第五拾七話 メインディッシュ
「エナを…孫娘を…貴様ぁああああ!!」
ベルドは怒りに任せてプテラスの前に飛び出して行った。それをユーヤが、そしてテンゴウが追いかけた。勿論ゼフィールドとロンも駆けた。
「あーはっはっは!ヒトが憎しみに染まる姿とは、実に美しい!ベルド皇帝、貴方もその美しい姿のまま、我の贄となるのです。」
ベルドは自らの唇を噛み、その口元からは血が流れていた。目は怒りからか充血している。今はただただ、幼い孫娘を奪った目の前の悪魔を殺してやりたいと謂う感情に支配されているようであった。
プテラスの鉤爪が容赦なくベルドを襲う。ザクリと肩口に、首筋に、額にと突き刺さる痛みを感じながらも、ベルドは前に進んで行った。
殺す殺す殺す!こいつだけは殺してやる!とベルドはまるで呪詛を唱えるように血塗れになりながら呟いている。
「えーい!魔族共が邪魔だ!!」
ユーヤが呻く。テンゴウとゼフィールドも魔族を薙ぎ倒しながら、突き進もうともがいているようであった。
ロンは、ふとカリギュラスに目をやり、少しの思考をした後にカリギュラスへと向かって行った。
「カリギュラス閣下!目を覚ましてください!!妻と子を失って失意から何も見えなくなっていらっしゃるのは解ります!けれども、貴方にはまだ父がいるではないですか!!!」
そう叫ぶと、ロンはその拳でカリギュラスを殴りつけた。
プテラスの周りに比べて、傀儡でしかない彼の周辺は魔族が少なかった。そこに目を付けたロンがカリギュラスの許へと向かったのだ。
ゴッと鈍い音がした、壁に向かってカリギュラスの体は吹き飛ばされる。ドンッと云う音と共に壁に衝突するが、ノソノソと起き上がり、灰色の瞳をロンに向ける。
「一発で起きれないのなら、次いきますよ!寝坊が過ぎます!閣下!!!」
ロンの肘打ちを腹部に浴びてカリギュラスは嘔吐しそうになり下を向くと、正拳が頬を打った。そしてもんどりうった所へ裏拳が逆の頬を打つ。
「がはっ!貴様我を誰と心得おるか!」
まだ瞳の色は変わらない。
「よく心得ておりますよ!」
そう言い放ちながらロンは更に肩口を殴り、態勢が崩れた所へ肘によって額を打ち据えた。
「貴方は帝国第二皇子であらせられます!」
そう叫ぶロンは更に皇子の顎にアッパーカットを打ち込む。頬には二条の光るモノがあった。
「ぶっ!ぐへはっ!」
今度はフックの連打の後に左ストレート。
「そして私にとっては大恩ある方だ!!いい加減目を覚ましてください!!!」
胸元に右ストレートを咬ますと、更にそこへ気を籠めた掌底を放った。
ドンッと云う音が聞こえた刹那に皇子はまた壁へと吹き飛ばされていた。皇子は白目を剥いて倒れる。
ツカツカとロンは皇子に歩み寄ると、襟を掴んで引き起こしパン!パン!と小気味良い音を立てて、皇子の頬を平手打ちしている。往復ビンタと云うやつだ。
打ち据えながらロンは泣いていた。
その頃ようやくプテラスと皇帝の間にユーヤが割り込み、皇帝の鳩尾に当て身を入れて大人しくさせると、テンゴウがプテラスに斬りかかった。
それをバック転の要領でプテラスは躱すと、前肢を広げて羽ばたいた。ゴウッと突風が起こり、テンゴウはズザザザザと構えたままの状態で後方へと押し戻される。
その脇をエレーナが跳躍してプテラスへと接近する。着地と同時にエレーナはユーヤ直伝の居合を放つが、それは空を斬っていた。
危険を察知したプテラスが、更に後方へと跳躍したのだ。そしてプテラスはクチバシを大きく開けると奇声を発した。超音波のようなモノであろう。エレーナが頭を抱えながら「いやーーー!」と叫びながら激しく昏倒した。
それを見て「カッカッカ!」と笑うプテラスであったが、その後ろにはいつの間にかゼフィールドが立っていて、下段から天を穿つかのように斬撃を放った。
