第参拾七話 宣戦布告
今日もユーヤはダンジョンのコアルームで、午前中の日課となりつつある戦神のダンジョンの改装を進めていた。戦時に備えてすぐに対応できるシステムを構築する為と、自身の子供達が将来苦難に立ち向かう為の鍛錬の場を作る為に色々と模索していた。
「やはり儀式として行わせるのが一番しっくりくるかなぁ…。」
などと呟きながら、現在あるフロアとは別のフィールドを作成してみたり、ボスモンスターの行動パターンや種族やらを作成してみたりしていた。
しかし、結局は『試練』に見合っているモンスターとなると、ユーヤにとっては悔しい事ではあるらしいのだが、やはり戦神の作成した『アークグリズリー』と、『ゾルスコーピオン』が適しているようだった。
「やっぱ、戦闘区三層のアークグリズリーを試練用にして、三層階層ボスは別で作成するか。」
と、ユーヤが呟いた頃には昼となり「あとは、明日だな。」と、立ち上がると転移ゲートを開いてトライデルの王城の庭へと飛んだ。外は日本で云えば二月頃の陽気であり、薄く庭には雪が積もっていた。
飛んだ先ではヒッターがコート姿で待ち構えており、不在中に変わった事がないかどうかの確認をする。これもほぼ日課である。食卓のある部屋に辿り着き見回すと、今日はウテナがいない。「あれ?ウテナはどうかしたのか?」とマリオンに尋ねると、少し険しい顔をしていたが答えてくれるようだ。
「それってどう云う時期かわかっていて聞いているのよね?」
「は、はい?」
「…この唐変木が。今朝あなたのいない間にウテナは破水いたしました。只今宮廷医師と産婆が掛かりきりになっております!」
「あ、あああああ!!!マジか!?」「ええ。本気と書いてマジよ。」「ヒッターの奴、なんで黙ってやがったんだ!」「ユーヤを驚かせたかったんでしょうね。」「飯ってる場合じゃねーじゃねーか、今すぐ行かないと!」「落・ち・着・け!男のあんたには何もできやしないんだから。ここで大人しくしてなさい。」
ほんの数秒のマシンガントークである。ユーヤは息を切らしているが、想定済みだったのであろう、マリオンは至極平静であった。「いいからお食べなさい。」と、少し怒気を孕んだ様子でマリオンはユーヤに食事を摂る事を促したが、ユーヤは居ても立ってもいられない様子でフォークが進まない。
1時間程して、オギャー!と云う声が反響して廊下から伝わってきた。ユーヤは勢いよく立ち上がって走って行く構えをとる。それをマリオンが制して「まだ終わりじゃないわよ。」と告げた。
「え?どういうことで?」
「まんまよ。もう一回くるわよ。」
「は?」
「いいから、落ち着いてゆっくり向かいましょう。」
そこへ侍従が笑顔で駆け込んで来た。
「陛下、おめでとうございます。お一人目は王女様です。」
―お一人目?
「ああ、ありがとう。すぐに向かいたいのだが部屋はどこだい?」
「まだお待ちください。もうお一人が顔を出してきておりますので。」
―もうお一人!?
