第七拾四話 ダンジョンの渓谷
凶暴なモンスター達を掻い潜り、2層を目指すユーヤ達は1層のとある部屋まで辿り着いていた。そこはかつてはフロアボスの部屋であった場所だ。
しかし、既に機能不全を起こしている今では、逆に安全地帯となっていた。
「ここに昔いたボスはどんな奴だったんだろうな?」
ユーヤの問いにミハイルが答える。
「ここに居たのは文献によれば大型のスライムだったようですよ。その文献を書いたのは、女神マリオン様みたいですが…奥方様は何も教えてくれなかったのですか?」
「ん?ああ。何か昔ここであったんだろうな。ここのダンジョンの話しになると、昨日見たような調子なんだ。まあ、戦神絡みなんだろうけどな。」
ミハイルは、意外にすっきりとした笑顔を見せるユーヤを、驚いて見ていた。奥方のもう一つの顔である女神様と、戦神様の恋の話しはテラスに通う内にミハイルも聞き及んでいた。
恋敵と妻がここで何を?などともし考えたら自分なら発狂しかねない、などとミハイルは思っていた。
『なんだろう?これが連れ添って来た夫婦と云うものなのか?』
ミハイルは漠然とそんな事を、ユーヤを見ながら考えていた。そしてエウロパの顔を思い浮かべていた。彼女ともしもこの先連れ添って行く事となったら、自分もこういう風になれるのだろうか?そんなことまでも考えているようだった。
「どうしたんだ?ミハイル。」
ふと気付けば、ミハイルの顔をいつの間にかユーヤが覗き込んでいた。ミハイルはあたふたと慌てて答える。
「へ、陛下。皆も休まったようですし、そろそろ2層に降りましょう。」
ユーヤは「わかった。」と言いながらも、変な奴だなぁと言いたげなそんな視線を送っていたのだった。
2層渓谷エリアでも、一番天井が高そうな場所まで来ると、ユーヤと数人のレギオンメンバーがその場に残った。罠の設置の為である。ミハイル達はホーンド・ドラゴンを探しながら奥へと向かうのだった。
ミハイル達を見送ったユーヤは、少しの間無防備になるから頼むと残ったメンバーに告げて、耳にイヤホンマイクを装着した。
「あーあー。カスバド、どうだ?聞こえるか?」
『ほいほい。聞こえておりますぞい。』
それは魔法が苦手なユーヤが通信魔法を使うための機器のようだった。
「取り敢えず今設置ポイントまで来たとこだ。今からメンバーと壁を登ってハンガーを取り付けたい。必要分転送してくれ。」
『了解。』
戦神のダンジョンのコアルームで、カスバドがキーボードを叩いているらしいカチャカチャと云う音がユーヤの耳元に聞こえてくる。暫くすると光の瞬きと共にペグのような物と、魔力を籠めて編まれた紐がユーヤ達の目の前に出現した。
レギオンメンバーは声をあげて驚く。ユーヤはそんな周りの反応を気にもせず、それらを拾いメンバーに2つずつペグを渡した。
「俺が指示を出すから、言われた位置にこの器具を打ちこんでくれ。で、誰か一人はこの紐を上まで引っ張っていってもらって、器具を取り付けたら紐を通して戻ってきてくれ。」
「「「了解しました。」」」
そこからはユーヤは皆が壁面を登って行く姿を眺める格好となった。そしてそれぞれに「もうちょっと右に頼む。」とか「左に寄ってくれ。」とか指示を出していた。
そして全ての器具に紐を通し終わると、再びカスバドとの通信を行っていた。
その頃ミハイル達は、2層の探索を終えて3層へと降りる事となって、渓谷の崖に作られている道を下っていた。かつてはフロアボスの部屋に3層への階段があったはずだが、今はその部屋自体が土砂崩れで埋まっているため、そのような危険な道を通らなくてはならないようだ。
渓谷の奥底からドラゴンの鳴き声らしき声が聞こえる。どこかそれは物悲しく聞こえる。その声を聞きながら、ミハイルは20名ほどの仲間達の安全を確認しつつ道を下って行くと、眼下にようやく渓谷の底らしきものが見え始めていた。
ドラゴンは、初めてその生息が確認された時は、まだ5メートルほどであったと云う。しかし、最近の目撃情報では20メートルを越えているらしい。この大きさになるとブレスも使える事であろう。渓谷の底を見ながら、メンバーは唾をゴクリと飲み込んでいた。
慎重に息を殺しながら、30分ほどを掛けて渓谷の底に辿り着くと、ミハイルは一旦休憩をとることにした。緊張状態からか、メンバーは誰一人口を開こうとはしなかった。今も聞こえるドラゴンの咆哮に怯えているのだろうか?
