第参拾参話 ダンジョンと副産物
薄暗い部屋の中、モニターと睨めっこをしているユーヤがいた。
何かを思い付いてはキーボードを打ち鳴らしている。そして、たまに息抜きのように各階層の致死率等を確認しては階層のデータを弄っている。あまりに致死率の高い罠は排除しているようだ。
以前のこのダンジョンの目的は戦神の遺物を守る為にあったようなのだが、現在はユーヤが所有管理している。これらの操作は自国の兵や冒険者達の実力の底上げが目的である。
その為あまりに危険すぎる罠は、極力排除するようにしているのだ。
そして最近では、多くの者達が戦闘エリア全三層の攻略を終えてしまっていた。そこでユーヤは今までのデータを元に、新たな階層の構築とモンスターの構成をコアルームで試しているのだった。
長時間モニター画面を凝視していたためか、ユーヤは目の疲れを感じて両の手の平で目をグリグリとマッサージしている。そして独り呟いた。
「いかんいかん。ビタミンシアが足りなくなってきたな。今の時間ならテラスかな。」
そう独り事を言いながらトライデル城内を映し出すモニターを確認すると、コアマザーに城内のテラスへの転移を命令してコアルームから転移した。
「おかえりユーヤ。毎度三時にはきっかり帰って来るのね。」「陛下。お疲れ様です。お茶の用意はできてますよ。」
テラスの椅子にふんぞり返っている正妻と、お腹が大きくなってきているのにも関わらずお茶の用意をする『御側室様』がそこには居た。そこは身分の差ではあるので仕方のないことではある。それでも周囲の侍女やら執事やらは、いくらお願いをしても動き回る『御側室』にオロオロしている。
マリオンの不機嫌な態度は恐らくそれが原因なのであろう。『マリ姉様』の注意すら聞こうとしないのだから。
「ああ、ただいま。ウテナ、皆が心配するから大人しくしろよ。俺もお腹の子が心配なんだ。マリっぺ、シアは?』
マリオンはテラスの芝生を指差し「そっちよん。」と一言だけ言うとミックスジュースに手を伸ばしていた。
ウテナは指を咥えながら「でもでも、だって。じっとしてるのって…。」と上目使いでユーヤに訴えていた。ユーヤは仕方ないなあと溜息をつきながら軽くおでこにキスをするとマリオンが指を差していた芝生の方を見た。
マリオンの母アンジェリカと芝生でハイハイして遊んでいるシアを見つける。
「義母君、ただいま戻りましたよ。」
笑顔で芝生へと向かいアンジェリカに挨拶をすると、アンジェリカも孫に向けていた笑顔をそのままユーヤへと向ける。そしてユーヤはシアの頭を撫でつつ抱き上げて「ただいま。お嬢様。」と微笑むのであった。
「この感じなら、あと1~2ヶ月で歩きだすわね。」
「本当ですか?あ、そうか来月には誕生日ですからね。」
日本で云えばクリスマスイブがアルテイシアの誕生日である。そう、既にリンドバウムは秋が終わりを迎え、冬になろうとしていたのだった。
王都トライデルと聖都の間で、魔導炉エンジン搭載の鉄道の試験運転が開始されてから一週間が経っている。ある程度の安全性が確認され、また改良などが施され、何とかシア姫の誕生日までには運用試験を全て終えられる目途が立ったようで、正式なお披露目及び開業はシア姫の誕生日に決定した。
その日は運転車両のすぐ後ろは王族専用車両が連結し、次が貴族専用車両でその後ろが食堂車となり、一般車両は後ろに五両連結する予定となっている。
前二両、王族車両と貴族車両はあくまで式典用であり、普段は運用されない。
線路は順次拡張されて行く予定で、現在獣王区のマジンゲル行きレザリア経由路線と、同経由で城塞都市アルガス行きの路線が建設中である。二年後には完成予定となっている。
リンドバウム市行きも建設中ではある。しかしこちらは途中に山があるため、それを越えさせるかトンネルを作るかで議論が分かれてしまっている。その為こちらの完成は五年後くらいと見られている。
「試験中にトラブルがあったみたいだけど、それはどうなったの?」
珍しくテラスにフェルナンドが息抜きにやって来ていたのだが、鉄道の開業がシアの誕生日と聞き、マリオンが気になってフェルナンドに尋ねていた。
「ああ、それですか。蒸気力と魔導力の相性があまり良くなかったので、魔導力エンジンをメインにして蒸気機関部を別にした上で、魔導炉の不具合の際の補助のエンジンとして載せ替えました。」
そう、結局予定よりも魔導力エンジンの出力が出る事もわかったので、蒸気機関は補助役に変わったということだ。ユーヤは煙を上げて走る所を見たかったらしいが、それは見世物としてしか使われる事が無くなってしまったようだ。
「それに今回の鉄道事業によって凄い副産物も得られましたし、概ね順調なので安心してください。」
笑顔でフェルナンドは返答した。
「副産物と云うとどう言ったものなのでしょうか?先日から旦那様もずっとそのような話をされていたのですが。」
ウテナは興味津々と言った表情である。
「それは俺が答えるよ。魔導力炉の安全性と効率化がこの数ヶ月で図れたので、それを使って発電施設を作ろうとしてるのさ。」
「「発電施設?」」
マリオンとウテナの頭に大きなクエスチョンマークが見えるようだ。
「あ、そうか発電て謂われてもこっちじゃ通じないよな。その原理とかが解明されてないんだもんな。」
