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リンドバウム王国記~転生王ユーヤ~  作者: 三ツ蔵 祥
第1章 ―転生・ガロウ獣王国編―
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第弐話 模擬戦

バトル描写を描きたくて書きましたが、悪戦苦闘しました。

マリオンを抑えてもその周りの連中が動いてしまって…。

 晴れ渡るリンドバウムの空に、騎士達の怒号が飛び交う。手に持つ武器は木剣である。


 ベテランと云える騎士の大半を失っている為、若い騎士が多い。そしてこれは、その現有戦力の精査の為、中隊規模での模擬戦が行われているところだ。


 ユーヤは丘の上に仮設されたテントから、その光景を眺めていた。


 マリオンは模擬戦に参加中だ。普段の動き辛いドレス姿から解放されて、実に活き活きとしている。銀色で、割と軽装のミスリルアーマーを着用している。


 その傍には、クレィル侯爵家側付きのエクステリナ・アンダーソン嬢と、同側付きウテナ・ハーゲン嬢が脇を固めていた。どちらも、見目麗しい女性であり、ドレスアーマーを着用している。他の隊員もどうやら女性ばかりで、クレィル中隊はアマゾネスのようだ。


 それに対するは、ガンプ中隊。指揮しているのは、長い黒髪に切れ長の目をした長身の男性で、どうやらハーフエルフらしく尖った耳が見える。黒く染めたミスリルアーマーが模擬戦場の中で際立っている。


 マリオンを中心にクレィル隊は突進を仕掛けるが、ガンプ隊はそれを上手く往なして包囲にかかる。そこへマリオンが包囲の薄い箇所へ突撃してかわす。その繰り返しのような状態であった。


「あー!もう面倒くさい!ジード・ガンプ!前に出なさい!」


 焦れたのだろう。マリオンは遂にガンプ中隊隊長に対し、一騎打ちを申し込む。


「ひ、姫!?これは、模擬戦です!一騎打ちなぞ許可されませんよ?」


 エクステリナが狼狽して、ボブの茶色い髪を掻き毟っている。


「なーに言ってんのよ。この模擬戦は、戦力の精査の為の模擬戦(・・・・・・・・)よ。ならば個人の戦力も見るべきでしょ?」


 マリオンはニヤっと口元を歪めると、ユーヤの居る丘の上を見やった。ユーヤは既に右手で顔を覆いながら、左手首を顔のあたりで振っている。

 もうこの一週間でマリオンの性格を掴んでいたので、色々諦めているようだ。


「許可は下りたみたいよ。さあガンプ伯爵、どういたします?」


 にっこりと微笑みながら一騎打ちを宣言してきたマリオンに、ジードは呆気にとられた表情をしてはいたが、冷静に身じろぎを正した。


「判りました。クレィル様。では、一騎打ちと云うことでしたら、それぞれ得意な武器で手合せと参りませんか?」


 この騒ぎを聞いて手を止めていた他の中隊から、ドヨドヨと声があがる。実剣での手合せをしようと云うのだ。


「いいわよ。私の天職は楽士だけれども、そちらは?」


「私は魔銃使いです。大丈夫ですか?」


 お互いに口元をニィっと歪めていた。合意が成されたようだ。


「姫!いくら陛下のお許しがあったとはいえ、お怪我でもされれば後々のご婚…いえ、後々の為になりません!おやめください!」


 エクステリナが必死の形相で縋り付いたが、マリオンはどこ吹く風と云った様子。そんな二人の間に、銀色のショートカットの髪を煌めかせ、ウテナが割って入った。薄い紫色の瞳をキラキラと輝かせて。


