第七拾参話 ホーンド・ドラゴン
『ホーンド・ドラゴン退治報酬4000万G』
そんなクエストが最近、元帝国領ダイタンの冒険者ギルドには貼られている。発注したのは冒険者ギルドである。
なんでも、ダイタン南にあるダンジョン内に、何者かがホーンド・ドラゴンの幼生体を放して育てていたらしく、それが今では立派な成体となり2~3層の断崖付近に居着いてしまい冒険者達の行く手を阻んでいるそうだ。
ホーンド・ドラゴンは元々はベルツマウントに生息する上級種のドラゴンであり、ダンジョンになど居るわけのない希少種である。名前のとおり頭部にはバッファローのような立派な角を持っている。飛行能力はほどほどと云う事だが、この種の生き物に対してのほどほどと云う表記ほど怪しいものはないだろう。
今のところ食われた者はいないらしいが、怪我人は多数出ているらしい。
因みにこちらのダンジョンも古い歴史を持ち、皇国のダンジョンがそうであったように、既に機能は崩壊して、人工と自然のダンジョンが融合したような場所となっている。作られた罠などは機能していないが、自然の罠が待っていたりするのだ。
ウネウネと動き回る虫たちは、ダンジョンで嘗て生成された虫系モンスターと生殖を繰り返し進化したハイブリッドであるし、鳥類もまたそう云ったハイブリッド種である。住み着いた野犬もモンスターに対抗して進化、或いは特化していったようで、初心者がソロで出遭おうものならば確実にその群れの餌食となり命はない。
また植物もダンジョン内のマナ植物が独自の進化をして、非常に凶暴で捕食活動をするものが激増していた。
このような事から、恐らくラウズ大陸で『最も厄介なダンジョン』であろうと謂われている。そう、中級者以上しか入る事が許されない魔境であるのだ。
そんなダンジョンからユーヤの元に…いや、国に対して招待状が届いた。
いくら懸賞金を上げても、ホーンド・ドラゴンと聞いて冒険者達が尻込みしてしまい、退治どころか日に日にダイタンの街から冒険者達が減って行っているらしいのだ。このままではせっかく復興が進んで行ってもダイタンの街が干上がってしまうと懸念し、冒険者ギルドはひょっとしたら勇者王様ならば助けて頂けるのではないかと要請してきたのだった。
「ドラゴンか…しかも希少種か…。見てみたいな…。」
そんなユーヤの言葉を聞いていたジードは、この事をミハイルに話していた。
「お妃様方は、またこの復興の最中に遊びに行く気か!と怒ってらっしゃったよ。」
「いやそれ、遊びレベルじゃないって兄さん!」
「そうなのですか?」
「そうだよ!てかその話し、話し合い中でまだこれからだよね?」
「ミハイル様。まさかそのような危険な場所へ行かれるおつもりなのですか?」
二人にお茶を持って来たエウロパが何かを感じ取ったようで、ミハイルを憂いた瞳で見つめる。
「あ…いや、エウロパ殿。これは一つの街の生き死にに関わるのです。我がレギオンとしては動くべき案件なのです。ご理解ください。」
「ミハイル様…。」「エウロパ殿…。」
この二人の表情は既に恋人同士のそれである。エテリナはエウロパが持って来たお茶を飲みながら、うんうんと一人頷いているようだ。それを横目で見ていたジードの額には、一滴の汗が流れていたのだった。
翌日、ミハイルは鼻息荒くリンドバウム号の午前中の定期巡回を済ませると、いつものユーヤ達のいるテラスへと向かうのであった。
「いいねいいね。街の危機を憂う正義のレギオン!もっと言ってやってくれたまえミハイル君。」
ミハイルは思わぬ敵と遭遇している。それはリンドバウムの三正室と云う、ドラゴンよりも恐ろしい敵である。
「ミハイル!あんたユーヤの肩を持とうって言うわけね!?」
「ミハイルさん。まさか、貴方までもドラゴンにご興味があるのですか?エウロパさんは了承しているのですか?」
「ああ、ガンプの三剣ともあろうお方が陛下と一緒になってドラゴン退治だなどと…今は復興が最優先の時でございましょう?」
女三人寄れば、どんな勇者も怯む者でありましょう。ミハイルも一進一退の攻防を繰り広げていたのでした。
「しかし奥方様方!復興が成ったとしても、建物が出来上がればそれでよろしいのか?仕事が、そして産業なくしては街は滅びます!」
ミハイルの決死の表情に奥方衆が少し表情を変える。
「こっちは本気みたいよ。」「ええ、マリ姉様。天然素材の正義の味方のようですね。」「で御座いますね。でもウテナ様のその表現はどうかと思いますが?」「え、こう言った方が可愛くないですか?」「ま、まあ、可愛いとは思います…。」
