第五拾話 ラストエンペラー
帝都ガリアンに於いて、死んでいった者達を弔うのにユーヤ達は三日以上をかけた。
大半の者が灰と化していた為、その確認作業は困難を極めた。その為、ベルド皇帝以下帝国の人員に残ってもらい後を任せて再進撃をユーヤ達は考えていた。しかし…。
「勇者王よ、我を置いて行く気か?そうはいかんぞ。」
ベルドはカイザーブレードと、数万の軍勢を率いて同道すると云う。後の弔いに関しては聖女を呼び執り行わせれば良いと云う事になり、聖都に早馬を出させて数十人ほどだけをガリアンには残して出発した。
ここでジード達王宮騎士団は少し西へ進路をずらした。初めはユーヤ達に並進するようにしていたが、やがて遠ざかって行った。ジード達が目指すのはダンガイオと云うカリギュラスの治めるザンバードの南西の街になる。
一方北上を続けるユーヤ達が目指すのは、ザンバードの東の港街ダンコウガである。こちらはアクエリオスに比べればあまり大きな港街ではないのだが、港用に開発された入り江以外の場所が見事な断崖絶壁であり、帝国百景に数えられているそうである。
ダンコウガ手前数キロまで来ると、カリギュラスの軍が待ち構えているのが見えて来ていた。さすがにザンバードに隣接するこの街は、カリギュラスへの忠誠度が高いらしく、遠目にリンドバウム軍とベルド皇帝軍が見えても動じる素振りはなかった。
「あの様子では、まともにやり合わねばならないようだな。」
ユーヤの表情は厳しい。ヨーンも眉間に皺を寄せているようだった。
そこへベルド皇帝がカイザーブレードの三人と共にユーヤ達の許へやって来た。
「ダンコウガは、我々にやらせてくれ。ザンバード領内に入れば貴公らに頼らざるを得ない状況は見えている。そうなる前の槍働きをさせてもらうぞ。」
「しかし、皇帝閣下とその剣達は傷が癒えて間もないではないですか、ここは我々に…。」
ユーヤが言葉を紡ぎ終わる前に、ゼフィールドが神妙な面持ちで言葉を発する。
「いえ、元々我々がせねばならない事を勇者王様にお頼みした身であります。せめてここだけは我々と皇帝陛下率いる軍にお任せください。」
そして八歳児ほどに縮んでいるカスバドが付け加える。
「じゃがもしもの時はご助力願いたい。わしも以前に比べると魔力が半減しておるようだしの。」
ロンは拳を握りながら訴えてくる。
「お願いであります!我々主従に貴方様への御恩返しをさせてください!!」
ユーヤとヨーンは顔を見合わせると、溜息をつきながら「わかりました。この戦お任せ致します。ただし、必ずお戻りください。」と告げたのであった。
ベルド達は自陣に戻ると兵達に告げた。
「お主らを我が率いて戦うのは、今次動乱が最後となる。ここまでよく尽くしてくれた。」
皇帝は兵達に深々と頭を下げた。それに対してカイザーブレード以下数万の兵が敬礼をして返した。
「まだ勇者王に直接は語っておらぬが、我はこの動乱を最後に引退する。そして勇者王にこの国の全てを委ねる事とする。今まで尽くしてきた貴公らには申し訳のない処ではあるが、我にこうして追随してくれたその忠義を、以後は勇者王に向けてもらいたい。」
兵達がざわめく。カイザーブレードの面々は、真っ直ぐベルド皇帝に敬礼をしたままであった。しかし、ゼフィールドとロンの瞳からは涙が零れ落ちていた。それを見た兵達は押し黙る。
二人が何も言わずに、敬礼の姿勢のままで涙を零している姿に、兵達も何かしら感じていた。そして、兵達が静まったのを見計らってベルドは言葉を続ける。
「何度も言うが恐らく我が直接指揮しての戦闘は、このダンコウガ攻略が最後となる。皆、付いて来てくれるな?」
