第四拾四話 姉妹達
帝国での戦闘は、少し膠着状態に入っていた。今まで散々魔導砲を喰らって大損害を出してしまっていた帝国が、さすがにリンドバウムの兵器の恐ろしさに尻込みをし出した為である。それに加えてリンドバウム軍も積極策に出ず、ジワリジワリとしか進行して行かない。
あくまでこの作戦行動は、皇国内が落ち着くまでの行動でしかないのではあるが。そしてマリオン達と、親書を持たせた使者とを送り出して五日目の事であった。
「なに?ウテナが来ているだと?子供達は?」
「さすがにお子様達は危険なので、真っ直ぐ国許へ帰したそうです。皇国のお使者様も同行されておるのですが…。」
ブランが言い澱んでいる。明後日の方向を見ながら。ユーヤとジードはその表情に対して、頭の上でクエスチョンマークを飛ばしている。
「まあ、お会いになってください。自分が困惑している意味もわかりますよ。陛下。」
帝国も現在、積極的に攻めて来ていないので会う時間はいくらでもある。断る理由もないので、ユーヤはお使者様と共にウテナと面会する事にした。
そこには確かに一同が困惑する光景が広がっていた。
「サクヤ姉様、こちらが我が夫のアレクソラス殿下です。」「わあ!ヒト族としてはいい男です。さすが我が妹。」「サクヤ姉様ダメですよ!この方はウテナの夫です。手を出したりしたら、いくら姉様でも許しませんよ!」「う”-!ケチんぼ!!」
同じ容姿の二人が、同じような口調で楽しそうに会話していらっしゃるのだ。ユーヤもジードも口をポカーンと開けていた。
「えっと…ウテナ?これはまたどう謂った悪ふざけなんだ?影分身…ではないみたいだが…。」
困惑から、ほぼ正直な言葉がユーヤの口から零れた。それに対してエルフ耳のウテナが答える。
「悪ふざけとはウテナの旦那様も言葉が過ぎます。私はれっきとした使者です。サクヤ・ツクヨミと申します。…あ、そうですよね。名乗りが遅れましたね。ごめんなさい。」
ベルヌ宰相が満面の笑顔で補足する。
「ツクヨミ天皇閣下のお孫様で、ウテナ様の双子の姉君にあられます。」
「「はい~?!」」
ユーヤとジードが裏返った声を上げた。そしてブランが額に手を当てながら「困惑の意味、わかっていただけましたね。大将。」と小さな声でジードに囁いた。ジードは無言で首を縦に激しく振った。
「そのようなわけで、ウテナの身分が側室と聞いて、姉として抗議もしたくて参りました。」
「姉様それは別に私がいいと…。」「良くないです!と云うか姉様ではなくサ・ク・ヤ姉様と言って!」「さ、サクヤ姉様…。」「よしよし。」
妹の頭を笑顔で撫でていたサクヤは、目を大きく見開くとユーヤに向き直って告げる。
「ウテナがツクヨミの家系の者であるとわかった以上、今までのような側室などと云う身分は、愛理須皇国との関係にどのような弊害が生まれるか、アレクソラス王にはわかりますよね?」
「は、はい。」
ユーヤはつい先日のデジャブを見ている気分だった。嫁…いや、嫁と瓜二つの姉に青ざめながらお説教を受けていると云う今の図に、嫁の中の別の嫁に青ざめていたつい先日の光景を見たようだ。
「そういう事で私はこれよりトライデルに赴き、宰相殿が掲げる『ウテナ第二正室昇格計画』の支援に向かいます。その計画に対して王の承諾も頂きたく思います。良いですね?」
「い、異議ございません。」
「あ、じゃあこれ返礼の親書です。よろしくお願いしまーす。じゃあ、次は聖都のマザーのとこ連れて行ってウテナ。」「ね、ねえさ…サクヤ姉様、待って!」「おや?あれはオータ氏のとこのおカジではないですか?おーい!」「お願い!姉様待って!一応ここも戦場ですよ~!落ち着いてぇ!」
こうしてリンドバウム軍のテントから、嵐が去って行った。
ユーヤ達は茫然としながらその背中を見送った。ウテナがまるで昔のエテリナのように、姉に追いすがりながら注意をする姿は、ユーヤにはどこかシュールであり、懐かしく思えるのであった。
「ちゃんとした理由もありますし、あの姉君なら議会もすぐに陥落しそうですね…。」
茫然としながらジードが呟いた言葉に、一同が無言で頷いた。
なおこの後、顔馴染みと云う事でおカジさんにはリンドバウム国内でのサクヤ姫護衛の任が下されたのであった。
その頃、正妻様御一行はようやく帝国の港街アクエリオスに到着していた。少数精鋭とは謂え、帝国軍に見つからないように侵入しての捜索活動である為、予想以上に時間を掛けてしまっていたのだった。
