外伝Ⅲ シア様の授業参観
時は、シア様が9歳の頃のお話しです。
アルテイシア・クノン・クィーネ(9)はヒューズ・ロンバルト卿の授業の真っ最中である。一緒にイズナとハヤテ、そしてセーラも受けている。
「このように、戦場と云うモノは一つの生き物とお考えください。ただ一点のみを見据えていては裏をかかれる事もあるのです。また―」
どうやら戦術理論のお勉強のようだ。シア様は欠伸をかいていらっしゃる。ヒューズ卿は戦術理論の話しになると熱くなられるご様子で、シア様の欠伸に気付いてはいない様子である。
ハヤテはテキストを盾にして鼾をかいていた。イズナはフムフムと腕を組んで頷きながら聞いており、セーラはメモもしっかり取っている。
そこへガラガラと戸を開ける音が響いた。何人かの側近らを連れて一礼をして入って来た御仁は、ユーヤ・クノン・アレクソラス・ゾル・サーティン。シア様達の父上様である。
そう、今日は授業参観の日であった。しかも抜き打ちの。
シア様は胸を撫で下ろす。
『良かったのじゃ…。ハヤテのように寝てなくて。』
刹那、父王の指先から指弾が飛ぶ。ドスッと響いたそれは、ハヤテの後頭部を直撃した。
「いってーな!何すんだよ!!」
ハヤテは叫びながら後ろを振り向き、蒼白となった。
「ち、ち、ち、父上!?」
「あー気にすんな。寝る子は育つって云うしな。どう育ったか後でじっくり聞かせてもらうぞ。」
二ヤリとする父に、ハヤテは戦慄を覚えた。父と姉のあの顔は、どんなモノよりも恐ろしいと認識しているのだ。
「陛下授業中ゆえ、静かに願います。」
「済まない。ヒューズ。」
そう云う二人の表情は和やかだ。
ヒューズはハヤテの勉学をみるようになってからは、ハヤテを『若』ユーヤを『陛下』と呼ぶようになった。
「因みに若、この後のクーガー卿の授業を楽しみにしていてください。」
「え、ちょ、ヒューズ先生?」
「居眠りの件は伝えておきます。きっといつもより課題が増えて楽しい事になりそうですな。」
ハヤテは蒼白を通り越して、真っ白になっていた。クーガー卿の体術の授業は、熾烈を極める事であろう。
「あー、そうそうシア様。シア様も何度もしていた欠伸の件、報告しておきますね。」
ニッコリと笑うヒューズの顔が、今のシアとハヤテには鬼に見える。二人は項垂れながら授業を受ける事となった。
「シア様、それにハヤテ。ちゃんと授業を聞かないからそうなるのです。この件は私から侍従長にも伝えておきますね。」
そう、イズナとハヤテの母であるウテナも参観に来ていたのだ。しかも彼女のお腹は大きくなっていて、妙な威厳があった。弟か妹を身籠っていらっしゃるご様子である。
「ま、待ってよ母様!おやつ抜きにされちゃうよぉおお。」
「ハヤテ、油断をしていたお主が悪いのだ。ニンジャとしてこれは致し方あるまいよ。」
姉のイズナは笑いながら弟にビシィッと指をさして宣言する。
『これでうちの母様まで居たら何を言われていたかわからん。産まれて来てくれたネーナに感謝せねばならんのう。』
そんな事をシア様は思いながらノートをとっていた。つい先月、マリオンはシアの直系の妹を出産したばかりで、ここには居ないようだ。
「ヒューズせんせい!しつもんです。」
「おや、ワダツミ様。まだお早いですがいいですよ。」
おカジさんの長男のワダツミは現在7歳。姉達の受ける授業と云うモノに興味津々なのだ。おカジさんは「あらあら。」と嬉しそうにその肩に手を添えている。
「べるつちほうにおけるだっかんさくせんのさいに、ヨーン提督がされたさくせんなのですが、なぜていこくぐんをとうざいにぶんだんされるようなさくせんをとられたのでしょうか?このさくせんほうほうでは、とうざいりょうがわにてきをにらむこととなり、ひじょうにへいたちにふたんがかかるようにおもわれます。」
シア達が全力で後ろを振り返っている。ユーヤ達も唖然としていた。ヒューズも目をまん丸にしてワダツミを見ていた。
『末恐ろしい弟じゃ。まだ7歳よの?7歳だったはずじゃの?』