「おっと、危ないですね。」
ギリギリでプテラスは躱すと、その鉤爪をお返しとばかりに振るって、ゼフィールドも距離を置く形となる。
ユーヤは皇帝を抱えて後方支援をしていたカスバドに預けた。
「どうだ、傷の具合は?」
「大丈夫みたいじゃの。このお方の頑強さは、ラドクリフ並みじゃしのう。それにあの鳥めは遊んでおっただけみたいじゃし。」
「そうか、回復の方を頼んだ。俺は三剣聖の援護に戻る。」
「任せておいてくだされ。奥方のおかげで、こちらももうすぐかたが付きそうですしの。」
そう言いながらカスバドはマリオンに視線を向けた。ユーヤも釣られるように視線を向ける。
「ほらほら!焼き鳥になりなさい。招雷波ーー!!」
ギターをかき鳴らし、周囲の敵を次々と電撃の渦へと巻きこんで『焼き鳥』を積み上げていた。その傍らでは、ジード率いる魔銃隊がマリオンの仕留めそこなった魔族を魔銃で撃ち抜いている。
「こっちは問題ないな。」
と、ユーヤが微笑しながら呟くと、サクヤを先頭にエテリナ、おカジさん、メルティが合流して来たのが見えた。
「兄君ー!こちらは殲滅及び捕縛完了でーす。」
「こ、皇女殿下!あまり急がれても我々が追いつけません!お願いですから落ち着いてください!」
サクヤに相変わらずおカジさんは手を焼いているようだ。エテリナとメルティはゼエゼエと息を荒げていて声も出せないようである。そんな周りの事など気にせずに、サクヤはユーヤの前まで来るとビシッと何故か帝国式敬礼をしていた。
「あ、ああ。怪我もないようでなによりですよ。サクヤ姫…。」
ユーヤは少し呆気にとられた様子であった。
「取り敢えず、エテリナ達は残敵掃討しながら回復を。サクヤ姫は…まだ元気そうだし、敵ボスのとこにでも一緒に行きますか?」
「はい!勿論なのです兄君!私はウテナの代理なのですから!」
再びサクヤはビシィッと敬礼を決めた。ユーヤは「何も言うまい。何も。」と心に決めてサクヤと共に走り出した。
プテラスの許までの道筋はロイエルが作ってくれている。ブランとのコンビも様になっているようだ。ライガとクーガーの親子コンビは、片っ端から目に入る鳥人魔族を切り刻んでいる。
「貴様ら!ラウズを捨てた身でラウズを欲するとは、どこまで堕ちる気だ!!」
「獣人族の面汚しが!!これ以上ラウズで好き勝手はさせん!!」
二人の目があまりにも血走っていたため、ユーヤはスルーすることにしたようである。二人には何も言わずにプテラスの許まで急ぐ事にした。
ロンとカリギュラスは…と視線を飛ばすと、カリギュラスはロンに引き摺られて魔導師隊の配置位置に連れて来られていたようだった。カスバド配下の者達が二人に回復魔法を使っている。
それを確認しつつ、ユーヤは再び視線をプテラスに戻した。鳥人魔族の長は、相変わらず三剣聖を相手に、素早い身のこなしでその技を躱し続けていた。年若いエレーナの息があがっている。超音波を喰らった余波もあるのかもしれない。
「エレーナ!君は一旦下がれ!あとは俺が引き継ぐ!」
「は、はい義兄様!」
「ロイエル、一旦お前はそこを騎士連中に任せてエレーナの警護を頼む!」
「はい!陛下!お嬢様しっかりしてくださいね。」
エレーナはロイエルに付き添われて、フラフラと離脱して行った。ロイエルは甲斐甲斐しくその汗や口元の涎などを拭いながら、エレーナを魔導師隊の居る方角へと導いた。サクヤも一旦二人の警護に行ってくれた。
テンゴウとゼフィールドの横にユーヤが並ぶと、テンゴウが二ヤリとしながら「待っていたぞ、勇者王。ちゃんと美味しい処はとってある。存分に平らげてくれ。」とユーヤに言えば、ゼフィールドは苦笑しながら「テンゴウ殿、余裕ありますねぇ。私はもうお腹いっぱいになりそうなんですが?」とテンゴウに視線を送り肩を落として見せた。
