第九拾六話 イザナミの覚悟
サラマンドラとの戦闘で傷ついたアナトの応急修理をするユーヤを庇い、イザナミ本体はその傍で警戒を続ける。そして分身達は、四方八方からの攻撃によってサラマンドラにダメージを与えて居たのだった。
『ウテナ様、うっかり傍観してしまって申し訳ない。これより私も戦列に加わります。』
『このエレーナとロイエルのエンリルも行きます。』
『はい、助かります。多方面からの攻撃であれば魔導ランチャーでなくとも、物理も有効である事が判りました。なるべく各々別方向からの攻撃を意識してください。』
『了解です。ランチャーはどちらにしろ、先程の最大火力での攻撃によって数分は使えない状態です。ここはそれぞれ得意な攻撃で行きましょう。』
尻尾を躱しつつ、各々が四方から攻撃を始める。次第にサラマンドラも疲弊してきたのか、物理結界の力も弱まり有効打とはいかずとも、それぞれの攻撃にダメージを受け始めていた。
「アナトどうだ?動けそうか?」
『はい旦那様。ただスキルは1回が限度のようです。』
――1回か…そうなると、癪だがあれに頼るしかないな…。
「マリっぺ、操縦は俺がやる。アナトの補佐をやってくれ。」
「わかったわ。アナト、しっかりしてね。帰ったらゆっくり休ませてあげるから。」
『はい、女神様。』
「ウテナ、済まないがこのままで頼む。マナドリンクは後どれくらいある?」
『あと…2本なので二人で1本ずつですね。』
やはり5つ身ともなると魔力消費が半端ではないらしい。各機に10本ずつ載せてあるマナドリンクの消費からそれがわかる。
「あとどれくらい保ちそうだ?」
『5分は保ってみせます!!』
そう確認をしながら、ユーヤの操縦によってアナトはゆっくりと立ち上がる。応急処置であるため、左腕は損失したままであった。
残った右腕が腰にぶら下げた大太刀へと伸びる、そしてそれを抜くと魔力を太刀に蓄積する。太刀の色が赤熱化し、それはやがて青になった。
『どっせええええぇええい!!!』
『いやああぁああああ!!!』
エンリルとロン機がウテナの分身達と共に、切れ間なく果敢に攻撃を繰り返す。互いの蓄積ダメージは相当なものになりつつあった。
エンリルの黄金の右肩当てが床に転がっている。ロン機の右膝当ても何処かに吹き飛んだようで剥き出しになっていた。
サラマンドラは口元から赤い雫を滴らせている。臓器にまでダメージが通ってきている証であろう。
『どりゃああぁあああ!!』
ロンの蹴りがサラマンドラにクリーンヒットをする。しかし、その瞬間にロン機の膝当てを失っていた右足は、千切れ飛んで行ったのだった。
重力制御装置のおかげで、足を失っても浮遊する事で戦闘は継続出来る。だがロンもまた、今の攻撃で最後のマナドリンクに手を掛ける事となっていた。
一方エレーナとロイエルも残りのマナドリンクが1本ずつとなっており、このまま消耗し続ければ、いつこの優勢が逆転されてしまうか判らない状況であった。
「くう!あんた達しつこい!!私は魔王なのよ?いい加減にやられちゃってよ!!」
サラマンドラはそう叫ぶと、口から炎を吐いた。それをイザナミの分身の一つがまともに受けてしまい、消失した。サラマンドラはその様子を見てニヤリとする。
「うふふ…どうやらこの分身の耐久力はそんなになさそうね?じゃあ、この紫の人形から消して行ってあげるわ!!」
サラマンドラは更に炎を吐きだし、また1体また1体とイザナミの分身は消されていった。気付けば分身は残り1体となっていた。
『く!火力が強すぎて近づけん!!』
ロンが呻く。機鋼甲冑達は、攻勢から守備に回らざるを得なくなっていた。
『今から最後に残った魔力と分身を使って特攻を仕掛けます。皆さん安全圏に退避してください。』
ウテナは決断をした。ここはエンリルとロン機を逃がすべきだと。
『ウテナ様!まだ我々も戦えます!無茶はしないでください!!』
『そうです!まだ勝機はあります!!』
エンリルとロン機からの通信にツクヨミ姉妹は笑顔で応える。その笑顔の意味を察した2機が分身を止めに入るが、ニンジャマスターの動きに追いつける術はなかった。
分身はサラマンドラの口元に向かって一直線に飛翔する。炎に巻かれ焼失しかかっているが、魔力による結界によって耐えていた。
「このおぉお!消えなさいよ!!」
サラマンドラがそう叫んだ瞬間に、分身はサラマンドラの顔前で大爆発を起こした。そして、それらに残った魔力全てを使ったイザナミ本体もまた、アナトの横で倒れ伏してしまった。