「あんたには内緒でってウテナに言われてたから言ってなかったけど、双子よ。」
「え…双子!?俺以外はみんな知ってるとか?」
「まあ、近い人達は大概ね。」
ユーヤは複雑な気分で席に座りなおす。マリオンは相変わらずシアを抱きながら平静にお茶を啜っている。
やがて二人目の目醒めの声を聞き、侍従長が部屋にやって来るとにこやかに二人に声をかけた。
「お二人目は元気な王子様でしたよ。さあ、陛下いらしてください。」
ようやく席巻が許されたユーヤは、侍従長の肩を揉みながら「早く早く」と謂わんばかりに歩を進める事を促し、マリオンに呆れられていた。侍従長は「陛下。急がずともお子様達は逃げはしませんよ。」と微笑む。
部屋に入ると初産で双子であったためか、ウテナは少し憔悴しているようであった。
「大義であったと言わせてもらうよ、ウテナ。」
ユーヤがそう告げるとウテナは満面の笑みで「はい。旦那様。」と答えた。
傍らの小さな王女様と王子様は、早くもスヤスヤと眠っている。その様子を見たユーヤが「二人共将来大物になるな。」と呟くと、横からマリオンが「気が早いわよ。親バカもいい加減にしなさい。」と微笑みながらツッコんだ。
二人のやり取りを静かに眺めていたウテナが、マリオンに右手を差し出し握手すると「これでマリ姉様に並べました。」とニッコリと微笑み、マリオンの手をギュッと握りしめた。それに答えたマリオンは、今度は彼女を強く抱きしめた。ウテナに瞳で「陛下も」と言われた気がしてユーヤも一緒に加わった。
後から近習の者達も集まり、ヒッターなどは「坊ちゃん、いきなり二人も。しかも一つは分家が確定しましたなあ!めでたいことです。」とタップでも踏みそうな喜びようであった。王家の責務とやらの一端を、これでユーヤは果たした事になるのであろう。
おやつ時、早くも街には触れが出ており、夕方には盛り上がるであろう酒場の店主などは買い出しに大忙しであったり、各商店もお祝いバーゲンを既に始めていたりと、側室の子ではあってもクノン家のみとなってしまっていた王家にとって、また国民にとっても喜ばしい事であった。
その最中にエテリナもヴァルキュリアを各部隊長クラスに任せ、託児所からバレンティーノを抱えてその乳母侍従達までも引き連れて見舞いに現れる。
この時のウテナの喜びようは半端ではなく、出産間もないと云うのにベッドから飛び出ようとしたため、頭を押さえながらエテリナは急遽出産経験のあるヴァルキュリア隊員を呼びつけて、警護の名目の許にウテナの見張りを付けたほどだった。
城からの急使がハーゲン救護院に届いたのはその日の夕方の事であった。
急使の手紙には城への招待状も入っていた為、急いで行こうとジャンヌが荷物を纏め始めたのをマザーソレナが老いた体であるにも関わらず、「じゃ、ジャンヌ!?お待ちなさい!もう日暮れですよ。それにご招待は明日の午後です。焦る気持ちも判りますが、少しはこの老体の事も考えておくれ。」と、笑いを堪えながら止めに入った。
「失礼しました。母様…。お恥ずかしい限りです。」
「いいのよ。貴方達は姉妹のようにここで育ったのですもの、仕方のないことよ。」
マザーの微笑みに落ち着きを取り戻したのか、ジャンヌは引っ掻き回した部屋を片付け始める。すると、幼い頃にウテナが描いたジャンヌの絵が出てきたのであった。
「あ、これずっと探してた絵だわ。」
ジャンヌとマザーはその晩、その絵を見ながら遅くまで幼い頃の事を語り合った。あの娘が母になったのだと、幸せを噛みしめて。
そんなマザーとジャンヌが来城した頃には、ウテナはすっかりいつもの元気を取り戻しており、子供の名前もユーヤに直訴して来ていた。
「イズナとハヤテ。これは譲れません。」
「またなんでそんな名を?もうちょっと王族らしいのにしないか?」
「いいえ、ダメです。二人には将来ニンジャマスターとしてシア様を守ってもらうのです!」
「いや。気持ちは嬉しいが意味わかんねーよ。」
そんな夫婦間の小競り合いがあったようであるが、そこは正妻とマザー&ジャンヌがウテナの味方をした為、ウテナの希望どおりの名がつけられることとなった。
その様子をエテリナも見ていたのだが、彼女はあまりの馬鹿馬鹿しさに傍観を決め込み「相変わらずよね、ここの家は。」と、幼い息子を抱きながら溜息をついていた。
こうして寒い冬の時機を、リンドバウムの王城は越えようとしていた。そして間もなく春が訪れる事となる。
しかし、その春を知らせる風は思わぬ報を知らせて来るのであった。
「なんだと!?本当か!帝国が皇国に攻め入っただと!?」
それは突然の報であった。宣戦布告もないままにベルツ帝国は、隣国の愛理須皇国へと攻め入っていた。事態を察知したハンゾウは、知らせを出そうとした処を帝国に発見され、逃げ仰せはしたものの深手を負い連絡が遅れたようであった。
