第拾弐話 再び獣王国
ここからは、第二次獣王国攻防戦となります。
鍛冶ギルドにユーヤが依頼していた太刀が王宮に届いたのは、こちらで云えば七月の半ば位であった。ユーヤはそれを光の精霊力を宿す為、今度は魔導ギルドに預ける。出来上がりは一週間後と言われる。
マリオンからは「元女神の私に預ければチャチャっとできるのに。」と言われたが、「人の手によって作られる限界の剣って奴を見てみたいとは思わないか?」と答え「男って本当に変なとこ面倒くさいわ。」と笑顔混じりで呆れられていた。
クーガーと帝国、そして皇国から「魔王軍に動き有り」との連絡が入ったのは、その日の午後だった。
同じくウテナからも報告が有り、影の軍団本隊に現魔王領となっている地区への潜入を命じた。ウテナにはクレィル隊への復帰を命じ、くノ一隊の戦闘班もクレィル隊に編入させる。
エテリナが現在、ガンプ伯爵家に輿入れする為に花嫁修業に入ってしまったからである。
騎士団副団長代理は、ジードの副官であるブランが務めている。ブランは最近エテリナの事を「姐さん」と呼んでいるらしい。
「陛下、エテリナが最近顔を合わせる度に文句を言って来て仕方ないのですが…。」
『魔王軍に動き有り』の報告から五日程の事だ。深刻な顔でジードが軍略会議の休憩中に訴えて来た。どうやら原隊復帰の嘆願を、ユーヤが頑として受け入れない事に対して文句を言っているらしい。
「そうか…正直エテリナが居ないのはきついのだが、来月には挙式の予定なんだろ?行かせるわけにはいかないだろ。マリっぺから言って聞かせられないか?」
「エテリナの性格は知っているでしょ?まあ、一応言い聞かせるけどもね。」
「ありがとうございます、姫。」と、ジードが半べそになりそうな顔で礼を言うと「大将…今からもう尻に敷かれてちゃぁ先が思いやられますよ。ま、時に姫様をも黙らせる姐さんの剣幕にかかれば、そうなっちまうんでしょうがね。」と困り顔でブランが訴えた。
「ブラン、そう言ってやるな。お前が一番にジードがエテリナにどれ程ゾッコンなのか知ってるんだろ?笑って流してやれよ。」
ブランは申し訳なさそうに「そうですね。ジード様すいません。陛下の前で愚痴なんか言ってしまって。」と即座に謝った。
ヒューズの話しでは、ヨーンも再来月にはヒューズの孫娘のエリザベスと婚儀を行う予定らしい。
悪い時期に重なったものだ。
来年には新生リンドバウム連合国に、ベビーブームが訪れそうな雰囲気だ。その為にもこの度の戦では、少しでも前線を押し上げたいところだろう。
「てか、何でどっちも冬に時期を決めなかったんだよ。夏場は魔王軍の動きが活発なのは周知の事実なのにさ。」
とユーヤが愚痴ると「若、その辺の逸る気持ちがわかりませんか?」と、ヒューズが小声で諭すが、マリオンがちょっとツンとした顔をして、話に割って入った。
「無理無理。私がこうなってるのに、魔王を討伐してからとか言って未だに頑固に式を挙げようとしない人なんだから。」
と、小さく膨らみ始めているお腹を指差して、マリオンが訴えた。
妊娠四ヶ月であると診断されている。ユーヤ達がベビーブームの先駆者となるのであろう。
亜神と勇者の子供は何になるのだろうか?と云う問いは置いておこう。少なくとも王子か王女にはなるのだし。
宴の度に羽目を外した結果であるので、ユーヤは何も言えない。
そのようなわけで、今回の戦にはマリオンも参加出来ない。連合国軍は戦力が相当減少している事になる。
ただ、今回は初めから帝国軍が参戦する事になっている上に、愛理須皇国も参戦する。しかも、どちらも最高戦力を投入すると云う話しだ。
兵員の内訳としては、新生リンドバウム連合国が本国から三万、獣王区から一万五千。合計四万五千を出兵。
ベルツ帝国軍が五万五千。愛理須皇国が三万と云う事になっている。
因みに、各国が本国に残している兵員は、連合国一万五千。帝国一万。皇国はオーガ大陸に隣接している為、二万を残している。
そしてこの三国同盟軍は、アルガス要塞都市に集結する。リンドバウムに報告が入ってから、十日目の事である。
因みにユーヤの太刀は、出発までに間に合ってはいない。作業が予想よりも難航したようである。
