第九拾八話 正妻からの試練
ユーヤが神託を受けた事により、竜人族の潔白は保証されたようで、そこからは今後の戦略を決めるべく軍議へと移行する事になった。
そして罠ではない確証がとれた為に、室内で…竜人城での話し合いとなった。そして広間ではユーヤは上座に案内され、ドラクーンは末席へと座った。確証は得たが、彼なりに臣下としての態度を示したようであった。
「ドラクーン殿、この城の主の貴方がそんな末席で宜しいのか?」
ユーヤが気を遣う。そしてこちらも誠意を見せる為に隣に座ったウテナを立たせ、そこへドラクーンを呼ぶのだった。
「な、なんと奥方様を退けて私なぞに…お気遣い勿体ない。恐悦至極であります。」
「これは正室ではありますが、第2でして…ウテナと申します。」
ウテナは紹介されるとニッコリと微笑んだ。散々マリオンの代理などで来賓の相手には慣れ、言葉は発さずに一礼をした。そう、初めて会う偉い人の前ではなるべく喋らないと云う御約束事を守っているのだ。
そんなウテナをユーヤは少し不思議そうな目で見つめる。しかし、彼女の特性を思い出し納得したようだった。以前に厳命したのは自分だったと。
「ウテナ…挨拶くらいはしてくれ。」
小声でユーヤが囁く。
「え、あ、はいな。私は旦那様の第2正室のウテナ・H・クノン・コン…ミストと申します。以後よろしくなのです!」
ウテナはユーヤに喋っていいと言われた事が嬉しかったらしく、横に構えたピースサインを目の辺りに当てて、シャキーン!をやってしまっていた。
「……ゴホン!これがうちの二番目です。これにもっと輪をかけた双子の姉がちょくちょく現れますが、お気になさらぬようにお願いします。」
ドラクーンはポカーンとしている。その後ろでセイレイ王女も口を開けて見ている。その存在に気付いたユーヤがドラクーンに問う。
「で、そちらは?ドラクーン殿の奥方ですか?」
ドラクーンに「こっちに戻ってこーい」と云う意味でユーヤは投げ掛けたようだ。
「あ、これは失礼いたしました。こちらは我が娘、長女セイレイです。歳は陛下と変わらないくらいかと思います。」
「あ、そうなんですね。お美しいので勘違いしてしまいました。」
ユーヤが笑いながら答えると、セイレイは頬を染めながら「お美しいだなんてそんなそんな…。」と空中に『の』の字を書きだしたのだった。それを見ていたライガが首を傾げている。
――あれ?あの姫様、戦場では物凄く凛々しかったよな?なんだこの変わり身!?
勿論第2正室の勘も、この王女の態度に警鐘を鳴らしていた。セイレイをムゥっと睨んでいる。
「まあ、兎も角軍議に移りましょう。ヨーン始めてくれ。」
そう促すユーヤの後ろにはウテナが、隣りのドラクーンの背後にはセイレイが立っている。この二人の空気を感じてか、軍議に集まった筈の皆の視線はこの二人の間を行ったり来たりしていた。
そしてジードが小声でミハイルに囁く。
「マリオネート様が来てなくて良かったですね。」
「ああ、そうだね。でもこれはこれで見ものだよ?兄さん。」
そう、ウテナとセイレイは先程からずっと睨み合っていたのだ。目の前に居るユーヤとドラクーンに気付かれないように、静かに。
そんな二人をチラチラと眺める視線が気になり、ユーヤが振り返ると二人は手を取り合ってニコニコしながら微笑む。
「なんだみんな、二人の何が気になるんだ?」
と、ユーヤが皆の方に視線をやると、二人は今度は合わせた手を力いっぱい握り合わせて、力比べのような状態で睨み合っていた。
「あ…いや何でもない。陛下も大変であるな…。」
ベルドは呆れていたようだった。一生懸命これからの戦略を説明しているヨーンと、ユーヤの横にいるドラクーン公以外の、特に若い者達は心の中で叫んだ。
「リア充爆発しろ!」
と。
「お父様!私を勇者王様の処に輿入れさせてください!」
軍議を終え、歓迎の晩餐でもとドラクーンが準備をしている処に、やって来たセイレイが直訴する。父は「はあ!?」と素っ頓狂な声をあげる。
「待て待て、リンドバウム傘下になった事でお前の魔族への献上が逃れられたのに、何故そのリンドバウムにお前を差し出さねばならんのだ?」
父は訳もわからず困り果てた表情をしている。
「ですから、私がその友好の懸け橋になろうと云うのです!どうです!いい考えでございましょう?」
「いや、お前にはそう云った形での婚儀には臨んで欲しくないのだよ。出来れば好きになった者とだな…。」
セイレイはその言葉を聞き、ビシっと父に対して指を差す。
「それです!好きになってしまったのです!!私に対して面と向かって『お美しい』だなんて言ってくれた初めての殿方ですよ。いけませんか?」