ユーヤはすぐにライガと連絡をとり、皇国隣接地帯である獣王区から皇国に援護を行う事とした。基本的に皇国は、オーガ大陸と海を隔てて隣接している為に最大でも保有戦力の半数ほどしか対帝国に兵を回せない。それ故に帝国側からの攻撃に対して抗い切れずに、既に国の半分近くを奪われているようであった。
ユーヤ達本隊は、王宮騎士団を筆頭にヴァルキュリアとテンプルナイツを掻き集め、各街には非常事態宣言を発令し、冒険者の集まりであるレギオンは、斥候として帝国との境界に即時に偵察行動を行ってくれていた。
「恐らく帝国が我が国に攻め入るとすれば、聖都からでしょう。秘密裏に進めた防御兵器の存在を連中は知らないはずですから、一番落としやすいと以前の陛下のように思っているはずです。」
ヨーンの説明に各幹部が首を縦に振る。この席にはヒューズもアドバイザーとして付いているが、あくまで引退した身であるので、ヨーンによっぽどの落ち度がない限りは口を塞いでいるようだ。
そんな軍会議の最中、新たな報が知らされる。
「先程、帝国より宣戦布告の知らせが入りました。」
会議場がどよめく中、ユーヤ、ヨーン、ヒューズ、ジード、そしてエテリナは瞑目していた。そして目を開いたユーヤがヒューズにある事を問う。
「どう思うヒューズ?この戦、ベルド皇帝の意思を感じられないと俺は思うのだが。」
「若、同感です。あのベルド皇帝が宣戦布告も行わずに皇国に攻め入り、リンドバウムに動向がバレてからの宣戦布告。おかしすぎます。」
「では、義父上と陛下はベルツで内乱がと?」
主要4人の目がヨーンの方を一斉に見据えた。考えたくはない事ではあるが、認めざるを得ないと云ったところであろう。
「我が軍は獣王区側に大半の戦力を送り込みます。そして、帝国の突端部から北上して押し上げます。この際に聖都及びその周辺の町が囮となってしまう状況ですが、これらには既に最新兵器を回してあります。各々三日は保つでしょう。」
そしてこの作戦の際には、逆に獣王クーガーがトライデル入りをし、侵入して来る帝国部隊を遊撃してもらう手筈となった。その副官にはヒューズが就く。
「フェルナンド、そう渋い顔をするな。街は焼かせない。防御兵器には絶対の自信を持っている。任せてくれ。」
街を囮にすると聞いたフェルナンドが、渋い顔をしているのをユーヤが気付いて説き伏せた。フェルナンドは「わかっています。わかっております。」と、渋い顔のまま答えていた。
「なんにしても、先程の宣戦布告の知らせによると、既に国境に於いてはミハイル卿率いるレギオンが戦端を開き、攻防を繰り返しているとの事です。急いで準備に入りましょう。」
それを聞いたエテリナが初めて口を開く。
「では、我々ヴァルキュリアの一部にはレギオンの応援をやらせて頂きたいと思います。」
「確かに。南からだけで押し上げられるものではないだろうな。俺が許す。」
ユーヤの返答にエテリナが大きく礼をする。誰も義弟を助けてやりたい姉の心を踏み躙る気はない。ヨーンは想定済みだったらしく、特に意義はない様子である。ヒューズが軽く溜息を吐いてはいたが。
そして即応できるヴァルキュリアの部隊が、その日のうちに数隊国境付近へと出動して行った。ウテナ不在ではあるが、元くノ一隊であるヴァルキュリア諜報大隊である。彼女達ならばもしも王城に何か起きても、必ずウテナと子供達を救い出してくれる。そう思ってのエテリナによる配置であったようだ。
次の日にはテンプルナイツが獣王区入りをした。王宮騎士団とヴァルキュリア本隊も宣戦布告から三日目には獣王区に入れるであろうと云う報告を受けて、ユーヤが聖神剣マリオネートを磨いている時にその報は届いた。
発生は朝早くであったが、事態が事態であった為に確認に時間を費やしてしまったようであった。
ようやく新章突入です。
無理矢理引き伸ばして、その間にあれやこれやとネタを煮詰めておりました。
そしてこの章は今までと違って、少し…
…結構?
…いや、それなりに?
戦記物としての内容になっております。
たぶん。(ぉい)
何にしても、ここまでお読み頂いている方が居て下さるならば感謝いたします。
※いつの間にか評価ポイントが4.3に…ありがとうございます!
PVも1000を突破しました。
ユニーク数は300を越えました。
本当にありがとうございます。
現在は、第三章の終焉近い辺りまで書き進めております。
ただ、今回は今までより少しボリュームが増えそうです。
尤も、普段4千文字を目標にしているのですが、3千5百文字前後くらいで切っている部分もちょこちょこあります。
そんなミツクラですが、応援よろしくお願いいたします。
これからもキャラクター達に愛をこめて制作していきます。
三ツ蔵 祥 ミツクラ アキラ June.18.2020




