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リンドバウム王国記~転生王ユーヤ~  作者: 三ツ蔵 祥
第2章 ―戦神のダンジョン編―
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第弐拾四話 過去と未来と

まだだ、まだダンジョンには入らんよ。

 夏の日差しの中、エレーナとロイエルはユーヤの指導の下特訓に励んでいた。そして、途中から血が騒いだのかライガも参加した。ライガは大刀と槍で扱いが似ているので、主にロイエルの指導をした。

 そうなるとユーヤが手取り足取りエレーナに剣の指導をした。




「に、義兄様、そ、そろそろ休憩にしましょう。もうクタクタです。」


 いつの間にかお昼近くになっていたようだ。丁度そこへ聖女ハンナと奥方二人が、飲み物とお弁当を持ってやって来た。


 皆でモグモグと食事をしながら、エレーナとロイエルは午前中の反省点などを話していた。「お嬢様、あの場面での大振りは隙が大き過ぎます。もっと普段はコンパクトに扱うべきです。」「む~、そう云うロイエルは何かと動きが消極的過ぎるのではなくて?」


 ―もうお互いの欠点が解るようになってきたのか…この二人レア称号候補だけに、やはり呑み込みが早いなあ。


 と、ユーヤが感心している横では「はい、ユーヤ。あーん。」「マリオネート様、次は私の番です!」と奥方二人が小さな小競り合いをしていた。


 ウテナはシアが生まれてからは、姫であるシアと母であるマリオンとを呼び分ける為に、シアを『姫様』マリオンを『マリオネート様』と呼ぶようになった。

「別にマリオン様でもいいのよん。」と当の本人は言っていたが、そこは長年の主従。ウテナにはウテナの拘りがあるらしい。例え影で舌打ちしたり、主であるマリオンを出し抜いてユーヤの寝所に潜りこんだりしようともである。


「ところであとの三人は何してるんだ?」

「戦神のダンジョンの情報収集に行ってるみたいですよ。発見されてから結構冒険者たちが探索してるので。」


 聖女がサンドイッチを口に入れながら答えた。三層までは一般開放しているそうだ。そのおかげで、聖都は冒険者達の落としていくお金で相当潤っているらしい。


「でももう発見されてから三週間以上経ってるんだろ?三層程度なら、もう誰か全制覇してそうなもんだけどな。」

「一層一層が広いんですよ。聖都より広いかもしれないですね。」


 街よりも広大なダンジョン。そして、二四時間で宝箱も階層ボスもポップし直されると云う。中を徘徊している雑魚モンスターも、全滅させると二時間ほどで涌いて来るそうだ。


「五階層のどこかにダンジョンコアがあったりするんだろうなぁ。そういえば、他にはどこにダンジョンがあるんだい?」


「愛理須皇国と、ベルツ帝国にもあります。獣王区も発掘すればマジンゲルの地下にあるのではないかと言われてます。リンドバウムは…伝説では海の中にあるとか言われてますね。」

「海の中は無理だなぁ。でも一応各国にあるって事か。」


 そのうち現存する他のダンジョンも行ってみたいなぁ。とユーヤは心密かに思っていた。他の二つは歴史が古い為、すでに伝説級の装備は落ちていないであろうが、探索してみたくなるのは男のロマンと云ったところであろうか。


 食事も終わって午後の訓練を開始するエレーナとロイエルにライガが監督を申し出た。短時間で成長する二人によっぽど興味がわいたのであろう。


「陛下は奥方様達と観光でもして来てください。」と言われ、それに従うことにした。エレーナも異種戦の方が色々と勉強になるらしく、それでいいと承諾した。




 聖女から、王が街を普通に観光なぞしたらパニックが起きるのでと云われ、結局八人ほどテンプルナイツが付き添った。何人かは覚えのある顔だった。獣王国での戦の際にマリオンの下で戦っていた者達だ。


「マリオネート妃お久しぶりであります。あの時は楽師の戦闘力の凄さを間近で拝見でき、大変勉強になりました。」


 と言った会話がマリオンとされていた。だが、実はマリオンが特殊なのであって、楽師自体はそれほど凄い職業ではない。『戦闘系の吟遊詩人』と言った方が良いくらいの存在なのだ。


