第拾九話 小さなお姫様
冬になると、この世界では基本的には戦争が起こりません。
何故か?それは私が戦闘シーンの後は、のほほーんとした話を描きたいからです。
冬となり、こちらの世界で云えば十二月の終わり頃、新生リンドバウム連合国は新王都が完成した。そして都市名をヨーホーから改名して、『トライデル』と名付けられた。
『リンドバウム、ジュディーアル、ガロウの三つの国が一つになって、初めて建造された都』と云う意味でつけられたらしい。
街の外壁は強化と延長が施され、街の北門は王城への入場門となり、王城の周りには深い堀がグルリと作られた。そして、街の北門周辺は役所関係や、軍関係の施設が並んだ。
そして、この街…いや、国家にとっておめでたい出来事は重なり、ユーヤとマリオンの第一子が誕生し、一週間ほどしてから国民へのお披露目が催された。
第一王女アルテイシア。
1200年前のマリオンの妹であり、現在のクレィル家の祖である女性の名がつけられた。そして、それを聞いた現当主であるアンジェリカ・クレィル侯爵夫人は、孫の誕生共々涙を流して喜んだと云う。
そして、マリオンはかつて妹の幼い頃に呼びかけていた愛称と、同じ呼びかけを自身の娘にしている。
「シア、泣かないで。ほら街の皆さんが貴女の誕生を祝ってくれているのよ。」
豪華な馬車の中から、アルテイシアの鳴き声が街の通りに響いている。マリオンはその腕の中の子を慈しみながらあやしている。アルテイシアのそのまだ生えきっていない髪は、クレィル家伝統の紅い髪色だった。
「なあ、マリっぺ。俺にも抱かせてくれよ。」
「ノンノン。今はパレードの最中よ。母である私が抱いていて当然です。」
アレクソラス王家は既にユーヤ以外が他界している為、クレィル侯爵家の面々も同乗している。アンジェリカとその夫クレィル侯爵は、指をくわえて自分達が赤子を抱く順番を待っている。
「ねえ、姉様!私は?私もダメ?」
マリオネートの妹のエレーナだ。彼女こそアルテイシアが生まれてからほとんど抱かせてもらっていないらしい。
「ん~そうね。エレーナはいい子にしてたものね。いいわよ。優しくね。」
コロコロと姉の顔と母の顔を行ったり来たりするマリオンを見て、ユーヤは「やっぱり女って凄いな」と感心している。
「シアちゃん。私が貴女の叔母さんよ。…ん?まだ私十三歳なのに叔母さんなの?」
「あはは。エレーナそこは気にしちゃダメだよ。気になるのなら、お姉さんとでも言っておきな。」
エレーナとアルテイシアのやり取りが微笑ましくて、ユーヤは心から笑った。
「さすがお義兄様です。でもそこでお笑いになるのは減点ですよ。」
ちょこっと口を尖らせているレディーになりかけの義妹に、失礼致しました。とユーヤは真面目な顔をして詫びた。
馬車の外を見れば、街中の人達が笑顔で手を振っている。「アルテイシア様、万歳!」と云う声も聞こえる。
婚儀の時と同じく馬車の前、先頭の騎馬は獣王クーガー。その後ろは騎士団長ジードと、何故か騎士団には復帰していないはずのエテリナが、並んで騎馬を操っている。
現在の彼女の肩書は『後宮近衛団ヴァルキュリア団長』となっている。そう、王妃マリオネート直属の近衛騎士団である。しかし彼女も数週間後にはお休みに入らなければならない。
なぜなら「エテリナ、つわりは大丈夫かい?無理しなくてもいいんだよ。」「なにを仰います旦那様。今日はヴァルキュリアの初お披露目でもあるのですよ?なのに団長の私が引っ込んでなど居られるわけがありません!」と、云うガンプ夫妻の会話のとおり、エテリナも母になろうとしていたのだ。
後宮近衛団ヴァルキュリア。
その前身は、かつてのクレィル隊である。クレィル家の次期当主となるはずだったマリオンが王家に輿入れした為、次期当主にはエレーナが繰り上げとなった。
しかし、まだ彼女が騎士団に入れる歳ではない上に、隊長代理を務めていたエテリナも結婚し除隊し、更にその代理であるウテナもユーヤの側室となってしまった。そしてエレーナが入隊したところで、隊長となれるまでに最低一年以上はかかる筈なので、クレィル隊はひとまず解散となったのだ。