シアの思いは恐らくこの教室にいる誰もが思った事と同じと思われる。ヒューズさえも口をパクパクさせていた。
「せんせい。かいとうとかいせつをおねがいします。」
「あ、そ、そうですね。えーとこの場合ヨーンが執ったこの作戦の有用性はですね―」
ここからいつもの調子を取り戻したヒューズの熱弁が始まる。それを聞きながらユーヤはおカジさんに耳打ちをする。
「おカジ…普段どんな教育をしてるんだ?」
「え?私はワダツミが読みたがる本を読み聞かせているだけなんですが…。」
「なるほど、読み聞かせか。ワダツミは将来参謀本部入りかもしれないな。それ、これからも続けてやってくれ。」
「はい!承知しました~~!」
陛下に褒められて、おカジさんは物凄く有頂天になっていた。語尾がかなり上がっている。
ウテナは「ぐぬぬ。」と言って、おカジさんに向ける視線に火花が見えるようである。おカジさんは主家筋とも云えるウテナに対して「ふっふっふー。」と、扇子を片手にどこか挑発している風であった。
「―以上のような事を踏まえての作戦行動であったわけです。ワダツミ様、ご納得いただけましたかな?」
「はい。ありがとうございます、ヒューズせんせい。めいりょうなごかいとうかんしゃいたします。」
ヒューズもワダツミもニコニコである。ヒューズは既に来年が楽しみになっていた。最初から難しい戦略概念の話しが出来そうだと。
気を良くしたユーヤもワダツミに手招きをして、頭を撫でながら褒めると、その膝上に座らせた。
それを横目で見ていたシアは憤慨する。
『父様の膝上は私の特等席!いや、専用席なのに~~~!!!』
ノートをガジガジと噛んで、シア様はヒューズ先生にまたも笑顔で『クーガー卿へのご報告』を頂くこととなってしまった。これでシアもハヤテ同様に白目に近い状態に陥った。
「以上で今日の授業は終了です。解らないことがあれば後で質問か、いつものようにセーラにノートを見せてもらうように。あと、イズナ様はペンぐらい握ってください。」
ウテナが下を向いた。二人共母に似て、書き物が一切苦手なのだった。当のイズナは「えへっ!」と舌を出して笑っている。思わず父王も下を向き、苦笑いをするしかなかった。
そうして午後の騎士団練兵場でのクーガー卿の武術指南では、「お二人は頭を鍛えるよりも肉体強化の方がお好きなようですな。」と、シア様が城内10周、ハヤテは30周と云う課題を頂いた。
シア様は汗だくになりながら城内を走り、途中途中で衛兵やヴァルキュリア達から声援をもらっていた。
一方ハヤテは汗だくどころか、鼻水まで垂らしていた。たまたま遊びに来ていた叔母のサクヤから「何をしている!もっと気張れ!ニンジャであろう?」とケツを叩かれていたようである。
そんなサクヤも目出度くご懐妊しており、ウテナと同じく8ヶ月…待て。三人で何をした?ナニをしたのか?
サクヤは幸せそうな顔であった。宣言していた愛人枠を手に入れて。
ただし、クノン家には輿入れしていない。あくまで「私はツクヨミの血筋を守る者なのです。なので他家への嫁入りなぞあり得ません。」と、現アイリス州知事ツクヨミ閣下を困らせているらしい。
そして、リンドバウム宮内庁も非常に頭を悩ませている。サクヤをどう扱えばいいのかと。
王は認知をした。しかし先方は輿入れを拒んでいる。
もういいや、これは例外。そう特例って事にしちゃえ。と云う投げやりな結論に至るのは、約2か月後にサクヤが出産を迎えてからの事であった。
青空の下、シアとハヤテが大の字でひっくり返っている。
今日もリンドバウムは平和であった。
復興編を第4章とするべきか
それとも第三章に付随するべきか悩んでいる間に書き上げました。
さてこれでおカジさんには次の年には
ワダツミ君を産んでもらわねばならなくなりました。
描きながらワダツミの年齢考証に頭を相当かき回したミツクラは
最終的に暴走して、サクヤまで…。
これ、後が大変な気がする。。。
※次章は7/13より開始します。




