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リンドバウム王国記~転生王ユーヤ~  作者: 三ツ蔵 祥
第1章 ―転生・ガロウ獣王国編―
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第七話 レザリアでの出会い

書き進めれば書き進むほどに、自身の拙さが嫌と言うほど身に染みてきています。

 ユーヤとヒューズの部隊は、獣王国第二の都市レザリアの手前数キロの位置に辿り着いていた。

 斥候の報せでは、レザリアは完全に魔王軍に包囲された状態であるらしい。ユーヤとヒューズは、どう攻めるべきか悩んでいた。


 今のところ方法は二つ。


 一、一点突破で強襲し、獣王と合流後に離脱し、マリオンの部隊の合流を待って再度攻撃をする。


 二、初めから部隊を分けて各個撃破した後に獣王と合流する。


「どちらも、リスクが高いような気がしますな。若。」


「そうですよね。何かひっくり返せるような事態でも起きてくれれば…。」


 ユーヤと、ヒューズは腕組みをしながら瞑目する。「ひっくり返るような何か…。ひっくり返るような…。」ブツブツとユーヤが繰り返し呟いているのを聞いていたヒューズが、何かに気付いたようで口を開いた。


「若、二番目の案で行きましょう。」


「え、しかしこの案を採用したとして、兵達への負担が大きくありませんか?」


 ヒューズは真剣な眼差しでユーヤを見つめながら補足し始めた。


「確かに負担が大きいので、まずは南北の門のみを狙います。そこで、無理はせずに取っては返すを繰り返し、獣王様に我々の存在を気付いていただくのです。」


 ヒューズ曰く、獣王様が気付いてくれれば、武人と名の知れた方なので機を見て討って出てくれる筈との事。もしも出てこられない場合はそのまま防衛線を張り、マリオネート様の到着を待って進軍しましょうとの事だった。


「その策自体、賭け要素が高いけれど可能性はあるか。」


 策は決まった。後は、赴くのみ。





 北門側をヒューズが攻め、南門側をユーヤが攻める。

 攻め過ぎず、損害の出る前に引く両部隊。魔族軍の層は予想外に厚かった。


 ―ちぃっ!どちらにせよこの方法しかなかったって事かよ!


 愚痴る代わりにユーヤは、唾を吐き捨てた。






「なに?北門と、南門で鬨の声が上がっているだと?」


 クーガー王は、豹人族と虎人族のハーフである。虎人族らしい大きな体躯と、豹人族の素早さを併せ持っている。齢六十代。しかしその肉体の筋肉に衰えはない。全身の白い体毛が、王の威厳を増して見せている。


 王都を脱出しレザリアに籠城して三日が経っていた。王都の戦で共に戦っていたベルツ帝国の士官数人も共に逃げ延びていたが、大半は王都で戦死している。

 隣りの愛理須皇国は、ガロウ獣王国と同じように海を挟んで魔王の住むオーガ大陸と接している為、動くに動けないでいる。


「聖王国の応援がようやく来てくれたか!」


「いえ、確かに僧兵はいるのですが旗印が…。」


 物見の兵は、言葉を濁した。


 既にリンドバウム王国は、アレクソラス王以外の王族が絶え数ヶ月前の地揺れでは重臣の大半を失っている。そんな国に派兵する余力なぞないはずなのだ。

 だが、街門の向こうに見える旗印は見紛う事無きリンドバウム王朝を示すもので間違いない。


「…南門がリンドバウム王国のアレクソラス王と、北門がその配下の方と思われます。」


 クーガー王は目を見開いた。







「陛下!騎士団、僧兵団共に一割程の損害が出ています!」


「わかっている!だが、そう易々と引けるか!街門の方に動きはないのか!?」


 戦闘中の為、士官とユーヤのやり取りは怒鳴り合いのように激しくなっていた。既にレザリアでの攻防は、二日目の夕刻に差し掛かっていた。


「いえ、まだ…あ。」


 士官の声と同じくして、街門は開かれた。そこには供回りを引き連れ、颯爽と騎馬に跨り大刀を振るう獣王の姿があった。大刀の一振りで、魔獣も魔族も面白いように吹き飛んで行く。