その時のドラクーン公の表情はなんとも言えないものであった。政略結婚を免れた娘が、まさか違う処の政略結婚に行きたいと言い出したのである。
「お前な…陛下がどんな方か判っていて言ってるのか?」
「判りますよ。あの奥方様を見れば。聡明でお優しい方です。」
間違ってはいないのかもしれない。あのウテナを受け入れているのだから。
「そういう見解ならば、明日来られる第1様を見てから言うべきだ。第1正室と云うのは言ってみれば基本フォーマットであるからな。」
「なるほど…お父様の弁も判るような気がします。」
そう、明日には基本フォーマット…いや、マリオネートを含めた応用型の2人も来る事になっているのだった。
「頼むよセイレイ、今日はそういう事であるから大人しくしていてくれ。パパを悲しませないでおくれ。」
「はーい。」
どうやら彼女はウテナ型であるようだ。使者の件も彼女が自ら飛び出して行ったのであろう。そして、サクヤやウテナがそうであるように、転生者であるユーヤのDNAを嗅ぎつけたのかもしれない。
朝早く、勘が働いたのか迎えに来たホエール1にマリオンは急いで飛び乗った。おカジとキャシーを引き摺るようにして。
「何をお急ぎなのですマリオネート様!」
「奥方様、キャシーはまだ眠いにゃ。。。」
「いいから乗って!!嫌な予感がするのよ。」
サクヤは…と言えば、戦神の端末になった余波で未だに寝込んでいた。
マリオンの『嫌な予感』と云う言葉に、おカジとキャシーの二人は心配になり、結局急かされるままにホエールに飛び乗ったのだった。
そして竜人領に辿り着くと、ユーヤの後ろでいがみ合うウテナとセイレイを目撃する事になるのであった。
「ねえユーヤ、これはどういう事?」
「え?なにが?」
そうマリオンが指差す方向をユーヤが向くと、ウテナとセイレイはまた仲良さそうに手を合わせてニコニコしている。
「ドラクーン公の処のお嬢さんだよ。なんか昨日からウテナと仲良くやってくれているみたいなんだが?」
「仲良く…ね。」
ユーヤがマリオンの方を向くと、また力比べのような状態になっている。
「飛んだコントにゃ。」
「そうですね。なんと言うか…今回は陛下が気付いてらっしゃらないようですね。」
そんなおカジとキャシーの言葉に、同感だわと言いたげに溜息を吐きながら、マリオンはセイレイに声をかける。
「初めまして竜人の王女様、私はユーヤの第1正室のマリオネートと申します。よしなに。」
そこでようやくウテナとの力比べを止めて、セイレイはマリオンに向き直る。そして突然向きを変えられた第2様は、盛大にずっこけておいでになっていたのだった。
「お初にお目に掛かります。第1様。ドラクーンが長女セイレイと申します。」
マリオンの、いやマリオネートの眉がピクリと反応する。
――輿入れもしてないのに私を第1様と呼ぶとは…。ふっ…もう少し様子を見てあげるわよ。
「そしてこちらが第3のおカジ、その横に居るのは側室のキャシーです。よろしく。」
ようやくユーヤはマリオネート様の御登場で何かに気付く。『あれ?これ以前にも似たような空気が…?』と。
「おカジ様、キャシー殿、よろしくお願いいたします。」
なにやらセイレイは、第1様に気に入られようと必死なようである。
「因みにそこのウテナは私の妹のような存在よ。ぞんざいな扱いはもう止めてあげてね。」
セイレイはそこで『しまったーー!!』と心の中で叫ぶ。そして急いでズッコケたウテナの衣服の汚れを払う。
「ウテナ様、申し訳ございません。悪気はないのです!」
マリオネートはそこでセイレイの行動が意外であったのか、少し表情を変えた。
――あら?私にではなく、ちゃんとウテナに謝ったわこの子…。
そしてセイレイに対して、マリオネートは微笑んだのだった。
「合格よ。あとはお父上なり母上なりを説得していらっしゃい。こっちは私が説得するから。」
「え!?マリ姉様?」
「マリオネート様!?」
「キャシーは奥方様に従うにゃ。」
「いや、俺を放置して何なんだ?」
「第1様有難うございます!!必ずお父様を説得して、そのお傍に参ります!」
そう言うと、セイレイは城内の父の私室へと駆けて行った。マリオネート以外の一同は呆気にとられるだけで、これを見送る。
そしてこの縁談は、ユーヤの自覚がないまま魔神討伐後の合同結婚式への参画と云う事で、正妻マリオネート様主体で決まってしまったのであった。
こうして正妻派をまた増やしたマリオネート様は、実にご満悦であったらしい。
セイレイはちゃんとノリではなく
元からユーヤの嫁の一人として考えていた子です。
因みに彼女は王女と云う事になっているので
『コンテ』ではなく『ミスト』になります。
つまり、第4正室です。




