第参拾壱話 ダンジョンマスター
『ユーヤ・クノン・アレクソラス・ゾル・サーティン様。登録を完了致しました。あとは任意のコマンドで御命令ください。あと、前任者からの伝達がございます。前任者の持ち物であった『青紅の鎧』を、ユーヤ・クノンに与えるとの事です。』
「わかった。『青紅の鎧』をここに寄越してくれ。」
『畏まりました。転送コードオープン。』
「それが終わったら第四層を第一層に移動させてくれ。それと一般の者も通行出来るようにしてくれると助かる。」
『了解しました。』
ヴィヴィヴィと云う音と共に、件の『青紅の鎧』がユーヤの前に現れると、続いてゴゴゴゴゴと云う地鳴りが響く。フロアが移動する音であろう。
「とりあえず、今はこんなもんか。」
そうユーヤは呟くと、早速サガの鎧を着用する事にした。
青紅の鎧は、オリハルコンとアダマンタイトの二つから精製されたフルプレートであった。その大部分は青く光り、装飾などは赤く光っていた。
着用してみると、鎧は着用者の体系に合わせてフィットした。内に流れる魔力量も凄まじく感じ、体力と魔力を回復する能力を秘めていた。
ユーヤは少しホっとした。あのSSSのことだから、筋肉強化ギプスとか、そう云った装着者に負荷をかけるような機能が付いていやしまいかと不安だったのだ。
そればかりか、フルプレートであるにも関わらず、全く重量を感じさせないのだ。
「それじゃ、仲間達の場所へ俺を転送してくれ。」
ユーヤがマリオン達の場所に転送されると、マリオンとウテナが大輪の花を咲かせたような笑顔でしがみ付いてきた。遅れて、他の仲間達も駆け寄る。
「なにやってたのよ!心配してウテナが今にも泣きそうな顔になって、私まで…。」
マリオンが、大粒の涙を零しながら抱きついているその腕を、更に強く強く抱きしめる。ウテナもボロボロと涙を溢れさせていた。「陛下に…陛下に…置いて行かれたかと思いました。」そう言うウテナの顔は、まるで捨て犬のような哀れな表情になっていた。
「ごめん。心配かけた。ミッションオールクリアだ。」
そう言うと、ユーヤは優しく二人の頭を撫でて、それぞれの頬にキスをした。
「ささ、取り敢えず拠点まで帰りましょう。」
聖女が少し涙ぐみながら背中を押して来た。
「そうだな。フロアの入れ替えも完了しているみたいだし、今夜は拠点でお祝いだ。」
「え?ああ、さっきの地揺れがそうだったんですな?」
ヒッターがそう言うと、皆も納得したようだ。
「じゃ、みんな俺の近くに居てくれよ。管理者権限オン!拠点へ全員転送!」
「「「え!?ちょ、待ってください陛下!」」」
離れて見ていたジード、ライガ、ブランが慌てて駆け寄った。
シュボっと謂う音と共に、一瞬で拠点へと辿り着いた。
エレーナとロイエルが鼻血も出さんほどに興奮している。「凄いすごーい!お義兄様凄すぎです!」「一瞬でこの距離を行けるなんて、スキルいらずじゃないですか!」
「まあ、このダンジョンの中では無敵かもな。」
そう言うとユーヤは含羞みながら微笑んだ。
その晩は毎度の如く宴会となり、毎度の如くの狂乱の夜となった。そして朝目覚めたユーヤの両側には、嫁二人があられもない格好で寝ていた事は言うまでもない。
ユーヤは朝の紅茶を、拠点である別荘の三十畳以上はある広いリビングでヒッターと聖女と共に飲んでいた。マリオンとウテナはまだ起きて来ない。
「坊ちゃん…どれだけ昨夜は頑張ったのですか?」「聞くな。」「奥方二人はダウンしたままなのに、その二人を相手に普通に起きて来られる坊ちゃんの精力の強さを疑っているのですよ。」「陛下ってば、絶倫ですよねー。」「聖女…見たように言うな。」
鳥の囀りが聞こえる。気持ちいい筈の朝に、不似合な会話が流れる。
ロイエルがノックをすると、足早にユーヤの傍に来た。
「陛下。城からの使いの方々がみえております。」
―うん。ここから見えてた。一週間以上もクリアに時間かけたもんなあ。心配してくるよなあ。
「使いの方の一人はエクステリナ様と仰っていました。」
ブッと三人が同時に紅茶を吹いた。
「エテリナだと!?来月には出産だろあいつは!」
「すいませんね。大きなお腹で来てしまって。」
ひぃっ!と、ヒッターとユーヤが叫んだ。そこには大きなお腹をしたエテリナが立っていた。
「驚きすぎですよ二人共。聖女様、ご機嫌麗しく存じます。」
「ええ、どうもエクステリナさん。新都からだと二日くらいの旅ですよね。お腹の子は大丈夫なんですか?」
聖女は普通に対応していた。豪胆とかではない。天然なのだ。
「と、言いますか…陛下!どれだけ連絡もなしに籠ってらっしゃってるんですか!攻略が終わったのなら、とっとと帰って国の皆に顔を出すべきではないのですか?!わかっておいでですか?」
ヒッターとユーヤはお説教をされている子供のように、小さくなってしまっている。
「まあ、そう怒らずに。クリアしたのは昨日の事で、昨晩はそのままここで祝勝会をあげていたのですよ。」
ニコニコと聖女が説明をしてくれている。
「ん?あれ、でもよくここがわかったな?」
ユーヤが冷静になって(話を逸らすために)エテリナに質問をした。しかし。その答えは別の人物から返ってくる。
「あ、余計な事とは思ったのですが、私が丘を上って大教会の方に昨日知らせに行っておきました。」
優等生なロイエル君である。
―マイナス3ポイント。
ユーヤはロイエルの謎ポイントを心の内で減点していた。
「いやあ、だとしてもエテリナ早すぎだろ。計算合わないじゃんか。」
ユーヤの疑問は尤もである。わけを聞いてみると、どうやら国許では三日もすれば出てくるだろうと踏んでいたらしく、五日過ぎても出てこない報告を受けて急遽人を出す事になっていたそうだ。
それを聞いたエテリナは、居ても立っても居られず周りの反対を押し切ってヴァルキュリア数名を引き連れて出立して来たそうだ。何しろメンバーの中には長年勤めて来た姫と、妹分とも云える懐妊したてのウテナがいるのだから心配で仕方がなかったそうだ。
「ん?あれ?旦那の心配はしてないのか?」
「亭主元気でうんぬんと申しますでしょ?王宮騎士団の団長が早々どうにかなるとは思っていませんわ。」
ユーヤはヒッターと目を合わせると、無言で頷きあった。―母は強し
そんな会話をしていると、二階からウテナとマリオンが降りて来た。そしてリビングにいるエテリナを見て二人共目をパチクリしている。
―夢よね?まだこれ夢よね?