「姫様。本日予定にはなかった事の為、現在持ち合わせている魔楽器はこちらになります。」


「ウテナ?何言ってるの?なんで?なんで予定にないのに持ってきてるの?ねえ、なんで?」


 エクステリナのツッコミに対して、ウテナはスーっと目を細めると、何故か頬を赤く染めて「フッ、こういうこともあろうかと…と言うやつです。」と、のたまった。


 そしてエクステリナの呆気にとられた顔を横目に、片膝を付いてウテナはマリオンに両手で、手の平サイズの平たく丸い物体を二つ差し出した。カスタネットである。


「ウテナ、さすがね。エテリナとは違うわぁ♪」


 マリオンの嬉しそうにはしゃぐ姿を見ながら、エテリナ…エクステリナ嬢は涙目になりながら俯いた。


 ―こんなこと、侯爵様達に知られたらどうすんのよ。。。








 ジードの手にはライフルタイプの魔銃が所持されている。こちらは、どこぞの姫と違って最初から模擬戦参加者である為、このような装備を持って来ていたようだ。


 そう、クレィル隊は予定では、エクステリナが指揮をするはずだったのだ。


 ユーヤは、物珍しげに場を眺めている。魔楽器と魔銃。どちらもお目にかかるのは初めてだ。しかも、マリオンが手にしているのはカスタネット。どうやって戦うのか不思議でならないのだ。


 魔銃は、魔力を弾丸に込め、発射は魔力発射と火薬発射、そして両方を使用して発射選択ができる。故に、魔力が高ければ高いほどその威力は向上する武器である。


 対して魔楽器は、基本的にその音色に魔力を込めて精神を揺さぶり、徒手空拳で攻撃するか、場合によっては楽器そのもので相手を殴打する武器だ。


 ユーヤは審判役として丘から降り、相対する二人の前に立った。


「マリっぺ。お前さんの武器は補助が主体みたいだが、大丈夫なのか?」


 沈黙したままマリオンは頷いた。


「ガンプ卿、弾はゴム弾で構わないな?」


 ユーヤの問いに対して、礼の姿勢を取りながらジードは返事をする。


「陛下、間違ってもお妃様の体に大きな傷を残すような事はいたしません。誓って申し上げます。」


「いや、妃じゃねぇんだけど?てか、大きなって…怪我はさせるって事か?まあ、一騎打ちだからそうだよな。傷の一つや二つはつくわな…。」


 ユーヤはブチブチと独り言のように呟いた。


 マリオンとジードは目を瞑って集中している。ユーヤは無視されたようで内心イラっとしたが、二人と同じように目を閉じた。


 そして、一拍。


 ―始め!!


 ユーヤの号令と共にジードは銃を構え、刹那パパン!とニ発の銃声が響いた。一発はゴム弾、もう一発は魔力のみの弾丸にする事で連射したのであろう。しかし、次の瞬間にはキキン!と弾ける音が木霊した。


「え?マジか?!」ユーヤが思わず口走った。


 マリオンが両拳のカスタネットで、その弾丸を弾いたのだ。


 ―いくらゴム弾とはいえ、普通はカスタネットなんかで弾丸を受けたら壊れるだろ!?てか、弾丸を目で追えるもんなのか?!


 そんなユーヤの気配を察したのか、いつの間にか傍にウテナが片膝立ちで現れ説明を始めた。


「姫のカスタネットは特注のアダマンタイト製であります。故に、あれがゴム弾ではなくとも弾き返していたことでしょう!そんじょそこらの術者の弾なぞ屁のカッパ!であります。」


「へ、へぇ…そうなんだ…てか、この世界にもカッパっているんだぁ…。」


 ウテナの行動に対しての動揺を隠すように、ユーヤは顔を引き攣らせながら答えた。


 ―こ、こいつ、忍者かなにかか?アサシンか?気配も何も感じなかったぞ。てか、自国の王様に気配を察知させずに近づくって有りなのか?!


 黙っていればクールビューティーな容姿のウテナに、ユーヤは残念な視線を送った。



 その間も一騎打ち中のマリオンとジードは、相手の間合いを見ながら目まぐるしく位置を変え、ジードが構えればマリオンは射線から身を翻し、と静かな攻防を繰り返していた。


 いや、マリオンは防戦一方としか見えない。しかし、その口元は微かに緩んでいるように見えた。


 攻防が繰り返される中、ジードが弾を込める動作の際に、うっかり弾を取りこぼした。それを待っていたかのように、マリオンは一気に間合いを詰めようと走り出す。


 ジードの立て直しは速かった。パーン!


