第弐拾話 次世代の憂鬱
やっと20話。
来たよ20話。
でも、まだしばらく戦争はないです。
なかなか区長が帰って来ない獣王区では、区長の嫡子で獣王区副区長のライガがマジンゲルにて獣王城の再建に奔走していた。
「獣王様は如何致しておいででしょう?まだ復興も始まったばかりだと言うのに。」
「…父上は新王都トライデルで、お生まれになったばかりの陛下の姫君の世話をしておるらしい。しかも、自らその警護と将来の剣技の指南役まで名乗りを上げたらしい…。まだ姫様は首も座っていないと言うのに…。」
「…メロメロですな。」
「ああ、メロメロだ。」
獣王区政務官で狐人族のノーン・クラフトと副区長ライガはその職務に忙殺されながらそれ以上に、なかなか帰ってこない区長に頭を痛めていた。
「まあしかし父上もいい歳になっておいでだ。ヒューズ殿共々引退が近いのかもしれんな。」
少し寂しくはあるが父の幸せそうな老後を思い浮かべて、ライガは微笑していた。
その周辺からは、あちらこちらからトントンカンカンと大工仕事の音が聞こえる。区長の代わりに復興視察中なのだ。時折ノーンと二人で図面を確認しては、工事の主任と打ち合わせをしている。
ライガは、獣王区レザリアの周辺を以前と同じように領地としてリンドバウムから賜ってはいるのだが、父の名代が忙しく妻子のいるレザリアになかなか戻る事が叶わないでいた。奥方は虎人族の族長の娘で、大変器量が良い事で有名である。
「こう忙しいとライガ殿も、お子様達に会えず寂しいものですな。」
「本当にそうだよ!うちにも小さいのが三人もいるのに、あのポンコツは!相手は陛下の初めてのお子様とはいえ、孫達の顔も見に来いやあぁあ!」
論点がズレているのだが、ライガの剣幕にノーンは押されてしまいツッコめない。
ライガは三人の男子に恵まれていた。そう男の子ばかり三人である。上が六歳一番下が四歳と、見事な年子である。年が近いので、毎日三人仲良く暴れているらしい。
獣人の、しかも最強種の一角である虎人族の血と、素早さでは猫人族に引けをとらない豹人族の血を受け継いだ子供らである。毎日それを抑える側付きや執事達は大変なようである。
しかし、考えようによっては生まれたばかりであるのにアルテイシアの魅力は、異常と云えるのかもしれない。リンドバウムの高官であるおじ様達を、揃って骨抜きのポンコツにしているのだから。
勇者と女神の血を引いているが故、と言ってしまえばそれまでだが。
「そういえば、あれから魔王軍の動きがなくなりましたな。」
クーガーの話題を振るとライガが青筋を立てるので、ノーンは別の話題に振り変えたようだ。
「ヒューズ閣下の話しでは恐らく、先の獣王国への大侵攻とその攻防戦で、数年分の戦力を使ってしまったのではないかとの事だ。何しろそれまで拮抗し膠着していた前線を破って、一度はこの獣王区を蹂躙したのだ。恐らくオーガ大陸の戦力を使えるだけ使ったと見ていい。」
クーガーの血であろう。ライガは戦の話しになると、凛々しい表情となり、どこか活き活きとしていた。
「それ故三国同盟も、敢えてすぐに討って出ずに1~2年は国力を蓄えて、それからこちらから討って出ようとの事だ。」
そう言ったライガの瞳は、数年後の戦場を待ちわびているように見えた。
トライデルの王城の参謀本部では、ヨーン・S・ロンバルトが、義父であり参謀司令であるヒューズから、丸投げされた書類の山と戦っていた。
なにしろ、後宮近衛団ヴァルキュリアなどと云うアマゾネスの大部隊が創設され、女性兵のほとんどがそちらへの転属願いを、いまだに出している状況である。これに対してどうしたらいいのかと云う各方面からの問い合わせが、何故か参謀部に殺到しているのだ。
「これもか。これも。これもこれも…。」
書類を一枚一枚目を通しながらヨーンは呻いている。そして時折爆発していた。
「うああああ!全く!!どいつもこいつもヴァルキュリアヴァルキュリアと騒がしいわぁああ!!!」
これと云うのも、そのヴァルキュリア団長たるエテリナがオメデタで発足間もない状況で長期休暇。
その補佐たる副団長のウテナは、事務仕事が大の苦手。むしろ書類を触らせたら何が起こるかわからないと言う謎地雷。
と、云う事で発起人たるあのマリオネート妃が「じゃあ、しばらく戦争もないらしいし、暇そうな参謀部にお願いしちゃえばいいじゃない。」と云う一言によって、参謀部に山のような書類が運びこまれる事態となったのだった。
「暇なんかねーよ…パンがないならケーキじゃねーんだよ…。王妃~~。」
ブツブツと独り言を呟き続けるヨーン参謀司令副官に、周りで同じように作業をしている部下達でさえも距離を置きつつあった。
そんな修羅場である為、参謀司令殿はヨーンに丸投げして現実逃避のようにシア様と遊んでいらっしゃるご様子だ。
リーンゴーンとお昼を知らせる鐘の音が聴こえる。ヨーンはその音を聞くと、コーヒーを片手に窓の外をボケーっと眺めた。
すると練兵所の脇を、見覚えのある少女がバスケットを持って駆けている。死んだような瞳であったヨーンの瞳に輝きが戻る。
「エリー!」
思わずヨーンは大きく手を振りながら叫んでいた。
そう、彼の麗しの君、愛しの妻エリザベス。彼にとって唯一の憩い。
その君がお弁当を届けに現れた。もう、仕事なんかどうでもいいや~と言わんばかりに、彼は脳内でお花畑へと駆け込んだ。
エリーが参謀部の扉を息を切らせながら開くと、ヨーンは「待ってましたあ!」と言わんばかりに周囲の目も気にせずに抱きついた。
「だ、旦那様…みんな見てます…。」
「構うもんかー!みんな、俺の嫁を見ろー!」
ハイテンションになったヨーンは、新妻が顔を真っ赤にしているのにも構わずにエリーを抱き上げて頬擦りした。
部下達の羨望の眼差しと「おお。爆発してしまえ!」と言う言葉を受け、ヨーンは更に燥いだ。
…新妻に拳骨をもらうまで。
一方、政務部ではベルヌ宰相が書類に目を通しながら、溜息をついていた。
「早くおやつ時にならんかなあ。姫様に癒されたいのお…。」
そんな言葉を漏らしながら、宰相閣下は昼食をとっていた。こちらはまだ、ちゃんと仕事をしているだけマシではある。
参謀司令と獣王閣下は、数年でどちらも引退を考えておられるためか、アルテイシアの乳母やメイド衆に怒られ、ユーヤ達に呆れられながらも「シア様シア様ー♪」であった。
そんな姫様ブームも、最終的に母であるマリオンの堪忍袋の尾が切れ「じじい共。いい加減にしないとあんたら出禁にするから!」の一言で、落着きを見せる事にはなる。
因みに獣王閣下の進言した『姫様の剣術指南役』については、「あと八年くらいしたらな!」と、ユーヤが一応の了承をした為、その額の青筋にも気付かずに獣王閣下は諸手をあげて喜んだそうだ。
そんなやり取りを見ていたヒューズも、ちゃっかり『学問及び戦術指導教師』に立候補して来ていた。
シア様は、将来立派な女帝になりそうである。
幸せそうなおじさん達が描きたくて
気付けばシア様ネタが続いてます。
ごめんなさい。