軍略会議には、連合国からユーヤ、ヒューズ、ヨーンの三人。帝国からは、ベルド皇帝と、やはり二人の参謀。皇国からはテンゴウ・スサノオ大将軍以下二名の参謀。ツクヨミ皇王は国に残っているそうだ。
愛理須皇国は、アマテラス家、ツクヨミ家、スサノオ家のハイエルフである御三家から皇王が選ばれる。
その選抜は五大老と呼ばれる者達によって行われ、皇王となった者は幼名を捨て、その家名を名とする。
装備の類は、日本式の鎧に刀などになる。
テンゴウは、その家名からわかるとおりハイエルフである。そして、皇王候補でもある事がわかる。
エルフにしておくのは勿体ないくらいの筋骨で、恐らく獣王クーガーと並んでも遜色がない程だ。左の目は戦闘で失くしたのであろう。縦に入った大きな傷跡が生々しい。長いプラチナヘアは後ろに結んでいる。
「ふむ、貴公が勇者王殿であるか。我はテンゴウ。スサノオ家当主である。其方の国で云えば、恐らく公爵か大公にあたる身分の者である。皇家の中でもスサノオ家は武に誇る家柄である故、よしなに頼む。」
時代掛かった名乗りをしたテンゴウであったが、その表情は柔らかかった。年齢は百五十歳とのことだが、ハイエルフである為か見た目は三十代位に見える。
「新生リンドバウム連合国首長、アレクソラス十三世ユーヤ・クノンです。テンゴウ殿、よろしくお願いいたします。」
ガッチリと握手をした後、各々の席に着いた。
「そうそう、貴公より頼まれて送ったオリハルコンを錬成したオリハルコニウムやらガマニオン等の素材は、無事に届いておるか?」
着席するや、向かいの席に座っているベルド皇帝から声をかけられた。
「はい。この度はありがとうございました。良い物ができそうです。」とユーヤは笑顔で答えた。
前回の獣王国攻防戦で士官等を助けた礼代わりに要求してみたものだ。オリハルコニウムやガマニオンは、現在制作中の太刀の素材である。帝国はこれらの鉱物資源が豊富なのだ。
会議の司会進行役は、各国に名の通っている事でヒューズが執り行う事となった。
「今回、レザリアの東南の街ダイモスが魔王軍によって襲われた事に端を発し、現在各所にて魔王軍が集結しているとの報告が入っています。この事態に対し我々も討って出るわけでありますが―」
元獣王国王都マジンゲルを中心に、魔王軍は東西及び北に動き始めている。前回の魔王軍の侵攻の際に生き残った街の幾つかが既に攻撃を受けているとの事だ。
それらを迎え撃つ布陣としては、連合国は西部の領地である獣王区にてクーガーと合流して、東南方向へ進行。
帝国はレザリアの街から南へ。
そして皇国は、自国と元獣王国所領との境界から西へ進行する手筈となった。
それから三日ほどで、それぞれが配置を済ませた。
ユーヤはクーガーの砦にて一人の影の到着を待っている。影の軍団総帥、ハンゾウの到着を。
「陛下、お待たせいたしました。準備は全て整っております。」
ユーヤの目の前に、音もなく現れ片膝を付いたハンゾウは、その状態から一礼をした。全身黒装束に黒頭巾のその男は、一礼の後そのままユーヤの次の言葉を待つように、その口元を凝視している。
目を瞑ってユーヤは一言「わかった。引き続きの作戦遂行を頼む。」と言うと、「はっ!」と返礼後にハンゾウは姿をかき消した。
目を開き、傍らに居たヒューズに視線を送ると、ヒューズは無言で頷いた。ヨーンはそれを見て、ユーヤを先導して兵達の待つ練兵広場へと案内した。
練兵広場には四万五千の兵達が居並び、その先頭では王宮騎士団団長ジード・ガンプと元獣王国国王であるクーガーが並んで立ち、新生リンドバウム連合国首長アレクソラス13世ユーヤ・クノンを見上げる。
ユーヤから見て右手が僧兵団、中央には騎士団、左手には獣騎士団と並んでいる。
「諸君!遂に反抗の時は来た。蹂躙され土地を奪われたその悔しさを、その手に持つ武器に込めよ!そして魔王軍を、このラウズ大陸から追い出すのだ!勝利の鍵は諸君等の勇気だ!同盟に栄光を!!」
「「「同盟に栄光を!!!」」」
ユーヤの言葉に全将兵が呼応し、その手に持つ各々の武器を地面に突き立て、ドン!ドン!ドン!と広場にその音が反響する。
ユーヤは一拍の間目を閉じ、見開くと「これより進軍する、各自配置につけ!!」と大音声で放った。