「思った以上に大きい街ね。」
マリオンの言うとおり、アクエリオスの街は聖都に匹敵するほどの規模がある。今のところ大陸最大の港とされているのは伊達ではない。
「まぁでも、もうすぐフェルナンド殿が推進する事業の方が上を行くとは思いますよ。」「あっ!あの港街グレンのことね?」「お嬢様、ダイザ―です。グレンは以前あの地揺れで沈んだ町の方ですよ。」「そうだったかしら?」
戦場からは遠い街であるため、一行の姿もそれほど目立っていない。せいぜい疎開して来た貴族様御一行であろうとしか見られていないようだ。
しかし、戦争の影は其処彼処に見えてはいる。やたらと多い荷馬車の往来や、引っ切り無しに号外が発行される瓦版など、ここもそれほど戦火から遠くはないのだろうと思わせる。
それらを見ていたヨーンの胸に去来するのは、早くこの戦争を終わらせて彼等に普段の生活に戻ってもらいたいと云う思いであった。
そのためにも早く第二皇子を捕えなくてはならない。だが、今はそれよりも姉のエスメラルダを探す事に集中しなくては、せっかくリンドバウム王家が総出にも近い形で協力してくれているのだ。何としても成し遂げねばと、ヨーンは誓うのであった。
「しかし、いくら疎開して来る貴族が多いからって、これだけ堂々と歩いていて衛兵にも声を掛けられないのって変じゃない?」
マリオンの疑問も尤もである。罠かと疑いたくもなる。
「皇子の治めている領地は帝国西側の海岸地帯ですから、東側は恐らくそれほど支配下にはないと思います。敢えて言うならこの街は皇帝派と云うことですよ。」
坂道を下り入り江へと降りると、春であるはずなのに海には流氷が見える。そうこの地は、帝国でも北の外れであるのだ。
入り江沿いに歩き、桟橋を通り過ぎた先の浜辺に教会が見える。戦神の教会であるらしい。そこがこの街での一行の拠点となる。
「夏場なら良い景勝地なんでしょうね。今の時期は海も時化ていて潮がすごいけれど。」
エレーナがワクワクした瞳で辺りを眺めている。
「昔はこの辺も寂れた片田舎の町だったんだけれどね。」
「お姉様、以前にこちらにいらしたんですか?」
マリオンは言ってしまってから、やっちゃったと内心舌を出す思いだった。
「女神様の記憶よ。気にしないでエレーナ。」
「いえ。気になります。姉様その昔話、教えてください。」
今から500年程前、まだ帝国の統治がこの街にまで及ぶ前の話しである。
亜神として女神の修行をしていたマリオンは、この地に風の向くままにやって来て滞在した。当時は今ほど開発もされておらず、海の魔物達も多かった。
ある日村人に頼まれ海獣退治に赴く事になったマリオンは、まだ先代の戦神が加護していた頃の教会で祈りを捧げて、歌を奉納したのだと云う。
「どんな歌なのですか?」
「聴きたい?」
「はい!」
マリオンは波の音をバックにギターを爪弾く、そして歌いだす。
それは、ある少女と神様の恋のお話しであった。追いかけても追いかけても届かない、神へのラブソング…。
「切ない内容ですね。女神様はそんな想いをしてこられたのですね。」
まだあどけない表情を残す妹を、姉は微笑みながらその頭を撫でた。
「エレーナもたくさん恋をしなさい。そして泣きなさい。」
「笑ってはいけないのですか?」
「かまわないわ、いっぱい思い出を作りなさいってことよ。」
ロイエルが教会から駆けて来る。
「お妃様ー!お嬢様ー!教会からの許可がおりましたー!」
ロイエルの走って来る姿を眺めながらマリオンは思った。この子達はまだ幼いなと。
「まあ、まだ貴女には早いみたいだけれどね。」
マリオンはクスリと笑って、ロイエルの走って来る方へと歩を進めた。
それに追随しながらエレーナは「なんで?なんでですかお姉様ー!」と疑問を投げるのであった。
依怙贔屓はいかん!
と言う事でクレィル姉妹にも良さげな話を盛り込みました。
珍しくマリっぺが
ちゃんとお姉さんしてる回になったかと思います。
あなたはどちらの姉妹がお好きですか?
ミツクラはサクヤウテナ姉妹が大好きです(爆)
※雑記
気付いたら、想定以上に4章が膨れ上がってきています。
恐らく最終章に持って行きたくない
もう一人の私が抵抗しているのでしょう。
気付けば本編と外伝合わせて15話分書けてしまっています。
あれー?10話前後で5章に移ろうと思っていたのになぁ…。
ま、いっか!(爆)




