担任自己紹介
開校式が終わり、校舎の教室へ移動する。
これから2年半のあいだ過ごす教室だ。
「みなさん、開校式お疲れ様でした。改めて私の自己紹介をします。
『石井あさひ』といいます。
3人姉弟の一番下で、上2人は姉でした。
小さい頃はのお下がりの服を着たりしていたので、女の子の服装には全く抵抗がありませんでした。
だんだん大きくなって、親が男の子の服を買ってくれるようになりましたが、それが嫌でした。
思えば、その頃から自分は女の子なんだ、という自覚があったのかもしれません。
小学校、中学校の頃は普通の男の子として過ごしていましたが、女の子の服を見て羨ましく思っていました。
高校に入って、女装コンテストがあって、思い切って応募してみました。
2番目の姉が着ていたセーラー服を借り、長い髪のウィッグを被り、お化粧をして…。
鏡の前には私の憧れていたJKがいました。
コンテストはぶっちぎりのトップで優勝しました。
それからはクラスの女の子たちともよく絡むようになり、服とかも貸してくれるようになって、それを着て出かけたり…。
大学に入ってからは男の格好でいるよりも、女の子の格好でいるほうが長くなりました。
家でも学校に行くときも女の子の服を着て行ってました。
姉たちと会うときも…最初は戸惑ってたけど、すぐに受け入れてくれました。
大学を出て就職を機に、この生活にピリオドを打たなきゃ…と思っていたんだけども…。
大学を卒業して、県立高校の体育教師になりました。もちろん男として。
だけど、やっぱなんか違和感を感じたんです。
自分って本当に男なんだろうか…って。
教師という立場上、子どもたちを導く立場じゃなきゃいけません。
それなのに自分が迷っているようじゃ…と考えこむようになっちゃって。
それで学校を休職して、またもとの女の子として過ごす生活に戻りました。
そうしたら気持ちが楽になって…その頃に山田校長先生から声をかけてもらいました。
私と同じように悩んでいる子どもたちのために…それで決心しました。
まだ手術はしてないけど、いずれしようと思っています。ホルモンはすでに始めてます。
頼りない担任かもしれないけど、これからみんなと一緒に頑張っていきたいです。
これからよろしくね!」
石井の自己紹介が終わり、山口の自己紹介へ。
「来年1年生の担任をします『山口遥』といいます。
幼い頃は普通の男の子として過ごしてきました。
ただ女の子の着ているものを着てみたいという気持ちは昔からありました。
スイミングスクールに通っていたんですけど、女の子の水着を自分も着てみたいと思ったのが最初だったと思います。
親に隠れて女の子の水着を買って、着てみたことが目覚めだったんだと思ってます。
それからセーラー服やチアなど、女の子だから着れる服を着たいと強く思うようになりました。
ただ高校まではその程度でした。
大学に入って一人暮らしを始めて、最初は家の中だけで女の子の服を着ていました。
そして徐々に家の周り、近くのコンビニと距離を伸ばしていき、最終的にどこへ行くにも女の子の格好で行くようになっていました。
大学も男の格好で行ったのは入学式くらいで、普段の授業も女の子の格好。友達も女の子ばかりでした。
最初は周りの女の子も驚いていたけども、だんだん普通の女の子と同じように接してくれて、一緒に買い物に行ったり、旅行に行ったりしてました。
大学3年の後半になって、いよいよ就活がやってきました。
女の子としての生活が板についてしまい、いまさら男の生活なんて戻れる気がしませんでした。
女の子として就活しましたが、やっぱ戸籍という壁が厚かったです。
男なのにどうしてそんな格好をしているのか、面接で突っ込まれると言葉もでなくて…。
そんなとき教育実習でお世話になった山田校長先生からお話を頂きました。
山田学園高校には教育実習でお世話になり、その時は山田校長先生との面接で「男なんですけど女の子の格好で来ても大丈夫ですか?」と言ったところ「問題ないし、女性として他の先生方や生徒に伝える」という心強い言葉を貰いました。
実際、教育実習のときには女子大学生の教育実習生として1ヶ月近く過ごさせてもらいました。
教育実習が終わって、就職活動を再開したものの行き詰まってた時に今回の話を頂きました。
それで決めたんです。自分らしく生きるため、そして私と同じような子供たちを助けたいって。
ちなみに石井先生同様、ホルモンは始めてます。
手術はどうしよっかな…ってところです。
私としては女の子の服を着て、女の子と同じような生活ができれば、それでいいから…。
もうちょっと考えてみようかな…って感じです。
まだまだ頼りないけども、これからよろしくお願いします」