第五拾四話 鳥人魔族
ザンバード領内に入ると、やはりカリギュラス本陣であるだけに投降してくる兵は少なく、それぞれが戦場を血に染めての行軍となった。幸か不幸か、ヴァルキュリアを合流させた王宮騎士団の進軍する中央付近は、特に激戦となっていた。
ジードはエテリナの合流のおかげで、幾らか元気になっていた。エテリナが合流して来た際に、一番喜んだのは、誰あろう鬱になってしまったかのようなジードを支えていたブランだった。
「姐さん!来てもらえて本当に助かります!!大将を元気づけてやってください。」
そう言う彼の目の端には、薄っすら光るモノがあった。
全軍検査の際は、見事にジードの精神状態は黒判定され、ブランは慌てた。彼自身今まで補佐と云う仕事はやって来ていたが、代理での指示など経験がない。ましてや今現在の規模は師団単位である。不安で仕方なかったのであろう。
また、長年連れ添って来た大将が心の病になってしまい、挙動不審な行動をしだした為に寝れないほどに心配して、目の下に隈を作っていたほどだった。
それを見たエテリナは「ブラン殿、貴方の顔色の方が心配です。すぐにお休みになってください。」と、救護班に栄養剤と睡眠導入剤を用意させていた。『段取り女王』様は、これを既に想定していたのであろう。救護班の用意は、尋常ではない程早かった。
それらを眺めていたエレーナは溜息を吐く。『こんな時に私は何も出来ていない。』と。
そんな気持ちからか、戦場に於いてエレーナは今まで以上に飛び回った。ブランやエテリナからの指示が飛ぶ前に、自ら友軍の支援に走り回る。
―せめて戦場で役にたとう!
ロイエルも主のその気持ちに気付き、出来るだけフォローに回っていた。二人の動きは、一軍の将と言っても良いほどになっていた。エテリナも感心する。
「ヴァルキュリアの二代目は、エレーナお嬢様で決まりね。」
と、ほくそ笑むほどであった。
「ブラン副長!ここはもう敵影が薄くなったので、右翼に回ります!」
「助かる!俺も後で騎士達を連れてそちらに向かう!」
とエレーナが走れば
「ヴァルキュリアの皆さん!私が今から突破口を開きます!直線上から退いてください!!」
とロイエルも奮戦していた。
その二人の動きに触発されてジードの動きも良くなっている。
「1~3を担当していた者は4~10の援護に回ってください、私はこれよりアウトレンジからミドルレンジでの攻撃に切り替えます。」
魔銃大隊の隊員達は、その声を聞いて安堵した。いつもの団長が帰ってきたと。
西側の森から進軍していたライガは、クーガー率いる老練部隊を先頭にし、ライガ自身は陣形の中心部で指揮を執っていた。退役している父達の部隊に花を持たせたようだ。
「若者達よ!あの戦いぶりを参考とするのだ。あれこそが我ら獣人族の戦い方である!」
檄を飛ばすライガを振り返り、クーガーは二ヤリとする。
「どうだ我が息子は?しっかりとした将軍となったと思わんか?」
「ええ。退役した我らも若の雄姿に、惚れ惚れとしていたところであります。」
「それでは我々も、しっかり若者達の手本役を演じきってやろうぞ!」
「「「うおおおお!!!」」」
戦場に獣人達の咆哮が木霊した。その迫力にカリギュラス軍が動揺する。退役しているとは謂え、獣人はヒト族よりも元々筋力があるのだ。ヒト族が大半を占める帝国からすれば、驚異以外の何者でもない。
そんな獣騎士団の迫力に、ジリジリとカリギュラス軍は後退していた。これでこの戦線はリンドバウム軍の優勢と思われた時、ザンバードの城の方角から無数の鳥の群れが襲来して来るのが観測された。
いや、よく見るとそれは鳥の姿をした魔族…鳥人魔族軍団であった。クーガーは目を見開いてその群れを見ていた。
「バカな!何故このような場所に魔族が!!?ここはラウズでもリンドバウム市並みにオーガ大陸からすれば奥地となる場所だぞ!!!」
ライガは、動揺しつつも冷静に魔導戦車を用意させた。
「戦車のスタンバイにどれほどかかる?」
「起動に10分、起動から発射までに5分と謂ったところです!」
―15分か…。私も前に出て時間を稼ぐか。
「わかった。以後元帝国部隊は戦車の警護を!我と獣騎士団は全軍前に出る!!」
「「「はっ!」」」
「盾を持つ者は弓隊の警護へ向かえ!敵は上空からだ!油断するなよ!!」
「「「おおお!!」」」
予想を遥か上を行く敵の襲来に、獣騎士達もどよめいていたが、ライガの的確な指揮に冷静さを取り戻していった。
―ジード殿向きの相手ではないか。何でまたこちらに来おったのか…。忌々しい!!