サラマンドラのうめき声が周囲に響く。残った3機はそれを見上げながら立ち尽くす。
「おほほ…どうやら今のが切り札だったようね?残念ながら私は健在よ?」
そう勝ち誇るサラマンドラであったが、アナトの右手に光り輝く太刀を見つけると、その表情が変わる。
「ま、まだやるつもりなの!?あなた達の負けよ!負けを認めなさいよ!!」
どうやら、強がってはいたがイザナミの分身体の自爆に相当なダメージをもらったらしく、サラマンドラは狼狽えた。
「ウテナの作った勝機、そして覚悟。これを無駄にするわけにはいかない。」
既にサラマンドラも結界を張るだけの魔力を残しておらず、焦燥がその表情からも読み取れる。今しかない、とユーヤ…アナトは前へと歩む。
「結界がなくったって、人形如きに!!!」
サラマンドラは迂闊にもアナトに向かって突進し、その巨大な腕と尻尾を振るおうとしていた。
そう迂闊にもだ。
瞬間、アナトの右手に握られた大太刀は光を強め、そして閃光が瞬いた。
――次元断裂斬
その光はサラマンドラの腕と尻尾を突き抜けて、真っ直ぐにその脳天へと消えて行った。そして、ズルリと嫌な音が響く。
サラマンドラは真っ二つとなり、虚空には次元の裂け目が出来ていた。そしてそれらが元に収束しようと耳鳴りのような音を響かせる。
それらを確認すると、太刀を仕舞う動作もなく、アナトもまた倒れ伏した。魔力の枯渇によって、ユーヤとマリオン共々気を失ったようである。
『陛下!!』
『お義兄様!!』
2機の機鋼甲冑がアナトとイザナミへと駆け寄る。そしてエレーナがコックピットを強制的に開くと、そこには失神しながらも満足そうに眠る義兄と姉の姿があったのだった。
「ウテナ様達も失神しているだけのようですね。では、それぞれ担いでホエールまで戻りましょう。」
「はい。」
二人は機体に戻ると、各々アナトとイザナミを担いだ。そしてホエールへと急ぐ。2機共に残った魔力も僅かであったのだった。
こうして魔王の一人を倒した事によって、オーガ大陸に於ける勢力図は大きくリンドバウム側へと傾いた。しかし、この戦闘によって王家の者3人とその義姉は2日ほど意識を失ったままとなってしまい、リンドバウム軍は足踏みをする事となったのだった。
ユーヤが目覚めたのは2日目の午後であった。
気付けばおカジとキャシーが手を握ってくれていた。マリオン達は朝方には目覚めていたが、現在絶対安静との事だった。特にツクヨミ姉妹は、分身体による自爆と云う荒業をやった影響もあり深刻なダメージを負っていたようである。
しかし、二人の性格をよく知っている者達によって、現在諜報隊員の見張りがへばり付いているそうである。
「陛下も勿論絶対安静ですよ。あと2~3日は皆に軍務を任せて頂きます。」
おカジが医師からの診断を説明してくれている。その表情は嬉しさ半分、悲しさ半分と云ったところであろう。涙こそないが、その目は真っ赤に充血していた。
キャシーの方はと云えば、目覚めてくれた嬉しさからボロボロ泣いている。
「だから陛下。ちゃんとお休みするにゃ。起き上がっちゃダメですにゃ。」
話を聞きながら起き上ろうとすると、新妻に怒られた。仕方なくユーヤは「悪い悪い。」と言いながら、また横になったのだった。
「アナトの方はどうなんだ?」
そちらに関しても、帰還後に早々にカスバドに連絡をとり、急いでオーバーホール中との事であった。やはり他の機体よりもアナトのダメージは深刻であったらしい。
また最初期の試作型であった為、各部品なども見直され交換中との事である。
そして突貫したセイト号もかなりの損害をうけた為に修理中であった。
なんにしても、今のリンドバウム軍は防衛網を張る事だけで手一杯のようである。各師団が持ち回りで、王家不在の状況に於いて戦況の維持をしてくれていたのだった。
七大幹部は後1人、魔王は2人、そして魔神は健在である。
ウテナの覚悟?
サクヤとウテナの覚悟?
うーーーーん……。
と悩んだ結果が今回のサブタイトルです。
分身とは謂え自爆何て、精霊の承認も必要でしょうしね。
※雑記
昨日は本当に筆を休めて他の方の作品を読み漁っておりました。
そこで私に近い作品を見つけてひたすら読み耽りました。
近いとは言っても私なんかよりも表現とかもしっかりしてますし
かなり計算され尽くした作品です。
でも、なんか同じ匂いがするなーと夢中で読んでました。
PCで読んでるので目が痛いです。。。
ここまでしっかり勢いに流されずに書けたらなあ…と
時折勢いだけのミツクラは思うのでした。