ユーヤはそんな二人を見て「まだ二人共行けるようで安心しました。多少楽をさせてあげられるように善処します。」と笑ってみせた。
この会話を聞いていたプテラスは、ニヤニヤしながら前肢をブンっと振るってユーヤに告げる。
「私をメインディッシュに選んで頂けたようですが、皿の上に本当に載るのはどちらでしょうねぇ?」
「俺はチキン料理は好きなんだが、翼竜ってのはどんな味なんだい?」
ユーヤが笑いながら答えると、少しプテラスさんはお怒りになったご様子である。額に青筋を立てている。そしてバチバチと互いの視線が火花を散らしている。
「今チキンと言いましたね?よりにもよってチキンとは、許せませんな。勇者王。」
「なんだよ、お前さんの沸点はそこなのかよ?」
ユーヤは呆れた表情をみせた。横の二人も苦笑していた。
「じゃあ、チキンと謝ろう。今後は貴殿の前でチキンとチキン料理と言わずに、焼き鳥や照り焼きの話しをしよう。二人共、その辺の礼儀はチキンとしような。」
ユーヤがニヤニヤしながら告げると、テンゴウが笑いながら「そうですな。礼儀はチキンとするべきですな。」と答え「いやあ、戦いながらチキンとするのは骨が折れますよ。」とゼフィールドが言う。
プテラスさんの顔は真っ赤に染まっていた。青筋もちぎれそうな程に震えている。
「どうした?プテラス卿。我々もこうして反省してチキンと改めようと言っているのに、まだお怒りなのか?」
ユーヤが更に煽る。これに横の二人は肩を震わせた。
「どうしたのです兄君?チキンチキンと先程より聞こえておりましたが、私はフライドチキンが一番好きですよ。」
サクヤ姫がいつの間にかロイエル達の護衛を終えて戻ってきていた。
「私はチキンサラダの方がいいわね。」
マリオンも掃討を終えて駆け付けた。
「いや、チキンと云えば胡椒と香草で味付た丸焼きが至高である。」
「父上の言うとおりだと思います。」
クーガー、ライガ親子も駆け付けた。
「いえいえチキンと云えば、我が最愛の妻エクステリナの作る照り焼きチキンです。」
「何言ってるんだ兄さん!エテリナ姉さんの作るチキン料理と云えばフィレチキンサンドが一番だよ!」
「二人共やめて!恥かしいから…。」
いつの間にか合流したミハイルを伴ない、『ガンプの三剣』が揃った。エテリナは真っ赤になりながら顔を隠している。
我を失い怒っておいでだったプテラスさんも、さすがにこの状況にたじろいだ。赤かった顔が少し青くなっている。
「これは…やってしまいました。まさかこんなに早く手勢を片付けられてしまうとは。」
引き攣った顔でプテラスは周囲を見る。錚々たる顔ぶれである。
「さあ、プテラス卿。リンドバウム流チキン料理のフルコース、メインディッシュをご堪能頂きますよ。」
ユーヤの一言に、プテラスは更に顔を強張らせていた。
参戦可能人員全員集合!
ん?おカジさんを忘れてた。しまった!
あ、ロン達と救護に回ってるんだよきっと。(ぉい
※雑記
4章を描いていて行き詰まりを感じまして
新たな設定を色々起こしてしまいました。
本当なら別で書こうと思っていた物の設定です。
これによって4章後半から作品の毛色が変わってしまうかもしれません。
いや、変わっちまったんだよこれが…。
そういうわけで、4章後半に入ったら作品キーワードが増えます。
そのキーワードは、あまりにもネタバレになるので言えません。
因みに現状で4章は
外伝などを含めて20部分を越えてしまっております。
話数も第七拾九話を書き終えたところです。
そんな作品ですが、飽きずに楽しんで頂けたら幸いです。




