第九拾五話 魔王サラマンドラ
ロンはイザナミとエンリルを引き連れ、魔軍城塞の奥へと向かった。引き連れて来ていた機鋼甲冑隊の2機は、その場で陸戦隊の援護へと回らせた。
『お二人共、国を預かる大事な身なのにまったく…。』
ユーヤとマリオンの所在を求めて3機が捜索する中、ロンは呟く。
確かに勇者と女神である二人が率先して戦う意義は判るが、国王が兵を置いて敵陣深くに奥方と二人だけで攻め込むなどとは前代未聞の事だ!と、ロンは歯軋りしている。
それ以上に主に遅れをとり、こうして城内を探索する状況に陥っている自身を歯痒く思っているようだった。
その点に関して慣れ過ぎてしまっているジード辺りに、爪の垢を飲ませてやりたいと思える程に、元々がカイザーブレードであるロンは王宮騎士団よりもロイヤルガードの気質を持っていると思える。
『ロン様、この通路の最奥から強い魔力反応が出ています。義兄様と姉様はそちらかと思われます。』
エレーナ機…エンリルがユーヤ達の魔力を感知したようで、今まで通って来た通路より更に大きな通路を指差す。見れば幾つもの石塊が転がっている。ゴーレムの残骸であろう。
『そうですね。この戦闘の跡からして間違いなさそうです。急ぎましょう。』
ロンを先頭に3機は航行最大速度で飛翔する。奥に進めば進むほどにゴーレムの残骸は増えていっていた。
「くっそう!何だこいつは!?物理攻撃が全て弾かれるぞ!!?」
巨大な蛇の尾に、豊満で筋肉質な女性の上半身を持つ魔王サラマンドラは、アナトの剣戟を見えない壁によって全て弾き返していた。
「おーほっほっほ!!この私にそのような攻撃が効くと御思いなのかえ?勇者王よ!」
その体高は50m近い。蛇の尾の先端から計れば、全長は100mにもなろう。七大幹部ハクゲイよりも遥かに大きい相手と、ユーヤとマリオン、そしてアナトは対峙していたのだった。
「ユーヤ、シフトチェンジしましょう。ひょっとしたら魔法系ならば対抗できるかもしれないわ。」
「無理言うなよ。まだ俺の魔力の回復が済んでないんだぞ?」
「供給割合を逆にすればいいじゃない。」
「しかしそれだとマリっぺの負担が――」
「シャラップ!!そんな事言ってられる状況じゃないでしょ?アナト、お願い。」
「え、おい!」
『了承いたしました。女神様。シフトチェンジ、魔導フォーム!』
アナトは声高らかにシフトチェンジを宣言した。ユーヤが何か言いたげであるが、二人はスルーする。
「うちの嫁達は揃いも揃って…なんでこうなんだ…。」
ユーヤが愚痴っているが、そんな事など構いもせずにアナトが片手を高く掲げると、雷鳴が轟く。
刹那、バリバリと音を立てて雷がサラマンドラを包み込んだ。多少は効き目があったのであろう、サラマンドラの表皮を幾分か焼いたようである。
「おやおや、普通ならこの程度の魔法でも傷一つ付かないのですが、そのお人形さんの力かしら?それとも女神様のお力でしょうか?」
サラマンドラにはまだまだ余裕が見られる。逆にユーヤ達は焦りを見せていた。
「魔法でさえこの程度の効き目しかないのかよ。」
「ランチャーを持って来れば良かったわね。」
『はい。あれでしたら魔導砲撃も可能ですし、有効打を放てそうです。』
そんなユーヤ達を、サラマンドラは薄笑いをしながら睥睨する。
「うふふふ。なに?出直すの?そうはさせませんわよ。」
そう言うと、アナトに向けて尻尾を激しく振って来る。100mクラスの全長を活かして、避けても避けても追い縋って来るのだ。遂には避け切れずアナトは左腕でカバーをする。
瞬間、ゴキン!と云う鈍い音が鳴り響くと、アナトの左腕が空中を舞っていた。基本が楽師であるマリオンの操作では、ユーヤのようには躱し続ける事が出来なかったのだ。
「アナト、大丈夫!?」
『女神様、腕一本持って行かれただけです。まだどうにでもなります。』
「マリっぺ、代わるか?」
「無理よ。物理攻撃が効かないのよ?代わった処でどうにもならないじゃないの。」
確かにその通りであった。ユーヤに代わった処で、手の打ちようがないのだ。ただ、魔力を大量消費する戦神のあの技であるならば活路は開ける可能性があったが、失敗すれば二人共魔力を失い戦闘手立てを全て失う事となる。
片腕を失ったアナトを、サラマンドラは笑いながら追い詰めて行く。そして、気付けばアナトは壁際にまで追い詰められていた。
「うふふ…逃げ回って這いずり回って、もっと良い声を聞かせてね。」
サラマンドラは口から蛇のように二つに分かれた舌を出すと、自らの唇を舐める。まだ彼女は遊び足りないと云った表情であった。
「くうっ!」
「うわあっ!」
『し、しまった!!すいません。女神様!!』
疲弊し動きが散漫となっていたアナトは、サラマンドラの長い尻尾に巻き取られ、身動きが出来ない状態にされてしまった。
「なあに?もうお仕舞なの?こんなものなの女神と勇者の力って…つまらないわ。」
そう言うと、サラマンドラは尻尾の締め付けを更に強める。アナトの装甲がギシギシと音を立て、計器類の幾つかもショートしコックピット内では火花が飛んでいた。