「よし、ヒューズに連絡しろ!クーガー王は南門だと!」


 クーガー王とユーヤ率いるリンドバウム王国軍に挟まれた魔軍は、散り散りに逃げ惑う。しかし、深追いはせずに両軍は合流を目指した。


「クーガー王!レザリアには如何ほどの者達が残っておいでですか!」


「残っているのはほとんどが怪我人だ!五百おるかどうかと謂ったところだ!」


 そう叫ぶクーガー王の供回りの数も、五百騎いるかどうかと謂った状態だった。一旦レザリアから離れ、ヒューズの合流を待つ事とした。


 リンドバウム王国軍は、ガロウ獣王国軍の損耗が想像以上であった為、戦略の見直しを迫られた。ヒューズだけではなく、マリオンの合流も待たねばならないだろう。しかも、東征をしているジード達も一旦引き上げさせねばならない。





「若、獣王閣下の前でなんですが、これは撤退すべきですな。」


 ヒューズはクーガー王をチラと横目で見ながら気まずそうに進言した。それに対し、クーガー王は目を閉じたまま首を横に振った。「気にするな」と謂う事らしい。


「しかし、このまま黙って引き下がるつもりはありませんがね。」


 ヒューズは、そう言うと地図を広げた。


「閣下、だいたいで宜しいのですが、未だに残存し抵抗している獣王軍がいる場所を教えて頂きたい。」


 ヒューズのこの一言は、リンドバウム王国軍は反攻作戦から、救出作戦への変更を決めたと謂う事を意味していた。ユーヤには事前に相談済みである。


「既に西側はうちの姫様が奪還していますので、あとはレザリアだけでも奪還出来れば、国を半分以上取られた状態にはなりますが、国の形を維持出来るかと思います。」


「しかしヒューズ殿、そんなに欲をかいてしまうと、貴公らリンドバウム軍までも我ら帝国と同じ目に合ってしまうのではないか?」


 敗残となったベルツ帝国の士官、ヨーン・シュラウド士爵がヒューズの話しに割って入った。年は若く、ユーヤと同世代であろうか。


「そうなんですがね。ただ、うちの若い連中が東部戦線に残ってまして、孤立状態にある連中を何とも救い出したいと謂うのが本音なんですよ。」


 各々の視線が交差する。そんな中クーガー王が瞑目したまま挙手をした。


「国の維持は諦めておる。貴殿等同盟国の皆にこれ以上迷惑はかけられん。よってあくまで我が同胞、及び各国の取り残されている者達の救出だけに専念していただいて結構だ。」