ベルツ帝国五万五千の軍勢は、ダイモス周辺の魔王軍を蹴散らした後に、南へと進軍していた。今のところの損耗は軽微だ。ダイモスから真っ直ぐ南へ向かえば、マジンゲルには一日半くらいで到着する筈である。
しかし、マジンゲルまでの街道には、既に魔王軍が待ち構えていた。
「接敵まで後、二キロ程になります。」
斥候からの報告を受け、帝国軍は陣形を整える。本隊に六割の兵員を置き、残りを大きく二つに分け、本隊を囮に敵陣左右から挟撃する構えだ。
「ふん。下級魔族くらいはどうと言う事はない。このまま擂り潰してやるのだ。」
ベルド皇帝の指揮により、魔王軍を蹂躙して行く。この、北の魔王軍はまだ集結を完全には済ませていなかったようだ。
二時間程でほぼ全滅させ、帝国軍は休憩に入ろうとしていた。しかし、斥候から新たな敵影との連絡が入り、すぐにまた臨戦態勢をとる事になる。
数こそは少ないが、大型の魔獣…主に馬や鹿型の魔獣の群れと、二メートル以上の体躯を持つ魔族が向かっていた。その魔族の下半身は馬。ケンタウロスのような姿であった。
「我こそは魔王軍七大幹部の一人、騎獣将ベラホース!命の惜しくない者はかかって参れ!!」
ベラホースは大きな戦斧を手に、魔獣達を伴なって突進して来た。帝国の斥候兵達が悲鳴をあげながら骸を曝していく。
「まずい!全軍急げ!左右の部隊は魔獣達を押さえろ!本隊は上級魔族に集中せよ!!」
叫びながらベルドは剣を抜き、騎乗する。
本隊は接敵すると、巨大な盾を構えた重歩兵達がまずは突進をした。ベラホースの動きを止めようと周囲を囲もうとするが、相手の動きが早すぎて囲みに入れられずに、一人ずつ薙ぎ倒されていく。
ベルドは重歩兵を下がらせつつ、弓隊及び魔導部隊に攻撃命令をする。無事に重歩兵が退避したのを確認して、次に魔銃部隊が攻撃。銃弾の雨を降らせる。
しかしベラホースは急所を戦斧で避け、弾の補充で銃撃の甘くなった部隊を見つけては戦斧で斬りつけ肉の塊へと変えていく。
―ほんの数分で約二十人がやられただと!?
戦慄したベルドだったが、手に持つ剣を構えて銃弾と矢、魔法攻撃の合間を縫い供回りを引き連れて突貫した。
剣聖ブライを筆頭とした帝国騎士団精鋭部隊、カイザーブレードの面々である。
ブライが剣聖スキル「無双」を発現し、ベラホースと幾合もの剣戟を繰り返すと、横からブライの弟子ゼフィールドが牽制し、武闘家のロンが跳躍し蹴りを放った。
ベラホースが大勢を崩したのを見て、ベルドが剣を上段から振りかぶる。しかしあっさりそれは弾かれ、戦斧はベルドめがけて大上段で振るわれた。
ガキ!と金属同士がぶつかり合う音を辿ると、大盾を持った重戦士ラドクリフが、凶暴な戦斧のその一撃を押し止めていた。
「やるではないか、人間共よ。」
ベラホースは口元を歪めながら、大きく飛び退いた。その体には、ブライから受けたと思われる傷が幾つか見えるが、どれも深手には至っていない。
「ふん。貴様こそ帝国精鋭のカイザーブレードを相手によくやるわ。」
ベルド皇帝は唾を吐きながら返答した。
ベルドの合図と共に、カイザーブレードの面々は素早くその配置を変えた。
中断に剣を構えるブライの後ろに、レイピアを構えたゼフィールドと拳を構えるロンが並び、更に後ろに大盾を構えてラドクリフが堂々と立たっている。そして最後部にベルドが剣を構えて、ベラホースを睨んでいる。
「我らカイザーブレードは王の剣であり、盾!貴様にその真髄を見せてくれるぞ!!」
ブライは中段の構えから上段に構えると言い放ったのであった。
マリオンのオメデタは、正直悩みました。
構想段階でもどこに持ってこようか決まっていませんでした。
最悪、宣言どおりに魔王討伐後にしようかとも思っていました。
ただ、あれだけ酒宴の度に…となると、出来てなくちゃおかしいよなぁ?と思って決めました。
まぁ亜神だから、本来はどうにでも誤魔化せたんですが
ユーヤ単独での無双回みたいなのをやるには、どうにか1回マリっぺにお休みしてもらわないと無理かな?というのもありました。
ま、王様で勇者なので、結局周りの者達がなんだかんだで助けに入りそうではあるのですがね。