「魔王如きで終わるのか…畜生!!」
ユーヤがそう叫んだ瞬間、ズゴゴゴゴゴ!!と云う音と共にサラマンドラが悲鳴を挙げた。
「熱い!熱い!!誰よ!私の楽しみを邪魔する無粋な輩は!!!」
サラマンドラが叫びながら尻尾を震わせ、その方向にアナトを投げつけると、紫色の機影がそれを重力制御装置を使って、フワリとキャッチした。イザナミである。
その傍らには魔導ランチャーから白い煙を上げて佇む緑色のロンの機体と、黄金色の機体…エンリルが居た。
『よくもお義兄様と姉様を!!』
『陛下とお妃様への狼藉、許しません!』
魔導レベル最大で放った為か、2機のランチャーは未だに白い煙を上げていた。
「ウテナ、それにサクヤ姫、ありがとう。助かったよ。」
『陛下!!お怪我のほどは如何ですか?!!』
『兄君!!作戦行動に於いて単独行動は厳禁と仰っていたのはご自分ではないですか!無茶をしないでください!!』
置いて行かれた子猫のように、二人の声は必死であった。
「そう言わないであげてよ。ご招待されちゃったんだから、仕方なかったのよ。」
アナトの内部では白煙が上がっていた。それを二人はケフケフ言いながら払っている。
『イザナミ、助かりました。あともう少しで五体をバラバラにされる処でした。』
『アナト姉様、いくら我々機鋼甲冑が強力とは言え、これは無茶です。帰ったらオーバーホールですよ。』
イザナミはメっと云うような仕草をしている。思わずユーヤとマリオンはそれを見て和んでいた。
サラマンドラは先程の魔導砲撃に、余程のダメージをもらってしまったのか3機の出方に用心をしているようで、その動きを止めていた。
「各機に伝える。あいつには物理攻撃は効かない。魔法系も程ほどにしか効いていなかった。しかし、さっきの攻撃で気付いたんだが、そのバリアは一方向にしか発生していないようだ。」
『なるほど、ではやり方はありますね。』
『ロイエルどういう事?』
『お嬢様、散開して奴の気が張っていない方向から攻撃をすれば、有効打を放てると云う事ですよ。』
さすがロイエル君である。彼のユーヤポイントは更に上がった事であろう。
『ふっふっふー。では我々姉妹の見せ場と云う事ですね!ウテナ、シフトチェンジです。任せましたよ。』
『はい!サクヤ姉様!!』
そう言うが早いか、イザナミが分身を始める。1つ、2つ、3つ――
4体のイザナミが様々なポーズを取って現れた。本体はアナトを抱きかかえたたままである。それを中心にして4体がバックに爆炎でも上げそうな、そんな光景であった。
『今日は大サービスで5つ身です。さあ、そこのデッカいおばさん!覚悟してください!!』
サラマンドラの額に青筋が浮かんだ。『おばさん』の一言が効いたらしい。
「こーのー小娘があああああ!!誰に向かっておばさんなんて言ってるのよ!!」
そう、女性にこう云った台詞を吐いてはいけません。例え目上であっても『お姉さん』と言うようにしましょう。
「わらわは3魔王が一人、サラマンドラであるぞ!!それをそのような呼称をしおって!!!貴様には本当の地獄を――」
そんな蛇おばさんの云う事を呑気に聞いているウテナではなかった。分身した4体のイザナミが、四方からマキビシシューターを撃ち出す。
正面と左右のマキビシは確かに弾かれてしまっていた。が――
「あ、痛!痛い痛い~~~!!」
背面に回って撃ち出されたマキビシは、見事に蛇おばさんの背中に突き刺さっていたのだった。
このコントのようなやり取りに、エレーナとロンは完全に出遅れてしまっていた。茫然とそのコントを眺めている。
『あ、あの…ロン様?行かれないのですか?』
コパイロットの副官に言われて、ロンはようやく我を取り戻す。
『あ、いかんいかん!エレーナ様、我々も続きましょう。』
『は、はい…。』
ウテナとサクヤに免疫があるにも関わらず、巨大な相手を前にコミカルな動作で動き回るイザナミに、味方が困惑したようであった。
ユーヤはアナトの応急処置をしていてこれらを見ていなかったのだが、コパイロットであるマリオンは、周囲の警戒の為にこの一部始終を見てしまっていた。故に彼女もまた茫然としていた。
「マリっぺ?どうした?ヤバい状況か?」
ユーヤがマリオンの様子に気付いて声をかけると、マリオンは「いえ、優勢には転じそうよ。」と答えた。
「ただ、別の意味でヤバいんだけど…。」
その声はユーヤに聞こえないほど小さなものであった。ユーヤはそのまま気付かずに修理を進めるのであった。
ダメですよ。
真面目に読んでたそこのあなた!!
私の作品の戦闘シーンでシリアスなんて続きませんよ。(爆)
※雑記
気付けば、またもブックマーク数が上がっていました。
ありがとうございます。
現在、筆休めと言いながら
結局毎日のように編集作業をしつつ
その傍らでユーヤとマリオン、ウテナ達が話を紡いでくれてしまっています。
どうやら私の傍にいる者達は
まだまだ遊び足りなかったようです。
APPENDIX用の辞典の方も、何回かに分けねばならなそうな勢いです。
有り難い事です。




