プロローグ 転移、そして転生
初めての投稿となります。
お見苦しい点が多々ありますでしょうが、ご容赦ください。
あくまで趣味の範疇での投稿なので、更新はかなり不定期になります。
虚空には数多の星が瞬いていた。
―美しい…なんて美しい光景なんだろう。
星が手に届きそうだ。今まで見た事のない光景に息を呑んだ。
不意に背後に重力を感じる。そして振り返った。
目の前には美しく青い惑星。
―この惑星が、俺が救うべき星…。
更に重力が強まる。そして体が加速する。
―ああ女神よ…女神様よ…。
体が火に包まれる。
―…女神さん?
既に音速を越え、光に成らんとしている。
「おい!こら駄女神ぃぃいいいいい!!」
彼は遂に、今まで言葉すら発せなかったその口を開いた。
大陸の西端の半島に流星が落ちた。夜空に美しい弧を描いて。
『久能佑哉殿、申し訳ありません。うっかりいねむ…瞑想をしていたもので…。』
光に包まれた精神体が瞬きながらのたまった。
『聞き間違えでなければ、今、うっかり居眠りとか言いそうになってたよね?ねぇ?』
静寂が流れる。
『で…俺の体は?』
佑哉もまた精神体となっていた。怒りを現すかのように激しく明滅している。
『え、えぇと…吹っ飛んじゃったみたいですね?えへ…へ』
女神の精神体は言い澱みながら、青く虚ろな色で明滅して答えた。
またも静寂が辺りを包んだ。
何拍かの後、やはり先に口を…いや、口はない、精神体故に。言葉を発したのは佑哉だった。
『で、この世界の管理者たる女神マリオン様。どうやってこの世界を俺に救わせるのでしょうか?』
落ち着いた声音だったが、赤く明滅している。怒りを抑えるようにゆっくりと。
『あは…あはあはあははぁ~♪どうしよこれー(笑)』
『このクソ女神ぃぃいい!笑って誤魔化そうとしてんだろゴラァ!!潰すぞ!!!』
真っ赤な炎と見紛うかのような激しい光を発しながら佑哉だった精神体は、女神マリオンの精神体に光の速さで組み付いた。いや、ぶつかって行った。
『ふぎぃいい!成りたてとはいえ女神に何すんのよぉ!』
『初心者マークの癖して居眠りこいて大ポカした奴が、偉そうにすんじゃねえ!!』
精神体なので手はない。ない…のだが…ポカポカ殴り合っているようである。そして神の尊厳(笑)を傷つけられた女神マリオンの精神体が白く強く、そして激しく瞬いた。
『喰らえ!神の怒りをぉぉお!!』
一瞬、星が瞬くように佑哉の精神体が吹き飛んだ。遥か遠くへ…。
「痛てて、糞がぁ!何が神の怒りだコラぁああ!!」
佑哉は吹き飛んだ落下地点で仰向けの状態からすぐ様立ち上がって叫んだ。目を鋭く光らせ、息を切りながら佑哉であったそれは迎撃の体制をとる。手には白いスパークが発している。
数秒後に激しく瞬く光の塊が接近した。女神の精神体だ。先手をとったのは佑哉だった。その拳をスパークさせながら打ち抜いた。直後、光の塊は後方に吹き飛ぶ。その落着予想地点には赤い髪の女性が倒れ伏していた。よく見れば自分達の周りには他にも数名、鎧を着た者達が倒れている。
「え、人が…あ!ヤベ…」気付いた時には遅かった。言葉が終るのを待たずに、光の塊はその女性に衝突した。しかし、衝突した瞬間に女性はすぐさま立ち上がって拳を構えながら急襲して来た。
「勇者ぁあああああ!!」
咄嗟に佑哉は危機を感じて、同じように拳を構えた。お互いの拳が綺麗な螺旋を描きながらクロスする。そう、それは芸術的なクロス。クロスカウンター。互いの顎に、互いの右拳が炸裂する。そして同時に白目を剥いた。…片方は女神なのに。
気が付けば周り中真っ白な空間に居た。佑哉にはその空間に覚えがあった。異世界転移召喚の際に、女神マリオンから説明を受けた場所だ。想像していただけるようなテンプレの説明を受けた場所。『ある世界が破滅の危機を』とか『貴方は選ばれた勇者』だとか説明をうけた場所だ。
内心、佑哉は召喚された際は胸を躍らせていた。創作の世界にしか存在しないはずの剣と魔法の世界。自分がその世界で勇者として縦横無尽に冒険する。死と隣り合わせの世界ではあるけれども、平和と云う名の停滞の中にある日本に飽き飽きしていた佑哉の心は躍った。
拙いながらも英会話を習得し、高校2年の秋には短い期間ではあるが海外留学も決めていた。そこへ降って湧いた異世界召喚…いや、佑哉からすれば『異世界留学』のつもりだった。
しかし、現実には…既に自身の肉体は流星に…。
ん。あ、そうだ!あの駄女神はどこへ行った?と、辺りを見回すと、プスプスと煙を上げながら赤い髪の女性の姿のままで這いつくばっている姿があった。女神なのに…。
しかし光の中でよく目を窄めてその駄女神様の頭部の辺りを見ると、そこには金色に瞬く鎧を纏った青年が立って居る。地面に大剣を突き刺し、その柄頭に両手を乗せて片足は駄女神様の頭の上でゴリゴリ…。
直感的に佑哉は覚った。あ、これこの女神よりも上の偉い人…いや神だ…。
『すまんな。勇者よ。』
駄女神様よりも遥かに神々しい音声が頭に響いた。直視は…出来ない。
『我は戦神サガ。こやつの謂わば上司じゃ。本来なら我とこやつとの間には幾つかの…。まぁ、新人教育係みたいな者やら、更にそれを統括する者やらがいるのじゃが…今回余りのアホさ加減に皆サジを投げてしまいおって、仕方なくヒト族の頃からの上司である我が出向いた次第じゃ。』
神々しい声音ではあるのだが…何処か羞恥心に震えているようだ。
戦神サガが女神マリオンよりも遥かに上の神格故か、佑哉は声も出せない。
『詫びとして色々考えたのじゃが、丁度良い。お主が乗っ取ったその肉体を、そのまま使うが良い。』
佑哉は一瞬、はい?乗っ取った?と言葉に出そうになったが、やはり言葉は出ずに顔だけが引き攣った表情になっていた。自身に身体がある事に気付いたのは、正にこの時だったのだ。
『その身体はリンドバウム王国の王、アレクソラス13世の身体じゃ。』
―え、王様!?王様ですか!?なんで?なんでそうなった?!
