第四拾六話 春の嵐
「陛下、遅参誠に申し訳ありません。ヴァルキュリア合流致しました。」
エテリナ率いるヴァルキュリアが、皇国内の帝国軍を追い出して合流していた。また、捕虜にした帝国兵は、やはり皇帝ベルドが現在いる聖都に送った。
「いや、まだヨーン達が戻っていないから遅参ではないよ。本格的に動き出すのはそれからだからね。」
ユーヤの横に立つジードが心なしかフワフワしている。ブランが咳払いをすると、自身の立ち居振る舞いに気付いて姿勢を正した。そんな挙動にエテリナが気付き、ジードに「メっ!」とでも言っているかのように一瞬眉を上げた。ジードは頬を掻いている。
「そんな状況なのでエテリナ、今日は連れている全師団員を休ませて大丈夫だ。旦那様がしっかり働いてくれるそうだし。」
ジードが慌てる表情を見せると、ユーヤは二ヤリと笑った。「「言わんこっちゃない。」」と妻と副官にジードは言われて、申し訳なさそうに下を向いた。
「あ、陛下申し遅れました。お気付きではあろうかと思いますが、皇国からミナモト、フジワラ、トクガワの三氏族の軍と、ホージョーからはソーウン殿が軍を揃えて協力してくれています。」
「それは心強いな。三氏族とソーウン殿にはこの後席を設けよう。」
アシカガ氏は、タカウジが責任をとって自害したとは云え、今回反逆の旗印となった事でお取り潰しが決まり、家臣の大半と兵員は、四氏に併合されたようである。ホージョーに関しては逸早くソーウンが裏で動き、天皇ツクヨミに許しを得たとの事だった。
今回の事件によって五大老の権威は失墜した。そして今は戦時と言う事も有り、天皇に全ての権限が集中しているようである。
「この度は、我が宗家が皇国のみならずリンドバウムにまで迷惑をかけてしまい、誠に申し訳なく思っております。」
ソーウン・ホージョーは、その坊主頭を地面に擦りつけて平伏しユーヤに詫びていた。ユーヤはあくまで他国の事であり、それに対して干渉したリンドバウムにも非がなくもない事を告げ、顔をあげてもらった。
「しかし、このまま何の沙汰もないまま参戦するには参りません。我が家臣団の娘であるカジが、既に閣下のお傍にあると聞いております。賠償とはいきませぬが、カジを娶って頂いて、我々ホージョー氏族の礼とさせて頂きたいのです。」
「いや、その、そういう政略的なやり方はどうかと…。」
内心ユーヤは喜んではいたが、正妻マリオネート様が怖いのであろう。はっきり返事ができないでいた。顔は緩んでいるのだが…。
そこへ横からエテリナが冷静にユーヤの代わりに返事をした。
「現在ご正室であらせられますマリオネート様がお戻りになっていない為、そう云った申し出に対しましてはお答えしかねる状況にあります。ですので、ご返事は後日と言う事でご了承ください。」
エテリナは片目を閉じ、片方の目でユーヤをチラ見した。ユーヤは引き攣った笑みをエテリナに返していた。正妻様の剣であり盾である彼女が、怒っているとユーヤには見受けられた。
「そ、そういう事であるので、その話しは後日と云う事で今日は勘弁してください。前向きに検討いたしますので。」
エテリナの視線が気になったのか、ユーヤは丁寧な言葉遣いで頭まで下げてしまった。これをソーウンは良い返事と受け止めて、会の終了時にはホクホク顔で退席して行った。
「陛下…その件のカジ殿はどちらに?」
冷たい視線をユーヤに飛ばしながら、エテリナが直参の家臣のみとなった場で詰問してきた。それを庇うようにジードが「今はウテナ殿の姉君、サクヤ様の護衛でリンドバウムにいますよ。」「え?ウテナの姉君!?どういう事?聞いてないわよ?」
―ああ、そうかそれも話してなかった…。やっちまったかなこれ…。
ユーヤの目が踊っていた。その日の会は夜遅くまで続き、エテリナを納得させるのに一苦労したユーヤだった。そして、エテリナの結論が述べられた。
「仔細はわかりました。正室派またウテナの味方である私個人としては納得がいきませんが、ウテナの第二正室昇格が決まった後でなら、王家の繁栄のために致し方なく同意いたします。ホージョーとしても主家の娘よりも上に付く事は控えたいところでしょう。」
「あ、ありがとうエテリナ(様)。」
「し・か・しです。もしも姫様達を蔑ろにした時は、ヴァルキュリアを敵に回すと思ってください!」
―うわぁ、脅しだよ。内紛起こすぞこの野郎!って意味じゃねえか。しかもお妃様じゃなくって姫って言ったぞ…相当お怒りなんじゃないのかい、エテリナ(様)?
ユーヤはエテリナの言葉を、深く深ーーーーく心に焼き付けて、その日はお開きとした。エテリナを必死に宥めるジードに、ユーヤは心から礼を云うのであった。
ユーヤにとって一番の難敵は数日後に帰ってきた正妻様であるが、以外にもあっさりしていた。
「ウテナが間に入るのならいいわ。逆だったら…ねえ?」
エテリナと目を合わせて口元を歪めている。ヴァルキュリアはいつから第一正室の私兵になったのだろうか?
…あ、発足させたのはこの二人だった。そうでした。ヴァルキュリアは元クレィル隊だった。つまり番長がエテリナで、裏番長がマリオンだ。恐るべしクレィル家主従!