そして、それを憂いたマリオンとエテリナが王妃直属の隊として草案を出したところ、『隊』どころか『団』として承認がされてしまった。
実際、募集をかけたところ、連合国内の騎士団と云う騎士団の女性隊員の半数以上が集まってしまったのだ。
何しろ前身があのクレィル隊である。国王の妃に騎士団団長の奥方、国王の側室までをも輩出した隊である。
実は貴族達の間でも、クレィル隊に娘を入隊させる事は、以前から一つのステータスになっていたのだ。もうこうなると集まらないわけがないのだ。
そして、その波は国内ばかりに留まらず、近隣の国からも申し出が殺到し、一時帝国と皇国からやっかまれる事態にも陥ったが、それはまた別の話しである。
そういう経緯もあり、現在ヴァルキュリアは総員一万五千人にものぼる大所帯と化してしまい。鋭意専用の寮と練兵所を建設中でもある。この為の資金は、娘をヴァルキュリアに入隊させたい貴族の親達が競って出した。
「この分だとエレーナも、クレィル隊の復活の為の騎士団入隊をせずに、初めからヴァルキュリアかもね。」
ヴァルキュリアの承認がされた時に、応募者の書類を眺めながらマリオンが言った台詞である。
実際、姉の傍でヴァルキュリアの創設を間近に見ていたエレーナは「私、十四になったらヴァルキュリアに入って、姉様を守るの!」と息巻いているようである。
新王都を一周して王城に戻ると、聖女ハンナが待っていた。アルテイシアへの祝福の儀と都市の命名の儀、そのあと後宮近衛団ヴァルキュリアの創立の儀を執り行う為だ。
アルテイシアの祝福の儀と都市命名の儀は中央大広間で行い、その後、まだ草を刈っただけの状態の専用練兵所の庭に於いてヴァルキュリアの創立の儀が行われる。
アルテイシアは儀式の間、ずっと聖女ハンナを見ながら微笑んでいた。と、言うよりその後ろの戦神サガの像を見ながら微笑んでいたようにも見えた。
あのドS神がまさか祝福に来てるのか?と、ユーヤは周囲をキョロキョロして、マリオンにその頬を抓られていた。
そしてその後の都市命名の儀も滞りなく終わり、練兵所へと一行は移動した。
後々の事を考えて空けておいた敷地がこうも早く埋まるとは、フェルナンド達と遷都計画を進めていた時には思わなかったユーヤは、感慨深げであった。
聖女ハンナの前に、エテリナとウテナが並んで立つ。その後ろには約一万五千人の乙女達…ヴァルキュリアが整列した。
「エクステリナ・A・ガンプ。貴女は後宮近衛団ヴァルキュリアの団長として、その責務を全うする覚悟はおありですか?」
「はい。マリオネート妃と戦神サガに誓って。」
「ウテナ・H・クノン・コンテ。貴女も副団長としての覚悟はおありですね?」
「はっ!姫さ…マリオネート妃と戦神サガに誓って。」
そうウテナもまた、ヴァルキュリアに副団長として転属となった。それに伴いくノ一隊も影の軍団から分離し、ヴァルキュリア諜報隊として生まれ変わった。実務内容は変わらないのであるが。
「では陛下とマリオネート妃、こちらへお越しください。」
聖女ハンナに呼ばれて、ユーヤとマリオンがアンジェリカにアルテイシアを預けて、エテリナとウテナの前に立った。そして二人で聖神剣マリオネートを持ち、片膝を付いて伏せるエテリナとウテナの両肩に、太刀の刃を上に向けて峰を当てていく。
「お二人の忠誠の儀を以って、後宮近衛団ヴァルキュリアの発足を神々も祝福する事でしょう。では、マリオネート妃これへ。」
呼ばれたマリオンが聖女の前に移動し、両足を付き祈りの姿勢をとった。そして、聖女はマリオンの額の辺りに手を置き、何やら祈祷を始めた。ユーヤもその後ろで片膝を付いて祈りの姿勢をとる。
祈祷は十分程で終わった。
終了間際にマリオンの周辺が光り輝く。恐らく聖女も初めての経験だったらしく、その目は確かに驚きと喜びに溢れていた。
―まあ、元女神の前で祈祷したんだからな。何か起こるよな。
と、割と冷静にユーヤは眺めていたのだった。
全ての儀式が終了し終了の宣言が成された後、聖女ハンナが目を輝かせながらマリオンに駆け寄って行った。
「女神様~♪さっきのあれってなんですかぁ?教えてくださぁい!」
―あ、あれ?この聖女ってこんなキャラだったか?