 寧ろ、楽師は大部隊になった方がその力を増す。最低でも『トリオ』(三重奏)で運用され、『クインテット』(五重奏)が本来軍で運用される最低レベルの員数である。そして団レベルの員数になったオーケストラこそが最高峰である。


 しかし、あまり戦闘力のない楽師になりたがる者がほぼいない事や、ましてや吟遊詩人になるような者は自由を愛するが故に、戦闘や戦争に参加する者が滅多にいない。歴史的にも過去に『ノネット』(九重奏)での戦闘が記録されているのが最多人数だ。


 そういう意味でも彼女のように単体の楽師、『ソロ』で戦えるのは異質であり異常なのだ。

 尤も、彼女の場合戦闘においては戦神であるサガに師事していたからこそではあるのだが。


「そう言えばさ、何で戦神に師事したんだ。楽師であるマリっぺが。」

 ユーヤは以前からそこが不思議であり、奇妙だと思っていた。それこそ、まるで畑が違うのであるし。


「ん~…まあ、過去の事でもあるし、今はユーヤとは夫婦でもある事だし語ってもいいかな…。」


 街を散策しながらポツリポツリとマリオンは語り出した。ついて来ていた聖女ハンナは、かなり前のめりで聞く態勢に入っている。





 約1200年前、まだマリオンが少女であった頃、彼女は両親との旅行中に盗賊に襲われそうになったそうだ。そこに駆け付けたのが、亜神になるかならないかといった時期のサガであった。


 その圧倒的な戦闘力は目を見張るものがあった。たった一人で盗賊十二人を三分で片付けてしまったのだから。

 しかも彼は礼を受け取ろうともせず、「修行の一環であるから」と固辞して去って行ったのだとか。


 マリオンはそんな彼に恋心を抱いてしまった。


 ギターを片手に家を飛び出し、サガの噂を追って旅をした。そしてようやく見つけた彼は、既に亜神として覚醒していた。到底その頃の彼女程度の実力では、見向きもされないレベルになっていたのだ。

 しかし、彼女は追いかけた。せめて師匠と呼ばせてくれと。そうして彼女も亜神となる修行を重ね、ようやく亜神となり追いついたと思えた時に、『お情け』を頂けた。が、彼は元々無精(むせい)であった為に子は成せなかったそうだ。


 それ故に戦神サガは戦闘神なのであろう。創造が出来ぬ故に。







「遠い遠い昔のお話しよ。」


 マリオンは少し寂しそうに笑った。ユーヤは無言でそっと彼女の頭を撫でた。


 話しを聞いて初めてユーヤは、女神である方の(・・・・・・・)マリオンが、自分に体を許した本当の意味がわかったような気がした。ユーヤ自身が戦神サガの分け御魂を持つ分身モドキであるが故にであるのだろうと。

 彼女は今世に至って、ようやく1200年前の想いを成就出来ているのであろうと。


 ―俺は戦神の代用にされてしまったのか…いや、そんな事は…だけど…。


「勘違いしないでね。今の私(・・・)の目に映っているのは、貴方とシアよ。」


 そう言うとマリオンは、ユーヤの心の中の逡巡に気付いたように優しく微笑んだ。それを聞いて、ユーヤは少しホっとしていた。


「なにしろ今晩は私の番なんだから。」


 ボソっとマリオンが言った一言に、少しの幸せと不安を抱くユーヤである。額に一筋の汗が滴った。




「今のお話を聞いていて何となく理解が出来ましたわ。」

 聖女ハンナがうんうんと頷いている。


「リンドバウム王朝って、かなり男系の比率が高いのにシア様がお生まれになったのは、戦神様の分け御魂と陛下が融合なさった為に、男系の精の力が弱まって女系であるクレィル家が勝ったと云うわけですね。」


