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リンドバウム王国記~転生王ユーヤ~  作者: 三ツ蔵 祥
第1章 ―転生・ガロウ獣王国編―
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第参話 勇者王

描いてる内にウテナ嬢を気に入ってしまいました。

ほんのちょい役の予定だったんだけどなぁ…。

 転生から1週間半ほど経った頃、ようやく周辺国からの『地揺れ被害に対する慰問の使い』が到着しだした。

 勇者と女神の降臨に関しては箝口令を布いていた為、一応他国には伝わってはいないようだ。


 箝口令を布いた理由としては、長年魔王への出兵に関する徴用を列強国より必要以上に強いられて来たリンドバウム王国には、既に王族はアレクソラス13世以外が死去し、騎士団も貴族も半壊状態であった為、ここ数年は色々と免除されていたのだが、勇者と女神の降臨などと云う事が広く知られれば、また以前のような苛烈な徴用を強いられる可能性がある為だ。


 しかも降臨の際の事故(・・)によって、育ってきていた武と智両方の人材が同時に吹き飛んだのだ。いくら勇者と女神が居るとはいえ、現在の王国に徴用に応えるだけの余力はないのだ。


「陛下。北東のベルツ帝国よりの使者が参っております。」


「ローグ・ベルヌ宰相ではダメなのかい?ヒッター。」


 ユーヤが溜息交じりに言うと、ヒッター・ユング伯爵は、深々と礼の姿勢のまま落ち着いた声音で報告する。

 年の頃は40代、口髭が似合うダンディー。アレクソラス13世が幼少の頃からの側近である。


「先にベルヌ宰相閣下が、お相手したのですがどうしてもと粘られまして…。」


「勇者の魂を受け継いで、以前とは雰囲気の違う俺が出張って行ったら、変な事にならないか?」


「坊ちゃま、それは大丈夫かと。今の坊ちゃまは以前と比べて大変凛々しくお成りです。幼少からお側におりました私としては感無量…。」


 ヒッターは鼻を鳴らし、ハンカチで目元を抑えている。


「…坊ちゃまはやめてくれ(てか、その辺の記憶に関しては曖昧で恥ずかしいんだよな。)。取り敢えず使者の件はわかったよ。マリっぺを呼んで来てくれ。」






 謁見の間の王の玉座にユーヤ…アレクソラス13世が座し、その横の本来王妃の座にマリオンが座し、中央の絨毯を囲むように直立して重鎮達と騎士団幹部が居並ぶ。

 この威容は、ユーヤからすればいつまで経っても慣れる事が出来ない風景なのだが、彼の中のアレクソラス13世が踏み止めてくれている。


 この度は地揺れによる被害に遭われました事、大変に…と、ベルツ帝国の使者ローデル卿が、片膝立ちで恭しく頭を垂れて時事の挨拶を始めた。


 ―俺が出てくるまで粘ったんだ、何かあるんだろ?


 思惑とは裏腹に、平静を装って微笑みながらユーヤは相槌を打つような振りをしていた。


 そして不意にその場に居た者達からすれば、聞き捨てならない言葉が飛んだ。

「さて、勇者王様に於かれましては―」


「待て。その勇者王とは何だ?」


 ユーヤは思わず反応してしまい、使者の言葉を切ってしまった。使者は頭を垂れながら薄く笑った。恐らく、今の一言で使者は確信したようだ。


「おや?こちらの情報では、アレクソラス13世陛下に勇者様が、そしてそちらのマリオネート妃に於かれましては女神が降臨成されたと聞き及んでおりますが?」


 ―ミスった。痛恨のミスだ!てか、マリっぺは妃じゃねえよ!許嫁であって、まだ代理だコラ!


「で、帝国の使者殿は何をお望みなんだ?はっきりと申してみよ。」


 ユーヤは自棄を起こしかけていた。側近や重鎮達もざわめき立っている。


「お話が早い。さすがは勇者王です。」


 使者はニっと笑みを浮かべた。


 ―て、言うかな、その勇者王って云うのはやめろ!ガガガとか聞こえて来そうで恥ずかしいだろ!


 場に不似合なユーヤの心の絶叫は、誰にも届いてはいない。


 使者曰く、この情報は他国にはまだ流してはいない。いくら勇者が降臨したとて、現況リンドバウムは疲弊状態からは立ち直ってはいない。故に、まだ出兵などの徴用強要を帝国は望んではいないとの事だった。


「では、何を望む?」


 ユーヤは使者を睨み付けながら言葉を発した。使者はゆっくりと目を瞑り、幾何かの後に答えた。


「我が国との貿易に関わる関税を撤廃…とは行かなくても、引き下げて頂きたい。」







「ユーヤ、あんなの承知しちゃって良かったの?只でさえ国庫はキツキツの状態なのよ?わかってんの?出兵要請された場合とそんなに状況的には損失が変わらないんじゃないの?バカ?あんたバカなの?だいたい―」