クーガーは鳥人軍団を睨み付けながら歯噛みしていた。天敵とは謂えないが、獣人からすれば苦手な部類の相手が現れた事に、苛立っているようである。
そもそも鳥人魔族と呼ばれる彼等も、かつてラウズ大陸に居た時代に於いては鳥人族と呼ばれ、獣人族の中の一部族だった者達である。しかし、彼等は記録には、竜人族と共に2000年以上前の大戦の際に魔王軍側に寝返った者達の末裔であるのだ。その血は魔族と交わり、恐らく生粋の鳥人族は今では存在しない。
それ故に獣人族との因縁は相当に深い。クーガーからは怒気さえ感じられる。
「あの裏切り者の種族を根絶やしにしろ!!一匹たりとて逃がすな!!!」
クーガーから理性が弾け飛んだかのような命令が飛んだ。それを合図に獣騎士達が迎撃の態勢をとる。
「弓隊は慌てるでない!じっくり引き付けてから放て!!」
そう指示を飛ばす間にも、その距離は縮まっていく。ライガも遅れまいと懸命に馬を走らせた。
「いいか!あと十分ほどしたら、爺さん共をひっ捕まえて後退しろ!魔導砲を発射態勢にしてある事を忘れるな!!」
「「「はっ!」」」
―それまでは、我も舞うのみ!!
ライガはクーガーの横に並ぶと、大刀を構えた。クーガーもまた、上空を睨み付けながら構える。そしてその軍勢が眼前にまで来た時、二人は互いの得物をクロスさせ気力を籠めて振り抜いた。コンボスキルである。
―獣牙双龍覇
その二つの高威力な斬撃は、あたかも二頭の龍が駆けるが如く鳥人魔族軍を一直線に貫いた。真正面に居た者などは見る影もないほどに細切れになっていた。そして翼を失い転げ回る者には、獣人族達の牙や爪が待っていたのだった。
「父上、あと七分程で魔導砲を発射します。七分経ったら全軍引かせてください。」
「焼き鳥にするのだな。あい解った。」
そこから二人は左右に分かれ、右からライガが、左からクーガーが中央付近に敵を集めるように動き回った。鳥人魔族は二人の動きに翻弄されている。おかげで弓隊の矢も、面白いように命中していた。
「貴様ら!地を這う者共に何を翻弄されるか!我ら鳥人魔族の力を―」
魔族の指揮官らしき男に矢の雨が降り注ぎ、言葉を全て紡ぐ前に墜落して行った。これを引き際と見定めたライガが総員に退避命令を出す。魔族達は退いて行くリンドバウム軍を見て好機と思ったらしく、進軍速度を上げていく。
「出力最大!魔導炉臨界!」
「ってえ!!」
ボシュゥ!!と云う音の後、魔族達の視界には光が広がった。後方に居た魔族は同胞が炭になって行く姿を見ながら、自身も咄嗟の事に痛みもなく炭となり、身体が崩れていくのを感じながら逝った。
「四分の三は殲滅できたようだな。」
木々の揺らめいていたはずのそこには、焼け焦げた地面と、残された灰だけが舞っていた。さすがにこれを見ていたカリギュラス軍も、後退もしくは投降してきた。鳥人魔族達も恐怖で顔を引き攣らせて、城の方角へと退散した。
「早馬を出す!すぐに陛下にこの事を知らせよ!此の度の戦、魔族が絡んでいると!」
ライガは戦後処理もそのままに、ユーヤへ報せの者を送った。これを知らせねば、恐らくヨーンの立てた戦略に綻びが生じてしまう恐れがあるからだ。そんなライガの思いを感じてか、使者は「この命に替えましても、必ず陛下の許に知らせて参ります!」と誓って馬を走らせた。
既に日は高く昇り、少し西へと傾きかけていた頃であった。
その報せがユーヤに届いたのは、日が沈んだ頃の事であった。ユーヤとヨーンは戦慄する。
「不味いな。ベルド皇帝が心配だぞ。あの艦隊には対空兵器なんて付いてないだろ?」
「ええ。恐らくこれと謂った対抗手段がないかと思われます。」
相手が海洋では知らせる術もない。通信魔法も距離があり過ぎて届かない。ここは原始的に鳩でも使うしかないのか?などと二人は協議していた。
結局、クーデターの際にも生き残ったその強運に賭けるしかない!と云う結論で協議は幕を引く。その為、なるべく地上軍に敵の目を向けさせるべく、各師団には派手に動き回るような指示を与えた。
王宮騎士団とヴァルキュリアにはエレーナとロイエルを更に前面に出させ、獣騎士団にはライガとクーガーを前面に立てるように指示を出した。そして本隊も、ユーヤ、マリオン、テンゴウと云った面々を前面に出す。
「これで腹を括るしかないな。明日からはよりハードになるだろうから、先に寝るぞヨーン。」
「はい。しっかり休んでください。私は使いの者を出してから就寝します。」
ユーヤが軽く右手を振りながらテントを出て行くのを確認してから、ヨーンは密書を書き始めた。内心、これを出さずともそれに近い陣形で、各々戦っていそうな気はしていたのだが。そして、溜息を吐きながら、懐から金印を取り出していた。
―ベルド閣下、無事を祈っております。
今まで、私は獣人族に鳥人系を出してなかったので
その答えとしての話しです。
描きながら、あれ?そういえば…
と、謂うのが真相なんですがね。(自爆)




