第六拾話 飛空艦
カスバドが魔導ギルド総監に納まってから数週間が過ぎた頃、嬉々として戦神のダンジョン工場区で実験に勤しむ彼のおかげで、重力制御装置なる物が完成した。これによって、物体の浮遊が可能になった。
つまり、飛行可能な乗り物を作れるようになったのだ。
更に魔導力炉も、やはりカスバドのおかげでダウンサイジングに成功していた。
これらを組み合わせて、ユーヤはまずは飛空艦の製造に着手した。ボディーは帝国の艦船を流用して、エンジンをダウンサイジングした最新型に組み替えた。そして空いたスペースを更に拡張して重力制御装置を組み込んだ。
ついでに魔導砲の位置も、帝国での鳥人魔族戦を参考に甲板部と、下部に二門ずつ増設した。更には魔導砲専用に魔導力炉を三基追加した。人員のスペースが減ってしまったが、攻撃力は格段に上がっている。
また、電力変換装置の開発が進んだ事で、人員自体も少なく済んだ。かなりの部分をオートで操作できるようになったのだ。この為に多少コンピューターの開発に時間は割いたが、ユーヤは納得のいく物が出来て喜んでいた。
そしてこれらの量産に入ったのだが、かなりのエネルギーを必要とした為、更にダンジョンに人を呼び込む必要が出来てしまった。
居住ブロックの拡張は動乱前にしていたので、景勝地として滝やら山やらを設置した。その傍には更地を作り、商業ギルドに話を持ちかけて観光施設を彼等に作らせた。これも少しでもダンジョン内での生体活動を促す為である。
そうして順調に量産が進み、5番艦まで完成したところで遂にお披露目式を挙行した。
場所はトライデルの街の外にある平原で、ここに急ごしらえであるが発着場を建設した。そこに居並ぶ五隻の艦船の威容に、それだけでも歓声があがる。
お決まりの聖女による儀式の後、それぞれの艦船にお酒がかけられ、発着場の搭乗用デッキからユーヤ達王族と来賓が一番艦『リンドバウム』に、貴族達や、各ギルド重鎮などは2~4番艦に乗船した。
そして最後の五番艦『トライデル』は、レギオン専用艦としてミハイルに譲渡された。こちらは下部の砲門は排除され、強襲揚陸用にハッチが取り付けられている。いざ地上戦闘!と言う時に、そこから大勢の人員が降りられるようになっているのだ。または補給物資の積載にも向いている。
これらはオーガ大陸の決戦に向けた兵器群であるが、民衆の鼓舞に一役買いそうだと議会側が大いに動いた。
「シアさま、すごいですよ!これ、おそらをとぶんですって!」
艦内の展望キャビンで、シアとセーラが遊んでいる。勿論セーラの母であるネイもついている。残念ながら大臣であるフェルナンドは二番艦「セイト」に乗船となっている。
三番艦『マジンゲル』は名前通り、獣王区のマジンゲルに就役予定となっている為、クーガーとライガ親子が乗船している。四番艦『ガリアン』も元帝都に就役予定となっていて、こちらにはカリギュラスとベルドが乗り込んだ。
この就役予定地には、現在発着場が建設中であり、焦土と化したガリアンに於いては街中に発着場を建設している。それによって、人を呼び込もうと謂う目論見もあるのだ、
『全艦出航準備!』
ユーヤの声がスピーカーから響き渡る。その声と共に各艦の魔導力炉に火が入る。
フィィィィイインと謂う魔導力炉のエンジン音が周囲を包み、観客の声も掻き消された。搭乗用デッキからは街の子供達が手を振っている。大人達も初めて見る空飛ぶ船の威容に、息を飲んでいるようだ。
『安全確認!』『確認ヨシ!』『重力制御装置異常なし。』『フライホイール各基正常。』
これらの遣り取りは全て、わざわざ観客用にスピーカーを通させた。恐らく今日明日にでも、街で子供達が真似をする姿が見られるであろう。
『発艦準備完了。提督、御指示を。』
クルーの呼びかけで、ユーヤからヨーンに指示役がバトンタッチとなる。
『これより、1~5番艦全ての発艦及び処女航海を行う。全ての乗員は見送る人々に対して…敬礼!!』