ウテナが無言でマリオンの頬を抓ると「いったーい!いきなりなにすんのよ!」「どうやら夢じゃないみたいですよマリ姉様。」と、おかしな漫才のような事を始めていたが、二人目掛けて妊婦が走った。走っていいのか?
「良かったー!二人共元気そうで!」
妊婦に飛びつかれた二人は、一瞬どうしたらいいのかオロオロしていたが「ちょっちみんなで修行が長引いちゃったのよ。てへ。」とマリオンはテヘぺロして誤魔化していた。
そこからはワイワイと女四人の話し声がリビングに響き渡った。その響き渡る声に呼び寄せられたのか、男三人がここでの朝の習慣を終えて入って来た。勿論一人は自らの奥方の姿を見て硬直した。誰とは言わない。
「おかえりなさい。今、だいたい聞いたわ。今朝は何が捕れたの?」
満面の奥方の笑みに、石化の呪文をかけられたかのように、旦那は更に硬直した。「随分羽を伸ばしてるみたいで羨ましいわあ。」の一言がトドメとなった。
「エ、エテリナ?そんな体でいいのかい?だ、大丈夫なんだろうね?」
HP1でジードは立ち向かった。後衛職なのに大丈夫なのかジード!と、ユーヤとヒッターが目で訴えていた。
ライガとブランは巻き込まれないように「ラットの解体にいってきまーす。」とコマンド『逃げる』を選択して逃亡した。
臨月に近い妊婦に戦いを挑む豪の者は、見当たらなかった。
「確かにこんな場所が出来てしまうと、長居をしたくなりますよね。私も子供が生まれるまで居たいくらいですわ。」
エテリナが椅子に腰かけてジュースを片手に恐ろしい事を言っているが、既にその旦那に止める気力はない。
実際、この別荘はヒッター始め女性陣が総力を上げて自己満足と欲望のままに作り上げたため、居住性が頗る良い。
そのため、女性陣だけでなく男性陣も、次はいつ来ようかと計画を練っていたりする。
「あ、でもそれ可能かもな。俺、管理者権限持ってるし。」
「あ、なるほど。この別荘内にトライデル城とのゲートを設置してしまえばいいってことよね。」
マリオンがそう言っている間にも、ユーヤは早速アクセスコードを開いて作業に取り掛かっていた。「陛下!出来れば獣王区にも転移ゲートが欲しいです!」と、いつの間にか調理場から戻って来たライガが具申した。
「あ、そうだよね。マジンゲルの何処に設置する?」と、ユーヤは本人にしか見えていない画面を開きながら、空中に指を彷徨わせている。どうやら、タッチパネルウインドウを使用しているらしい。
結局、トライデル城内にはユーヤ達の居住スペース以外に、王宮騎士団と後宮近衛団の練兵施設の中間に設置。王都内は冒険者ギルドの訓練施設内に設置した。
リンドバウム市は領主館内に設置。獣王区にはマジンゲルの元王城…現区長領主城の大広間と、やはり冒険者ギルド内に設置し、ライガのたっての希望でレザリアの領主館内にも設置された。
ダンジョン内のゲートの出入り口は、二系統用意した。領主館などの要人スペースからは別荘にゲート用の部屋を更に増築して、転移場所分の数の扉を設置し、それ以外からの出入りは、ダンジョン出入口付近に新たな扉を幾つか設置した。
自身の居住スペース内にゲートを設置した際、そのままユーヤは周りが驚くのも気にせずにスタスタとフェルナンドの元へ行き、たまたま一緒だったヒューズ、ヨーン親子をも伴なって、ゲートの説明をしつつ、戦神のダンジョンの別荘へと案内した。
別荘の外へ出た三人は腰を抜かさん勢いで驚き、ユーヤの話す計画に一も二もなく同意した。これほどの観光資源と訓練場を兼ねられる場所を、放っておけるわけがないのだ。
因みにギルドには、城から一旦ベルヌ宰相を引き連れて出向いた上で相談し、設置させてもらった。国に毎月使用料を支払う契約などを持ちかけてだ。
冒険者ギルドとしても、これほどの金の成る木を逃すわけがない。ほぼ即答であった。
こうして、各方面も似たような手順で進め、順調に戦神のダンジョンの利用計画は推し進められていった。
戦神の鎧の描写が構想よりも物凄く簡素になってしまいました。
反省しております。
もう兎に角先へ進みたがっている自分がいます。
ごめんなさい。
次の投下時間は明日の朝8時になりますので、よろしくお願いします。