 しかし、マリオンは左手のカスタネットで弾丸を弾くと、ジードの目の前まで加速して、右手のカスタネットを打ち鳴らした。


 ―カッカ、カカン


 ジードは距離を詰められた為、咄嗟に殴打しようと銃を振り上げたが、魔音によって多少動作が鈍ったのがわかる。


 ―ガキーン


 マリオンが今度は右手のカスタネットで、銃を受け止めていた。そして、左手のカスタネットに魔力が籠る。


 ジードはそれに逸早く気付き、間合いを取ろうと後方へと跳躍した。だが、その行動は既に遅かったようだ。


 マリオンはカスタネットをジードに向けて投げつけた。


 すれすれでジードは躱した…はずだった。


 躱したはずのカスタネットが魔力糸に引っ張られ、弧を描いた。そして、弧を描いたカスタネットは、ジードの額の寸前でスルスルと音を立てながら制止した。


「超電…もとい、超魔力ヨーヨーです。」


 ―ウテナ?今、超電磁うんたらって言いそうになってなかったか?ねえ?言いそうになってたよね?ねえ?ねえ?


 ユーヤは声に出せずに、驚愕の眼をマリオンにではなく、思わずウテナに向けた。


「参りました。」


「そ、そこまで!」


 ジードの降参の声に、我を取戻しつつユーヤは声を発した。


 マリオンは、右手のヨーヨー…カスタネットをジードに翳して半身でポーズを決めている。傍目にはよくあるポーズだがユーヤにはどう見ても、『国家権力に協力している某女子高生さん』に見えて仕方なかった。







「ガンプ卿、ちょっとした事故だったと笑って流しておいてくれ。相手は亜神だ、仕方のない事さ。その事故への詫びではないんだが、ちょっと引き受けてもらいたい事があるんだ。」


 ユーヤはジードの肩を軽く叩きながら、微笑んだ。


「陛下のご用命ならば、なんなりと。」


 緊張した面持ちでジードは答えた。切れ長の目を大きく開いて。


「皆も聞け!これよりジード・ガンプ伯爵を王宮騎士団団長に任命する!異議は認めない!以上!!」


 騎士達もジードさえもあまりにも突然の事であった為、しばらくポカーンとしていた。しかし、ジード隊の副官らしき人物が拍手をしたのをきっかけに、騎士達全員に伝播して拍手の波となり、共に皆が声を挙げた。


 クレィル隊との模擬戦の時から、ユーヤはジードを目に止めていた。クレィル隊の果敢な攻めに対して、押しては引く波のような戦法を評価していたのだ。


 丘の上に戻りかけたユーヤだったが、何か思い出したように足を止めて振り返り、未だに声を挙げている騎士達を見ながらもう一言付け加えた。


「あ、そうそう、副団長はエクステリナでよろしくな?普段からマリっぺの面倒見てるんなら、事務方の仕事とか得意だろ?そんじゃぁな~。」


 軽く右手を振りながら丘の上へと引き返した。後ろからはエテリナ嬢の、「陛下?陛下?陛下ぁあああ!!」という絶叫に似た声が響いていた。




「陛下。私には何もないのでしょうか?」


 背後にて気配を感じさせずに、ウテナ嬢がいつの間にか片膝立ちで伏していたが、ユーヤはその場は無視する事に決めたのだった。


 騎士達の喜びと、一部不安の声が青空に木霊する。雲一つない青空に。

 それを尻目に、尻尾でもあればパタパタ振ってそうな、片膝立ちで『待て』の状態の女騎士が一人。


 リンドバウム王国は、今のところは平和であった。

登場人物


ユーヤ・クノン:一応主人公。王様。本名、久能佑哉。転移事故により、アレクソラス13世の肉体に転生。戦神様の分け身でもある。


マリオン:一応ヒロイン。元女神。亜(駄)神。クレィル侯爵家息女マリオネートに絶賛憑依中。


エクステリナ・アンダーソン:愛称はエテリナ。クレィル侯爵家側付きの子爵令嬢。王宮騎士団クレィル隊隊長。主任務はマリオンのお世話。苦労人。


ウテナ・ハーゲン:クレィル侯爵家側付きで士爵。クレィル隊副官。見た目は寡黙なクールビューティー。しかし口を開けば奇天烈な言動で周囲を驚愕させる。隠行が得意(趣味?)。


ジード・ガンプ:侯爵。ガンプ隊隊長。天職は魔銃使い。

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