甲板に集合した乗員が、見事な敬礼を観客に送った。ブリッジ要員や、機関士達も見えないながらも敬礼している。
『全艦、発進!!!』
いっそう魔導力エンジンの音が激しさを増すと、フラっと艦が浮き上がり真っ直ぐ上昇を始めた。観客の周辺には物凄い風が吹き荒れている。
「あー、やっぱりデッキにも風防必要だったかー。」
ユーヤが今更反省を漏らす。カスバドがそれを聞いて笑っている。
「あはははは!陛下は切れるのか抜けてるのかよくわからんところが面白い。」
「カスバド卿!笑いごとじゃないですよ!住民の方々が飛ばされないように必死になってるじゃないですか!?」
「ヨーン。そんな事言ってももう遅い。発着場の改良はフェルナンドと一緒に考えるから、今は落ち着けって。」
ユーヤが諭す?が、ヨーンはあたふたしている。
「まったく参謀司令殿…いや提督殿も見ていて面白いのう。リンドバウムは本当に愉快じゃ。あっはっは!」
見た目が八歳児のカスバドに笑われて、ヨーンは顔を真っ赤にしている。そこへブリッジにヒューズが現れて、ヨーンは「提督たる者が何をやっておる!」と叱られ、冷静さをようやく取り戻した。
「あれ?ヒューズは二番艦の予定じゃなかったのか?」
ユーヤの問いにヒューズが頭を掻く。
「いやー、うちの倅の初の艦隊指揮を見たかったもので、衛兵に…ちょっとね。」
「あー、元参謀司令殿がコネを使ったぞー。どうするヨーン?」
「これは重罪じゃの。」
「はいはい。そこの馬鹿な大人達!未来の女王様たちのご入場ですよ!少しは格好いい所を見せてくださいな。」
そう笑いながらマリオンを筆頭に奥方達と、シア、イズナ、ハヤテ、そしてセーラ親子がブリッジにやって来た。シアはマリオンの腕の中でもがいていて、イズナはウテナの腕の中、ハヤテはおカジさんが抱っこしていた。
「うっわー!すっごーい!ウテナ、機械だらけだよ!」
「これ!メルティ!副官たる者少しは落ち着きなさい。」
その後ろからはヴァルキュリア団長エテリナと、副団長副官のメルティが入って来た。
「これはこれはアルテイシア様。爺がご案内しましょうか。」
そう言ってマリオンの腕の中のシアに手を伸ばすヒューズを、マリオンは制止した。
「ヨーン提督殿。密航者を野放しにしていてよろしいのですか?」
マリオンはそう言うとニッコリ微笑んだ。ヒューズの額に汗が流れる。
「お妃様、後で甲板掃除でもやってもらいますよ。」
ヨーンも笑顔で応える。ヒューズはばつの悪そうな顔をして、頭を掻いた。
「冗談ですよヒューズ卿。セーラ、このおじさんがシアを何処かに勝手に連れて行かないように、見張っていてね。」
「はい。おきさき様。おまかせください!」
セーラの元気の良い返事にブリッジ要員達も微笑む。ヒューズも思わず微笑んでいた。
「それではセーラお嬢様、シア様共々この爺がご案内しますよ。」
「はい。よろしくおねがいしますヒューズ閣下。」
この姿を見てユーヤは感心する。
「やはりセーラは凄いな。ちゃんと国の重鎮の顔を覚えている。これはネイさんとフェルナンドの教育の賜物ですね。」
「いえいえ、陛下。そのようなお言葉勿体ない!」
ネイは恐縮してしまっている。
「取り敢えず今はゆっくりしてください。あの爺さんが見てる間は。」
この言葉にヨーンも笑い出していた。その笑い声を聞いてネイも少し緊張が解けたようで、一緒に笑っていた。そしてブリッジには、この奥様集団の歓談する声が響き渡った。
見る者全てが新しく、特にウテナとメルティの興奮の仕方は異常とも云える勢いで「このボタンなんでしょう?」「提督ー!このレバー引いちゃダメ?」「良いわけがないだろ!二人共大人しくしてくれ!」「あ、こっちにはターゲットスコープがありますよメルティ!」「え、マジマジ?覗かせてー!」
「やめろー!エクステリナさーん!二人を取り押さえてくださいよ!」「無理無理。私もうサクヤ様の一件からそう云うの諦めたから。」