 謁見の間では大人しくしていたマリオンだったが、会見を終えテラスに来てからは、憂さを晴らすように喋り続けている。


 ヒッターがユーヤの後ろで苦笑いをしている。そして、耳元に小声でマリオンに聞こえないように囁いた。


「坊ちゃま…将来大変ですな…。このままでは、確実に尻に敷かれますぞ。」


 マリオンの言葉に愚痴が入りだし、ユーヤの額にも青筋が浮かび出していた。故に彼は禁断の呪文を放った。


「マリっぺ。伏せ!」


 ゴン!と実に気持ちいい音がテラスに響く。マリオンはテーブルに勢い良く伏せて頭を強打したらしい。


「どうだヒッター。これで貴様の心配事は一つ解消されたであろう?」


「坊ちゃま!お見事です!」


「なにがお見事だ!オラァア―」


 今度は鈍い音が鳴り響いた。マリオンの後ろに控えていたエテリナ嬢が拳を握っている。自らの主である姫様の頭頂に、鉄拳制裁を喰らわしていた。


「姫様、いくら許嫁とは謂え過ぎますよ。」


 エテリナ嬢は、ユーヤに一礼するとそのまま主であるはずのマリオンをズルズル引き摺って退場した。ユーヤとヒッターは同時に言葉を発する。


「「女って怖いな(ですな)」」




 ユーヤが紅茶を啜り、落ち着いた頃、ヒッターはユーヤに問いかける。


「しかし、マリオネート様の仰ることも確かです。如何するおつもりなのですか?」


「ああ、宰相とも少し打ち合わせたんだけどな。関税は引き下げる。そして、関所における通行料も引き下げようと思うんだ。」


 ヒッターが「はい?」と首を傾げる。


「どちらにしろ帝国からは脅されてるようなものだ。関税に関してはやらねば他国に情報を流される。ならそこは譲歩して、いっそのこと商人や平民の通行もし易くして、現在よりも人の流れを活発にすれば自然に経済も回る。そういう方向で改革しようって事さ。」


 ヒッターの瞳が驚愕した色になる。


「坊ちゃま…立派に成られて…。今、ヒッターは感動に打ち震えております!」


 目元にハンカチをあてて、当主の成長をヒッターは喜んだ。


「さて、その為にも少しばかり掃除をしないとな…。ウテナはいるかい?」


「はっ!陛下。」


 テラスの脇の茂みから、忍者のように跳躍してユーヤの目の前にウテナが現れた。


「お前…段々色んな意味で磨きがかかって来てないか?」


「お褒めに預かり恐悦至極です。なんなら陛下のご寝所まで警護いたします。」


 クールビューティーなその顔を紅色に染めて、ウテナはイヤンイヤンと照れている。褒められたと思ったらしい。


「主であるマリっぺを差し置いて凄いこと言うなぁ…。ま、まあいいや。ウテナ、お前向きの仕事がある。ちょっと頼まれてくれ。実際にはお前だけじゃなく他にも数名騎士を回す。やってくれるか?」


「陛下のご用命ならば、この命をかけて!」


 騎士らしい格好いいセリフで返しているのだが、ウテナの紫色の双眸は少女漫画のキャラクターのようにキラキラし、両手を合わせてやはりイヤンイヤンしている。


 ―エテリナ、大変だなぁ…。主も同僚もこんなのって…。







 闇夜に黒装束の女が走る。

 女はある扉の前まで来ると、不意にスっと左手を上げ何やら合図をしている。

 そして、その合図と共に闇から一人、また一人…。


 ―コンコン。扉の前の女がその扉をノックした。


 ギィっと扉が開く。


「あれぇ?誰もいねぇじゃねぇか?」


 扉から出てきた男は、如何にもゴロツキとかチンピラと云った風体だった。男は扉から離れて、二歩程進みながら辺りを見回す。やはり、誰もいない。


 仕方なく男が扉の方を振り返ると、ゴっと夜の闇に鈍い音が鳴り響いた。男はそのまま白目を剥いて倒れ伏した。


 翌日、盗賊ギルド等の犯罪ギルドの隠れ家の大半が壊滅していた。その壊滅した隠れ家には、『成敗!』と書かれた紙切れが落ちていたと云う。


 そしてこの怪事は街のみならず、翌日翌々日には街道周辺の野党の隠れ家でも発生していた。


 何処の誰の行いだろうか?


