第弐拾六話 ダンジョン突入
今、ユーヤ達は戦神のダンジョンに入っている。
第一層と第二層は地図もあるので大した問題もなく進めた。しかし、第三層はそうもいかなかった。
「モンスターが強くなってる上に罠がいやらしいですな。」
ブランの率直な感想だ。
どうやら上の層と違って三層は罠の出現ポイントが一定時間で変わるらしく、地図に示された罠があてにならなかったのだ。それでもメンバーがメンバーであるため、引っ掛かる者はいなかったのだが。
暗闇を走り回る1メートル以上のラットやら、羽を広げれば成人の身長くらいの大きさの蝙蝠。夜目の利く大猪。巨大なバッタと、中々品揃えが良い。
エレーナとロイエルの訓練には持って来いな連中ばかりだったので、大概二人に誰かが監督に付いて倒させた。
もうすぐ封印扉の前の階層ボスであったのだが、ボスに挑む前に兎に角二人を鍛える事とした。
そして二人も疲れ切り、その日はボス部屋前の安全地帯にテントを張る事になった。
「明日一番でボス部屋に挑もうと思いますが、陛下とお妃様にお願いがあります。」
夜食の準備も終わり、さあ食べようか、といったところでライガが口を開いた。
「お二人は、明日のボス戦は観戦だけでお願いいたします。雑魚くらいは手を出して頂いてかまいませんが。」
「それで大丈夫なのか?俺はともかく、マリっぺの音撃波はボスには有効だろ?」
ライガは真剣な目で他の七人をゆっくり見回しながら語る。
「三層如きでこのメンバーで遅れをとるようなら、四層と五層は諦めるべきでしょう。陛下は仰った、今回のこのダンジョンの目的は我々全員のレベルアップを目指すと。ならばこの三層は我々に任せて頂きたいのです。」
そしてウテナの方を見た後、ライガは瞑目して更に続けた。
「側室殿が身重であるのは重々承知であります。しかし、側室殿も例え足手纏いになろうとも陛下に追従するとお誓いになったと聞いております。なれば、その誓いを証明する為にも明日は我らと共に陛下と女神様であらせられるお妃様の御力を借りる事なく、成就しようではありませぬか。」
場が静まり返る。
そして、僅かな間のあとにウテナが手を叩いた。
更にそれに応えるように、ヒッターが、ジードが手を叩く。ブランも聖女も手を叩いた。エレーナも笑顔で叩き、ロイエルが後に続いた。
そしてそれを確認したユーヤとマリオンも手を叩いた。ダンジョンの暗闇の中、焚き火の薄明かりの中で拍手が響いた。
ライガが目を開けると、ユーヤがライガに右手を差し出した。ライガはそれに応えて同じように右手を出すと、ギュっとお互いの手を握りしめた。
「卿の気持ち、確かに受け取った。だが、無理はするなよ。危なくなったらすぐに皆が逃げれらるように、俺はしっかり後方の準備だけはさせてもらうからな。」
「そのようにお願いいたします。」
本格的なダンジョン攻略が始まる。今回の階層ボス攻略のリーダーはライガに決まった。
更にそれぞれの役割を煮詰める。
前衛をライガ、エレーナ、ブラン、ロイエルで行い、その内ライガとブランはタンク役となる。
ウテナは手裏剣などの投擲により中段位置で牽制をし、必要ならば前に出る。ヒッターも弓で援護と牽制をするが、こちらも必要に応じて前衛に参加する。
中長距離のジードは援護をその後方より行う。
更にその後方にて聖女ハンナが補助魔法及び治癒魔法で援護する。
ユーヤとマリオンは遊撃としてボス周りの雑魚を適当に掃除する役となった。あくまで適当に。出しゃばらないように適当に。
「なんか、前衛多いな。」
「魔術師とか魔導師とか欲しかったかもね。」
「それマリっぺの領分でもあったから考えてなかったし。」
そんな事を今更言っている王室夫妻は蚊帳の外で、話は進められた。
「なるべく私とブラン殿が敵を引きつける。その隙を二人は突くのだ。特訓の際に身に付けたスキルをなるべく多く使う事。それによって隠された称号が発現する可能性が上がる。わかったな?」
ライガの言葉にエレーナとロイエルが強く頷いた。内心ユーヤは、「エレーナは俺に師匠になってくれと言ってたけど、もうライガ殿が師匠で良くない?」などと思っていたが、それはそれなのであろう。
ライガの言葉を聞いた後、エレーナはユーヤの傍に来て、剣の細かい取り回しなどについて質問をぶつけて来た。餅は餅屋だ。その技に熟練した者でなければ判らない事があるのだろう。
恐らくダンジョンの外はすでに夜の闇に包まれ、王城のシア様も眠りについた頃、ようやく一行は火の番を残して眠りについた。
火の番は、明日はそんなに活躍しない予定の王室夫婦が交代で行う事となった。
最初はユーヤが火の番である。適当に大きめの木を、燃やしすぎない程度にくべる。
