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リンドバウム王国記~転生王ユーヤ~  作者: 三ツ蔵 祥
第2章 ―戦神のダンジョン編―
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第参拾六話 ミハイルの想い

「あら?ミハイルじゃない。いらっしゃい。」

「義姉上。お邪魔いたしております。」


 ミハイルは父の館の帰りに、その隣の兄夫婦の家に寄っていた。甥っ子の顔を見る為と、兄に愚痴を聞いてもらう為にである。そしてメイドに通されリビングで待っていた処に、義姉であるエテリナに歓待されていた。


「あの義姉上(あねうえ)、バレンティーノは?」

「ふふふ、ごめんなさいね。もう寝てしまったわ。義父上様の処で長居しすぎたからよ。」

「ああ!やっぱり。次からは父上を振り切って早めに参ります。」


 そしてミハイルが、甥っ子の寝顔だけでもと言いかけた所へ、メイドから「奥様失礼致します。旦那様がお帰りになりました。」とエテリナに告げられた事で、ミハイルは今宵は天使の寝顔を諦めた。


「おかえりなさいまし。旦那様。」

「ただいま戻りました。エテリナ。」

 エテリナの嬉しそうな微笑みに、ミハイルは少しの間見惚れてしまう。そして兄に、ほんの少しの嫉妬を込めて挨拶をした。

「兄さんおかえり。綺麗な奥方と可愛い息子を遅くまで待たせるなんて、罪だねぇ。」


「おお、ミハイル来ていたのですね。と、云う事は…また父上のアレですかね?」


 御名答と言うように、ミハイルは溜息をつきながら両手を広げておどけて見せた。


 アレと云うのは、いまだに独り者のミハイルへの見合い話である。ミハイルもわかっているので、あまり父の許へ早い時間には行かないことにしている。早い時間に行くと、見合い相手が待っていたりするからである。


「いっそのこと諦めて、誰か決めてしまえばどうです。毎度愚痴を聞かされる私の身にもなって欲しいものですよ。」


 ジードがエテリナにコートを脱がしてもらいながら、ミハイルに零した。それをエテリナが「可愛い弟の話しくらい聞いてあげてても、何の罪にもなりませんわ。兄としてちゃんと聞いてあげるべきです。」と諭して、兄は仕方なさそうにソファーに座るのであった。


 そうして、エテリナがジードの脱いだ着衣を持って退出すると、ミハイルが口を開いた。


「確かに兄さん達を見てると羨ましくはなるんだけれどねぇ。でもなんかそれだけでお腹いっぱいになると云うか…。」

「みなまで言わないでください。言われるこっちが恥ずかしいのですから。」

 確かに兄の顔は少し赤くなっていた。


 この兄弟の見た目はよく似ている。美しい黒い長髪に切れ長の目、そして特徴的な尖った耳。ただ一つの違いと謂えば、兄のジードが美しい白い肌であるのに対して、弟のミハイルは健康的な小麦色の褐色の肌であったことだ。この点に関しては、ジードの方がより多くのエルフの特徴を持って生まれた事に起因するようだ。ガンプ家は元来褐色肌が基本らしい。


「しかし、貴方もよくしょっちゅう聖都と我が領地とを行ったり来たりしますね。嫌ならば父上のお呼びを適当に躱せばいいのに。」

「レギオン総司令の特権とやらを陛下がくれたんでね。こことトライデルへの行き来は苦労しないんだよ。」

「ああ、うちにもあるアレですか。転移ゲートですね。」


 そう、ミハイルの在住している戦神のダンジョン一層のレギオンハウスには、ユーヤの独断によって転移ゲートが設けられており、それらはトライデルとその東に旧領地から転封となり、新たにガンプ領となったゼルグの町に繋がっているのだ。これを使えるのは、ユーヤからそのゲートの鍵を渡された者だけになっている。


 ゼルグには勿論魔導列車の駅もあり、ジードとエテリナは毎朝、転移ゲートを使わずに列車通勤をしている。これは街の発展の様子や住民達の暮らしぶりの視察を兼ねて行っていた。

 余談であるが、今ではすっかり夫婦での出勤は街の皆が知るところとなり、朝早くこの二大騎士団団長夫婦に一目お会いしようと、駅には行列が出来るようになったのであった。


「何にしても、どこのお貴族様の令嬢を連れて来られても、僕は首を縦に振る気はないよ。義姉様のような器量良しでも現れれば、少しは考えるだろうけどね。」

 ミハイルは冗談めかしていたが、事実義理の姉であるエテリナに心惹かれていた。嘗て彼が道場通いをしていた十二の時に、彼はエテリナに会っていたのだ。

 それは一目惚れであり、初恋でもあった。




 まだミハイルが十二の時、いつもの道場帰りに数人の女性を同伴して彼はとあるカフェに立ち寄った。

 伯爵家の名に惹かれて集まって来た女達に、彼は内心では嫌気がさして居た。しかし、適当にあしらって伯爵家の変な噂でも流されては困るので、彼は仕方なく侍らせていたのだ。