 それは、お空のお月様と陛下だけが知っている。







 犯罪系のギルドや、野党のアジトが粗方掃除されて2~3週間の間に、アレクソラス13世は下級騎士を街や街道に駐在させる『駐在所』を設置した。設置には想像よりも費用はかかっていない。


 何故なら、潰された隠れ家をそのまま駐在所として再利用したからだ。


 また、小さい村落の駐在所に関しては、冒険者ギルドに業務を委託した。これにより僅かだが雇用が生まれた。


 こうして安全な街づくりと、安全な交通路を確保し、安い通行料のおかげで少しずつ、リンドバウム王国は近隣諸国からの人や物資の流入が増えて行った。




 王宮のテラスではポカポカ陽気の中、ユーヤとローグ・ベルヌ宰相とが歓談していた。ユーヤの横にはマリオンが座り、二人の後ろにはヒッターとエテリナ嬢が直立して控えている。


「陛下、改革計画は万事順調です。陛下の遣わした影達の働きにも感謝いたします。」


 ベルヌ宰相は顔も体も豊かな肉付きをしていて、その丸い顔から放たれる笑みは誰が見ても幸福に包まれそうな、そんな優しさのあるものだった。


「いや、宰相の今までの弛まぬ努力があったればこそさ。でなければ、王とは謂えこんな若造の話なんか冒険者ギルドだって、商人達だって聞いてはくれないよ。」


 ユーヤとベルヌ宰相の顔は満面の笑みだった。だが、そんな笑みをぶち壊す一滴の滴がテラスに落ちる。


「ねぇ、その今チラっと話しに出た『陛下の影』って何?」


 その一滴は、純粋な疑問から発したのであろう。しかしマリオンの問いに、ユーヤは口に入れかけていた紅茶を吹き出しそうになった。


「それはですな、陛下の為に影に生きるうら若き乙女達!その筆頭たるはクレィル隊副官ウ―」


 ユーヤは焦って宰相の口を塞ごうと立ち上がった。


 が、時既に遅し。


 自らにお声がかかったと勘違いをしたウテナ嬢が、毎度の事のようにテラス脇の茂みから跳躍して現れた。片膝を付いて。


「陛下!お呼びにより貴方のウテナ、参上つかまつりました!」


 マリオンは口に含んだ紅茶を全開で吹いた。その後ろではエテリナ嬢が全開で目を剥いている。


 ―ああ、マジか…。なんか『貴方のウテナ』とかぶっこいてるし…。


 頭を抱えながらユーヤは遠くを見た。


「ちょっとユーヤ…いくら建前上の許嫁とは謂え、なにこれ?許嫁の部下に手を出すとか信じらんない!てか、ウテナ!あんた最近見ないと思ったら主人を放ったらかして、何やってんのよ!」


「今の私のマスターは陛下であります。すでに身も心も陛下に捧げておりまする。ポッ」


 ウテナ嬢は頬を染めながら、恒例のイヤンイヤンをしている。


「身も心もって…ユーヤァァア!!?」


 鬼の形相で立ち上がったマリオンだったが、既にユーヤの姿はテラスにはなかった。


 そう、くノ一軍団の棟梁たるアレクソラス陛下もまた、彼女たちに負けず劣らず俊敏なのだ!




 エテリナ嬢は空を見上げながら、何やらブツブツ言っている。唇の動きから察するに「不幸だわ…私って不幸だわぁ…」と言っているようだ。


 主にも同僚にも恵まれない彼女に、果たして春は来るのだろうか…。

登場人物


ユーヤ・クノン:本名、久能佑哉。主人公。転移事故の為アレクソラス13世の肉体に転生。戦神サガの分け御魂を内に持つ。


マリオン:たぶんヒロイン。元女神、現在亜神。子孫であるクレィル侯爵家息女マリオネートに憑依している。ユーヤと戦神からはマリっぺと呼ばれている。建前上はアレクソラス13世の許嫁。


ヒッター・ユング伯爵:アレクソラス王の幼い頃からの側近。口髭の似合うダンディーな四十路。どうしてもユーヤのことを坊ちゃんと呼んでしまう。


ローグ・ベルヌ宰相:リンドバウム王国の内政を取り仕切る偉い人。


エクステリナ・アンダーソン:愛称はエテリナ。マリオンのお付きにして王宮騎士団副団長。クレィル隊隊長。苦労人。


ウテナ・ハーゲン:本来はマリオンのお付きにしてクレィル隊副官。現在はいつの間にかアレクソラス13世直下の影の軍団くノ一隊筆頭。見た目はクールビューティー、中身はポンコツ。



影の軍団詳細

恐らく、本編で詳しくその活動内容をこれから先描写する可能性が低いので、ここに書き記します。

主に諜報活動をメインにした、アレクソラス13世直下の諜報部隊です。しかし「影の軍団」の名が示す通り、時に暗殺等の仕事も請け負います。普段はそれぞれ別部署に所属し、基本的には秘匿されています。ウテナの場合、ローグ・ベルヌ宰相に大変気に入られてしまった事と、本人の性格が性格の為(隠密なのに自ら名乗りを挙げそうな性格)、身バレしてても致し方ないかと…。

因みに私の設定の中では、影の軍団の所属員は騎士だけでなく冒険者や、冒険者ギルド職員も含まれています。


諦めずに本編を全て描き終えられたら、外伝として描きたいなと思っています。勿論、ウテナ嬢メインで。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が勘違い系ではなく知性的で好感が持てる。少し抜けたところがあるのもまた魅力的です。既にキャラが一人で動いているのではないかと思うくらいで、キャラの表情や動きが目に浮かぶようです。 […
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