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第八話 空

 遠目からでは巨大な怪鳥に見える<飛翔>の系譜に連なるトアグレース人、ソウとラウは二人で一つの体を共有している。

 一つの首からさくらんぼうのように枝分かれたしたそれぞれの頭は、片方は常に睡眠にはいりこうべを垂らしている。

 そのような状態にも関わらず意識を共有していた。

 その巨体を維持するための食事は一般的なトアグレース人より多く。また、動物性蛋白質ワームでなければまかなうことは難しい。


「だ~か~らっ、遅くなったのはしょうがないのっ。ダウザちゃんが休みたいって言うから。……あたしだって小腹空いてたしぃ」

「だからって半日も食い続けるかねえ。小腹でそれなら、空腹のときは一日食い続けるんじゃねえかぁ?」

「そんなに食べてないわよっ! ……あ~あ、こんなこと言われるならソウの言う通りにするんだった。今らからでもそうしちゃおっかな……?」


 ぐんぐんと世界の中心……世界樹アランタカルタのを頂点を目指し飛ぶソウ・ラウ。

 その足に捕まっているダウザは、その細い足を強く握り直す。


「……オレを落とそうとしやがったら、お前も道連れにしてやるからな」

「もー、痛ーい。心配しなくてもそんなことしないわよっ」


 楽しそうに遊んでいる二人を横目にカイの気分は下降の一途を辿り続けていた。

 時折うめき声に似た思考をダウザへ送り出すが、ソウ・ラウはもとより聞こえているはずのダウザさえも何も反応を返さない。

 最初は相手にされていたカイだが、ダウザは直に面倒になり無視を決め込んでいた。


 カイは空を飛ぶという行為に慣れているつもりだった。


 統一政府のために働く[人間]に作られ――[レプリカ]として生まれ、元兵士という肩書を持つカイは空挺兵ではなかったが、降下訓練は義務として受けていた。

 だがしかし、その訓練にパラシュートもなしに大きな鳥にぶら下がる。というものはない。

 カイは自殺願望も持ち合わせてはいなかった。


 だが現在、カイは大きな鳥のようなものにぶら下がり。しかも、体は自分で動かせない状況にいる。

 目を閉じて現実逃避することも出来ない。

 強制的に見せられている世界は更にカイの気分を押し下げた。


 上下左右。どの景色にも森と大地と河が映し出され、その底気味悪さに鳥肌が立つ思いをカイは抱く。

 故郷である地球では上を見れば青空か星々が、下を見れば大地か海。他にも白銀の世界、北極か南極がある。

 だが、ダウザの世界には森と大地と河が多すぎ。代わりにそれ以外の景色が少なすぎた。

 唯一の山ニイラス。その山頂付近には白いもので覆われているが、それが彼の慰めとなるには少しばかり足りなかった。


 カイは内に閉じこもり続け、思考放棄することを諦め。

 代わりに、会話によって多少の改善を試みることにした。


(聞きたいことがあるんだが……)

「おう、いいぜ。ちょうど暇してたんだわ。相変わらずの世界によ」

「うん? どうしたのダウザちゃん」


 自分に話しかけれたと勘違いしたラウが返事をした。


「違う違う。こっちの相棒と話してたんだ。気にせず飛んでくれ」

「んもうっ。そっちのほうが気になるわよ。こんなところで暴れたら今度こそあんた死ぬわよ? ダウザちゃんのことは嫌いじゃないけど、命を掛けるほど気に入ってるわけじゃないんだからね」

「……それは困るな」


 ラウはダウザの返答に危機感を覚えたのか、翼の勢いを強めた。


 風に押さえつけられ下を向くことになったダウザの視界にちょうどある村が入った。

 視界の範囲内には十人から十五人程のトアグレース人の村人がいる。

 新しい寝床の穴を掘る者。生まれたばかりの子供達を纏め、なにやらを教えている者。村から離れていく者。畑らしき場所で談笑する者。


 ダウザからカイへ、諦念と怒り。そして強い憧憬しょうけいの感情が伝わるがすぐに途絶える。


「まあ……なんとかならぁ。なっ、相棒!」

(その性格がいつか大きな不幸を招き寄せないように俺は本当に祈っている。……おそらく、強い思いでないとあの暴走は起きないとは思っているが。そうでなければ、何度も暴走していたに……)

「ウジウジすんねえっ。その方が起こりやすくなるってもんじゃねえのか。んで、聞きてえことってなんだ」

(……。ダウザ、貴方はこの囲む大地の先を考えたことがあるか?)

「お、難しい質問だな。

巨大なワームがいるとか、何もないとか、いくら掘っても延々と土があるだけだとか。

色々な奴の話を聞いて想像はしてみたけどよ、オレはどれもピンとこなかったな。

お前は確か、チキュウやホシが沢山あってシンクウが埋め尽くしていると言ってたな」

(そうだな。確かにそう教えた。もっと多くのことも教えたはずだが……)

「あんま覚えてねえな」


 カイは脱力感を覚えた。

 邪な思惑を下敷きにしながらだが、それなりの労力を割いた時間のほとんどが無駄だったことに。


 つい船に居る仲間達を想い、体さえあれば涙が流れ落ちるほどの感情がフっとカイに湧く。

 抑えようとしてもとめどなく。


「と、ところでカイ。聞きそびれちまってたけどよ。

お前は元の体に戻ったらなにかしたいことがあるのか?