その言葉を聞いたカスバド少年が声高らかに叫ぶ。
「ベルド皇帝陛下、万歳!我らが最後の皇帝に、見事な勝ち戦をお見せしましょうぞ!!」
その声を引き金に、兵達は叫んだ。「皇帝万歳!!我らが最後の皇帝、ベルド閣下に栄光を!!!」
ベルドはその声を瞑目しながら聞いた。そして幾何かの後に目を見開き指示を与える。
「目標はダンコウガ!逆らう者は容赦なく討ち滅ぼせ!!」
「「「おおおおおぉぉおお!!!」」」
ベルド皇帝軍の怒号が響き渡った。それを合図に各自が配置に走り出す。皇帝の最後の指揮に応えようと、誰も彼もが必死の形相であった。
そして鬼気迫る勢いでカリギュラス軍へと突進を始めた。カリギュラス軍はその気迫に気圧されたようで、包囲もままならず、囲んでも囲みは次々と突破されて行った。
ゼフィールドも先頭に立ち剣を唸らせる。ロンは拳を燃えたぎらせ大地を割った。カスバドは極大魔法で賊軍を蹂躙している。
皇帝ベルドは陣形の中央で剣を構えながら仁王立ちをして、指揮をする。
「左翼、進撃が浅いぞ!何をやっておる!!後方部隊は左翼の支援に回れ!!!」
遠方から眺めていたユーヤとヨーンは感嘆の声をあげていた。
「素晴らしいな。あれが世に聞こえた皇帝の指揮管制能力か。」
「自らも戦地に飛び込んでの指揮、私には出来ません。」
そんなヨーンにユーヤは微笑して言う。
「以前にも言ったろ。お前はお前だ。誰かの真似なんかしなくていいんだ。」
そう言われてヨーンの脳裏に、義父であるヒューズの顔が浮かぶ。
「そうですね。そう決めたのでした。」
そのヨーンの言葉はユーヤに向けての言葉と云うよりは、義父に向けの言葉であったのかもしれない。
そんなユーヤ達の許に、後方から喧騒が届いた。慌てて士官が走って来る。
「陛下!サクヤ様達ヴァルキュリアと、レギオン軍及びテンゴウ様がご到着です!!」
何を慌てているんだとユーヤとヨーンは顔を見合す。テンゴウとレギオンの事は聞いていたし…。ああ!サクヤか!?そういえばいつ合流するのかの連絡が来ていない。この士官の慌てようは、何かやらかしているのだろうと、二人は納得した。
「エテリナが居ながらこれか…。我が義理の姉は恐ろしい人物だな。」
「仕方ありませんよ。あのウテナ様の姉君ですしね。」
二人は戦場を目の前にしながら苦笑していた。
そして「兄君~!サクヤ帰還いたしましたー!」と、遠くから二人の許に声が届いて来た。二人が振り返って見てみると、それを追い掛けるように、ヴァルキュリアの女性士官が汗だくになって走っている。姿格好から、あれが本来の知らせの者なのであろうと、ユーヤは同情の視線を送った。
その更に後方を、顔を青くしながら走って来るメルティが見える。ウテナがサクヤを任せただけの事はあって、知らせの者とサクヤに追いすがる姿にヨーンも感心する。
その遥か後方では、ヴァルキュリアと四氏族連合、そしてレギオン軍が並んで行軍しているようだった。先頭に見える偉丈夫はテンゴウであろう。恐らくテンゴウがヴァルキュリアと四氏族を宥めたようである。
「取り敢えずメルティと知らせの者の為に、医療班の何人かを呼んだ方が良さそうだ。ヨーン頼む。」
ユーヤはボロボロになっている二人を見て、苦笑いをしつつ溜息をついた。
そして、兄君兄君と煩い義姉には頭を撫でて「ご苦労様。(フォローしてた皆)」と声をかけた。義姉殿はそれでも充分に満足されてはいたようである。
「国に帰ったら、メルティと知らせの娘には十分な褒賞をやらなきゃな…。」
