前篇 魔女の思い
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【魔女】
貴方と初めてであった日、あぁ、私は貴方と出会うために生まれたのだと思ったの。
その身を呪いに焼き尽くされてしまった貴方は、心も体もボロボロで、でも、貴方はこの国の為に立たなければならなかった。
それが、王子であり、この国の王となる貴方の役割。
だから、私のような魔女の元へ貴方は来なければならず、私のような者を傍に置かなければならなかった。
「近寄るな。俺から離れろ。」
それが貴方の口癖。
だから、出来るだけ貴方の目に触れないように、白く醜い髪を伸ばし、顔を見せないようにした。
背中を丸めて小さく体をして、貴方の邪魔にならないように気を付けた。
私は醜い魔女。
でも、貴方はそんな私の傍にいなければ立ってはいられないほどに全身を呪いで焼けつくされてしまう。
金色の髪に、青色の瞳を持つ美しい貴方の傍にいたいと言う美しい女は星の数ほどいたことでしょう。けれど、どれほど美しかろうと、どれほど心優しかろうと、貴方の傍にいられるのは私だけ。
私は酷い女。
細い手足に、真っ白な伸びっぱなしの髪の毛。
魔女の赤い瞳を宿した悍ましい姿。
貴方に嫌われているのは分かっていたけれど、貴方の傍にいられることが幸福だった。
「あまり近寄るな。はぁ。いつになったら私の呪いは解けるのだ。」
ずっと解けなければいいのに。
そうすればずっと貴方は私の傍にいなければならない。
魔女の私の体は、貴方の呪いを中和するただ一つの存在。
ずっと牢屋に閉じ込められ、ごみためのような所に居た私を、貴方は自身の傍に置くしかなくなった。
美しい貴方と、醜い私。
ずっと一緒には居られないと分かってはいても夢を見てしまう。
もしかしたら、ずっと一緒にいれば、いつか貴方が私を見てくれる日が来るのではないかって思ってしまうの。
そんな事あるわけないのにね。
でも、夢見るのは自由でしょう?
だから私は今日も勝手に夢を見るの。
貴方の傍で一緒に楽しく笑う夢。
そんな夢、来るわけもないのにね。
次の年には、貴方の呪いは解けて、私は元の牢屋へと戻された。
暗い部屋。
汚くて臭い、ごみため。
貴方の傍にはもう私は必要ないのね。
そうよね。
私は醜い魔女だもの。
歓声が聞こえる。
あぁ、貴方が王様に即位したのね。
あぁ。
おめでとう。
きっとあなたならば素晴らしい王様になれるわ。
体が醜くただれようと、心がボロボロになろうとも、王としての器を持ち、正しく真っ直ぐに民の事を思える貴方だもの。
ぁぁ。
あぁ。
聞きたくない。
見えないのに、歓声で気づいてしまった。
『新王陛下万歳!お妃様万歳!』
貴方の横には、きっと、美しい人がいるのでしょうね。
心も、見た目も、美しい人。
私ではない、綺麗な人。
「う・・・・うぅ・・・・。」
汚れた目から初めて涙が溢れた。
「幸せになって。」
暗い牢獄の中から、私はそう、祈った。
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