴンを引き連れて走る姿を、引き攣りながら見ていた。どうやらユーヤの合図を待っているようだ。そんな様子に気付いたユーヤは、二ヤリとミハイル達に笑って見せる。
「「「不味い!!あの顔は戦神の顔だ!!!」」」
そうミハイル達は叫ぶと一目散に散り散りになった。ユーヤはチェと軽く舌打ちをしながら、岩を跳躍して一気に飛び越える。遮二無二になっているドラゴンは、構わずに岩に激突して来た。
ズドーンと激しく岩にホーンド・ドラゴンが衝突するや、罠が起動をはじめ、天井に吊り下がっている魔力紐から光のシャワーのようなものが降り注いでいく。ドラゴンはそれを見上げながら首を傾げているようだ。
「さあ、本当のおうちに帰るんだ。また今度暇な時に遊んでやるから。」
ユーヤのその言葉が切っ掛けにでもなったかのように、光のシャワーは更に激しさを増していき、やがてそこにあった岩と共に、ホーンド・ドラゴンは消滅したのであった。
レギオンメンバーとユーヤは、それを見届けると大の字に寝転がった。
「今回はみんな本当によく走ったなあ。」
「まったくだ、その気もないのに3キロは体重が減ったと思うぞ。」
「もう、あたしもクタクタだよ~。」
「そう言わないでくれよ。なんか申し訳なく思えてくる。」
「はあ!?陛下、申し訳ないと思ってなかったのですか?!」
「え?だって今回はミハイルから行こうと連れ出したんじゃないか。何でそう思わなきゃならないんだ?」
「あ…。」
ミハイルが凍結している。
『そうだ…そうだった!半ば強引に陛下を連れ出したのは俺じゃんか!!』
レギオンメンバーがミハイルに同情の視線を送る。
「うわー、これ大将嵌められたね。」
「そうするとこれって…恩賞出ないってことか…。」
「な!?マジか!」
そんなレギオンメンバー達をニヤニヤしながらユーヤは眺め、そして告げた。
「安心しろよ。規定額よりは金額が落ちるかも知れないが、俺が議会に言っておくから。」
これを聞いたミハイルを含めた、レギオンメンバーが一斉に立ち上がった。
「さすが我らが勇者王!!」
「よ!この太っ腹!お大臣…いや大王様!!」
「わーい!これで気になっていたポーチが買えますよー!」
そんな喜びの声があがる中、ユーヤはボソっと呟いた。
「トライデル号の経費でどれくらい残るのかまでは、自分達で計算しろよ。」
褐色肌のミハイルが蒼白になる。飛空艦の運用は、普段の巡回任務時は国が負担してくれているが、今回ミハイルは『休暇』扱いでトライデル号を動かしていたのだ。
「大将…飛空艦の一日の運用コストってどれくらいなんですか?」
不安になったメンバーの一人がミハイルに尋ねる。ミハイルは蒼白になったまま小声で答える。
「確か…500万G~800万Gくらいだったかな…。」
その瞬間、レギオンメンバーの頭の上にエクステンションマークが閃き、そして絶望した。
国から貰える恩賞が満額で1000万だとしても、経費が800万として残るお金は200万くらい。でも人数が30人近いのでもらえる金額は…。しかも今回は満額ではない可能性が高いのだ。女性メンバーは涙さえ浮かべている。
「おいおい。頭を使えよ。国からの恩賞は雀の涙でも、国からドラゴンの排除証明をもらって冒険者ギルドに持って行けばいいじゃないか。確かあの依頼ってば生死問わなかった筈だから4000万もらえる筈だぞ。」
ちょっと可哀想に思ったユーヤが助言をしてやると、ようやくメンバーたちの顔に笑顔が戻った。
「それより早く戻らなくていいのか?停泊日数が延びれば延びる程懐が痛くなるんだろ?」
少しの沈黙のあとに、女性メンバーが叫ぶ。
「ああ!そうですよぉマスター!急ぎましょう!!」
皆が走り出してからユーヤはゆっくりと立ち上がった。そして大きく伸びをしてから歩き出す。
「おーい。お前さん達、金蔓置いて行っていいのかー?」
「なら、陛下も走ってください!時は金成りと云うでしょがああ!!」
ミハイルの慌てた声が聞こえる。ユーヤはちょっとやり過ぎたかな?と思いながら頭を掻いた。
実は今回の一件は、ミハイルがテラスから出て行った後にちゃんと宰相に話を通してあるのだ。つまり、国からの恩賞も満額出るうえに、トライデル号の補給費なども任務扱いとしてタダなのだ。
「仕方ないなあ。後でちゃんと食堂で説明してやるか…。」
そう言うとユーヤも走り始める。ミハイル達を呼び止めようと大きく手を振りながら…。
ドラゴンを仲間にするルートも考えていたのですが…
止めておきました。
扱いきれん!と思いましてw
シア様の時代ならいけるかなあ…。(ぉいおい
※執筆100話を越えました。
記念として100話の後に
『凛道学園物語~転校生ウテナ~』
なるものを執筆しました。
100話までお楽しみにしててください。
ノリ的には第壱話なので、ウテナよりも
佑哉(在学生)の視点になっちゃったんで本編と変わらないかも…。
アナザーワールドと云うだけの代物かな…。