そんな中ミハイルは立ち上がって皆に説明を始める。
「いいか、我々の目的は殲滅じゃない。あくまで誘導だ。奴と出会ったら逃げればいいんだ。」
怯える者を鼓舞する為であろう。普段よりも身振り手振りが大袈裟になっている。
「相手はダンジョンのモンスター共を喰らって急成長しているみたいだが、相手にする必要なんてない。見つけたら一撃入れて逃げろ。そして今来た道を駆け上がればいいんだ。俺たちの任務はたったそれだけだ。なあ、簡単な事だろ?」
「そうですな。確かに簡単だ。」「ああ、こんなに楽な仕事に報酬だすなんて、陛下もどうかしてるぜ。へ、へへへへ。」「そうさ、俺達はレギオン『鋼の魂』なんだぜ。」「ええ、これくらい楽勝よ!」
レギオンメンバーの瞳に闘志の火が灯ったようだ。ミハイルは安堵して溜息を吐くのであった。
そこから班分けはせずに、探索を始めた。現状、相手がどれ程の大きさになっているのかも判らないため、少人数では危険と判断した為である。そして、咆哮のする渓谷の奥へと一行は歩を進めるのであった。
2層では、ユーヤがメンバーに特殊な弾丸を渡していた。ここに残っているメンバーは全員魔銃の扱いを熟知、若しくは理解している者達である。
「この黄色の弾丸が発光弾。撃つと30メートルくらい先で発光する。こいつでドラゴンを怒らせるなり挑発に使う。赤いのが炸裂弾。こいつは対象に接触すると爆発する。ドラゴンには通用しないだろうが、これも挑発なり驚かすなりには丁度いいはず。」
「この青い弾はなんでしょうか?」
「そいつは鎮静剤がたっぷり入っている。もしも作戦が失敗した時には、こいつで大人しくさせて渓谷にでも突き飛ばして逃げるから、そのつもりでいてくれ。」
こちらの準備はどうやら整っているようであった。あとは作戦遂行あるのみと云ったところである。
「目標発見。速やかに周囲を囲め。」
既にホーンド・ドラゴンは40メートル位に成長していて、メリメリと音を立てながらワータイガーか、ワーウルフを貪り食っていた。人型に近いそれを食べている姿に、メンバーは嫌悪を覚えていた。
息を潜めて身軽な者達が奥側へと移動し、動きの鈍い者と指揮を執るミハイルは手前の岩陰に潜んだ。ミハイルは全員が配置に着くのを待つ。
最後の一人が手を振っている。配置に着いた合図だ。
「行くぞーーー!一発ぶちかませぇえええ!!!」
ミハイルの雄叫びにも似た合図に、一斉にメンバーが動き出す。
奥に潜んだ後方から攻撃するメンバーは、火薬玉や、強烈な匂いのする匂い玉を投げつける。そしてそのまま走り込んで、苦無やら小剣やらで斬りこみ、崖道へと走って行った。
ミハイル達もすぐその後から、大剣や弓で攻撃を加えると、ドラゴンが怒り狂い追ってくるのを確認しつつ崖道へと走った。
ドラゴンは怒りで我を忘れたのであろう、ブレスを闇雲に放っている。勿論、熟練冒険者である彼等にそれが当たるわけもない。ひたすらメンバーは後ろを確認しながら走っていた。
「うひょおおぉお!追いつかれんなよ!」「お前こそあんなデカブツに食われるんじゃねえぞ!」「ひゃあ!ブレスがそこまで来たよ!」「走れ走れ走れーーー!!」
お互いを勇気づける意味と、ドラゴンへの挑発の意味とがあるのだろう。来る時とは逆にメンバーはある者は怒号をあげ、ある者は燥ぎ笑っていた。
それを追い掛けるドラゴンの額には青筋が見えるようである。なにせ食事の邪魔をされたうえに、大した傷にこそなっていないが攻撃されたのだ。年若いドラゴンが怒らないわけがないだろう。
今のところドラゴンは飛ぶ様子を見せずに、二本足で立ち上がり肉食恐竜よろしくなスタイルで追って来ていた。
「よーーし、あと30メートルばかりで崖道だ!しっかり付いて来てくれよ!!」
崖道には来る際に所々にロープを垂らしておいてあった。身軽な者はそれを伝ってグイグイ登り、それ以外はひたすら崖道を走って行った。
ドラゴンには狭い道である。ドラゴンは咆哮をあげると、その背中の筋肉を目いっぱい使い翼を広げた。
バッサバッサと羽ばたく音が周囲に響くと、その巨体がブワっと浮き上がった。ドラゴンの瞳は走るメンバーを見据え「絶対に殺してやる。」と云うような殺気を漲らせているようであった。
あれれ?
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