ユーヤは出来る限り詳しく『電気』と『発電』について二人に聞かせた。高校生レベルまでの知識量しかないので『だいたいこんなもの』程度の説明ではあったが。
「凄い技術が異世界にはあるのね。それを魔導力炉で代わりに発生させようって事でいいのよね?」
「その通り。そしてこれが成功すれば王城どころか、各家庭で火や魔法ではない第三の灯りが消えることなく灯るようになるってわけさ。そしてその為の器具も、今ダンジョンの工場で製作量産中だよ。」
紅茶を片手に、得意げにユーヤは語った。
そう、既にユーヤは先を見越して電気による照明器具を量産体制に入っていたのだ。これらが国庫にどれ程の財源となるのかと、ユーヤは今から皮算用しては涎を垂らしていたりする。
「本当に陛下のダンジョンの工場には助けられてますよ。資材も必要なければそれに係る費用も人件費くらいしかない。そのおかげで線路の部材はほぼ無料と言ってもいいくらいで手に入っていますしね。」
フェルナンドの目がキラキラしている。
「いや、まるっきり何も必要ないわけじゃないよ。普段ダンジョンを利用している人達の消費する活動エネルギーが、ダンジョン内のマナへと変換されて、そのマナが資材になってるんだよ。つまり、あの国営宿泊施設やらといったフェルナンドが行なったダンジョン内の開発によって、人の流入が激しくなったおかげなんだから。」
「なるほど…私も観光資源としか思ってませんでしたが、あれらは全てダンジョンのエネルギーとなっていると云うわけですね。勉強になります。」
フェルナンドは二杯目の紅茶に砂糖を入れて、スプーンでかき回す。それに倣うようにユーヤも三杯目に手をかけていた。
ウテナはお腹に手を当てつつ二人のカップの具合を見て、侍女に「ごめんなさいね。ポットに次の湯をお願いします。」と指示している。
ウテナに「ごめんなさい」と謂われた侍女は「滅相もございません!私が気付かなければいけない事です。大事なお体の御側室様に気を遣わせて申し訳ございません!」と、かなり慌てていた。まだ新人さんであろう。
一方では、お腹が減ったらしくシアが泣き出したので、マリオンは乳母と共にシアの遊んでいる芝生へと走って行っていた。
それを見ていたユーヤは「シアにもそろそろ遊び相手…お付きになるような相手が必要かな。」と微笑を浮かべながら呟いた。すると、フェルナンドが少し控えめに進言する。
「陛下、実はうちの娘が三歳になりまして…。陛下さえ良ければ、来年の夏あたりからお仕えさせましょうか?」
「え?いいのかい?!確かセーラだったっけ?」
ユーヤは何度かフェルナンドの家にお忍びで遊びに行っていて、名前も容姿も知っていた。茶色い髪はウェーブがかかっていて、目はエメラルドグリーンの輝きを持った女の子だったと記憶している。そのエメラルドグリーンの瞳が可愛くて、何度も抱っこさせてもらっていたのだ。
「それ、良い話しね。私は乗ったわよ。」
マリオンがシアを抱きながらテーブルに戻って来ていた。
「茶髪のお付きに、紅色髪のお姫様。どこかで見た光景でしょ?」
「そうだね。いい関係を築けそうだ。」
王家夫妻の笑顔に、フェルナンドは「ありがたき幸せであります。」と、立ち上がって頭を下げた。
「五歳か六歳になるまでは心配だろうから奥方もセーラの同伴者として出仕させて、食事もお茶も親子でここを使うといいよ。給金も出させるし、誰にも文句は言わせないから。」
ユーヤの一言にフェルナンドは居ても立っても居られなくなったようだ。「今日はこのまま暇を頂いて宜しいですか?」と言い、ユーヤが許可を出すと走って庁舎に向かい、そのまま走って帰宅したようだ。
次の日には奥方とセーラ同伴で朝早くフェルナンドがテラスに訪れ、奥方からは「この度は誠に栄誉ある―」と礼を言われ、セーラはよく解っていないながらも、一所懸命に家で練習して来たであろうお礼の言葉をユーヤ達にたどたどしくしてくれたのだった。
それは、まるで幼稚園の面接のような光景だなとユーヤは思った。
そして、お顔合わせと云う事でシアとセーラを対面させた。
セーラは「はじめましてアルテイシアさま。わたしはセーラ・ロータスともうします。こんどのなつからになりますが、よろしくおねがいします。」と、主になる赤子に精一杯の笑顔と挨拶を母の助けを借りながらもしていた。
シアは勿論わかっていないらしくマリオンの腕の中で「せーあー、あーうー」とか言いながらセーラの手をニギニギしている。セーラはそれを握手をしてくれたのだと喜んでいた。
そんな姿を見て、やがてはこの主従もマリオンとエテリナのような関係になってくれれば嬉しいと、ユーヤもマリオンも、そしてウテナも思うのであった。
んー…。
どれか一つに絞ればいいのに、なんか色々と散らかしてしまったような?
でも一回えい!と散らかすと、意外にそのずっと先の話しが描き易くなるものなんですね?
自分でびっくりしました。
2話分ほど描けてしまいました。
ただ、どこでどう繋げようか悩む…。
そして暫くはダラダラとこの章を続けます。
本当にダラダラと。
この先の先を描く為に鞭を打っているところです。
そういう訳で、残りの数話は大変お見苦しい事になっているかも知れませんのでご容赦ください。
次の投下時間は明日の朝8時になりますので、よろしくお願いします。