ユーヤはまた溜息をついていたのであった。そこへ騒ぎを聞きつけたマリオンが、自陣を離れて様子を見に来ていたが、サクヤの姿を見て彼女も納得しているようである。
気付けば、戦場の方ではベルド皇帝軍が賊軍を包囲するかたちになっていた。街の外に展開していたカリギュラス軍は、ほぼ叩いたと思えた。その時であった。
雷雲が雷を連れてモクモクと現れたかと思うと、その雲の中から猿の頭に虎の身体、そして蛇の頭が尻尾についた魔獣が現れた。鵺である。
雷と奇怪な咆哮によって、次々と敵味方関係なく帝国兵が倒れて行く。その様子を見たユーヤは聖神剣マリオネートを手に携えて走り出していた。
ユーヤが横を見ると、マリオンとサクヤも併走していた。
「どうです兄君。ここで活躍したら私ももらって頂くと云うのは?」
「いえいえご勘弁を!ツクヨミ直系の娘を二人も娶ったら、ツクヨミ家の氏族達に何を言われるかわかりませんので!」
「大丈夫ですよ。まだ叔父達や叔母達の家系もあるので、私がいなくなっても屁のカッパなのです!」
「いえいえ、サクヤ様。ウテナが第二となっている以上、姉君であらせられるサクヤ様が入籍されますと、それを押しのける事になりますがそれで宜しいのですか?」
マリオンが引き攣った笑顔で会話に割って入った。サクヤは困った表情をして首を振った。
「それは嫌です。今の私はウテナが一番大事なのです。」
「はい。ならいいですよね?もう魔獣の前に着きますし。戦闘態勢に入ってください。」
そう云うやユーヤはカイザーブレード達の位置と、皇帝の位置を目で探った。どうやら四人共鵺の周りに集まって来ているようだ。丁度七人で鵺を取り囲んだかたちである。
鵺はその双眸を光らせて、誰が一番組みし易そうか選んでいる様子だ。
「おや?どうやら私を選んだようですね?お目が高いと評価します。」
鵺は女性であり、非力なエルフ族であるサクヤを選んだ。そして帝国兵達を次々に昏倒させた咆哮を、鵺はサクヤに向けて発した。
それに対してサクヤは、暗黒魔法による結界を張った。闇の塊がサクヤの前に出現すると、鵺の音声を吸い尽くしたのだ。
「ふっふっふー。このグラビトン・ウォールに防げないものなどないのです!」
そうしてサクヤに鵺が気を取られている間に、鵺の後方からカスバドのサンダーアローが降り注いだ。
シュババババ!と雷の刃達が空気を裂き鵺に襲いかかる。しかし、尻尾の蛇頭がそれを確認していたようで、空中へと回避しようとしていた。
だが、その空中を舞う者が居た。ロンが天高く跳躍していたのだ。
ドス!と鵺の背中に鈍い音を発して、ロンは拳で直接気を打ち込んだ。鵺は目を見開きながら昏倒する。そこへマリオンのギターの音が響き渡った。鵺はゴロゴロと転げ回ると、目の前に現れたベルド皇帝に頑強な前足を叩きつけようと咆哮をあげる。
ベルドは両手持ちの大剣を横に構え、迫る鵺の前足を弾き返し横へ跳んだ。鵺はベルドを視線で追う。
するとその先にはゼフィールドが待ち構えていた。
ゼフィールドは自身の眼前に迫った鵺の頭を、斬馬刀の腹で思いきり引っぱたいた。鵺はその痛みに、思わず叫び声をあげていた。その叫びは、更に今一度あがる。
いつの間にか鵺の後ろに回っていたユーヤが、蛇頭のある尻尾を根元から居合切りで寸断していたのだ。
「さあ、どうした?これだけで済ます気じゃないだろうな?化け物。」
痛みから後方へ向き直した鵺であったが、ユーヤの気に圧されてジリジリと後ずさった。
サブタイトルが
某映画タイトルになってしまいました。
読み返して
これしか浮かびませんでした。
*17時より50話記念として、外伝Ⅱを投稿します。
よろしければご覧ください。