ダンジョン内にも木は生えている。暗闇の中で光合成も出来ないのに不思議な事ではある。マリオンの話しではダンジョン内の木は光合成を必要とせず、マナを光の代わりに吸収して、酸素などを作り出しているのではないかと云う事だ。魔法樹、或いは魔力樹と呼ぶべきであろうか。
結界陣の向こうで、大型ラットがこちらを見ている。火の灯りに集まって来たのだろう。ユーヤは小石を一つ取り、試しに魔力を籠めてみた。小石の周りに青白い光が灯る。そして念を込めてラットに全力で投げてみた。
ボシュと嫌な音がして、ラットの額を貫通した。他に居たラットは勢いよく逃げて行った。好奇心から殺傷してしまったユーヤは、自身にいかんなぁと言い聞かせて立ち上がり、ラットの傍に行き亡骸を回収した。
そして、火の前に戻って幾つかに解体し、見張り番の間の夜食にする為に串を通して火にくべた。
―こんな事、日本に居た時には絶対出来なかったはずだよなぁ。慣れるって怖いかもなあ。
などとユーヤは火を見つめながら考えた。
ダンジョンの外では日が昇って来たであろう頃、ロイエルが起きて来て、火の番をしていたマリオンに「おはようございます。お妃様。」と、挨拶をして来た。マリオンの横ではユーヤが鼾をかいて寝ていた。
「おはよう。ロイエルはよく寝れた?」「はい。よくよく考えれば二日間連続で特訓を受けてたようなものですし。」と、軽く微笑んで「お嬢様を起こして参りますね。」と、エレーナの寝袋の方へと駆けて行った。
次に起きたのは、ヒッターとライガだった。二人は焚き火の脇にある串焼きを見て「これは?」と聞いてきた。「ユーヤが暇つぶしに狩ったラットよ。食べたければどうぞ。」と、笑顔で差し出すと「意外に美味ですな!」「いやあ、ダンジョンのモンスターも食べられる物だとは知りませんでしたよ。」などと二人は妙に盛り上がって「奥方様!朝食を狩りに行って参ります!」と、朝から意気揚々と二人は出かけて行った。
その声にジードとブランも起きてきて、ライガとヒッターが狩りに出かけた事を教えると「負けてはいられませんね。」「行きやしょう!団長!」と、こちらも寝起きとは思えないテンションで出かけて行った。
次に起きて来たのは聖女とウテナだった。ウテナは沸かしてあったお湯でお茶を淹れ、三人は低血圧らしく大人しくズズズと口に入れた。
そのお茶の香りでマリオンの横のユーヤも目覚めた。男四人が狩りに出た事を聞いたユーヤは「あいつら脳筋だな。」と一言云うと、そのまま女性陣のお茶会に加わった。
最後に起きたのはエレーナで、半分ロイエルに引き摺られるように焚き火の前にやって来た。「おあよ。。。姉様、義兄様。。。ふあぁ。」まだ脳味噌は寝ているようだ。
無意識にユーヤの膝の上に座って、ウツラウツラしている。恐らく父の膝の上と間違えているのだろう。それをユーヤも理解しているらしく、毛布をかけて頭を撫でている。
姉はそれを見て「ユーヤも父上のように甘いわ。」と我が娘シアの将来を垣間見たような気がして頭を抱えた。
ロイエルはそんな主を放置して、聖女とウテナと共に朝食の支度を始めた。ライガ達がどんな獲物を捕ってくるかも判らないので、なるべく簡素な物にするらしい。
半刻あまりして、ハンター達が帰って来た。大ウサギとラット数匹を手土産に。血抜きは既に現場でやって来たらしい。ザっと解体して、串に差し火にくべた。付け合せは、地上から持って来ていた野菜で作ったスープである。
ハンター達はホクホク顔だった。
皆が食事を終えると、ライガが立ち上がって音頭をとる。
「さあ、皆の衆!食事も終わって体も温まったことであろう!まずは三層制覇である!各々の役割を忘れるな!陣形を崩すな!まだ先があるのだ決して死ぬでないぞ!!えい!おー!えい!」
「「「おー!」」」
そうして気合を皆が込める中、エレーナお嬢様は、まだお義兄様の膝の上だった。一応「おー」と言いながら拳を挙げてはいるが。
「お嬢様…。」ロイエルがそうして額に手をやり呆れている姿を見て、マリオンはエテリナの姿を思った。
「あー私がいる。ちょっと前の私が目の前にいる…。」
エレーナを見ながら、マリオンも額に手をあてた。
私は純粋な魔法使いを味方に設定していないと云う事実を
この回を描いていて気づきました。(今更かよ!)
実際、魔法と云う概念に対して想像が追いつかないと云うのもあるのです。
精霊術とかだと、何となく理解できるんですけどね。
*LINDBAUM"s Encyclopedia にて、王家の称号名に関する解説が抜けていた事に気付きました。プリスティアとか、コンテとか、クィーネについてです。NO.2には載せておきます。
いつ出すかはわからんけど(爆)