「そんなことより、ウテナのお姉さんに早く会いたいわね。寧ろそっちの方が私達には大事よ。」
「あー、それならウテナの昇格が承認されたら直接来るかも。」
「え?皇女様でしょ?そんな…。」
「だって、ウテナの姉君だぞ?」
ユーヤの一言に、元クレィル家主従が戦慄を覚える。そして納得していた。
「ひ、姫、あり得過ぎです!」「エテリナ、あ、あんた動揺しすぎよ。呼び方が姫に戻ってるわよ?」「想像してください!あのウテナと同様な性癖の人物がもう一人いるんですよ!?」「た、確かにそれは厄介よね。」
「あ、双子だから容姿も耳以外まるっきり一緒だよ。」
またもユーヤの言葉に二人が反応した。今度はピクリと云う擬音が聞こえそうな様子で。
「まさか、そっちにも興味あったりしないわよね?」「危険ですね姫様。」「ええ、陛下はお会いになった時、既に尻に敷かれているかのような反応でしたよ。」
「ブランちょい待て。何故お前まで―」
どうやらこれは、皆で陛下をからかっているようである。ここは最前線。いくら帝国が消極的になったとは謂え、この方々は…。
尤も、正規メンバーとも謂える面々がほぼ揃った安心感が、このような空気を生んでいるのかもしれない。ライガも回復し、その直下の獣騎士隊もエテリナと共に到着しているのだった。
そんな雰囲気の中、軍議会場のテントの中にヨーンが手を叩く音が響いた。
「はい、皆さーん。今は軍議の時間ですよー。席に着いてくださーい。」
自らの姉夫婦を保護した安心からか、注意を促すヨーンの声も軽い。
そこからは皇国四氏族も交え、真面目な会議が催された。そして、各軍団は装備を整えて三日後に行動を開始する事となった。
抵抗が薄いと予想される東を四氏族と、そのお目付けにヴァルキュリアが行軍。
ユーヤとヨーン率いるテンプルナイツ及び僧兵団は北上し、王宮騎士団はそれに続きながら西側へ少しずつ進路を取る。
ライガ率いる獣騎士隊は、拠点から真っ直ぐ西へと行軍する事となった。連絡が取れればヒューズとクーガーの防衛遊撃隊と合流し、南側からの遊撃部隊になってもらう。
思えばここまでに一か月以上もの時を有していた。日本で云えば四月の中頃に入っている。
軍備を始めて二日目。予想通りの出来事があった。
サクヤ姫の訪問であった。
護衛として随伴させたカジと共に、姉を色んな意味で心配したウテナも付いて来ていた。
「兄君、ウテナの昇格は無事承認されましたぞ!これからは正式な第二正室ですよ。」
「いや、兄君って…妹君を娶っているので弟なのでは―」
「良いのです!貴公は私よりも目上であらせられるので兄君なのです。と云うか、前々からお兄様が欲しかったのです。」
マリオンとエテリナの反応は予想どおり、目が点になり口をパクパクさせていた。しかも指をさして。
「姫…ウテナより強力じゃないですか?」「…あれはかなりの強敵よ。」主従は指を指したまま会話している。無礼とか格式ばった事とかが、頭から飛んでいるようだ。
「おお、其処元達がウテナの元主と自称の姉でありますか?」「サクヤ姉様!言い方!!」
ツクヨミ主家嬢二人の横では、カジが頭を抱えている。
―おかしいですわ。面倒な皇家とは関係ないリンドバウムに属したはずなのに、何故よりにもよって皇家で一番の問題児に私は付けられているのかしら?
カジの表情がその内心を物語っていた。
「も、元主とは…私の事…よね?」「自称姉は私ですね…。」「なんか家柄が家柄だけに強く言い返せないわね。」「そうですね。今まで知らなかった事とは謂え…。」
元クレィル家主従でさえも、対応に困ったようであった。しかも目の前に、同じ容姿で同じ服まで来てのご登場だったのだ。リンドバウムの重臣達も、どう接したらいいのか戸惑っている。
そこへ助け舟を出したのはソーウン・ホージョーだった。
「姫様、お役目お疲れ様でございました。妹君の一件、このソーウンも喜ばしく思っております。」
見た目はヒッターと変わらないくらいの居住まいに見えるソーウンも、エルフであるからにはかなりの年の功であろう。剃髪した頭部と口髭が威厳を漂わせている。
「うむ、ソーウン殿。この度はそちも大義である。」
と胸を張りながらサクヤは言うと「これが王族の態度です。ウテナ理解しましたか?」と、ひとさし指を立てながらのたまった。どうやら王族として、ウテナに手本を示そうとしていらっしゃったご様子である。
「姫様、長旅お疲れでありましょう。我々の陣に甘酒を用意しております故、どうぞあちらへ…。」
「さすがソーウン殿。準備が良いです。ウテナ、一緒に行くのです。」「待って、サクヤ姉様!」「早くしないと甘酒が冷めるので待てぬ。」「姉様ーー!」
エテリナはその光景を見て、ウテナと昔の自分とが被って見えたようで、目をパチクリしていた。
「確かに強敵ですね。色んな意味で。」
エテリナはいつの間にか笑っていた。マリオンも釣られて笑い出していた。やがてそれは会場中に伝播し、ソーウンの用意してくれた甘酒を酌み交わしながら、そのまま懇談会の様相と化していたのであった。
これから始まる非情な戦いの前の一息である。
ウテナ姉妹が強力すぎて
たまに描く手が止まります。
寧ろ姉君が強力過ぎるのでしょうか?
対抗できるペアが思いつきません。
誰か助けて!(爆)
※400ユニークを突破しました。
ありがとうございます。
ちょこちょこ横道に逸れながら、これからもほどほどにがんばります。