 目を開くとユーヤの方を向いて、軽く縦に首を振った。


「父上!しかしそれでは民達は如何なされるのです!」


 クーガー王の第一王子、ライガが叫んだ。彼は三十代後半で、父程の体躯はないが、碧い瞳に凛々しさが窺える。

 クーガー王は笑顔で答える。


「避難先ならば、ほれ、リンドバウム王国が隣りにあるではないか。」


 クーガー王は、リンドバウム王国の内情を王国軍の兵員の様子から聖王国を併合したと謂う事を具に感じ取っていたのだ。

 ユーヤは、仕方ないなぁと謂う風に頭を掻きながら、王子の方を向いた。


「申し遅れました。我がリンドバウム王国はジュディアール聖王国を傘下に加え、貴国の隣国となったのです。」


 この言葉に衝撃を受けたのはライガ王子だけではなく、ベルツ帝国の士官達も口を開けて目を丸くしていた。その中でもヨーンは特に激しく反応していたようだった。


 時は既に深夜一時を回っていた。皆さすがに疲労が蓄積していたのでお開きとなった。どちらにしろマリオンの帰りを待った上で次の行動に移ろうと謂う事で解散した。


 ユーヤは、自身のテントに向かいながら夜空を見上げた。月が大きく見える。元の世界と比べて灯りの少ないこの世界の月は、とても大きい。


 月の美しさに見とれて、思わずユーヤは足を止めた。


 ただ無心になって月を眺めていたユーヤの背後から、草を踏む音が聞こえた。その音は真っ直ぐユーヤに向かって進んでいるようだった。

 スっと振り向くと、ベルツ帝国士官のヨーンが同じように月を眺めながら近付いて来ていた。


「陛下。今宵の月は一段と美しく思えます。」


 何か思うところがあるらしく、ヨーンは鼻の頭を掻いている。変な奴だなと思いながら、再びユーヤは月を見上げた。その後ろでヨーンは片膝を付いて伏した。


「陛下、私は国許に戻らず己の信念に基づいて、己の為に行動したいと思っております。」


 ユーヤは月を見上げながら、横目でヨーンを見て「おいおい、そんな事は自分の国の上司に言えよ」と心の中で呟いた。そんな気配にも気付かずに、ヨーンは言葉を続ける。


「故に陛下。どうか私をリンドバウムに仕えさせて頂きたいのです!」


 思わずユーヤは全力で振り返った。「はい?」と謂う間抜けな一言と共に。


「帝国の末端の士爵如きがとお笑いになっても構いません。急な願いである事も重々承知しております!どうか、どうかよろしくお願いします!!」


 ユーヤは瞑目し、暫く沈黙した。そして頭をガリガリと掻く。


「故郷に家族はいないのか?」


「男爵家に嫁いだ姉が一人おります。私の家は嘗ては伯爵家の家柄でしたが、皇帝陛下に逆らった罪でお取り潰しに遭い、その際に父は投獄され牢の中で…母はその心労で逝きました…。」


 ―うっわ。なんか物語りでよくある系の話しだな。


 気が付けば、ヨーンは片膝立ちでその黒く短く切り揃えた頭髪を伏したまま涙を流しているようだった。


 それに気付いたユーヤは、ヨーンの肩に軽く手を乗せた。


 そして優しく微笑んだ。


「今うちは、ドタバタの真っ最中で半端じゃなく忙しいぞ。牛馬の如く働いてもらうようになるけどいいのか?」


 ヨーンの顔が綻んだ。目に涙を溜めたまま、飛び切りの笑顔を新たな主に返す。そして声に出して誓った。


「この命、リンドバウム王国アレクソラス13世陛下の為に捧げます!私は陛下の盾となり、剣となりましょう!」


 ユーヤはヨーンに、次の日からヒューズに師事するように命じ「明日にはうちの姫さんが来るからまた更に忙しくなる。とっとと寝ろ。」と言って、取り敢えずリンドバウムの騎士団のテントに行くように促した。


 ヨーンは涙を腕で拭いながら、嬉しそうに笑顔でテントへ駆けて行った。ユーヤはそれを眺めながら「今晩あのテントの連中は、寝ずに騒いでそうだな…」と独り呟いた。


 ユーヤは冬の訪れを告げる木枯らしに背を丸めながら、テントへ向かった。その日は気持ち良く就寝する事が出来たのだった。

新たな登場人物


クーガー王:ガロウ獣王国国王。獣王とも呼ばれる。大刀使い。虎人族と豹人族のハーフ。獣人には苗字はなく、「○○の息子(孫)△△」とか、「××街△△の生まれの○○」みたいな呼び名で個人分けします。故にクーガー王が正式に名乗りを上げる場合は「ガロウ獣王国国王クーガー」になります。


ライガ王子:ガロウ獣王国王子。年齢は20歳。正式な名乗りは「ガロウ獣王国国王クーガーの息子ライガ」になります。


ヨーン・シュラウド士爵:ベルツ帝国から獣王国に応援で来ていた士官。親が派閥闘争に敗れた元上級貴族。なるべく描く際に読み手のイメージを縛りたくないので、一部のキャラクター以外は「○○歳」と謂う書き方は避けるように心掛けています。彼の場合「ユーヤと同世代」と表現しましたが、弟分的な位置にしたいので、ユーヤよりも年下としてイメージして頂けたらと思います。

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