『なぜそうなったのか、知りたいようじゃな。教えて進ぜよう。』
リンドバウム王国はラウズ大陸の西端に位置し、魔王の住むオーガ大陸はラウズ大陸の南東に位置している。魔王の脅威から最も遠いこの地を転生の地に選ぶ事によって、女神マリオンは勇者の安全な育成を図るつもりであった。その為、早くからリンドバウム王国に対し勇者の降臨の神託をしていたのだ。それ故に王は供回りを引き連れて神託の地へと向かっていた。
しかし、それを察した魔王は空間に細工をし、女神マリオンの転移式の妨害を図ったのだった。
『本来、そのような妨害を受けようとも、しっかり管理者であるマリっぺ…ゴホン。マリオンが召喚地点をずらす等の措置をすれば安全にお主を召喚できていた筈なのじゃが…。どうやら…居眠りをぶっこいていやがった為に気付かずに、勇者自身によるメテオ落としとなってしまったようじゃ。』
王は召喚点に向かっている途中であった為、完全な直撃は免れた。しかし、勇者によるメテオ落とし…である。初心者マーク女神のマリオン程ではないが、神の力を預かり持つ者が流星となって落ちて来たのである。
『これを見よ。』
そう言って戦神サガは床に映像を浮かび上がらせた。
そこには大きなクレーターがあった。海水がクレーターに流れ込み、津波を呼び、先ほど二人が争っていた周辺も水没し始めていた。半島一つがまるまる沈んで行く。
『わかるであろう。これほどの神力による衝撃じゃ。その脅威の周辺であった故に肉体は残ったが、魂は吹き飛んだようじゃ。』
佑哉の顔面は蒼白になり、歯がカチカチと鳴った。
知らぬ間に、王様を亡き者にしていただと?魔王と敵対する国の?!まるで、俺こそが魔王の尖兵みたいじゃないか!?
恐る恐る戦神サガの顔に、自らの顔を向けようとしたが、やはり動けない。
『ん?あー大丈夫じゃ。お主に責はない。責があるのは魔王と…こやつじゃ。』
女神マリオンの頭の上のサガの足に、いっそう力が籠る。女神マリオンは突っ伏したままピクピク痙攣している。女神なのに…。
―うわーこの人…いや神、Sだ。見紛う事なきドSだ。
佑哉は目が点になっていた。
『さて、こやつをこの娘子の中に完全に憑着させ終えた。お主の供として使うがよい。こやつの神格も勇者であるお主と同等の、「亜神」に引き下げてある。これは、今回失態をやらかしたこやつへの罰でもあり、お主への詫びでもあるので遠慮は無用じゃ。』
―え。なんかそれって…ある意味素敵なスペシャルウェポンをくれたって事なのか?そうなのか?でも、それなら力を引き落とさずに女神のままでも良かったような…。駄女神だけど…。
などと佑哉が思った矢先に、戦神サガが答えた。
『女神のままでは、世界を壊しかねんのでな。それと、我が直接関与出来ぬのもそういう事なのじゃ。すまんな。』
ほんの少しの静寂の後、再び戦神サガが口を開く。
『我の方から新たな神託をしておいた。時機にお主らの迎えが来るじゃろう。ゆけ!勇者久能佑哉!…いや、リンドバウム王アレクソラスよ!我が弟子と共に!!』
かくして、久能佑哉の…否。
アレクソラス王の苦悩(?)と戦いの日々は幕を上げたのであった。
登場キャラクター
久能佑哉:主人公。高校2年生だったが、転移転生の為、ラウズ大陸の西端の国リンドバウム王国の王様アレクソラス13世の肉体を得る。
マリオン:元女神。現在亜神。色んな意味でぶっ飛んだキャラである為、作者でさえも操縦できず色々封印。
戦神サガ:マリオンよりも数段格上の神様(上司)。本来はもっと崩れた感じの語り方をする神様なのだが、部下がやらかした手前、なるべく威厳を損なわぬような語りを心掛ける。もっと先の話で登場予定だった。。。マリっぺを上手く操縦できなくて、黙らせる為に出さざるを得なくなった神様です。
魔王:オーガ大陸の覇者。世界を蹂躙せしめようと行動している。今のところ名称決めてません。