一瞬、ユーヤとマリオンは聖女の職務中とのギャップの差に固まってしまった。しかし、マリオンはちょっと引き攣りながらも「あれはですね、精霊達が祝福の挨拶に来た際の発光で―」と、説明していた。
「流石は女神様です♪私、あそこまではっきりした奇跡って、実は初めて見たんですよぉ♪」
―なんだろう…女子高生かなんかの会話か?ツッコむべきなのかこれは?
ユーヤはマリオンの代わりに乳児を抱きながら、丸い目をして聖女を見ていた。腕の中でアルテイシアは、ア―ウー言いながらもがいている。
「ごめんなぁ、ママはまだ解放してもらえそうになさそうだ。パパで勘弁してくれ。」「陛下。ジイジもここに居ますぞ!」「いえいえ、バアバが先よ。」「バアバはさっきまで姉様の代わりに抱いてたでしょ?シアはエレーナネエネの方がいいもんね~。」
ママが聖女に捕まっている間に、赤ちゃん争奪戦が再び始まった。そしてパパの苦笑に、アルテイシアはニコニコと笑っているようだった。
「なあ、ヒッター。どこの家もこんな感じなのか?」
それは、数日経ったいつもの午後のティータイム。でも、今までと違うのは小さな小さなお姫様が、皆から抱っこ争奪戦をされていると云う風景に変わったこと。
「ええ。うちも初めての子の時は毎日こうでしたよ。」
「そっか。やっぱり毎日なんだ。」
「坊ちゃん。お疲れですか?何やら元気がありませんぞ。」
二人のこんなやりとりの間も、アルテイシア様はあっちの腕こっちの腕へと抱っこされて行った。
「てか、最近大事な用もないのに皆来過ぎなんだよ。なあ、クーガー殿?」
「ん?まだシア様は陛下に渡しませんぞ。」
何故か、獣王区に帰らない区長がそこに居る。
「ヒューズ…あんたそんなキャラだったっけ?」
「わ、若…これはヨーンとエ、エリーの間に子供が出来た時の練習であって…。」
参謀司令が義理の息子に仕事を丸投げしてここに…。
「で、宰相殿。用件はどうした?」
「シア様~いないいない…ばあ!」
子沢山で慣れてる筈の宰相閣下も、アルテイシア様にメロメロのようだ。
「平和ですね~女神様♪」
こちらは聖都をほっぽらかして、元女神から離れない聖女。
「平和だな。」「そうね。平和ね。」王と王妃は、どこか遠くをみていた。
シアを台詞以外のとこではフルでアルテイシアと書いていますが
これは、今回だけのつもりです。
愛称と本名の違いが大きい為、読んでる人がわからなくなりそうなので
とりあえず覚えてもらい、次回からはシアで統一しようかな、と思っています。
次回以降、混乱が見受けられるようなら、またフルで書くかもしれません。




