第拾壱話 久能佑哉の回顧録
今回はユーヤの一人称目線を意識しました。
アレクソラス王。久能佑哉の回顧録。
気が付けば勇者になり、王様になり…と思ったら
今は大陸統一なんて大それた事を、魔王討伐のついでにやろうとしている。
まだ俺…久能佑哉が以前の世界に居た頃の話しからしようと思う。
うちの家系は昔、士族…武士だったらしい。
そんな家柄だけに、ありきたりだけれど古武術の道場をやっていた。
久能流抜刀術…。
爺ちゃんに幼い頃から厳しく鍛えられた。
俺は爺ちゃんの期待に応えたくて我武者羅に習練した。
おかげで十の時には師範代になっていた。
二人の兄達も舌を巻く程に、腕を磨いた。
でも、今の平和な日本にはこの技を活かす為の場所なんてない。ましてや俺は三男坊だから、道場を継ぐ事もあり得ない。
俺が十二の時に爺ちゃんは逝った。
「佑哉、好きな事をやれ。」
うん。好きな事やるよ爺ちゃん。だから見てて。
高校に入ってからは、英語を重点的に学んだ。
日本の中に居ては、久能流は活かせない。
ならば何処か違う国ならと…。
兄二人のうち、上の兄は警察官になった。
下の兄は、自衛官に。
父は誇らしげだった。
俺は高二の春に留学を決めた。
行先は取り敢えずアメリカ。出発は秋の予定だ。
心が踊る。
日めくりを毎日眺めていた。
楽しみで仕方なかった。
新緑栄える初夏の頃、毎日妙な夢を見るようになった。
白い闇の中、女の人の声がする。
『聞こえますか?私はマリオン。異世界の女神です。』
あれは、何度目の夢の中での邂逅だったのだろうか?
ある時、彼女の容姿を一度だけ確認出来た。
紅い髪と紅い瞳。
肌は見惚れる程に白かった。
俺は胸がドキドキ高鳴るのを感じた。
その時に決めたんだ。
俺は彼女の願いを受け止めようって…。
『私はマリオン。異世界の女神。私の管理する世界に、異変が生じようとしています。どうか異世界の勇者よ、貴方の力を貸してください。』
躊躇わずに前に出て、俺は言ったんだ。
「異世界の女神様、私などのの力でよければお貸しします。」
『ありがとう。異世界の勇者、久能佑哉様。魔王の討伐が済めば、必ず元の世界へお返しいたします。』
俺の名前を知っていてくれたんだ…正直嬉しいな。
ふむ、考えなしに受けちゃったけれど、ちゃんと戻れるのか。それは助かる。
魔王を倒す苦難さえ抜けば、異世界留学ってとこだな。
『では今からゲートを開きます。その先で詳しいお話しは致しましょう。』
ゲートを潜ると、やはり辺り一面が真っ白に輝いていて何も見えなかった。
『こちらをごらんください』
空間の中央に、天体の立体映像が現れた。
ちょっと驚いたけれど、天体の映像の傍に近寄った。
地球とは違って、緑の膜に星全体が包まれてるみたいだ。
これはこれで美しいな…。
『星を包む緑の膜が見えると思います。それは「マナ」。魔力の元と言っておきましょう―』
俺は話しを聞きながら、女神マリオンである明滅する光の玉を見つめていた。
いつか見た、あの紅い瞳と髪の女性の姿を見る事ができないものかと。
朝の光に照らされて目を覚まし傍らを見ると、嘗て俺を召喚した女神様が少女の姿で眠っている。
俺は優しくその髪を撫で、軽く頬に口づけをした。
すると彼女はスウっと目を開き、うーんと言いながら伸びをした。
「マリっぺ、おはよ。」
と、俺が言うと
「うん。おあよ。。。」
と、彼女はあくび交じりで返してくる。
女神様は肉体を得てからは、眠り姫になったようだ。
そして目を擦りながら二度目のキスを、口に要求してきた。
無言で唇を合わせると「もうちょっと」とせがまれる。
この女神様は肉食で困る。
朝っぱらから口づけを交わす姿を、朝の挨拶に来たエクステリナに見られた。