 兄のジードにも似たような取り巻きはいる。しかし、ジードは伯爵家長男であるために手が出し辛いため、それ程数は多くなく家柄も厳選されていた。なら次男であるミハイルであるならと、既成事実さえ作ってしまえばこちらのもの!と言わんばかりの猛アタックを毎日繰り返していたのだった。


 カフェでいつも頼む紅茶を頼み、キャイキャイ騒ぐ女子達の話しを、どこか遠い目でミハイルは聞いていた。そして何の気もなしに通りを眺めていた。


 通りにはどこかの年端もいかないお嬢様と、側付きであろうミハイルと同じ位の年の女の子が、何かを探してキョロキョロしていた。他の家人と逸れてしまっていたようだ。何処の姫様なのだろうとミハイルは記憶を辿った。


「あれはクレィル侯爵家の御息女のマリオネート様と、その側付きのエクステリナ嬢ですわね。あんなにキョロキョロソワソワと…御可哀想に。」


 連れの女性の一人が、哀れみの言葉とは裏腹な笑みを浮かべてミハイルに告げた。それに同調して他の女性達も言葉面だけの哀れみ合戦が始まった。


 ―ああ、やっぱりこいつ等はロクでもない。他人の不幸は蜜の味とでも云うのか。

 そんな怒りとも云える思いがミハイルを動かした。


「悪いね、僕は用事を思い出したよ。お代は出しておくから、君等は適当に引き上げてくれないか?」


 ミハイルのあまりにも冷たい視線を恐れ、一同はそそくさと席を立って行った。


 煩い取り巻きが消えたのを見計らって、ミハイルはクレィル家主従の許へ足を向ける。しかし、少し遅かったようだ。すでに街のゴロツキ達に、主従は包囲されていた。


「お嬢ちゃん達ぃ、おうちの人を探してるんだろう?おじさん達が案内してあげるよぉ。」


 ブヨブヨに太った大男が彼女らに歩み寄って行く。クレィル家の令嬢は怯えてしゃがみ込んでしまっているようだ。


 ―まずい!

 ミハイルは無意識に走り出していた。


「貴様ら!ま―。」

 ミハイルが叫び終わる前に事態が思わぬ方へと動いた。ズドッと云う鈍い音の後に、男の手首が吹き飛んだのだ。男は手から血飛沫を上げながら転げ回り、周りの者達は何が起こったのかを理解出来ずに固まっていた。


 お付きの少女…エテリナの手には、まだ彼女には大き過ぎる程の大剣が握られていた。そして彼女は周りの男達を睥睨すると、吐き捨てるように男達に告げた。


「我が名ははエクステリナ・アンダーソン。我が主、マリオネート・クレィル様に少しでも手を触れてみよ。その命が惜しくなければな!!」


 完全に男達は気圧されてしまった。ヒィっ!と、情けない声を上げながら散り散りに逃げ出したのだった。

 男達が逃亡すると、エクステリナと名乗った少女は自らの主を気遣い「姫様、お怪我はありませんでしたか?」等と微笑みながら声をかけていた。主は多少の怯えを見せていたが、その笑顔に勇気づけられて、まだ幼い従者の手を取り微笑み返した。


 ―美しい…。なんて素敵な笑顔なのだろう。


 ミハエルは茫然とエテリナを見つめていた。





 ミハイルは、自分の想い人が兄に嫁入りする噂を聞いた時には酷く落ち込んだ。しかし今は義姉となった想い人と、その子供である甥っ子の為にも少しでも国を良くしたいと云う思いで、日々働いているのであった。



「そうですか…。うーん。エテリナのような女性なぞ、まずそこいらには居ませんしね。困った弟ですね。」

「兄さん…。それは惚気(のろけ)ですか?(くっそー!爆発しろ!!)」


 兄は弟の想いなど知るわけもなく、笑顔で「そうかもしれませんね。」と悪気もなく答える。


 そんな兄にミハイルは呆れながらも「この人の鈍さは相変わらずか…これからも、影から支え続けてやらないとダメなんだろうな。」と心の中で呟きながら、溜息をつくのであった。

なんかね、幸せそうな人物ばかり描いてしまっていたので


申し訳ないがミハイル君!君には不幸とまでは謂わないが

絶対成就しない位置にいってもらうよ!!


そんなノリです。(爆)


*次回で新章突入…にはなりません。(爆)

外伝を挟みますので、よろしくお願いいたします。

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