「「「そっちかい!?」」」


 ウテナまでもが一緒にツッコんでいた。聖女の天然っぷりはウテナ以上なのだと云う事が立証された瞬間であった。


「え?なんで?なんでみんなそんな反応をするの?」と云う聖女の言葉が、更にそれを決定づけている。





 そうこうしているうちに、ウテナが以前から是非にとも寄りたいと言っていた場所に、ようやく辿り着く。そこは古めかしい建物で、低い塀から見える庭には、幾人もの子供達が戯れていた。


 聖ハーゲン救護院。


 そこはかつてウテナが、赤子の頃より保護されていた施設であった。

 大昔に孤児達を救う為に奔走し生涯を駆けた聖人、『ハーゲン』が設立したと伝わる聖都でも有数の、由緒ある孤児収容施設である。ここを卒業していく子供たちには、皆『ハーゲン』の姓がつく。


「ここが私の、実家とも云うべき場所です。」


 ウテナは懐かしそうにその庭を眺めている。しばらくすると、園長と思われる老女が孤児院の簡素な門を開けて歓待した。


「久しぶりね、ウテナ。立派になって…。今では側室とは云え王家の一員だなんて…。噂は聞いていましたよ。」

母様(かかさま)…ずっと仕事にかまけて来れなくて、ごめんなさい…。」


 二人は目を合わせた瞬間に、ほぼ同時に大粒の涙を流していた。自分達以外は何も見えていないかのように暫く抱き合う。


 マザーソレナは、既に腰が曲がっており杖無くしては歩けないような高齢であった。その周りには幾人かの孤児院のスタッフらしき者達が、彼女を支えるようにして立って居た。


 その内の一人が、マザーとの抱擁を終えたウテナに飛びつくように抱きついた。


「ジャンヌ!ジャンヌじゃない!?貴女、救護院で働いていたの!?」

「そうよ。この出世頭が~~!いつになったら顔を見せてくれるのかとずっと待ってたんだからね!あとでこのお姉さんに色々聞かせなさいよ!」


 涙でぐしょぐしょになっているウテナを、ジャンヌは笑顔で抱きしめていた。救護院時代のウテナにとって姉とも云える存在の彼女は、どこかエテリナに似ていた。

 そうして落ち着いたところで、ようやくマザーソレナがユーヤに気付いた。


「こ、これはこれは失礼いたしました!まさか陛下御自らお越しになっていらっしゃるとは夢にも思わず、放置するようなことを…。」


 そのマザーの言葉にジャンヌが驚き悲鳴をあげ、他のスタッフ共々マザーさえもが慌てて平伏してしまった。


「あ、皆さん、そんなに改まらなくてもいいですよ。今日はウテナの御実家に、遅ればせながら挨拶に出向いた。と云う次第なんですから。」


 本来はマリオンとウテナだけで訪問するはずだったのだが、ユーヤがエレーナ達のお守りから解放されたので、急遽同行したと云うのが真相だ。それ故に救護院側も、予定にはない王様の出現に面喰ってしまったのであろう。


 気を取り直してマザーの手をユーヤが取り、その老女を慈しむように抱き起した。


「ウテナにとって貴女が『母』であるなら、私にとっても貴女は『母』なのですから、そのように恐縮しないでください。」


 ユーヤが微笑みながら諭すと、老女の瞳からは更に涙が溢れた。そして、ユーヤの右手をマザーは両の手で握り「陛下。ウテナへのお情け、ありがとうございます。」と告げた。


 この言葉に、泣いていたはずのウテナが顔を赤くし、マザーに慌てて中の案内をせがんだ。ユーヤは「あれ?」と小首を傾げる。

 マリオンがスーっとユーヤの横に来ると小さな声で「中で今から大事な話しがあるから、何か疑問があっても今は聞かないで。」と云ってきた。


 そうして通された院の広間で、救護院にとってもユーヤにとっても、大事な報告が成されるのであった。

今回は、マリオンと戦神の過去と、

ここまで主要人物になってしまったウテナの事を

掘り下げる必要に駆られて描かせていただきました。


その為、以前の人物紹介で触れた設定などを

一部これに合わせて改定してあります。

  令和2年5月18日現在

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