仲間もいんだろ?」


 弱気な感情が伝わり、珍しく同情したダウザが質問を返す。


(ああ……そうだ。そうだ。俺は戻るんだ。必ず。必ず……船へ戻る)

「だな!」


 カイは自分に言い聞かせた。


(すまない。気を使わせてしまって)

「辛気臭いやつとずっと付き合いたくはないからな。気にすんな」

(それでもだ。ありがとう)


「よかったわねえ。うんうん。そうでなくっちゃ」


 カイの声は聞こえていないはずのラウは下を向き、なぜか涙ぐんでいた。



 ソウ・ラウとダウザの体は世界の中心近く。世界樹アランタカルタの葉が一塊ではなく、小さな一枚一枚の葉であることをなんとか見て取れる距離まで近づいていた。

 世界樹アランタカルタの枝葉から溢れ出る温かい光はこれだけ近づいたとしてもダウザ達を焼くことはなく。地上と同様の恵みを与え続けている。


 そのまま突っ込むことを危惧していたカイは翼が向きを変え、右方向に進路を変えたことにホっとする。

 世界の中心を回り込み、半円の軌道を描きながら飛ぶソウ・ラウ。

 その羽は押し出すような動きから征服者のように広げると、風の流れを捉えやすいように変えていた。


「ふぅ……ふぅ……。やっと気流に乗れたわぁ」

「ご苦労さん。ちょいとした疑問なんだが。わざわざぐるっと回んなくても、そのまま行きゃあもっと楽できんじゃねえのか」

「バッ……! あんた世界樹様の中に飛び込めっていうのっ?」

「いや、中に入れって言ってるわけじゃねえんだ。距離的に左から行ったほうが早く着けるんじゃねえのかって」


 ラウは大きなため息を吐き出した。


「……いい? ダウザちゃん。空にも河があるの、見えない河がね。その河は地上のより複雑で性格が悪くて気まぐれなの。だから……素人は黙っときなさい」

「でもよお、やっぱもう少し近づいたほうが――はい」

「聞き分けの良い子は好きよ」


 ダウザは素直に頷いた。

 頷くまでの短い間にラウは翼の角度を間違った方向に変えると、ストンと真下に落ちる。

 瞬きひとつ分にも満たない間ではあったが、ダウザの肝がよく冷える程度には地上に近づいていた。


(今の自分の体の支配者は一体誰なのか、よく考えるべきだったな)

「……ああ」


 死が思ったよりも間近にあることを知ったダウザの体は震えていた。

 カイの声と同じように。



(世界樹とやらは、馬鹿みたいに大きいな……)

「ああ……」

(こんだけ大きければ、さぞかし沢山のワームがいるんだろうな)

「ああ……」


 思いもしない所から生えている毛のように、他の枝から離れ。自らを無計画に伸ばし続けている枝葉を横目に、ダウザは気のない返事を繰り返す。

 ラウの躾で堪えたわけではないことをカイはわかっていた。心の中ではやはり楽しんでいたのだから。


(……そんなにシザーハースに行くのが嫌なのか?)

「ああ……チクショウ! ああ。ああッ! そうだよ。行きたくねえんだよ。行きてえけど行きたくねえんだよッ」

(……訳がわからない)


 ”ああ”とダウザが言う度に、前よりも大きくなっていった。


 カイにダウザの考えはわからない。ダウザにもカイの考えはわからない。

 ダウザの全てのことがカイにわかるということはない。その好機は早々に無くなっている。予想するしかないことも多かった。

 知識を受け取ったとはいえ、大部分は失われているのだ。

 それはダウザのせいでもあった。

 感情の一端は共有してるとはいえ、口や思考として出さなければ伝わらない思いも確かに二人の間には存在する。


 しばらく二人の間に会話は無くなった。



「あら。ニイラスに何かあるわね。ダウザちゃん、アレなにかわかる?」

「……。なんだありゃ?」


 ラウが疑問の言葉を投げかけると、ダウザは唯一の山ニイラスに目を向ける。

 アウラザ洞窟からでは位置的にダウザとカイには見えなかった。

 しかし今は距離が近づき、見る角度が変わったことにより中程から斜めに大きく裂けている亀裂が確認することが出来る。

 その亀裂の下側のある地点に、この世界では異質なオレンジ色の物体が存在していた。


(ダウザ。断定はまだ出来ないが、おそらく貴方にとって良い知らせがある)

「……なんだ?」

(シザーハースに行く必要がなくなった)

「そりゃあ、最高だな。……なんでだ?」


 カイからダウザに大きな歓喜が爆発するように送られた。


(……あれは、俺の仲間だ)

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