ユーヤはこの様子を見て「あー、ヨーンてば、エテリナにまでからかわれるようになったんだー。」と呟いて、コーヒーを口にした。ブリッジ要員達も笑っていた。カスバドなど腹を抱えてのたうち回っていた。
そんな二人をおカジさんとネイはウテナの赤子を抱きながら眺めて、目を点にしていた。マリオンは予想通りの展開だったので、ユーヤの横に来て普通にお茶を飲みだしていた。こうして、飛空艦の処女航海は、喧しくも微笑ましく始まった。
トライデルを出て二時間。何の障害もなく五隻の飛空艦は愛理須皇国の領空を飛んでいる。
「提督、間もなく目標予定地点のナガサキの出島です。着水用意に入ってよろしいでしょうか?」
クルーの女の子はとても冷静だった。ヨーンは慌てて艦長席に座り指示を出す。
『ご乗船の皆様、間もなく愛理須皇国ナガサキの出島に到着いたします。多少の動揺が御座いますが、ご安心ください。』
オペレーターの女の子も慣れたものである。ダンジョンの工場区に設けたシュミレーション施設が役に立った証拠である。艦長以外には。
「全艦、着水!」
「了解。着水シークエンスに移行します。各員着水用意。」
ズザザザザザと波の音が聞こえる。艦が海面ギリギリまで来ると、波が艦を中心に湧き起った。恐らく重力制御の影響と思われる。
「着水!」
ズゾゾゾゾと謂う何とも言えない感覚の後、五隻の飛空艦は海上に着水を完了した。そして、ナガサキの出島の港に向かった。予め連絡が行っていたので、特に止められる事もなく案内の皇国艦船が先導をしてくれた。
港には『ようこそナガサキへ』と書かれた横断幕が掲げられていた。ツクヨミ天皇も港で待っておられるようだ。
先導艦の接舷後に、それに倣って各艦も接舷した。先導艦からはテンゴウが降りて来る姿が見えた。それに気付いた乗員は、感謝の意味で艦の警笛を鳴らして敬礼をした。
ユーヤが降りて来ると、テンゴウは輝いた瞳でユーヤに握手を求めると、開口一番に「凄い技術ですな。船が空を飛んでくるとは連絡を受けていましたが、我が目を疑いました。」と、いつもの雅な口調を忘れていたようであった。
テンゴウの周りの将官達が小声で「閣下、閣下!」と声をかけてテンゴウは自分が興奮して我を忘れている事に気が付き、咳払いをした。
「ゴホン、失礼いたした。リンドバウム王の御来訪、心より歓迎いたします。」
そうテンゴウが挨拶をすると、皇国海軍の鼓笛隊が演奏を始めた。そして天皇ツクヨミが警護の者達を引き連れて歩んで来た。そして握手を交わすと「アレクソラス王、よくぞいらっしゃった。このツクヨミ、心から歓迎いたす。」と告げられ、ユーヤも「歓迎感謝いたします。」と答えた。
しかし、この厳かな雰囲気をツクヨミ自らぶち壊す。
「で、イズナとハヤテはどこじゃ?楽しみに爺は待っておったのじゃ。」
横に居たテンゴウが額に手を当てた。そこへ更なる嵐がやって来る。
「ウテナー!サクヤ姉様はここですよー!早く飛空艦の事を色々教えて欲しいのです!」
サクヤ姫の御来訪である。テンゴウが小声で護衛達に囁く。
「何故アレを野放しにしている。あれほど気を付けろと言ったはずである。」
「無茶を言わないでください。草達並みに穏行の出来るあの方をどうしろと云うのですか!?」
「それをやるのが貴様達の仕事であろうが!」
ここではユーヤが咳払いをした。その咳払いを聞いてテンゴウとツクヨミは姿勢を正した。
「あ、あーすまんのう。失礼した。曾孫達とは砦の方であそ…ん、ゴホン!顔を合わそう。兎にも角にも遠路はるばるよく来てくれた。」
こうしてようやくユーヤ達は砦の酒宴に案内されるのであった。
ええ、飛空艦の発進シークエンスやら
着水シークエンスやらに夢中になり過ぎました。(爆)
それだけでも結構な字数行くものなのですね?
酒宴まで描くつもりだったのにw
そう謂う事で、酒宴は次回です。