このマリっぺの側付きも、最初の頃は「あ、あ、えーと…申し訳ありません!朝食があ!!」と、顔を真っ赤にしながら部屋を飛び出して行ったものだ。
しかし最近ではすっかり慣れたようで「朝食のお時間です。お早目にお願いします。」と告げて一礼すると、静かに扉を閉めて廊下で待っている。
朝食後は仕事の前にテラスへ行き、お茶の香りを味わいながらヒッターと世間話をするのが習慣になっている。世間話と言っても、大抵はヒッターの奥方への愚痴零しから始まる。なので、朝のテラスにはマリっぺは一応気を遣って参加しない。
一日の始めの職務はまず、執務室から始まる。ヒューズ親子かベルヌ宰相が訪れて来て談義し、俺は書類に目を通す。
必要ならばフェルナンドの処へは、自分から行く事にしている。設計図やら書類の山やらに埋もれて仕事をしてくれているんだから、それくらいは気を遣ってやりたい。
午後は職務が粗方終われば、三時くらいにテラスでお茶会。ここにはマリっぺも、報告があってもなくてもウテナもやって来る。
ウテナは最近では草葉の陰に居らずに、堂々とお茶を一緒に楽しんでいたりする。そういう時はエテリナにもお茶を勧める事にしている。
初めは「陛下と姫様と同席でお茶など…。」と言っていたが「(ガンプ)伯爵夫人にでもなった時に、こういう嗜みも出来なければ旦那が恥をかくよなぁ。」などと言ってやったら、仕方なく参加するようになった。
「てか、ウテナ。お前はそういう予定がまだないんだから、遠慮しろよ。」「陛下、何を仰いまするか!私は陛下の第二婦人になるのですよ?」「いや、そんな関係になった憶えはねーし。」と言う遣り取りも、今や定番となっている為、マリっぺもエテリナも、すまし顔でお茶を飲んでスルーするようになった。
夜は来客があれば晩餐会が開かれる。今日は帝国の遣いのオットー侯爵と、連合獣王区からライガが父クーガーの名代で定時連絡に来ている。
「ライガ殿、あまり緊張せずに楽しんでください。もう一献どうぞ。」「ありがとうございます陛下。しかし、この酌はひょっとして…アルガスでの仕返しを父の代わりに私に?」「気にすんなよ名代だろ?」「図星ですか。」
それをオットー侯爵が呆れながら見ていたので「オットー殿も、さあさあ。」と、濃い目のを注いでやった。俺ばかり恥ずかしい思いをしてなるものか!さあ、共に逝くのだ!
そして朝。最近ではごく普通になってきているが、気付けば腕の中で紅い髪の少女が添い寝していた。
シーツはグチャグチャになって床に落ちている。
廊下からは「エクステリナ様、昨晩の『王の酔拳』は更なる奥義を発動した模様で『姫の嬌声』もこれまでにない見事なものでした。ですので、後一時間くらいはお入りにならない方が宜しいかと存じます。」「大丈夫よ。例え寝起きの際の物音がしても、しばらくは扉の前に待機するつもりだから。」と云うエテリナの溜息混じりの話声が聞こえてきた。
オレ、カクシンシタ。
恥かしい噂の出所はあの言い回しからして、侍女やメイドに紛れているウテナ配下のくノ一だな。
あいつ等キャッキャウフフな話が大好物だからな。
オボエテロヨ。
もう自分の肉体を失ってしまって、元の世界には帰れないけれど
爺ちゃん。
俺は毎日面白おかしく、好きな事をやっていれてると思うよ。
久能流あれこれ
ユーヤが基本的に日本刀を使う所以として設定しました。
名が示すとおりその流儀は『能に久しく流麗に舞うが如し』です。
鹿島神流を源流としているらしい。
その為、抜刀術以外にも柔術、薙刀術、懐剣術、杖術、槍術、棒術などにも明るいらしい。
なので、正式には鹿島神流久能派剣闘術とでも言うべきか?(あ、これいいかも)
久能流に関しては、描きながら設定を考査している為、この先色々変わるかもです。