「あの…逆にお三方の方は真面目に話す気はないのでしょうか?」
ミハイルは、手を額に当てながら奥方衆を眺めている。そんなミハイルにユーヤは告げる。
「ミハイル。敵のペースに巻き込まれたら負けるぞ。冷静になれ。」
ミハイルはそんなユーヤも含めた王家家族を見て思った。
『うん。この人達とまともに遣り合おうとした俺がきっとバカなんだ。そうだ。そうに違いない。』
奥方衆が未だにコントのような会話を繰り返しているようだが、ミハイルはユーヤの方を振り返って「陛下。これって別に黙って行っちゃっても良くないですか?なんでこんな面倒踏んでるんですか?」と告げると、精霊通信でレギオンメンバーに召集をかけた。
「あーミハイルだ。これから準備を始めてくれ。明日の朝一にはトライデル号でダイタン近郊へ赴き、ドラゴン退治に行く。全員装備を今晩中に揃えておけ。以上だ。」
「ちょ、ミハイル!あんたまだ話しが終わってないでしょが!」
「ダイタンの存亡は一刻を争いますので。」
「ミハイルさん、エウロパに言いつけますよ。」
「ご自由に。」
「王の奥方衆をなんと心得るか!」
「陛下のお妃様たちだと思ってます。」
ユーヤは驚愕の眼差しでミハイルを見ていた。なんと勇気ある男だ!と。そしてその姿は、黒い三○星のジェットストリームなんたらを躱す白い奴のようだと。
そんなユーヤを尻目にミハイルは軽く敬礼をして、ユーヤに「では、早朝トライデル号でお待ちしています。大陸巡回の任に関しては、陛下共々休暇と云う事でよろしくお願いします。」と告げてサッサと退席して行ってしまったのであった。
そんな後姿を見送ったウテナが漏らす。
「なにか、勇者より勇者してますね。」
三人はそれに対して。無言で頷くのであった。
そんな大人たちの姿を見ていたシアが小首を傾げている。セーラは大人たちの喧嘩のような鬩ぎ合いに圧倒されてしまったようで、少し震えているようにも見えた。しかし、エテリナ先生が来たら、今の遣り取りについて質問してみようと思っているようだ。
きっとエテリナはその時、物凄く困った顔をするだろう。そして少女を諭すのだ。「陛下やマリオネート様達のそーいう所は、決して見習わなくていいのですよ。わかったわね。」と。
早朝からトライデル飛空場はレギオンメンバーで賑わっていた。係員達は陛下から聞いていたので、混乱する事もなくゲートを開けて迎え入れてくれた。そしてミハイルを先頭に搭乗ゲートを潜ると、既にトライデル号のデッキにはユーヤが待っていた。
「お早いですね。」
「お前らが遅いんだ。少し冷えたぞ。早く食堂の鍵を開けてくれよ。」
「はいはい。仰せのままに。」
二人は軽く拳を合わせて、笑顔で食堂へと向かったのであった。
食堂では簡単なミーティングをしながら、皆が食事を摂っている。ユーヤはコーヒーを片手にホワイトボードの前に立ってダイタンのダンジョンの説明をしているようである。
「そういうわけで、まあ今更冒険者であるレギオンに説明したのは、今回俺はドラゴンを退治する気はなくて保護をしたいからだ。」
食堂がザワザワとレギオンの皆の声で波打つ。ミハイルも驚いているようだ。
「その為、まずはドラゴンを2層のこの位置…ミハイル、それぞれのテーブルにウインドウを出してくれ。」
「あ、すいません。今出します。」
そう言うとミハイルは壁にある青いボタンを全て押した。すると各テーブルに大きなウインドウがヴォンと云う音と共に現れた。この大食堂は、大会議室も兼ねているのだ。
「全員ウインドウは出てるな?それでだ、皆が誘導している間に俺がこの場所に大きな穴を作っておくから、そこへドラゴンをぶち込んでくれ。予め別のダンジョンコアからここのコアにアクセスしてあるから安心しろ。これは本来、対冒険者用の罠である転移ホールをデカくした物だ。」
「おお、さすが勇者王様だ。」
「ちなみにこいつの転移先は、ベルツマウントのホーンド・ドラゴン生息域になってる。」
「つまり親元へ帰してやろうってことですね!」
ユーヤはレギオンメンバーに笑顔で頷く。
「そうだ。こいつも言ってみれば被害者なんだ。こいつが目撃されだしたのは丁度15年くらい前だと云う。つまり憶測ではあるが、こいつはプテラスの置き土産のような存在であると思われる。」
更に食堂はざわついた。このドラゴンは動乱の後の為に魔族がベルツマウントから攫って来ていたと云う事実は、正に今戦後を戦っている彼等への挑戦であるのだった。
この帝国のダンジョンの物語は
3話構成くらいになりそうです。
関係ないですが、ロト6で3等当選しました。
明日から有給とってのんびりします。




